挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
神影の彷徨 作者:ゆちゃあ
20/64

第三話 水鏡 / 4




 全くもって不服感満載である。くそ〜、兄貴にこんな屈辱を与えるコトさせるなんて。
 家に着くと何やら熱を出して早退したらしい妹、(はるか)がケーキを食べたいと駄々を捏ねてきたため、心優しきお兄ちゃんは病魔に苦しむ妹のためにここらで一番美味しいとされるケーキを買ってあげようとしたんだとさ……。お涙頂戴?
 ケーキ屋というにはやや大きい店内には女性女性女性という、男っ気一つ無い空間が出来ていた。それもおばちゃんとかじゃなくうら若いお姉様、奥様方ときた。こんな空間に男子高校生が一人で入るにはかなりの勇気が必要だった。入るだけでない、待たなくてはならないのが本当に辛いのである。
 先程から俺は不平しか口にしていなかった。あ、勿論心の中でな。独り言なんかこの空間でした暁には俺は周りから冷たい目で見られて一生モノの傷を負ってしまうからな。
 可愛い妹を思って奮発してデコレーション何ぞを頼んだ俺がバカだった。どうやらディスプレイされていたのは見本だけだったらしく、注文から少し時間がかかるとのことだ。 ならば注文を変更すれば良いだけのことだと言われるだろうが、そこは日本男児の意地、男に二言はないでござる。
 流石に恥ずかしさが治まってきたのでさり気なく店内を横目で見渡す。すると一人の高校生もしくは大学生らしき女と目があった。俺は慌てて目をそらしたが、彼女の方はまだ俺を見ているのが何となく分かる。と言うか見過ぎである。
(何なんだよ。そんなに男が甘いモン買うのが珍しいのかよ〜)
 心の中でそう叫んでいると、彼女は何故か俺へと歩み寄りこちらの顔を覗き込んできた。
「な、何ですか」
 その人物はこれまた結構な美人である。その事実がさらに一高校生である俺の心の傷を深めた。ああ、大いにな!
「貴方、名前は?」
「は?」
「だから名前は?」
 おいおい、これはどういう事デスカ。な、まさかこれが逆ナ……いや、ないない、絶対そんなことは有り得ない。俺なんかがそんな夢のような立場になれるわけがないんだからな。きっと新手の宗教勧誘か高価な壺を売るあれだろう。
「名前って、初対面の人間に……」
 余りに狼狽したため語尾は恥ずかしいくらいに曖昧になってきた。
「初対面だから名前を聞くんじゃないの?」
「ぐ、それはそうだ……ですけど」
 見た目から分かる年齢が近いために敬語で話すべきかどうかさえ分からない。年下だったら嘗められるわけにはいかない、こういう場面では結構大事な事なんだ。
「ああ、『名を訪ねるときはまず自分から』って奴? なら私は高海ね、はいヨロシク」
「はあ、俺は宇津居ですけど……」
 その女は俺の名前を聞くと何か期待が外れたような顔をした。全くもって失礼な輩である。
「8番の札をお持ちのお客様、お待たせしました〜」
「あ、私だわ」
 女は店員からケーキの入った白い箱を受け取るとじゃあねと言い捨て店から出て行った。本当に何だったのだろうか。
 後には周りから白い目でじろじろ見られる俺だけが残された。俺はただただ店員が呼ぶのを俯きながら待つことしかできなかった。
 精神的に疲労した俺はケーキを受け取ると急いで店を出る。精神の摩耗の所為でケーキの重さなど感じやしないね!
 俺は恥ずかしさを振り切るかのようにひたすら速く歩いた。まあ、それが大きな間違いだったんだな。
「お、さっきの」
 赤信号で止まった俺の真横には先程の女がいた。信号待ちの人がそこそこいたため、そこにいることに気付かなかった。気付いていたら当然Uターン必然だった。
「…………」
「お〜い」
 無視はさせてくれないらしい。面倒な人物である。
「何ですか」
「ちょっとしたアドバイスをあげるよ。君は将来宝くじか何かを買った方が良いね」
「は?」
「でもある程度のお金が当選したらそれ以上は買わない方が良いね。後々怖くなってくるから」
 怖いのはお前だろ。何なんだコイツは。
「じゃあね」
 ソイツは信号が青になるとバイバイと手を振って行ってしまった。俺はやや放心したまま信号が赤に変わるのを待ち続けた。もう二度とさっきの女に会わないためにな。



