第一話 出会いと自壊 / 中話(1)〜7
Symptom
「悪夢だと思いたいな。貴様のような者に戦いを挑まれるとは」
暗き森の中、向き合うのは人間と人外
「ええ、私もこのような粗末な舞台に立つのは不快です」
人外の言葉に人間はそう答えた
「ならば何故?」
人外はその目に相手を焼き付けんばかりの様子で凝視する
「もとより無謀な舞台、飾るのは私のような者でなければと思いましてね」
人間はその目を涼しい目で睨み返す
「そうか。ならば全身全霊で殺して、貴様のその蛮勇への手向けとしよう」
今、一つの争いが始まった
闇に浮かぶは白き炎
「貴方は達していなかった、ただそれだけの事。私の欲している物には到底届かない中途半端な存在です。大人しく空へと消えなさい」
人外のほとんど取れかけた首に刺さるは、白き炎を纏いし鐘
「その鐘は貴方を神の下まで届けてくれるでしょう」
そうしてこの戦いの幕は閉じた
「愚かな。もはや動き始めた『第四』は何者でも止めることは出来ない」
その声は消えかけの人外が放ったのか、人外を空に送りし人間が放ったのか、闇に包まれし森に消えていった
7
彼女は生き残った
崩れた小屋から見える空はただ蒼く、ただ狭かった
そこで彼女は独りで、無い明日を夢見ていた
▽▽▽▽▽
お昼休みを知らせるチャイムが鳴ると食堂組の生徒たちに交じって一目散に廊下へと飛び出る。生徒の流れに途中まで乗り、階段で一人だけ別の方へと進む。そんな私を誰も気にしていないようで、皆は自分の食料調達に必死の様子だ。生徒の数に対して食堂の椅子は結構ぎりぎりなため仕方ない事なのだ。
ドアが重い金属が擦れ合う音を鳴らして開かれると、そこには青と白の世界が待っていた。ふわりと樹木の匂いと微かな潮の香りが屋内へと浸透していく。風が強い日には海が近い故に潮の匂いを運んでくるのだ。私はその空気の流れに逆らって屋上へと足を踏み入れる。
屋上にはまだ誰もいなかった。まあいたとしても誰かは決まっているのだけれど。私はいつも二人で昼食をとっている部分に腰掛け、まだ来ぬ友達をお昼ごはんのパンを弄くりながら待つ。よくよく考えれば誰かを待つだなんて行為は今まであっただろうか。しかも待つことすら楽しいだなんて、そんな経験が今までにあっただろうか。
今日は朱水に応えよう、そう決めてお昼休みを待っていたんだ。朱水が私に触れたいのなら私もあわてず騒がずそれに応えようと思う。
朱水の事が好きだって思えるから。
自分でもよくわからない感情だった。いつも一緒に朝食をとっている叔母さんだって大好きだ。でもそういう好きの類ではない事に昨日気付いてしまったんだ。昨日の朱水は同性の私から見ても凄くかっこよかった。その姿を見ていると私は全てを委ねたい気持ちにすらなっていた。だから……応えたくなるんだ。彼女が触れたいなら私も触れたい、あの顔を見ているとあの声を聞いていると何もかもを奪われたい、そんな欲望すらわいてくる。もはや応えることすら欲なのかも知れない。そんな事を考えながら今日の午前を過ごしていた。
だから全然授業内容が頭に入っていなかったり、ノートに文字が全科目両手で数えられるくらいしか書かれていなかったりしても、そんな事はどうでもいいくらい私はお昼を今か今かと待っていた。
ギーっと金属扉が開かれると、朱水がこちらに手を振りながら入ってきた。
その姿を見るだけで私の心臓はドクンと強く跳ねた。
「お待たせしました」
朱水はにこやかに私の隣へ座り、その姿をじっと見ていた私の視線に気づくとさらにその魅力的な笑顔を強めるのであった。
