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史上最強の悪ガキ誕生編
第一章 アタシとあいつの出会い
 天使。普通アタシ達のことを地球人はそう呼ぶ。

 聖書とか言う、超ロングベストセラーに出て来る神の使いと間違えられたのだ。

 あっ、アタシの名前はエンジェル。
 年は地球人に換算すると、17歳ってところ。
 父と母は、お調子者で、地球人が神の使いと思っている「天使」という名を、アタシにつけてしまったのだ。
 全く、紛らわしい。
 そんなアタシ達は、地球人の言うおとめ座スピカ星系から来た、所謂異星人なのだ。
 アタシ達と対立する、うしかい座のアークツールス星系から来た異星人の地球侵略を阻止するためにね。
 その戦いは、すでに数千年にも及び、時々地球人にもそれを目撃され、様々な形で神話や伝説の中に登場するみたい。
 アークツールス星系の異星人達は、聖書に出て来る「悪魔」に良く似ている。
 て言うか、彼らが悪魔のモデルなんだけどね。
 そんな風貌が災いしてか、地球人は彼らを悪と看做し、アタシ達を正義と考えている。
 でも実際はそうじゃない。
 只の勢力争いであって、アタシ達も彼らも、地球にとっては侵略者なのだ。

 地球では、そんなわけで、異星人の混戦状態が存在していた。
 でもその戦闘の多くは高次元で行われているので、地球そのものにはほとんど影響はない。
 アタシ達も、アークツールス人( 仮にこう呼ぶことにする )も地球を無傷で手に入れたいから、地球にダメージのある攻撃はしないのが暗黙の了解なのだ。

 そんな高度な戦いの中で、ごく稀に高次元から三次元にディメンションダウン( 次元降下 )してしまう時がある。
 それが今のアタシ!
「うわーっ!」
 アタシは美少女戦士( 自分で言うと嘘臭いけど、天使ってみんな美人でしょ? )なのだ。
 アークツールス人の戦士と戦っていて、そのパワーに押され、ディメンションダウンしてしまったのだ。
「きゃーっ!」
 アタシは翼があるのも忘れて、突然放り出された地球上空1000Mから、真っ逆さまに地表へ落下して行った。
 やばい! 
 下にはたくさんの地球人がいる!
 やっと正気を取り戻したアタシは、羽ばたいて落下を止めようとした。
 しかし、時すでに遅く、ブレーキングも虚しく、アタシはそのまま地上に激突した。
 幸か不幸か、アタシが落下したのは、誰もいない広場の端だった。
 「いったァッ」
 アタシ達は結構頑丈にできていて、このくらいならコブができて終わりだ。
 ま、地球人を巻き込まなくて良かった。
 と、ホッとしたのも束の間、アタシは仰天した。
 アタシのお尻の下で、虫の息になっている小さい男の子に気づいたのだ。
「きゃっ!」
 アタシはすぐに男の子から飛び退き、容態を見た。
 直接激突したのではないようだが、落下した時に私が発した衝撃波を食らってしまったらしい。
 その上、アタシが地面に激突して弾んだ拍子に思い切りヒップアタック(恥ずかしい!)をしてしまっている。
 出血も酷いし、脈拍も弱い。
「いけない。このままじゃ死んじゃう」
 アタシは翼を引っ込めて、助けを呼びに走り出した。

 アタシが落下したのは、学校らしかった。
「おい、何だ、あの子?」
 アタシの格好は、もう「天使」そのもの。
 学校中の生徒が窓からアタシが走って来るのを見ていた。
「何だ、あの格好? 天使みたいだな」
「うるさいわね! 授業中よ!」
 ショートカットの、可愛いけどきつそうな目の女の子が注意した。
「すげェ可愛いけど、ちょっと危なそうな感じだな」
「病院から逃げて来たのかな?」
「新しい宗教の勧誘じゃないの?」
 もう皆さん、言いたい放題。冗談じゃないわ!

 アタシはもうすっかり危ない少女にされてしまい、あの男の子と共に救急車に乗せられてしまった。
「ちょっと、話聞いてよ!」
 アタシは音声システムを地球人モードに切り替え、救急隊員に訴えた。
「はいはい。大人しくしてね。でないと、薬で眠ってもらうよ」
 隊員の誰1人として、アタシをまともな人間に見てくれない。
 服装が怪しいのはわかるが、話くらい聞いて欲しい。
「もう…」
 アタシは話すのをやめ、静かにした。
 途端にけたたましいサイレンの音が耳に飛び込んで来た。