「帰ったぞ〜」
「お〜か〜え〜り〜」
 聞き慣れた妹の声が玄関の向こうから聞こえた事で俺は完全に平常心を取り戻した。普段なら出来ないが今なら遥に抱きついてもおかしくないくらいに愛おしいぞ我が妹よ。お前がいつも通りでお兄ちゃんは嬉しいぜ、グスン。
「おう。疲れたぜ」
 まあ疲れたけど、妹に当たっても仕方がないので大人な俺はケーキを切ってやることにする。布団の中で暇そうにケータイを弄くっている遥は俺の気も知らないで早くくれくれとねだるばかりである。
「どれくらい欲しい?」
「お兄ちゃんに任せる」
「ならこれくらいだな」
 六分の一程切り取って遥の目の前に置く。
「ほら、餌だぞ」
「もっと喰いてぇ」
「女の子がそんな言葉遣いしちゃいけません」
 仕様がないので更に追加してあげる。それをガツガツと素手で食い荒らす妹……何ともシュールな風景である。
「あ、そうだ。母さんが買い物してきてだって」
「先に言えよぉ」
「先に言ったってお兄ちゃんはケーキ持ったまま買い物行く気ある?」
 ティッシュとベロで指を掃除しながら遥は得意げに言う。
「……無いな」
「分かったらさっさと行く」
 行きたくなかったが行かなかった時に発生するであろう晩飯抜きと言う兵糧攻めを思うと、俺は重くなった腰を頑張って浮かしてメモを片手に再び外の世界へと旅立つしかなかった。もう一度あいつに出会う程俺は不幸な奴ではないはずだ、そう信じて。
「あ、板チョコ追加ね!」
「…………おう」

▽▽▽▽▽

「つまり有の周りでよからぬ出来事が起こるかも知れない、と言いたいのね」
 朱水は眉を縦にせんばかりにきつくしかめて尋ねた。

 ここは応接間、朱水が由音ちゃんから今日わざわざ来た理由を聞き出していた。アイシスは自身にはあまり関係ないと思ったのだろう、由音ちゃんの顔を見た途端部屋の隅の椅子へと移動した。年上の私でもそんな気が利いた行為を思いつくことは難しいだろう。やはり教鞭をとっていると言うだけの事はあるなぁ。ちょこんと座ったアイシスは私の目線に手を振って応えた。外見はやっぱりただの可愛い女の子としか思えないのにこの差だよ。

