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神影の彷徨 作者:ゆちゃあ
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第四話 イキトシイケルモノ / 5




 相も変わらずカビと古くさい紙の臭いが充満している部屋に缶詰となっているウチ等は、誰も周りにいないことを知っていながらも小声で先生達の陰口を言っていた。
「大体あいつの発音がおかしいのよ」
 あいつとは鏡に童話の写本という何とも言い難い課題を出した教師のことだろう。
「確かにあの人の発音は聞き取りにくいな。でもウチ等だってこっちの意見を伝えづらいんだからどっこいどっこいだろ」
 触ってしまった神に祟りあり、ウチの言葉は鏡のぶつける矛先が無くて燻っていた苛つきの対象役を買ってしまったようだ。ビシッっと指をウチに向けて何やら叫ぶ鏡。とりあえず落ち着けって。
「あんたのそういう考えがダメなのよ。いい? あいつは教師で私達は生徒。あちらにはより正確な情報を生徒に伝える義務があるのよ。それなのにあんたはこういう事は常に自分の落ち度と比較してその度合いで物事を捉えようとするわよね。そう言うの、私嫌いよ」
 何言ってんだよこいつ……。
「イライラをウチにぶつけるのは止めないか。それに出会ってそう時間が経っていないウチを知った風に言うのもどうかと思うぞ」
「うるさいわね〜。ストレス発散しなきゃこんなのやってられないのよ」
 それが本音か。そう言って童話の本を向かいの離れた机へと投げつける。本を大事に扱わないとはけしからんやつだ。
 投げた本がポンという小気味好い音を立てて机に綺麗に落ちるのと同じ頃に図書館の扉が開かれる。そしてヒョコッと生えてくる生首、じゃなくてこちらを覗いてくる誰か。
「あの、そろそろ鍵を閉めたいんですけど」
 そう言った……に違いない。自慢じゃないが日本語と英語しかわからないウチには彼女の発した言葉の大半が未知の単語だったのである。
「あ、わかりました。私達も今すぐ出ますね」
 そう鏡は言った。こっちは英語だったからウチにもわかる。やはり鏡はウチとは比べものにならない程の知識を持っているのだろう。最近こういう事でひしひしとそれを実感する。

 急いで荷物を整理して図書館を出たウチ等は何とも無しに鏡の部屋へと向かう。既に決まったパターンだった。一緒に時を過ごすときは大体鏡の部屋に入り浸っている。

「相変わらず綺麗な部屋だこと」
 整理整頓と書かれた半紙を壁に貼っていても、その言葉に引けを取らない様なほど綺麗に清掃されている部屋に靴を脱いで入る。鏡は部屋に土足で入られるのを嫌う気がある。日本人だから仕方ないのかもね。
「あんたも少しは部屋を綺麗にしときなさいよ。アレじゃ男の部屋よ」
 いや、それは男女比較における偏見だろ。男も女も部屋が綺麗な奴もいて汚くする奴もいる、そこに性は関係ないさ。
「なんならベッドの下でも覗いてみるか? いかがわしい物が出てくるかも知れんぞ?」
「出てきたら速攻あんたとの縁を切るわ」
 酷いねぇ。そこまでいかなくても良いだろうに。

 適当に鞄を床に放り投げると鏡が冷蔵庫から彼女のお気に入りのジュースを引っ張り出してきた。
「飲むっしょ?」
「勿論頂くよ」
 返事する前に放り投げられたペットボトルをいつもの通りキャッチし、封を開けてそのまま口へ運ぶ。
「直飲みかよ。コップあるから使いなさいな」
「女同士なんだから気にするなって」
 律儀に手渡したペットボトルの飲み口をティッシュで拭き取り嫌そうな顔をする。いや、本気でそう思っているわけでないことはわかっているさ。こいつは嫌なことは事前に予測できる場合はしっかりと回避する人間だからね。ウチが口付けることはいつものことなので本当に嫌ならこいつはそもそもウチにペットボトルを投げて寄越す事なんかしないんだ。
「お前ってさ、分かり易いよな」
 可愛らしく両手で掴みながらコクコクと喉を鳴らしている鏡はウチを一瞥したが自覚しているのか、頬を軽く赤らめ無視を決め込んだ。

