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異世界に来たけど戦いません。 作者:カッパ永久寺

真・北の荒城編

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34.魔王復活の儀 其の陸

「うーがーぁ――っ!」
 そんな和やかな俺たちにいちゃもんをつけたのは正面に大股で立つサバト。
「許せん許せん許せん! お前たちは許せんぞ! 私の“盾”を取り上げやがって! 今度こそ、お前たちまとめて消し炭にしてやる!」
 サバトはざばっと手前に掌を突きだす。魔法を出す合図だ。
「聖光砲【カノンキャノン】!」
 俺たちはすぐさま臨戦態勢に入る。まず、イージスが俺の前に立ち、先ほど同様『英雄の盾【アキレウス】』を発動させた。
 そして残った俺たちは。
「どーしましょう先輩」
「……イージスばかりに負担を掛けられないな。まずはユーカ、お前は戦うために武器を用意する必要がある」
「武器ですか? 武器は……折れた木刀と、あとはつまようじぐらいしかないんですけど」
「いや、向こうに立派な武器があるじゃないか」
「はい?」
 俺が指差す先には、この部屋に入ってきたときに見つけた『愚者の剣』がある。あの鉛筆型の奇妙な剣は相も変わらず金属製の台座に突き刺さって固定されている。
「ああ、あの愚者の剣があれば私も戦えますけど……。でも、あの剣、引きぬけなかったじゃないですか」
「ああ。でも、引き抜く方法はもう思いついてる」
「えっ! 引き抜く方法思いついたんですか! どうやって引き抜けばいいんですか!」
「その前にまず……あそこでおしりを出してうずくまっている二人を引っ張ってきてほしいんだが」

「い、いやだ! 私はもう戦いたくなーい! 世界の終りだぁ!」
「おわりだー」
 と床に伏して、こちらにおしりを突きだす体型でわなわな震えているのは火炎フランメの魔女マルスと氷寒アイスの魔女ウラノ。ユーカが尻をひっ叩いてこちらに連れてきた。
「な、なにをするんだお前たちは! 私たちはもう戦意喪失なんだぞ!」
 どうやら二人はサバトの攻撃を眺めて絶望していたんだろう。
「二人とも、絶望することはない。こちらにはたのもしいイージスが付いてくれたんだ。まだまだ勝機はある」
「で、でも」マルスは不安で目を泳がせている。
「とにかく二人とも、まずは頼みたいことがある。まず、マルスはユーカの治療を行ってほしい」
「ち、治療なら構わないぞ。治癒魔法は普通ぐらいにはできるからな」
「それとウラノは僕と一緒についてきてくれないか」
「おにーさん私をつれてどこいくのー」
「お前の氷の魔法が必要なんだ。愚者の剣を引き抜くためにな。とにかくついてきてくれ」
「らじゃー」
 そう言って俺とウラノはなぜか手をつなぎながら愚者の剣の突き刺さる台座へと向かった。「おにーさんの手、あったかいねー」とウラノは俺の手を嘗めるように撫でている。なんだろうこの子、人間の手が大好きなのか。
「で、おにーさん。愚者の剣の前に来たけど、どうしたらいいのー」
「ウラノ、そこの愚者の剣をめいっぱい冷やしてくれ」
「冷やす? れーとーまほう?」
「冷凍魔法かなにか知らないけどとにかく冷やしてくれ。ああ、台座は冷やさないで、あくまで剣だけを冷やしてくれ」
「ひやしたら剣がぬけるのー?」
「ああ、この剣は鉄製だから。鉄っていうのは温めると熱膨張で大きくなって、冷却するとその逆で縮小されるんだ。つまり冷却して剣を小さくしてやったら、台座の穴のサイズより小さくなって引き抜ける……と考えているんだよ」
「なるほどおにーさん。私を倒しただけのことはあるわー。とにかくれーきゃくまほー、『冷凍室【フリーザー】』!」
 ウラノの手より発現した冷気は目前の剣に当たり、表面に氷の粉が付着していく。数秒のうちに『愚者の剣』は氷細工のような姿に変わっていた。
「せんぱーい!」
 すっかり元気になったユーカが駆けてくる。なお、サバトの攻撃はイージスが今も防御中。ご苦労様だ。
「ユーカ、あの愚者の剣を引き抜くんだ。あの剣は名前からしてお前にふさわしい剣だ。さぁ引き抜くんだ!」
「おお! あの勇者ウルスラ・アームストロングが使っていた『愚者の剣』を私が引き抜くんですか! ああ、なんか緊張してきておなかが……」
「いいから早く引き抜け。イージスが時間を稼いでくれてるんだから」
「あ、はいはい。解りました!」
 クルルは金属製の台の前に突きたてられた『愚者の剣』に対しまっすぐ向かい、柄を両手で握る。
「てやっ」
 かしゃっ、と剣が台座に当たる音。剣は台座から離れ、クルルのものとなった。
 クルルは剣を天に掲げる。その六角錐型の剣はクリスタルのように見えた。ほんとうに奇妙な剣だ。もしかしたらこれは装飾用の剣で、実戦向きではない――と言うオチがあるかもしれない。
「『ぐしゃのけん』ねー。たしか、物を斬ることができない剣って聞いたことがあるよー」
「ウラノ、愚者の剣について知っているのか?」
「魔女は長いこと生きてるから基本物知りなのねー。愚者の剣は剣というより鈍器ってやつみたい」
「鈍器? ハンマーとかそんな感じの武器か?」
「ん。それと重さもあまりなくて、殺傷能力は低いみたいー。ほんと、木刀みたいな、剣であって剣じゃない――って感じの武器なのよー」
「へぇー。じゃあこれで人をぶん殴っても死にゃしないんですか」
 そう言いつつユーカ試し切りなのか、中空に向かって剣を振り回した。さすが剣道家と言ったところか、その剣閃は手を叩きたくなるほど素晴らしいものだった。
「とにかく剣が手に入ったし、行くぞみんな! こんどこそサバトをぶちのめしてやろうぜ」
「おーっ!」
 声をそろえて走り出す俺たち。向かう先は魔法の光がまばゆい決戦場だ。
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