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35.魔王復活の儀 其の漆

「いいいいいいいいいいイージス! わたしの言うことを聞くんだ! くそぉ、もう呪文は効かぬのか!」

「うるさい」

 棒読みで言うイージス。そのイージスの背後より俺たちが駆けてくる。俺はイージスの肩をたたいた。

「イージス。よく頑張ってくれた」

「マスター、私はまだまだがんばれる」

「そ、そうか。張り切ってるな」

「マスター、私のとっておき、見てください」

 そう言ってイージスは掌を突きだして再び前方に魔法の盾を形成しようとする。

「なんだイージス、また盾で防ごうとするのか。はっはっは。所詮お前は『防御』するしか能のない魔女だ。せいぜい魔力が尽きるまで殻にこもっているがいい!」

「私は、大切な人を守る」

「ならば守り通して見ろ! 『聖光砲【カノンキャノン】』」

 光の柱が放たれるとき、イージスはつぶやいた。

「八卦鏡【オクタゴン】」

 円形状の盾――ではなく、今回形成されたものは、八角形型の桃色のプレート状の障壁であった。魔法の盾であるから、その形状は光で形成されている。

 盾が形成されるとすぐさまそこに光の柱が衝突する。魔法の盾は振動しつつ、自身から光を発する。

 八角形のプレートの中央に銀色の円が輝く。

 八卦鏡――つまり鏡だ。俺が初めにサバトに立ち向かったとき、鏡を使って光線を反射させていたが、目の前に展開された鏡は手鏡よりも大きく、そして強靭である。

 直進してきた光の柱は『八卦鏡』にぶつかり跳ね返り、元来た道を引き返し、サバトの方へと直進していく。

「こ、この! 竜鱗【スケイル】!」

 サバトはすぐさま防御魔法を展開する。しかし展開される魔法は、イージスの『英雄の盾【アキレウス】』と比べると見劣りするような小ぶりのものだった。

 サバトは光に飲み込まれる。白い光に包まれてサバトの姿はすっかり見えなくなる。

「やったか……」

「やったのか……」

 ウラノとマルスが生唾を飲みつつ、その光の収束を見守る。そこから床にしゃがみこむサバトの姿が現れる。

「さ、最強の魔女を嘗めるんじゃない!」

 サバトの正面には薄く防御魔法が張られている。かろうじて、跳ね返ってきた光の柱を防いだようだ。

「ああああああ! だめだったかー!」

「だったかー」

「お前たち二人、他力本願だなぁ。まぁ、そんながっかりするな」

 サバトはギロリと二人の魔女を睨み付ける。光線のように。

「二人ともカエルの刑、もしくは消し炭ィ!」

「「ぎゃああああああああ!」」

 ウラノとマルスは抱き合って涙涙の抱擁。この二人、妙に仲がいい。

「まぁとにかく、落ち着け二人とも。むしろ今はこちらにとってチャンスだ。二人とも、俺の作戦を30秒で聞いてくれ」

「おにーさん、なにかいい作戦思いついたの」

「ああ、せっかくイージスが作ってくれたチャンスだ。それを活かさないわけにはいかない」

 俺はイージスにねぎらいを込めて頭を撫でる。くるりと顔を向ける仕草がなんともかわいらしい。

「イージス、今度は俺たちががんばるから、少し待っておいてくれ」

「がんばって」

 とエールの言葉を送られる。それをなぜかいぶかしげに眺めるユーカ。

 さすがのサバトもあの光の柱の攻撃を受けて参っているようだった。これはチャンスだ。

 というわけで作戦開始。

「突撃だぁ!」

「やぁああああ!」「やー」「とやぁああああ!」

 イージスを除く俺たち仲間四人が、部屋の奥に立つサバトに猪突猛進していく。

「ち、血迷ったかお前たち! わざわざ私に殺されに来るとは! 仲よく地獄に落ちるがいい! 聖光……」

「喰らえぇええええ!」

「くらへー」

 マルスとウラノが仲良く声を合わせて叫び、手のひらをサバトに対し突き出す。そして間髪入れず叫ぶ。

「冷凍室【フリーザー】」

「焔蜥蜴【サラマンダー】――! ぐぇほぐぇほ……」

 炎の柱と吹雪が螺旋を描くように絡まり合い、それがサバトの前に向かう。

「ちょこざいな! 妙なことをしよって! 竜鱗【スケイル】!」

 サバトは先ほど同様の円形の障壁を展開する。それにぶつかり、炎と氷の魔法は激しく混合し合い、やがて拡散する。その影響はあたりの大気にも波及し、部屋は熱いのか寒いのかよくわからない気温となった。

「ぐぅぉおおおおええええええええー!」

「あー、マルス、どしたのー」

「ま゛りょ゛く゛を゛げん゛がい゛い゛い゛じょう゛つ゛か゛った゛か゛ら゛……ぶぐざよ゛う゛ぐぅああああああああ!」

 そうだ。マルスは俺たちとの戦闘&ウラノとの戦闘で極限まで魔法を使ってしまっていたんだ。それをひねり出したせいで、ご覧のような有様となっているようだ。

 マルスは……もう、見るのも可哀そうなぐらいの、ゾンビみたいな青い顔になっていた。体もゾンビ状態となり……これが魔法を使い過ぎた際の副作用か。おそらくあれ以上魔法を使ったらあの世行きなんだろうな。

 それを承知で俺はマルスとウラノ(ウラノの方はまだいくらか魔力があったみたい)に魔法の攻撃を頼んだ。なんだかマルスに対してはいろいろひどいことをしちゃっているような気がするが……。まぁいいか。