「ねえ朱水」
お弁当の箸を鞄の中から発掘するのに手間取っている朱水に声をかける。朱水は探求を一時的に諦め、髪をかき上げ私に顔を向ける。その青い目が私を覗くと私の理性は『お昼休み』してしまった様で、
何故か右手が勝手に動いてしまったのだ。
「…………」
「………………はい?」
私の右手が朱水の薄く紅潮した頬を触っている。
「…………」
「……有?」
どうしよう……
私が内心で慌てふためいていると、朱水は急にクスクスと笑い出し私のその手をとって両手で包んだ。
「不器用ね、貴女ってば」
「あう……」
何も言えないです、はい。恥ずかしさのあまり全身の力が緩んでしまった私は、むき出しだったパンをコンクリートの床へと落としてしまい、そのパンはコロコロと転がって排水溝へと落ちていった。
「うあ! 私のお昼ご飯が」
「あらまあ」
フェンスの向こうに唯一のお昼御飯が見える。流石にこれを拾って食べる気にはなれない。お昼御飯どうしようかな……。今から購買に行っても全て売り切れているだろうし、食堂という手もあったが朱水と一緒に食事できないくらいなら食べなくてもいいかと思ってしまうのである。
「はい、あーん」
目の前に箸に挟まれた卵焼きが突き出される。私がフェンスをつかんで中を睨んで唸っている間に朱水は箸を探し出しお弁当を広げていた様だ。食べる物を失った私に恵んでくれるらしい。
一瞬でも「落としてよかった」なんて罰当たりな事を考えてしまった自分がいる。このパンに関わった全ての人にごめんなさい、そしてありがとうございます。
「あ、あーむ」
口を開くと朱水は卵焼きを口の中に入れてくれた。
「ふふ、美味しいですか?」
口の中に砂糖で甘くなっている卵の味が広がる。出汁もきいていて凄く美味しかった。
「美味しい美味しい!」
私が何度も頷くと朱水も気を良くしたようで他のおかずもぽんぽん私の口に放り込む。
朱水はフェンスのある高い部位に座っているため、しゃがんでいる私の口に箸を伸ばすためには少し屈まなくてはならない。そしてこの二人をもし誰かが見ていたら間違いなく『餌やり』の様に見えただろう。
なんかドキドキする……。
その行為はお弁当のおかずが全て消えるまで続いた。結局おかずは全て私が食べ、朱水には何の味付けもしてないご飯だけしか残っていなかった。
「あうぅ、ごめん」
「いいのよ。幸せというのも味付けになるんだから」
そう言って朱水は楽しそうにご飯だけを食べていた。私がその美味しそうに食べる朱水を鑑賞しているとお昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。いつの間にか時が大分過ぎていた事に今更気付き、お互いに顔を見合わせ笑い合い、お弁当箱を片付けて教室へと戻って行った。
「あら、今日は掃除当番でしたの?」
掃除当番でみんなと一緒に教室の掃除をしているといつの間にか背後に朱水が立っていた。その手には鞄と体操着入れが握られていた。帰り支度は完璧な様だ。
「あれ? 教室まで来てくれたの? もうちょっとで終わるから待っていてね」
ちり取りにゴミを乗せていると、クラスに残っている生徒の大半が朱水を見ていることに気がついた。皆の視線の中心で朱水はこちらを時々うかがい髪の毛を弄くりながら佇んでいた。学校の女子の中で一番背が高い朱水はただ立っているだけで皆の注目を集めてしまうのだ。おまけに美人ときたもんだ、どうなっているんだろうか『世界の均衡さん』とやらは!
(女子にまで熱い目で見られるのはどういう気持ちなのかな?)
