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花をさかすことしかできない魔法使いモン [花モン] 作者:井上ジェット
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2.ディッキリー・ドゥックルー

 モン達が森の中へ逃れると同じく隠れているヴェルサの者がいました。

「おい、おまえたちヴェルサの者だろう。静かにこちらにおいで」

 姿を隠す魔法で周囲に溶け込んだ風景が描かれています。空間を偽装して見せる魔法の中に大勢が隠れていました。モンにとっては初めて見る珍しい魔法です。
「君たちはどこの家の子か?」
「父さんはシュパイルで、母の名はマイサです」
 キアヌが答えるとざわつきが起きて「知らないな」と聞こえました。
「服装や訛はヴェルサだよ、ここにいなさい」
 誰がか信じてくれた。小さな信頼がモンたちの支えになりました。モンたちは知り合いの居ない中に、居させてもらえました。
 雨が降ってきました。木の陰で凌ぎ次の日の夜明けを待ちます。

 次の日もまた次の日も戦いは続き、3日後にはヴェルサの街の建物のほとんどは壊され、住人は居なくなりました。

――揉め事は侵略になり、侵略は破壊になり、破壊は戦争になったのです。焼け野原、壊れた街。
 それでも咲いている花はたくさんありました。


――10年の時が経ちました。
 モンは18才になりました。マキ、キアヌも大人になりました。

 モンは18才。
 マキ、18才。
 キアヌは21才です。

 両親はあれ以来帰っては来ませんでした。モンとキアヌ、マキはしっかりと健康に成長しました。モンの街ヴェルサは敵に侵略され一度は壊滅しましたが、守るための戦いが始まり戦線は押し上げられ今は街を取り戻しました。破壊された街は建て直しが行われ、戦いの準備をする機能も備わりました。それでもベアリーツという国は何年経っても攻め続けてきます。終わったように思ってもそうでなく、再びやってきます。

 第三国からのプレッシャーによってヴェルサがとばっちりを受けていることも推測され、調査団が派遣されました。…すると周辺の国でも戦争状態になっている事がわかりました。ベアリーツはヴェルサの街を生産拠点として支配しようとしていたこともわかりましたが上手くはいかず、恐怖によるプレッシャーをかけて反撃する力を削いでいるというのです。何かが足りなくなると略奪をして、街を破壊してゆきます。戦う力を蓄えないようにと破壊をしてゆきます。

 ヴェルサの各街が次第に抵抗するようになると、ベアリーツは戦力を強くして巡回するようになり侵略を繰り返しました。どうやら、そのような戦う仕組みを考えたようです。最悪な噂では長期に渡って戦えるように子供を産む部隊もあるらしいのです。
 どうしたら戦いが終わるのか、そもそもどうしたら戦いが起きなかったのかを大勢が考えました。しかし…ひとつの考えを信じて進む勇気は結実しません。人それぞれの考えは容易にまとまりません。
 ヴェルサの人々は日々の糧を得て目の前の戦いに対応するのが精一杯でした。戦いは続いています。
 10年も戦争が続いていると、いつものことになっています。次にベアリーツがやってくるのはいつなのか。予兆があると皆が不安になりました。


 いつの間にか決まったことがありました。


 戦うことができる若者は18才になると戦争に行くということです。ヴェルサは守るために戦わなければならなかったのです。
 モンの兄キアヌは3年前から戦地に行っています。マキは炎を操る優秀な魔法使いになりました。この街でマキは一番強力な魔法を使うことができると有名になっています。時々好戦的な魔法使いが訪ねて来て勧誘されていました。
 モンは…ホウキで空を飛ぶこともできず炎を出すこともできません。しかし…できる魔法が見つかりました。

 花を咲かすことだけができるようになったのです。

「僕にも魔法があった!僕も魔法使いだったんだ!」
 モンは自分にもできる魔法があるとわかってほっとしました。マキも温かい言葉をかけてくれます。
「よかったね!モンは、スモールウィザードだね」
 とても小さな力の魔法しか使えない才能のない魔法使いのことは『スモールウィザード』と呼ばれます。最近はスモールウィザードが増えてきているそうです。女の子に言われると頼りなさを指摘されているようで誇れません。
 …それでもモンは嬉しくて、

「小さくても嬉しいんだ。自分にできることがわかったから。どんなことも、始まりは小さいよ」


 ディッキリー・ドゥックルーは青年になってからできたモンの友人です。さりげない心遣いのできる当たり障りのない性格で、動物をあやつることに長けており輸送部隊の仕事をして馬を可愛がっている、ふっくら体型の男です。
「花を咲かす魔法が使えるようになったんだって?僕が馬車を引いているときに、助手席には君でなく花が置かれているようになるのかな?話が通じるといいなあ」
 モンはいつも仕事場である畑までディッキリーの馬車に乗せてもらっています。
「嫌味を言うなあ!花を咲かしても何の役にも立たないのはわかっているよ」

 馬車に乗っている間のふざけた会話は毎朝の楽しみです。ディッキリーはその魔法にモンがどうやって気づいたのかが気になっていました。
「目の前でいきなり花が咲いたのさ。あれ?…できるかもって。そうしたら出来たんだ」
 モンが力を授かった意味を二人は考えました。
「マキに告白するためじゃない?」
「え!…たのむ、それ言わないでくれよ」
「どうしてさ?」
「どうして臆病になってしまうのかが…わからないからなんだよ」
 二人は言葉が少なくなってしまい、温かい日差しが場の空気を誤魔化していました。

 モンは黙ったまま手のひらの上に花を咲かせてディッキリーの握る手綱の近くに置きました。紫色がほのかに混じった白い小ぶりな一輪の花です。
 ディッキリーはどう反応したら良いか困っていました。
 突然、ディッキリーが馬車の御者台からズルリズルリと何かに引きずられるように落ちてゆきました。ディッキリーは動物にとても親しまれていて野生の大きな馬であるズーミーがディッキリーを御者台から引っ張って遊ぼうと訴えてきたのです。
「わあ!こりゃこまった」
 馬車の先頭の馬は、ズーミーがディッキリーを引きずり下ろしたのを脇目にして鼻息をブフっと出して『しかたない、いつものことだ』と主人なしのまままっすぐ走ることにしました。
 車輪に絡むと心配ですからモンは手綱を取りました。
「おーい、大丈夫かい?」
 ディッキリーはズーミーに咥えられたまま、御者台に戻ってきました。
「やあ、ただいま。あいつは機嫌がいいとああいう挨拶をするのさ」
「知ってるよ。何度も見た。着いたよ、それじゃ」
 モンはそう言って走ったままの馬車から跳び降りてゆきました。
 豊饒の地の恩恵がないので、モンたちは不便な土地を開墾しているのです。他の畑仕事の仲間はまだ来ていません。
 モンは、まだまだ遠くへ行くディッキリーの馬車を眺めていました。
 いつも少し早めに来て朝日の暖かさを感じながら土手に座って朝飯を食べるこの時間が好きでなのです。
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