「はい。その対象が彼女である以上、噂と聞き捨てるわけにはいきませんので」
 由音ちゃんはいつもの朗らかな様は一切見せず、ただ淡々と返した。
 先程から応接間には朱水と由音ちゃんの声しか響いていない。彼女等の他に私と椒ちゃん、それに少し遠くにアイシスが存在しているのだけど、二人は私達に一切視線を移さず、この空間に他者など存在しないかの様に話を進めている。
 立場という大きな背景が机一つを挟んでぶつかり合っていた。
「それがどういう事かわかっているのよね?」
「勿論わかっているでしょう。確証はありませんが」
「以前の件は賠償金という手で話が着きましたけど、今度はそうはいかないわよ」
 由音ちゃんは朱水の殺意が籠もった言葉にやや気圧されながらも答えた。
「わかっています。お二人の関係は十分にわかっています。その為に私が万が一が起こらないようにこれから護衛に付かさせてもらいたいのです」
「待ちなさいな。そもそもなぜ貴女が有を守る必要があるのかしら? 魔狩り者が魔を守るなんて少なくとも私は初耳よ。納得のいく説明を求めます」
「例の件で見た彼女の力は確かに危険因子として認定される可能性が十分ありました。危険因子と言うのは御存じの通り一度認定されるとその者を支配している領主が削除しなくてはなりません……」
「つまり、私が有をこの手にかける事は出来ないであろうから削強班である貴女達が私の前に立ちはだかると言う事ね。性格的に大人しく、能力も制御ができていて、なおかつ頭首直々の監視下にある者を、それでも尚危険因子にしてしまったらね」
 気が重い周りの人物を他所にその口からは楽しそうな声色が零れた。
 朱水が私に色々教えてくれるのは私が危険な存在になる可能性を持っているからだと言う。つまり、朱水の思惑はこうだ。私がこの力の完全制御ができて、また暴発などの可能性が無いなら危険因子になる事はないであろうと言う考えだった。
 朱水は頭首だ……私がその危険因子とかいう物に認定されれば本来私は……朱水によって……。
「…………無論その際の犠牲は大きいでしょう。鬼神と恐れられる者を敵に回すのですから当然です。しかしそれは認定されれば起きなければならない未来なのです。そして唯一の回避方法が彼女を『危険因子にしない事』なのです。しかし彼女の力を知った者の中には彼女を利用とする者が出てくるでしょう。そして彼女によって何かおかしなことが起きたら……恐らく我々は尼土有を無視できなくなってしまいます。そして尼土有の削除のために削強班の精鋭をこの地域に向かわすでしょう」
「そして私に殺される、そういう事ね」
 朱水はまたも楽しそうに言う。前から感じていた事だが朱水は暴力的な話題になるとこうなりやすい。魔としての性なのだろうか。
「…………我々とて犠牲は多く出したくありません。しかし残念な話ですが上が何を考えているのかは分かりかねます。一枚岩ではない以上備えは必要なのです」
 それは由音ちゃんの上司達は由音ちゃんの同僚の事を考えないと言う事なのかと私は考えたのだが、それはどうやら違ったらしい。いや、それどころか由音ちゃん達は上司の事を信頼していない様だった。
「前例があるものね。貴女達が無謀にも私からあの子達を奪おうとした事、忘れてないわよ」
 あの子達……椒ちゃん達の事だろうか。由音ちゃんは朱水の言葉に初めて怒りの様子を見せた。
「あれは削強班ではないと総班長が何度も説明されたはずです。いえ、一部には削強班の者が混じっていたことは事実ですがあの行為自体削強班に対する反逆でして……」
 由音ちゃんが舌をうねらせ早口に捲し立てると朱水は耳を塞ぐようなジェスチャーをした。聞きたくないと言う事なのだろう。
「それは何度もあのいけ好かない男から聞いたわよ。でもね覚えておいてちょうだい、私からしたら人間で一括りなの。削強班だったとかそうじゃなかったとかは私の意見を揺るがす要素にはならないのよ」
「……分かりました、話を戻させていただきます。お恥ずかしい話ですが身内からまたあのような行為をしでかす者達が現れないとは断言できないのです。彼女の力はあらゆる可能性を秘めているため、恐らく手にしたい者も生じるでしょう。何をしでかすか分からないのです。そこでせめて私を尼土有の横に置かせて頂きたいのです」
 私と言う魔を利用しようとする人が現れる可能性がある、そんな事を私は聞いてしまった。
 手が汗ばむ。私はいったいどうしてこうも重要視されるのか、私自身が知らない所で話が大きくなっているのか、良く分からない恐怖が私を覆っていた。

 自分だけが知らない自分を皆が見ていた。


 その後も由音ちゃんは朱水の耳に届かせようと声を張り続けていた。おかげで由音ちゃんが私の近くにいたい理由が大体分かった。由音ちゃんの周りの人達の中にもしかすると私の力を欲しがる人物がいるかもしれないので、そう言う人達の手から私を守るのが目的らしい。理由は二つあって、朱水との対峙の回避と、もう一つは私の力を使った悪事の防止とのことだ。まあまだ何ができるとか分からないから可能性の話だけらしいけど。

 朱水は話の途中から由音ちゃんを威嚇するかのように険しい表情を見せていたが、ふと、口を微かに緩ませ笑った。だが歓迎の意は籠っていなかった。
「貴女が? 菅江由音等という名前聞いたこと無かったわよ。そんな無名の輩が私の重宝の護衛ですって? 笑わせないでくださる?」
 朱水はこれ見よがしに高らかに嘲る。以前の由音ちゃんに対する優しい態度は生物としての違いが幻へと変えてしまっていた。しかし由音ちゃんは机の上に上半身を乗り出して食い下がる。
「確かに今は無名ですが、これでもあの双犬の下にいる者です。名が知られていないのならこれから知られるようにしてみせます!」
 由音ちゃん……。
 由音ちゃんの目から涙が流れる。

