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TORU 史上最強の悪ガキ  作者: 神村 律子
史上最強の悪ガキ誕生編
2/28

第二章 選ばれし者 矢田通?

 アタシ達が通常いるのは、第五次元の絶対空域と呼ばれているところで、まァ言ってみれば地球人が思い描いている天国のようなところだ。

 アタシはこのたびの不始末を報告するため、恐る恐る我が軍の司令官であるミカエル将軍のところに行った。

 ミカエル将軍のいるところは、お城と言うとわかり易いと思う。

 その一番高いところにある部屋に将軍はいた。

「地球人にお前の血を輸血したのか…」

 将軍は顔こそお優しい感じだが、ひとたび戦場に出れば、まさしく鬼神の如き強さで戦う。

 アタシも将軍の強さは十分承知していたので、どんなに恐ろしい目に遭うのかと内心ビクビクしていた。

「可能性は二つある」

「はい…」

 ミカエル将軍は椅子から立ち上がった。

 アタシはギクッとした。

 しかし将軍はアタシを穏やかな目で見下ろし、

「その地球人は地球上に並ぶ者のいない強さを得るか、副作用が起こって死んでしまうか、だ」

「は、はい」

 アタシは副作用が起こる確率が高いを考えていたが、将軍にそう言われて余計に怖くなった。 

 将軍はアタシに近づき、

「エンジェル、その地球人を監視するのだ。死んでしまったらそれまでだが、もし死なずにすんだとなると…」

と言い添えた。

 アタシは将軍の言わんとすることを察して、

「連中がそのことに気づき、地球人を使って戦局を有利に展開することが考えられますね」

 アタシの返答に満足されたのか、ミカエル将軍はニッコリして、

「そのとおりだ。私はそれを危惧している。もしそうなったら、地球人全体を我々の戦いに巻き込みかねん。それだけは避けんとな」

「はい」

 アタシはいつになく真剣な表情で将軍を見た。


 その頃当の本人である通君は、もうすっかり元気になっており、個室のベッドに移されていた。

 もう点滴すらしていない。

 ああ、アタシ達の血って、まさしく奇跡の血なのね…。

「驚いたわ、お兄ちゃん。最初は重体だって聞いて、もうどうしようかと思ったのよ」

 ベッドの脇の椅子に座っている久美子ちゃんが嬉しそうに言った。

 ところが通君はムスッとして、

「俺だって驚いてるよ。何しろ、いきなり空の上から天使みたいな変な女が落ちて来てさ。俺もう死んだなって思ってたら、今はもう死ぬどころか、どこも痛くねェんだもんな。昔ケンカして出来た傷も、全然痕が残ってねェしよ。どういうことなんだろうな?」

「フーン、そうなの」

 久美子ちゃんもよもやその「天使みたいな変な女」が、「自称女優の卵」と同一人物とは思うまい。

 あーあ。

 通君は久美子ちゃんが心配していたことなどまるで眼中にないかのようにニヤリして、

「ま、それはともかく、こうしてりゃ何日か学校サボってここで呑気にしてられっから、いいかな」

ととんでもないことを言い出した。

 久美子ちゃんが呆れて何かを言おうとした時、

「何考えてるのよ、あんたは!?」

と美津子ちゃん、香ちゃん、そして信一君が病室に入って来た。

 通君はビクッとして、

「お、お前ら…。何しに来たんだよ?」

「何しに来たはないでしょ? 折角お見舞いに来てあげたのに!」

 美津子ちゃんは病室だということも忘れて大声で言い返した。

 通君もムカッとして、

「誰が来てくれって頼んだよ!?」

「何ですって!?」

 この二人は寄ると触るとこの始末のようだ。

 ま、ケンカするほど仲がいいって言うからね、地球では。

「まァまァ、美津子さん。おかげ様で兄は何ともないようです。今日にでも退院できるらしいので」

と久美子ちゃんが割って入った。

 さっすが、タイミング抜群の仲裁である。

 美津子ちゃんは通君に疑惑の眼差しを向けて、

「ハハーン。実はかすり傷程度だったのに、わざと重傷のフリしてたのね?」

「そんなことしてねェよ!」

「じゃあどうしてそんなに元気なのよ!?」

「俺にだってわからねェよ!」

 美津子ちゃんは呆れ果てたのか、クルッと背を向けると、

「こんな奴のお見舞いに来ようなんて思った私がバカだったわ。帰るわね」

と病室を出て行ってしまった。

 香ちゃんが、

「もう、美津子も矢田君も、素直じゃないんだから」

「俺は素直だよ。あいつがひねくれてるんだ」

 通君はムカッとして言った。

 香ちゃんは困った顔で、

「じゃ、私達も帰るわね」

「通、また来るよ」

と信一君。

 通君は肩を竦めて、

「多分明日はもう家にいるよ」

「だといいな」

 信一君はニヤリとして香ちゃんと病室を出て行った。

 それと入れ替わるように、アタシは病室にスッと入り込んだ。

 今度は地球人の女の子らしい服装をしてね。

「あ、貴女はあの時の女優さん!」

と久美子ちゃんがアタシに気づいて叫んだ。

 通君もアタシを見て、

「あ、おめえはあの時の天使女!」

「えっ?」

 キョトンとする久美子ちゃん。

 アタシは慌てて通君がそれ以上まずいことを言えないように、

「アハハ、お元気ィ?」

と通君に近づいて手を握った。

 すると通君は熱湯にでも入ったかのように顔を真っ赤にして、

「な、何するんだよ!?」

とアタシの手を振り解いた。

 何だ、こいつ、見かけによらず、超純情? 

 ま、取り敢えず誤摩化せて良かったわ。

「何しに来たんだよ?」

 冷たい態度の通君に事情を知らない久美子ちゃんは、

「お兄ちゃん、命の恩人のエンジェルさんにそんな言い方しちゃ失礼でしょ!」

「命の恩人?」

 今度は通君がキョトンとした。

 アタシは苦笑いした。

 確かにそうかも知れないが、瀕死にしたのもアタシだから、「命の恩人」と言われるのは何となく気恥ずかしい。

「事情を説明に来たんだ」

「事情?」

 通君と久美子ちゃんは顔を見合わせて、次にアタシを同時に見た。

 アタシはベッドの足下に立って、

「アタシがこれから話すこと、どれほど信じられない話でも、とにかく最後まで黙って聞いてちょうだい。いいわね?」

 通君と久美子ちゃんは何が何やらよくわかっていないようだったので、アタシはかまわず話し始めた。

 何故アタシがこんなことをするのかから、アタシの正体、そして通君がどうして急激に回復したのかまで。

「どう?」

 通君と久美子ちゃんは再び顔を見合わせた。

「おめえ、頭大丈夫か?」

「な、何言ってるの! アタシはそういうのじゃないわよ。これ見なさい!」

 百聞は一見に如かず、と考え、アタシは翼を広げた。

 通君と久美子ちゃんはまさしく息を呑んでいた。

「て、天使! 天使よ、この人!」

「……」

アタシは翼を引っ込めて、

「これでアタシの言ったこと、信じてくれる?」

「あ、ああ…」

通君はまだ呆然としたままで応えた。

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