 無視されて手持ち無沙汰となったウチの手は自然にテレビのリモコンに伸びる。
 この寮では基本的にテレビの持ち込みは禁止されている。では何故ここにその禁止物が存在してるのかというと、
「優等生はずるいよな」
成績上位者はそういう諸々の規制が驚くほどに緩くなるのである。
「ま、頑張った者へのご褒美みたいな物でしょ? 良いじゃない」
 しょっちゅうこいつの横にいるウチからしたら「頑張った」と言う言葉に大きな疑問符を記したいがそこは流しておこう。いちいち突っ掛かっているとこいつはきついしっぺを返してくるに決まってる。
 いつもはテレビを付けても結局聞き流すのだが、面白そうな番組をやっていたのでウチはそれに目を惹き付けられた。どうやらCG技術を大量に活用した冒険物の映画らしい。こういう物は途中から見ても大して面白くはないのだがウチは画面に現れる創造物に焦点を合わせ続けた。伝説上の怪物、龍だった。おっとこちらではドラゴンか、二本足で立つタイプの方だ。羽を広げて炎を吐いている。実際に生きている様にすら見えるとはCGと言うのは本当に凄いものだな。

 おっと、伝説で思い出したわ……。

「なあ、この学校が保管している禁書って見たことあるか?」
 ウチと同じく(こちらは何も考えずにだろうが)画面を見ていた鏡は首を横に振る。
「知らないのか? ここって結構有名なんだぞ」
「禁書ってあれでしょ? 危険な魔法が記されているって言う」
 おやおや、こいつ、何も知らないんだな。
「それは偽情報だな。禁書って言うのはそんな代物じゃないんだよ」
 ウチの話に興味を覚えたのか、テレビの電源を落としてウチに続きを話せと迫る鏡の目は爛々と輝いていた。
「禁書って言うのは本じゃないんだ。アレは実際に見るとわかるんだが羊皮紙がただ巻かれているだけなんだよ」
「へぇ。あんた見たことあるんだ」
「まぁね。一度だけお目にかかれたんだよ」
 あれはウチがまだ十歳にも満たない頃だったはずだ。親が連れて行ってくれた博覧会にて自慢気に偉そうな魔法使いが禁書なる物を見せつけていた。
「正直あんなの手に入れたところで何の得になるだろうかと考えてしまうほど外見は見窄らしい物だったね。でも親が言うには禁書という物は文字ではなく別の物が書かれているらしい。ウチが見たのは禁書の外側だけだったから内側に何が書かれているかはわからないけど、何やら紋様のような物が描かれているらしいぞ」
 それを見たらどうにかなってしまうのか、そこからはウチは想像を巡らすことしかできないからわからないが恐らくそんな感じだろう。
「で、そこに書かれているのは魔法とは違った系列の代物らしい。持っている本人が言っていたから多分本当だろうよ」
「違う系列?」
 いや、詳しいことはウチも知らんよ。ただ確かなのは万人がその中を見たらそれを得られるなんて言うゲームに出てくるような物とは違って、それを会得出来るのはほんの一握りの人間らしいという事くらいだ。
「つまりウチ等がそれを手に入れたところで果たして書かれている物が理解できるかは、確率的には分母に天文学的数字が付くってわけよ」
 興味深げに話を聞いていた鏡は、ウチの話が終えたことを察し、何故か勢いよく立ち上がった。
「んじゃ、行ってくるわ」
 おいおい、何言ってんだこのお嬢さんは?
「行くってお前……まさか探し出そうとか考えてるのかよ」
「そうよ〜。面白そうじゃないそれって」
 ニタニタと嫌らしい顔をしてそう宣う鏡さん。
「お前人の話聞いてたか? もし万が一億が一見つけても、その中身を理解できない確率の方が多いんだぞ」
「あら……」
 既にドアのノブに手をかけていた鏡は振り返り、
「分母が天文学的数字なら分子にも天文学的数字を置けばいいじゃない」
そう、屁理屈っぽいことを吐き捨てて出て行った。