 一方、学校の方では、あの男の子のクラスメート達が集まって話をしていた。
 その中の男の子の1人が、
「あの天使もどきの子に通がぶっ飛ばされたらしいぜ」
 通というのが、私のお尻の下で倒れていた子の名前だ。
 しかし酷い誤解...でもないか。
 あの子に怪我させたのは、アタシだもんなァ。
「何で?」
とショートカットの女の子が尋ねた。
 さっき「授業中よ!」と言った子だ。
「きっと嫌らしい事でもしようとしたんじゃないのォ」
 男の子達が口を揃えて言うと、
「まっさか。通はそんな奴じゃないよ」
とショートカットの子は反論した。
 すると男の子の1人が、
「何だよ、大田、やけに通の肩持つじゃねえか」
「うっるさい!」
 大田と呼ばれた女の子は、キッとして男共を睨みつけた。
 彼女は大田美津子ちゃんだ。
 どうやら通君とは関わりが深いらしい。
 かなり気が強いのが、顔に出てる。
 口ではそんなことを言いながら、本当は通君のことが心配なのか、
「でも何であいつ外にいたんだろう?」
「いつものように早弁すませて、早いお昼寝をしてたんじゃないの?」
と口を挟んだ男の子は、ちょっとアタシ好みのイケメン。
 この子は竹森信一君。美津子ちゃんは、信一君を見て、
「天罰が下ったのね。全くどうしようもない奴」
と冷たいお言葉。
 すると、信一君の隣にいた「私可愛いでしょ光線」出しまくりの三つ編みの女の子が、
「でも何だか心配だわ。あのブロンドの女の子、危ない目をしていたから」
と言った。
 この子は残念な事に信一君の彼女、宮田香ちゃん。
 信一君は香ちゃんを見て、
「美人に悪い人はいないよ」
「そうかしら」
「だから君もいい人さ、カオリン」
「まァ、嬉しいわ、信君」
 この二人、いつもこんな調子で周囲の人間の背筋をゾッとさせているらしい。
 でも美津子ちゃんは心配そうだった。
 アタシのせいだよなァ。

 アタシ達はまもなく近くの救急病院に到着し、通君はストレッチャーに載せられて手術室に運ばれた。
「ご家族の方はこちらでお待ち下さい」
「えっ?」
 アタシは危ない女から、いつの間にか通君の家族に「昇格」してしまっていた。
 もう、どうにでもなれってェの。
 ( 何でよ? 何でアタシがこんなとこで、全然見ず知らずの男の子の手術が終わるのを待っていなきゃならないのよ!?)
 アタシはムッとしてソファに座った。
 すると看護師の1人が走って来た。
「貴女、血液型何型ですか?」
 唐突にそう切り出された。アタシはポカンとして、
「はっ?」
と素っ頓狂な声で応じた。
 看護師はアタシがふざけていると思ったのか、
「真面目に答えて下さい! 時間がないんです! 何型ですか?」
と怒鳴るように尋ねた。
 アタシは苦笑いして、
「知らないんですけど」
「知らないィ? とにかく、検査させて下さい。患者の血液型がRHマイナスAB型で、血液のストックが足りないんです」
「はァ」
 アタシ達には血液型は一種類しかない。
 地球人の言う、RHマイナスAB型。
 ただ、その時のアタシは、地球人の血液型のことを知らなかったので、答えられなかったのである。
 あっ!
 でもまずい! 
 アタシの血液なんか輸血したら、通君どうなるかわからない。
 前にも言ったように、アタシ達はとても頑丈なのだ。
 そんなアタシの血を通君に輸血したら、副作用で死んでしまうかも知れないのだ。
 どうしよう?
 でもアタシがそんなことを考え込んでいるうちに、病院の人達はテキパキと仕事をこなし、アタシはボンヤリしている間に血を抜かれていた。
 それも 400ccも!
 普通こんな美少女からそんなに血を抜くか?
「良かった。家族の方に、同じ血液型の人がいて」
と医師は嬉しそうに言っていた。
 アタシは頭痛がして来た。
 
 どうやら通君の手術は順調らしい。
 アタシも一安心。
 何しろ「天使」が人を殺してしまったら、シャレにならないからね。
 でも副作用が心配だな。
「?」
 そこへアタシより背の高い女の子が走って来た。
 どうやら通君の妹さんらしい。
 後で知ったことだけど、通君と妹さんは二人きりで暮らしているのだそうだ。
 ご両親は交通事故で3年前に亡くなっている。
 ただ、遺産がそれなりにあるので、通常の生活には困らないようだ。
「あのォ、どちら様ですか?」
 妹さんは、あからさまに怪しい服装のアタシを見て尋ねた。
 アタシは作り笑いをして、
「あ、あの、アタシ、エンジェルって言います。貴女は?」
「私は矢田通の妹の久美子です。兄とはどういうご関係なんですか?」
 久美子ちゃんは訝しそうな目でアタシを見た。
 アタシは苦笑いをして、
「えっと、アタシ、たまたま貴女のお兄さんが倒れている所を通りかかって、救急車を呼んでもらってですね…」
「まァ、そうだったんですか。ありがとうございました」
 久美子ちゃんは通君とは似ていず、美人だ。長い髪をポニーテールにしている。
 制服からして、「中学生」のようだ。
でもアタシも我ながら凄い嘘つき。
 通りかかったって…。
 はァ。
「エンジェルさんて変わった服を着てらっしゃいますけど、何をされている方なんですか?」
 やっぱり。
 言われると思った。
 アタシは咄嗟に、
「ハハハ。アタシ、女優の卵なの。芝居の稽古の休憩中だったのよ。もう戻らないといけないから、失礼します」
 アタシは呆然としている久美子ちゃんを残し、病院を後にした。
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