 そしてそのマルスとウラノの炎と氷の魔法はどうなったかというと。

「はっはっは! いくら十人十色の魔女の魔法であろうとも、『最強』の私の前には火の粉と氷の粒ぐらいでしかないのさ!」

「ぐぉおおおおおおぇええええええ!」

 ほんとご愁傷様です、マルス。ミイラっぽい姿になってるけど、水を掛けたらちゃんと戻るのかな……。

 まぁそれよりも何よりも、今はサバトの方だ。俺はサバトの方を向く。

「笑っていられるのはこれまでだ。サバト、俺たちがどこにいるか分かるか?」

「ん……。お前たち、どこに隠れた!?」

 俺たちの姿は部屋の中より消滅した。忽然と、4人全員神隠しに遭ったみたいに消える。

 あたりは炎と氷の魔法の余波で白い霧に包まれていた。

「このやろぉ! ネズミのようにちょこまかとずるがしこいことしやがって! どこだ! 見つけたらすぐさま仕留めてやる!」

 サバトは掌を突き出しつつ、あたりを見回している。

 そしてあたりのすべてに視線を向けたあと、サバトは黒い人影を見つける。

「てやぁああああああ!」

 マントを無くした、学ランを肩にかけたセーラー服の剣士。ユーカのシルエットが宙に浮かんでいた。

「こやつ、飛んでいたのか! とにかく滅べぇー! 聖光砲【カノンキャノン】!」

 ユーカに向かって光の柱が放たれる。光の速さは視認されるよりも早く、それは確実にユーカを貫こうとしている。

 しかし俺はちっとも焦らなかった。地面に伏して、床と同化して身を潜めていた俺と魔女二人は上に浮かぶクルルのシルエットが光の柱にぶち当たり、消滅するのを確認した。

「なっ!」

 そう、それは幻だ。

「暖かい空気と冷たい空気を形成して蜃気楼を作ったんだ。光は空気の密度によって屈折率が変わるんだ。それによって上部にユーカのシルエットを作り上げた。それは本物のユーカの姿じゃない。本物のユーカは――お前のすぐ目の前だ!」

「せいやぁー!」

 ユーカはすでにサバトの1メートル手前の位置に来ていた。サバトが蜃気楼に見とれている間に、その下にいた本物のユーカが光の柱をくぐってやってきていたのだ。

 ユーカはサバトの前に立つと、足をかがめて中腰になり抜刀の構え。そこから、左手に持っていた『愚者の剣』を刹那の間に水平に薙ぐ――

「てや――!」

 サバトの『竜鱗【スケイル】』と衝突し剣は停止する。ユーカの『愚者の剣』と『竜鱗【スケイル】』、は互いに互いを押し合いせり合っている。

「おりゃりゃー!」

 ユーカは底力を発揮し、剣を押し付けていく。剣の刃がじりじりと『竜鱗【スケイル】』にめり込んでいき、あと少しで突き破れそうなほどに食い込んだ。

「ば、馬鹿な! この魔法の障壁を突き破るなんて、そんな馬鹿なことがあるかぁー!」

 サバトは障壁の向こうから叫ぶ。

「魔法なんて、突き破ってやる――! 愚者の剣、愚直(バカ)に突き進めぇ――!」

 ユーカが全ての力を剣に込めた。そのとき、魔法さえも凌駕する奇跡の光が煌めいた。

「ぎやぁああああああ――!」

 『愚者の剣』が光った。それは魔法の障壁との衝突の際に起こったものなのか、はたまた勇者ウルスラが愛用していた剣に力が注ぎ込まれ発光したのか。それとも幻覚か。

 とにかく光が剣を、サバトを、そしてユーカを包み込んだ。その光を一身に受けたユーカは、白に輝く剣をサバトの展開する障壁にぶつける。障壁はあっさりと瓦解し、ガラスのように欠片となって飛散し、飛散したものはしばらくすると跡形もなく消え去った。

 後に残るは丸腰状態のサバト。障壁が壊れた際、衝撃によりいくらか後退し、ユーカとわずかに間が空いた。

 しかしそれは霊長類最強の剣士たるユーカにとってはちょうどいい間合いになっていた。

 後ろ足をバネにして跳躍し、ユーカはサバトに飛びかかる。剣を振りかぶり、それを落下に合わせて大きく振り下ろす。

「待て、やめ――」

「とやぁああああああああー!」

 愚者の剣は、愚かなるものに天罰を下した。

 サバトの頭に振り下ろされた愚者の剣は、相手を斬ることも殺すこともなく、ただ相手に脳震盪を与えて気絶させた。

 最強と謳われたサバトは――頭にたんこぶを作って地面に突っ伏していた。

「ぁ……ぁ……。なぜだ、ちからが……。でない……」

「うぉおおおおおおおお!」

 勝利の雄たけびを上げるユーカ。

「うおー」

 と後ろからウラノも勝利の雄たけび……にしては小さな声である。それよりも後ろにいるお友達のマルスを助けてあげた方がいいと思う。

「わたしのともだちのマルスの仇を討ってくれてありがとー」

「いや、マルスはまだ一応は死んでないからな」

「うおー」

「いやだから死んでないって……あれ」

 叫んでいたのはイージスだった。「うおー」なんておたけび、この子が言うとただ可愛いだけじゃないか。とにかく功労者たるイージスの頭を撫でてやる。なんかこの子、猫みたいな子だなぁ。

「せんぱーい! やっつけてやりましたよ!」

 向こうからユーカが駆けてくる。そしてがばっと俺に抱き着いてくる。

「おもむろに抱き着くなよユーカ」

「先輩はイージスちゃんばっかりヒイキするんですからー! 私も頑張ったんですから……そのー、ごほうびを」

「へいへい」

「うぎゃう!」

 ユーカの頭を撫でてやると、マサイ族もびっくりなジャンプをした。

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