「おいおい、そう言う問題じゃないだろ。それにそもそも見つかる確率すらほとんど無いだろうに」
 呆れの意を口は呟くが、ウチの足は既に鏡を追いかけていた。
 まあ、なんだ? こいつといると何かと人生が楽しくなるんだな。そしてそれが少しだけ悔しくもある。
「悔しいが、あいつは人を惹き付ける何かがあるんだろうな……」
 恥ずかしい考えを呟いて火照ってしまった頬を手で覆いながら、既に廊下の大分先まで進んでいた鏡の背を追った。

▽▽▽▽▽

 私にあほらしい課題を出した教師の研究室のドアをノックする。後ろには何故か付いてきた加々美がいる。
「は〜い、どうぞ〜」
 いつもの微妙におかしい発音の間延びした返事がドアの向こうから響く。
「失礼します」
 ドアを開けると大きな机に乱雑に置かれた本が壁を作り出しているという何とも作業しづらい環境であるように思える部屋に、ぽつんと背の小さな女性が椅子に座していた。髪は長く、座っていると床にまで届いてしまいそうだが本人は気にせずにいるようで、たまに生徒が彼女の髪の先に付いたゴミを取り除いている姿を見かける。
「あら〜。課題の提出かしら?」
 やはりおかしな発音である。しかし理解できないほどではないため話すのに障害はない。眼鏡の奥にある彼女の目は口調とは裏腹に眼光鋭く、少しだけ威圧感さえ感じる。
「いえ、それは期限の日に出します。今日は訊きたいことがあって」
 後ろにいる加々美の手を取って先生に突き出す。
「こいつが言っていたんですけどこの学校には禁書なる物が保管されているらしいですね」
 加々美は「ウチに責任転嫁するな」と言うが事実この私に話したのは加々美であり、先生に変なことを探るなと叱られるのも加々美の役であると思う。だって、 私に話すのが何より一番の失敗なのだから。
「う〜ん、私も聞いたことはあるけど先生方からでなく生徒の子から聞いたのよね〜。本当にあるかどうかは私知らな〜い」
 手にしていた本を左右に振りながらつまらなそうに言う。見た目が若い先生なので何だか幼子がいじけてしまったようにも見える。理由は自分だけ秘密を教えてもらえないと言うところだろうか。それにしても自分の事ながら失礼な想像だ。
「面白そうね。今度学園長にでも聞いてきてあげるわ」
「本当ですか? 先生って結構恐い物知らずですね」
 後ろから「お前もな」と小さなつっこみが聞こえたが当たり前のように無視した。
 ここの学園長は見た目が威かつがましく、堅物のように聞く。そのような人物に「禁書ありますか」と訊くとは何と蛮勇なことか。
「でも交換条件があるよ〜」
「はい?」
 交換条件? 教師が生徒にそういう物を求めるとは不埒な。
「課題の追加よ〜。写しだけじゃなくて感想も付け加えといて〜」
 うわっ、面倒事を増やしてしまったか、我ながら不覚なり。後ろの加々美の(隠す気が無い)押し殺した笑い声が頭にくる。
「感想文と言ってもちょいちょいでいいよ〜。貴方があれを読んで感じたことをちょっと書くだけで良いから〜」
「なら今感想文を書いたら直ぐにでも学園長に訊きに行っていただけます?」
「おいおい、先生にだって都合という物が」
「いいよ〜」