 その涙が何を意味するかは私にはわからない。

 だけれども彼女の熱意だけは十分に伝わった。それは朱水も同じなのだろう、思慮深げな表情の後には先程の嘲りのとは違う、微かに苦笑いを含んだ彼女らしい微笑みが表れた。
「わかったわよ。そこまで熱くなられたら参るわ。ただし条件があります」
 朱水はドアの横に立っている椒ちゃんを手招きした。今までずっと固唾を呑んで見守っていた椒ちゃんは急の指名に慌てたが静かに朱水に歩み寄った。
「椒も一緒に護衛に付きます。それなら貴女が護衛に付くことを認めましょう」
 椒ちゃんは朱水の思いも寄らない発言に絶句する。
「アケミ、それは……」
 今まで傍観していたアイシスが椒ちゃんの護衛という言葉に反応した。
 私も知っている。椒ちゃんは他者を守るための力は持っていないのだ。その事を椒ちゃん自身が一番気にしているって言ってたのは朱水本人だ。それなのに椒ちゃんにそれを強いる。
「これは決定事項よ。ただし否決される可能性もあるわ。それは勿論菅江由音の退役によってのみよ」
 由音ちゃんは知らないはずだ。椒ちゃんが護衛に不向きなことを。
「御主人様、私は……」
「黙りなさい。貴女は私の命に従えばいいの」
「……はい」
 どうして朱水は椒ちゃんが苦手なことをさせるのだろう。苦手意識の克服? いや、違う。先程から朱水は私を見つめている。何かを、朱水は私に何かを求めている。
 なら何を? 朱水は私に何を?  私に出来ること、今の私に出来ること……

   椒ちゃんの為に出来ること

    そうだった、そんなの決まってる

「私はそれで良いよ」
「尼土様……」
 椒ちゃんの不安そうな目に私は目線を強くぶつける。

 大丈夫、椒ちゃんと私は断然相性が良いんだから、ってね。

「有君、本当に自分で良いんすか?」
 由音ちゃんも不安そうだった。多分自信はあるのだけれどやっぱり他の強い人と代わった方が良いのかも知れないとでも思っているのだろう。
「大丈夫、由音ちゃんなら出来るはずだよ。それに由音ちゃんが出来るって言ったんだから自分で否定しちゃ駄目だよ?」
 由音ちゃんは未だ微かに残っていた涙を拭いてにっこりと笑ってくれた。