そう考えていると朱水が私の視線に気づいた。
「ちょっと、有、手が止まっていますよ。掃除は教室を使う者の義務なのですから全うしなさいな」
(性格もホントに完璧なんだもんな〜)
ゴミ箱にゴミを運べば、ハイッ、シュウリョー
「じゃあ行こうか」
鞄を持って朱水の横を通りながらそう言うと、朱水は変なものを見たような顔をしてきた。
「本当に貴女は変わらないのですね。私、貴女が変わってしまうことを覚悟していたのですよ?」
変わる、か……。正直自分でも不思議なくらい落ち着いていると思う。もしかするとあまりに現実が今までの日常に比べて突飛過ぎて、私が置いてけぼりになっているからなのかもしれない。
「でも覚悟は出来てるよ。今なら幽霊がいるなんてことも本気で信じちゃうくらいに」
「あら。幽霊というのは実在しますよ。層に捕らわれた魂は永遠に物質化出来ませんからねえ」
…………いるのデスカ。
「あ、いや、聞かなかったことにしたいデス。それより早く行かなきゃ。ね? ね? 早く行こうね! 今日は訓練みたいなことをするんでしょ? 叔母さんには部活に入ったとしか言ってないから遅すぎるのはマズイかも」
「話をそらしたのかしら? まあ有の苦手な物が判っただけでも良し、です」
そう言うと私を追い越し下駄箱の方へ進んでいった。
「何……アレ?」
通り過ぎる朱水の顔を一瞬見た私はその黒い笑みを確認したのだった。
「有、今の貴女は魔としては……そうですね、『明日の太陽を拝めない』というところでしょうか」
ぽつぽつといる帰宅途中の生徒に交じって私達は帰路を歩む。
「だろうねぇ。この前まで普通に生きていたんだもの」
「ええ。だから今日はまず、力の確立を目指します」
「確立?」
「はい。強大な力を持っていたとしても、必要な時に出せなかったら飾りと同じ。体が覚えていなければ戦いなど無謀です」
どうだろう、私は昔からあの力と共存してきた。体が覚えているかと聞かれたら多分そう、と答えられるんじゃないかな。ただ自分自身をよく分かっていなかった私がそんな事を言えるわけがなく、ただ朱水の意見を飲んだのだった。
「でも、どうやって練習するの?」
そう言うと朱水は
「窮鼠猫を噛む、と言うでしょう?」
って、言ってきた。うわっ、しかも見たこと無いくらいの満面の笑みだ。
「あの、朱水さん?」
「はい、何でしょうか?」
その顔を維持したまま朱水は返事をした。
「……怪我とかする?」
「さあ、どうでしょう」
「あの、どうしてそんなに微笑んでいるの?」
「さあ、どうしてでしょうか」
……性格、変わった?
「ふふ、思っていた通りの反応をするものですからつい、苛めたくなってしまいました」
「はあ……もういいや。で、これからどうするの?」
「我が家の庭にて模擬戦闘を行いましょう」
…………ヤッパシ
「朱水となの?」
それにしても模擬戦闘か。そんな言葉を日常会話で聞く様な生活になったんだなぁ。
「そんなことをしたら貴女の体は五体不満足になってしまいますよ。戦うのは使い魔です」
「使い魔ってよく映画とかに出てくるヤツ?」
「映画は知りませんけど、多分そうでしょう。魔の家庭では使い魔に子供の訓練相手をさせることがしばしばあります」
「……私もそうだったのかな?」
自分でもよく考える前にその言葉が出た。条件反射、そんな言葉が的確なくらい無意識的な発言であった。
「はい? どういうことです? まさか記憶が……」
「覚えてない。親の顔、声、匂い、何もかも覚えてない。自分の記憶はあるのに、親のことはごっそり抜け落ちているみたい」
「…………」
「でも何も困らなかったんだ。叔母さんは訊けば答えてくれた」
「……何を、訊いたのですか?」
「どういう人達だったのか。何をしていたのか。そして、どうして死んだのか」
「……有」
「火事だった、って言われた。私も、何となく目の前が炎でいっぱいの景色を見た覚えがある。多分それが……」
そう……赤の……朱の……紅の……炎でいっぱいな
「私の親も魔だったんでしょ? だからアレがただの事故だなんて今は思えない」
魔とか不思議な力を持っている者がそう簡単に死んでしまうのか。
「…………」
「でも、悲しいとも思えない。実感が無いんだもん。親がいた、なんてさ」
