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想い、描くのは。 〜本当の君が好き〜 作者:剛田
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第1話 付き合うことになりました(?)

 緑青が国語資料準備室から出ていった後、俺はしばらく棒立ちになっていたが、確認しなければならないことがあったと気づき、急いで彼女を追いかけた。

 俺の足音に気づいたのか、緑青はくるりと振り返った。長い髪が弧を描くように広がって、元に戻る。

「なにかしら」
「……あのさ、俺と付き合うことは誰にも言わないでほしいんだ」

 俺が緑青に呼び出されたのをクラスメイトに見られているが、なぜ呼び出されたかは知られていない。ならば、告白されて付き合うことになった事実は隠し通したい。緑青に憧れている男達に恨まれるのは御免だからだ。女子に詮索されるのも勘弁。

「なにか不都合でも?」

 小首を傾げてそう尋ねる。いや、あるに決まっているだろう。自分が有名人だという自覚を持ってもらいたい。

「俺みたいな地味な奴が、緑青さんみたいな高嶺の花と付き合うことになったーなんて知られたら、大変なことになるんですよ……」
「面白そうじゃない」

 にっこりと微笑みながらそう言われてしまい、俺はさーっと青ざめた。俺が困っているのを見て、楽しんでいる。鬼畜だ。

「本当に困るんで……」
「わたしと付き合うことに不満でもあるの?」

 大ありだ! と叫んでしまいたい衝動に駆られるが、ひとまず我慢。

「釣り合わないっていうか、その……身の程知らずっていうか……」
「ふーん、まぁいいわ。黙っててあげる」

 お、鬼の目にも涙ってやつか!

「その代わり、放課後は私と一緒に過ごすことを約束してもらうわ」
「は……?」
「もうすぐ夏休みだけど、夏期講習は参加するんでしょう? その後も一緒に過ごしてもらうわ」
「いや……それはちょっと……」

 俺は部活もバイトもやっていないので、授業が終われば真っ直ぐに家に帰っている。一応クラス委員長をやっているので、その仕事がなければの話なのだが。とにかく、俺は早く家に帰ってやりたいことがある。拘束されるなんて御免だ。あとなんで俺が夏期講習にでることを知っているんだ?

「一度私が譲歩してあげたのだから、今度はあなたの番じゃないかしら」

 緑青のその言葉には、譲らないという強い意志が感じられた。怒らせるのはまずいと判断した俺は、やんわりと質問をする。

「……放課後何するんですか?」
「あなたは漫画を描きなさい。私は勉強や読書をしているから、描き終わったら読ませなさい」
「えっ!」

 予想外だった。てっきり雑用を押し付けられるのだと思っていた。家でやりたいことは漫画を描くことなので、学校でその時間がとれるなら悪くないかも……いや、ちょっと待て。

「見せるのは……ちょっと……」

 誰かに自分の作品を読まれるのはとてつもなく恥ずかしい。ましてや、知り合ったばかりの異性に。しかも漫画なんて読まなさそうな、純文学や哲学書がお似合いな緑青に。
 先ほど読んだ感想をもらって嬉しかったには嬉しかった。でもそれがずっと続くなんて拷問だ。

「見せなさい。これは命令」

 俺が言い淀んでいるのに痺れを切らしたのか、そう言い放った緑青は、さながら女王の風格とでもいうのだろうか、かなり迫力があり、俺の本能が従わざるを得ないと判断した。

「……はい」
「よろしい。明日から放課後は国語資料準備室に来ること。いいわね? 今日は私用事があるから」
「……はい」

 遠ざかっていく凛々しくも優美な背中を見つめながら、俺は今までの平穏な暮らしに別れを告げた。


・・・・・・・・・


 教室に戻ると、クラスメイトが全員餌に群がる鯉のように俺の元へ駆けつけてきて質問責めにしてきた。
 俺は聖徳太子ではないので、一斉に質問されても答えられないのだが……と言いたいところだが、その声すらかき消される勢いだ。

 俺は落とし物を拾ってもらっただけで何もなかったと繰り返し答え続け、やっと解放された。

 席に着き、ホッと一息つく。もうこんな目にあうのは御免だ。さっさと昼飯を食べて午後の授業に備えなければと、弁当を取り出した時、

「大丈夫?」

 と黄瀬菜乃花(きせなのか)が声をかけてきた。

「大丈夫。あんなに注目されるなんて、緑青さんは人気者だな」
「そうだね。すごく綺麗で頭もいいし、憧れちゃうな〜」

 黄瀬だって、と言いそうになり口を抑える。彼女は俺と同じクラス委員長で、人当たりが良く真面目な優等生だ。肩まで伸ばしたややウェーブのかかった柔らかそうな茶髪に、垂れ目がちな瞳が可愛いと男子の間で評判らしい。

「いいな〜俺も黄瀬ちゃんと話したい」

 話に割り込んできたのは、緑青がきた時に俺の肩を叩き、揺らした人物。クラスメイトの高砂亮平(たかさごりょうへい)。席が隣同士なこともあり、一緒に弁当を食べる仲だ。

「お前はもう昼飯食べたのか?」
「いや、さっき購買行って帰ってきたとこ」
「さっさと食べないと、時間なくなるぞ」
「あ、じゃあ私も友達のとこ戻るね」
「あっ黄瀬ちゃん……」

 黄瀬はそそくさと女子のグループへ戻って行った。それを見て高砂は恨みがましい目線を俺に向けて来る。

 これだよこれ、俺の平凡な日常は。さっき別れを告げたけど、まだ失うと決まったわけじゃない。守るぞ、俺はこの平穏を。
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