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想い、描くのは。 作者:剛田
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第2話 放課後の約束

 翌日の放課後、律儀に約束を守って国語資料準備室の前までやって来た俺はなかなか扉を開けられないでいた。

 緑青と二人っきり。全校男子に羨ましがられ妬まれ呪われそうなシチュエーション。誰かに見られたら終わりだ。帰りたい。

「何をしているの」
「うわあっ」

 驚いて変な声を出してしまった。緑青が怪訝そうに俺を見ている。

「入らないの?」
「あ、入ります……」

 二人で国語資料準備室の中に入る。本棚に囲まれた部屋には職員が使う机の他に、普段教室で使っているものと同じ木の机が二つ、くっついて置いてある。窓側の方に緑青が座り、促されるまま俺はその隣に座った。

「私のことは気にしないで、存分に描くといいわ」

 緑青はそう言うと、文庫本を取り出して読み始めた。そう言われても……。静かすぎて、落ち着かない。ましてや男女が密室で二人きり。意識しないというのが無理な話だ。せめてもう少し距離を取ろうと、机を離した。緑青は気にもとめずに本を読み続ける。
背筋をピンと伸ばし、ページをめくる所作さえもため息をつきたくなるほど絵になる。

 ついつい見惚れてしまったが、俺も作業に取り掛かる。といってもノートを開いてひたすら漫画をシャーペンで描くだけなのだが。描き始めると不思議なことに、緑青のことがあまり気にならなくなった。


・・・・・・・・・


「進歩はどうかしら」

 緑青の声に俺はハッと顔を上げた。何時だろう、随分描いていたような気がする。腕時計を見ると、二時間が経過していた。

「え……と、まだ途中で」
「途中でもいいわ。見せて」

 俺は渋い顔をした。なんせ思いつくままに殴り書きをしたので絵も字も汚い。およそ人に読ませられるものではない。かといって、見せないという選択肢もない。

 渋々ノートを差し出す。緑青は躊躇なくノートを受け取り、読み始めた。

 心臓がバクバクとうるさい。人に読まれるなんてはじめてなのだ、しかも目の前で。目線をどこに向けたら良いのかわからず、パラパラとページをめくっていく彼女の指を見つめていたら、パタンと緑青がノートを閉じた。

「微妙ね」

 ぐさっ。昨日は面白かったと言ってくれたのに、何が悪かったのだろう。

「説明が多すぎて読みにくいわ」

 な、なるほど。

「それに場面展開がわかりにくい。背景や時間経過の描写が欲しいわね」

 言われてみれば、人物ばかり描いていた気がする。

「絵が内容とあっていないわ」

 あ、それは薄々自分でもそうじゃないかなと思っていた。

「……こんなところかしら。この漫画はここまでにして、新しい話を描いてみてくれない?」
「えっ」
「なんでもいいから、1話完結の……そうね、日常ものとか」
「……なんで」
「なんでも」

 緑青はにっこりと、それでいてどこか威圧的に微笑んだ。俺が頷くのを待っている。

「いつまでに、ですか?」

 その質問に緑青は目を見開き、ふふっと吹き出した。そして穏やかで、どこか遠くを見つめるような目をして、

「描けたらでいいわ。私、待つのは得意なの」

と言った。俺はその表情がどこか寂しげに見えた。

「…………」
「今日はもう帰りましょう。私が鍵を閉めるわ」

 そんなこんなで、放課後の活動は終わった。

 緑青は帰り際に、連絡先を交換を持ちかけて来た。体調が悪かったり、予定がある場合は無理して国語資料準備室に来ることはないと言い、その際は連絡をすることが義務付けられた。
 緑青の連絡先。全校男子にとって喉から手が出るほど欲しい代物。それを手に入れてしまうなんて、ばれたら夜道に、いや背後に気をつけなければならなくなりそうだ。

 緑青と校門で別れ、歩きながら考える。

 国語資料準備室でのさきほどの活動は、まるで部活……いや、同好会だ。許可や申請はいらないのだろうか。そもそも鍵をなぜ緑青が持っているのだろう。緑青のことだから無断で持ち出した訳ではないだろうが、わざわざあの教室でなくとも、空き教室や図書室でもできることだ。謎が多い。

 そして一番の謎は、緑青の目的だ。

 いまいち、よくわからない。なんのために、俺に漫画を描かせて読むのだろう。俺の絵は下手ではないと思うが、美術部員の方がはるかに上手だと思う。きっと彼女が頼めば、美術部員が喜んで漫画を描いてくれるのではないだろうか。それに話だって、自信がない。自信があれば漫画誌に投稿している。ノートに落書きレベルで漫画を描いているなんて、とても人には言えなかった。言うつもりもなかった。


 選ばれた、なんて思うのはきっと自惚れだ。
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