「……有」
「だからそんな顔をしないで、朱水。私は本当に何にも感じてないから」
「…………」
どうしよう、朱水が泣きそうな顔をしている。朱水のこんな顔、初めて見た。
「ごめんね、変な話をして。さ、行こう? 朱水が私を守ってくれるんでしょ? だったら私は付いていく。何所までも付いていく。ただそれだけだよ」
「……ありがとう」
そして、私達は、二人だけの道を歩んでいった
▽▽▽▽▽
「……ここまでにしましょう。これ以上は体を傷つける以外に何も結果を生み出さないでしょうから」
確かに動きは普通の女子の高校生のそれと大差ない。ずば抜けた運動神経も無く、疲れる様子も至って普通の女性だった。
「槐、槿、梧、 貴女達は片付けをお願い。椒と椚は得物の手入れをしておきなさい。梓は爺を呼んできて頂戴」
有の相手をしていた梧と後ろに控えていた使い魔達に命を下す。彼女らはすぐに行動を開始した。
「でも驚きました。本当に力の行使だけは尋常でない効率脈を持っているのね」
「効率脈?」
「前にも言ったはずですが、魔は世界の均衡に干渉することにより『霊力』と呼ばれる奇跡を起こします。その時に地球の認識手段として使われるのが魔に流れし血です」
「血、ってこの赤い血のこと?」
有は手首に指を指しつつ言った。
「違います。目に見える物ではないのです。ましてや体内における反応には一切関わりがありません。ですが確実に存在し、貴女の体の中を巡っているはずです。勿論私の体の中にも、です」
ほへー、と有は首を縦に振るがおそらくよく分かっていないでしょうね。
「その魔の血という物があって初めて霊力とかいう物が行えるってことかな」
「はい。その血は母体から子供に渡る際に自らを複製し、母親と子供の両方に存在するように作られています。その時、血が流れた跡が脈となりその子供の存在を、お腹の中にいるうちに決定してしまうのです」
なので純血に限りなく近いほどより多くの効率脈を持って生れてくる確率が多いのである。しかし目の前にいる有の様に、血の濃さと効果が比例してない魔も数は少ないが存在する。それは脈の効果を左右するのはその数だけで無いからである。
「血液とは別物なんだね?」
「ええ、どんなに体から血液が流出しようともこの血だけは外に出ません。この血を活性化することにより魔は霊力を行使できるのです」
「へぇ、何かスゴイね」
有は自分の手のひらを太陽に透かして見ている。先程目に見えないと言ったばかりなのに面白い事をする子だ。
「私にも流れているってことだよね」
「無論です。脈の数は少ないですが巡りが良さそうです。ほとんど間髪入れずに発動するのですから」
「見込みはあるってこと?」
有の表情が急激に明るくなる。自分の価値を良い方に評価された事が嬉しいのだろう。
「ええ、大いにあります。ですが守るだけでは何も終わりません。生き残るためには武器が必要なのです」
「武器かぁ。刃物とかを練習するの?」
「それでは何の解決にもなっていません。言ったはずでしょう、有。魔を傷つけられる武器は普通ではないのだと」
「ああ、そうだったね。ならどうやって?」
……はあ、本当に人間として暮らしていると本能さえも衰えてしまうのですね。
「有。貴女は魔なのよ? 人間を狩る者達が人間と同じ武器を使うとでも? 貴女には貴女にしか無い物があるでしょう」
「それってやっぱりコレのこと?」
と言いつつ空中に壁を創る。相変わらずお見事な技ね。
「どんなときにも手元にあるのはそれだけなのですから、その力を信じなさい」
「わかった。でもコレでどうするの?」
そうねぇ、確かに難しい。守りにおいては強力でも、攻撃には向いてない形状……ならば……
「有、貴女はどうやってコレを創っているのですか?」
そう言うと有は、ウ〜ンと唸りながら、
「う~ん、頭の中で……思い描くって感じなのかな。ただ、そこには壁があるって」と、簡単に言ってきた。
「何ですか……それ」
有り得ない。有は幾つもの段階を無視して世界に干渉しているらしい。