 加々美の遮りは更に先生の遮りで上乗せされた。なかなかわかっていらっしゃる先生である。
「う〜ん、口頭でいいや。はいどうぞ」
 どうぞと言う言葉と同時に私に突き出される手、今言えってことか。読んでいる事前提の様だ。
「えっと……あの姫は何とも愚かだと感じました」
「うんうん」
 何故か先生は嬉しそうに頷く。予想通りの在り来たりの感想、そう言いたげであった。だが私は口を止める事無く、その予想道理のつまらない感想を現実に起こす。形だけ「感想」であればいい、それだけで交換条件を突破できるのだから内容なんてどうでも良い。
 優等生? そんな評価この際どうでも良い。
「自分で好きな人を凍りづけにしたあげく、動けない恋人に許しを請うなんて間違っているとしか思えません」
「そうね〜」
 先生は何やら紙に文字を書き始める。採点だろうか。
「で、私が貴方に写しをさせた理由わかる?」
 鋭い目でこちらの顔を覗き込むように尋ねる。理由……短絡的に考えれば「心にゆとりを」だろうけどそんなのが答えな分けがない。それは初めから用意されていた答え、これが答えならば初めから先の質問は意味が無いのだから。
「失敗ですか?」
 そもそもこの課題を出されたのはあの魔力の暴走が原因だった。ならばそこに理由があるのだろうか。
「そうね〜。貴方達は後一歩で大惨事にでもなるかという危険な行為をしていたのよ? わかっていたかしら」
 私達は勿論頷く。あれはとてもじゃないが今の私達では制御できる暴走ではなかった。そして途中まで実行されてしまった魔法は歯止めが利かず驚くほどの速度で膨張し、破裂した。
「高海さんが緩衝魔法を事前に唱えておかなかったらきっと死人が出ていたわよ〜」
 急激に先生の纏う空気が変わる。怒りを前面に押し出した今まで見た事のない彼女、私はその威に押されてしまう。
「ごめんなさい……」
 時は戻せない。あの姫が青年を凍りづけにしたのは一瞬の感情の高ぶり、嫉妬の果てであった。凍りづけとなった青年に何度も許しを請うたが勿論青年の口は動くはずもない。その驚愕と恐怖に満ちた表情のまま固まってしまった青年の見開かされた血眼(ちめ)は永遠に自分をそのようにさせた姫を見つめ続け、それが姫を責め立てていた。永遠を約束された姫は後悔の念に身を委ねて自決することも出来ず、ただ青年と共に洞窟に籠もるだけであった。
「私達が更に大きな失敗を犯していたら誰かが犠牲になっていたかも知れません。そうなったら……私達は一生、その人の近親者や友達に怨恨の眼差しで睨まれ続けることになったと思います。丁度童話にて姫が青年の眼差しに押しつぶされ続けるのと同じ様に」
「そこまでわかっていたのならもう良いわ。この世界、罪を犯した者は法で裁かれるよりも早く同胞に裁かれることの方が多いから肝に銘じておきなさい。失敗は死に繋がるのよ」
 失敗は死に繋がる。衝撃的な言葉であった。まだ頭の何処かでは楽観的に考えていたのだろう。しかし先生に両肩を力強く掴まれ私の目を通して頭の中を覗こうとせんばかりに近くで見つめられると、その先生の言わんとせん事が脳裏に勝手に焼き付けられたように言葉が浮かんだ。