「決まりね。なら、これからのことを考えなければね」
「これからの事って?」
「勿論貴女達三人の事よ。何が起きるかわからないなら有を一人にするわけにはいかないでしょう? つまり誰かが必ず有の近くにいなければならないって事よ」
 ああ、そうか。よく考えると椒ちゃんも由音ちゃんも私達の学校には縁がないんだね。
「まあ、学校にいる間は私がいるから大丈夫ですけどね。問題は有の家ね。有の家には何も防護的呪術が施されていないのだから必ず誰かが近くにいなければならないのよ」
 その言葉を待ってましたと言わんばかりに由音ちゃんが大きく手を挙げる。
「それこそ私の出番ですよ」
「どういう事ですか?」
 自信満々の由音ちゃんに椒ちゃんは何故か面白くなさそうに尋ねた。どうしたのだろうか?
「簡単っすよ。私が有君の家の直ぐ近くに住めばいいんすから」
 おお、簡単に言うねぇ。そんな直ぐに引っ越せるなんて、なんてフットワークの軽い子だ。
「そんな直ぐに引っ越せるものなのですか?」
 椒ちゃんは一層声を低めて尋ねた。それはあからさまに敵意を持った目だった。嫉妬やら何やら、私としては嬉しくもあり不安でもあり……。
「はい。私達、削強班は常日頃から引っ越しが出来るような体制なんです。何せ日本中から要請が来ますからね」
 由音ちゃんは胸を軽く反って誇らしげに言った。日本中からって言うことは、実は削強班ってあんまり人数いないのかな。てっきり大きな組織だと思ってたよ。
「そう。でもやはり常に真横に誰かがいないと心配よね?」
 そう言いながら朱水は椒ちゃんに何かを催促するかのような目を向ける。それに釣られ皆の目線が椒ちゃんに集中した。
 その目線に恥ずかしくなったのか、火照った頬を手で隠しながら椒ちゃんは小声で呟いた。
「御主人様、その……これから纏まったお暇を頂けないでしょうか?」
 朱水はその言葉にニヤニヤと意地の悪い顔をしながら直ぐに応えた。
「ええ、いいわよ。何なら今後、ずっと有の下に仕えるなんてことも許してあげるわよ?」
 椒ちゃんは頬を真っ赤に染め上げながら、その言葉に無言で深々と頭を下げた。いや〜、参ったね〜、こっちまで大いに照れるね。人に好意を持たれるのは恥ずかしいけど心地よいものなんだね。
「まあ、詳しい話は休憩の後にしましょうか。椒、何か持ってきて頂戴な」
 椒ちゃんは頬を染めたまま一礼して応接間を出て行った。
「何よぉ。あの子、本当に有に懐いたのね」
「いやぁ、光栄なことで」
 自分の顔もきっと今の椒ちゃんみたいになっているのだろう。しかしそれを隠せる程私は器用じゃない。
「ハジカミのあの様な姿を見たのは初めてです」
 アイシスのその言葉で朱水は一層声を高めた。
「私だって初めてよ。有は色々な初めてを奪っていくのね」
「やめてよ、恥ずかしいって」
「ふふ、まあ、からかうのはここまでにしてっと」
 朱水は椅子から立ち上がり私達に「待っていて」と言って外に行ってしまった。
 朱水の退出と同時に由音ちゃんから安堵の息が漏れた。余程緊張していたのだろう、背もたれに体の全てを預けて目をつぶった。さっきまでの朱水は確かに怖かった。あんな状態の朱水と面を真っ直ぐ合わせるなんて私には到底できそうにない。
「削強班の方、貴方は中々の度胸の持ち主ですね」
「そうでもないっすよ。……ところで貴方は?」
 ああ、そうか。二人は未だ初対面だったっけ。ここは私が二人の間を取り持つべきなんだろうな。
「こっちはアイシス・クラスエンちゃん、学者さんなんだって」
「まあ、一応その肩書きで通していますね」
 アイシスは座ったまま深く礼をした。それに釣られて由音ちゃんも同様な礼をした。私より小さな二人のその姿を見ていると自然に頬が緩んでくる。
「こっちは菅江由音ちゃん、まあ、後は言わなくてもわかるよね」
「ええ」
 アイシスは由音ちゃんをジッと見つめると何かを思い出したような表情で小さく言葉を漏らした。
「似てる……」
 その小さな言葉は近くにいる私にだけしか聞こえなかったのか、由音ちゃんは何事もなかったかのように応接間に飾ってある品々を眺めていた。
「似てるって、何が?」
 私の言葉に何故か驚いたアイシスは取り繕うように話を変えた。
「スガエ、でしたね。スガエはああいうことに慣れているのですか?」
 あらら、いきなり呼び捨てか……って思ったけどそう言えば私も初めから呼び捨てだったなぁ。アイシスの中ではそれが当たり前なのかな。
「ああいうこととは?」
「アケミのことです。あの様な一方の絶対的優勢下における交渉は得意なのですか?」
「いえ、初めてでしたけど」
 初めてが朱水と言うのは災難だっただろうに。
「そうですか。もし慣れているのでしたらボクに少し御教授願いたかったのですが。院の老人方は権力をちらつかせるので交渉がし辛くてし辛くて」
 口ぶりは可笑しそうにしていたがその目は疲労の様を十分に表わしていた。由音ちゃんはアイシスの言葉に興奮したのか、急に身を乗り出してアイシスに迫った。
「院って魔法院のことっすか?」
「ええ、まあ」
「マジっすか! おお、こんな所で魔法院の関係者に出会えるなんて。感激っす!」
 由音ちゃんはアイシスの手を握ってブンブンと上下に振る。先程までの緊張がまだ残っているのか、力が籠っていて痛そうだった。しかしアイシスは抵抗する事無くされるがままに手を振られ続けている。それにしても由音ちゃんの反応を見る限り、魔法院って所はやっぱり凄い所なんだなぁ。
「そう言えばさっきの朱水の言葉なんだけど、以前は賠償金が何たらって何なの?」
「ああ、それはちょっと自分側からは教えられないっすね」
「……ならボクが一連の言葉の一部をわかり易く教えてあげましょう。アケミが敢えて口にしなかった部分をですね」
 アイシスは悪戯を仕掛けているかの様な無邪気な顔をした後、その表情とはかけ離れた言葉を口から出した。
「詰まるところ、アマヅチがどうにかなった際には組織に乗り込んで皆殺しにしてあげる、とアケミは言いたかったのです」
 アイシスの言葉に由音ちゃんはウンウンと頷いた。
 先程の話しは途轍もなく物騒な話だったんだと、私は再認した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