普通の魔はまず自分でその起こしたい未来を頭の中で思い浮かべる。ここは有も同じであろう。しかしそれだけでは普通の魔は霊力を行使できない。その次の行動こそが重要で、『虚』と呼ばれているモノから力をもぎ取ってくるのだ。虚と言うモノは行使者毎に別々のイメージで描かれるが大抵は海の様だと言われている。その姿を思い浮かべることに成功した者だけが霊力を行使する資格を与えられるのである。しかし、有はそれを必要としないらしい。
それは未だかつて……魔王と呼ばれた者達でさえ持つことが出来なかった脈なのだろうか。いえ、もはや脈ではなく存在自体が『機械』となっているとしか考えられない。
「どうしたの?」
「有、貴女は」
「何?」
「……いいえ、何でもないわ。どうやら貴女は訓練する必要がないようです」
「どうして?」
私はその言葉を無視し、梓が呼んできた智爺に後の監督役を任せ、有に屋敷の中に入るように言った。
「有、貴女は途轍もない可能性を秘めているわ」
私の言葉は有にどう受け止められたのだろうか。小さく頷いた有は梓に連れられ遠ざかって行った。私はその背中を一種の恐怖心を抱きながら見ることしかできなかった。
有の存在はイケナイモノなのかもしれない、そう私の直感は告げていたのだ。
▽▽▽▽▽
「これを見て」
そう言うと朱水はどっかから持ってきた透き通ったナイフのような物を机に置いた。
「これをじっくり観察して」
言われたままにじっと見つめる。透明なだけで何処にもおかしな所は無い物体だった。
「目を閉じて。そうして右手にこのナイフがあるという状況を思い浮かべて」
…………うわっ、何か手に冷たい物が……
「あれ、これって」
その冷たい物を確かめようと恐る恐る目を開いてみる。
「やっぱり。思った通りですね」
手にあるのは机の上のモノに似たナイフだった。初めて壁以外の物が私の力で生まれてきたのだった。
「でも何か違う」
「それは貴女がその様に『創造』したからです」
「前から言っていたけどその『創造』って言うのは?」
「言葉の通りです。いえ、少し違いますね。貴女の場合創るための材料が必要ない。つまり本当に無から有を創り出しているのです」
それって……
「超越的存在、分かりやすく言うと『神』に近い力を持っている、と言えます」
神様……え、私が?
「まだ確かめなければ……。今度は日本刀を、鞘に収まった刀を持っている様に思い浮かべてみてください」
日本刀か。確かこんなだったはず。
頭の中で手に刀を持っている私をイメージしてみると両手にズシリと重い触感が得られた。恐る恐る目を開けるとそこには……
「何これ?」
「おそらく今までに日本刀を直に見た事が無いからでしょう。だからそのような玩具のようなモノになってしまったのです。そうですね、これから特訓をするなら想像力でしょうかね」
そう言って朱水は私が創った物を手に持つと、瞬きした一瞬で消してしまった。
「あ! 今のってどうやったの?」
まるで消失マジックであるかのように跡形も無く二つは消え去っていた。
「あら、そう言えばまだ私の力を見せていないのでしたね。私の力は端的に言えば貴女の逆、『破壊』ですね。この力なら同じようなモノを有した魔は沢山います。もっとも、ここまで純粋に『破壊』し尽くすのは希有な力でしょうがね」
そう言い手元にあったコースターを指でつまみ上げ、私の目の前に掲げた直後これまた一瞬で消してしまった。残ったのは在ったはずの物が無いという違和感だけだった。
「スゴイ」
「貴女に言われると少し皮肉に聞こえてしまいますね」
朱水がコースターを持っていた指をすり合わせて粉の様な物をこそぎ落としていると、刹那だけその指に紫色の靄が纏わりついている様に見えた。
「そ、そんなこと無いよ! それに私は朱水より優れているなんて思ってないし!」
本当に思っていないし、これからも思えないと思う。朱水をそんな目で見ることなど絶対にできない。
「ふふ、冗談ですよ。やっぱり予測していた通りの反応をしますね」て、朱水は笑うし。
「有、明日からはその力を確立するために練習しましょう」
門まで見送ってくれた朱水が急に声を低くする。私に問いかけるでなく、誰にも告げる気の無い言葉のように彼女は言った。
「ねえ有、貴女は一体何者なのでしょうね……」
私も同じような事を考えていた。自分には何故こんな力があるのか。
そして私達はいつも通りに別れた。