  魔法使いの世界に「赦免(しゃめん)」は無い。



 殺したら殺されるだけだ。何故ならお互いの目指す先は等しく、その道は重なり合っている。その細き道に他人を殺すような失敗をしでかす凡愚な輩がいたらどうするだろうか? 答えは簡単である。巻き込まれる前に突き飛ばして崖に落とせばいい、それだけだ。

「はい」
 身震いが起こる。数分前まで嘗めきっていた教師によって諭された可能性。その言葉の重さは自分がしでかした魔力の暴走時に感じた死の恐怖と同等であった。いや、目に見えない恐怖は目に見えた恐怖以上に恐ろしく、私の奥底へと入り込んできた。
「苛めすぎたかしら」
 私の心を覗いたかのように、先生はうってかわって優しい瞳で私の頭を撫でてくれた。その掌の暖かさに何故か涙が溢れてくる。
「あらら、御免なさいね」
 悔しいが、私はこの先生に、嘗めきっていた先生に全てを打ち明かしたいという程に好意を抱いてしまった。私はこんなにも弱い人間であっただろうか。たった数分で尻尾を振ってしまう人間であっただろうか。
「鏡……」
 後ろで何故か私と同じく目を赤くしている加々美は私の手を取り包んでくれた。馬鹿ね、何であんたまで泣きそうなのよ……これは私の罪、私への罰なのだからあんたは私をいつも通りに笑っていればいいのよ。そっちの方が私が私でいられたのに。
 自分の頬が熱くなるのが分かる。
 嗚呼……やっぱり暖かい。加々美は私には珍しい「友達」と呼べる存在である。だから悔しくはない。だから繋がれたその手を引きつけ思いっきり加々美に抱きついた。
「ちょっと、おいおい」
 何も言わないで。少しだけあんたの体を貸して頂戴。貴方なら悔しくないのだから。
「参ったな」
 少し嬉しそうな加々美の呟きが耳元で響く。その息の温もりは私の耳を赤く染め上げ、私の加々美に抱きつく腕の力を更に強くさせた。
「ゴメン、ちょっとだけで良いからこうさせて」
「……わかった」
 私達は暫くくっつき合った。女同士だからだろうか? 加々美に体の熱を与え、与えられることに何も抵抗がない。ずっとそうしていたくさえあった。
「仲良いのね〜。先生もそんな友達欲しかったわ〜」
 その後我に返った時にはあまりの状況に顔から業火が出たが、それはそれでまた思い出という名の記憶の断片となるだろうから良しとした。


 幾ばくか時が過ぎ、チャイムが鳴り響いた。
「あら、もうこんな時間じゃない。今日はもう帰りなさいな」
 お互いに恥ずかしくて目を合わせられず、少し離れたところに無言でただ立っていた私達に先生は帰るように言う。
「そうそう、これは訊いておかなきゃいけないわね」
「なんでしょう?」
「禁書の事よ〜。まだ興味あったりする?」
 そう言えばそうだった。ここにはその事について訊くために尋ねてきたのだった。
「興味は……もう余りありません」
 既に私の頭からは禁書と言う文字が意識の枠から零れ落ちかかっていた。
「そう、それが良いと思うわ。万が一って事もあるでしょう? 貴方の肩に載せる事の出来る責任なんてまだまだ小さいのよ。その若さでは重さで簡単に押し潰されちゃうわ。だからね、もっと大人になってからまたここに来なさい。その時までにはちゃんと学園長に話を訊いといてあげるから」
「はい」
 何故だろうか心が清々しい。私は一体先程まで何に心濁されていたのであろうか。そんなことを考えられない程に今は気分がすっきりしている。
「それと星井さん、貴方の課題は実は私が出したのではないのよ」
「そうなんですか?」
 先生は椅子のキャスターを転がせ加々美の目の前へと移動した。
「貴方のこと気にしている先生がいてね、その先生に折角だからってあれを渡されたの」
「はあ、『折角』で出されたんですか。そんな物好きな方は何方でしょうか?」
 しかし先生はフフフと含み笑いをするだけで答えはしなかった。


 背中を押され廊下へと追い出された私達はお互いの顔を見つめ、お互いに首を傾げた。
「あの反応、どういう意味なのかしら」
「わからないね。ま、ウチを気にするという時点で余り期待していないけどね」
 加々美は手をひらひらさせながらおちゃらけた様に言う。そのにやけた表情が無性に私のSっ気を駆り立てる。手が勝手に加々美の頬を抓る。
「何だよ」
「さあ?」
 悔しい。何か悔しい。ほんと悔しい。悔しくないはずなのに悔しい。

 でも何が私は悔しいのだろう。


「鏡、お腹すいたから早く帰るゾ!」
 こいつの笑顔は私に何かを与えてくれる。
「悔しいわぁ」
「何が?」
 既に戻る気満々の加々美は私を置いて歩き出してしまっていた。
「別に」
 本当はわかっている。
「けど、恥ずかしいから言えないじゃない」
 私の声は『しっかり』と加々美に聞こえなかった。



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