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神影の彷徨 作者:ゆちゃあ
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第三話 水鏡 / 5〜中話(2)




 戻ってきた朱水と椒ちゃんを交えて再びの話し合いが始まった。椒ちゃんは私達にお茶を配りながら朱水と由音ちゃんの話にしっかりと耳を傾けているようだ。私と目が合うとぷいっとそっぽを向いてしまうが横目で私を確認しているのが優に分かる。仲良くなれたのはなれたが完全に彼女の心のそばには置かせてもらえてないのかもしれない。もうちょっと私から歩み寄らなければいけないのかもね。
「なら明日から有の家の近くに移ることが可能なのね?」
「はい。一日あれば簡単に引っ越せるっす」
 自信満々な由音ちゃん曰く、削強班は独自の引越業者のようなチームを持つことで、性急な要請に対応できるとのことだ。
「実はもう新しい住居の情報は調査済みっす」
 そう言って鞄から一枚の紙を机に置いた。
「ここなら有君に近づく者の気配はばっちりわかるっす」
 その紙には私の家が含まれている小さな地図が書き写してあった。恐らく赤く塗りつぶしてある所が今言った新居なのだろう。
「ここは毎朝見てるよ。家を出ると直ぐだからね」
「はい。ここならばっちりっす」
 由音ちゃんは得意げに親指を立てる。
「そう、なら貴女は決まりね。問題は……」
 朱水は椒ちゃんを再び見つめ始めた。
「いきなり居候なんて出来ないわよね。どう理由をつけましょうか」
「あ、それは私が何とかするよ。多分大丈夫だから」
「そう? あら、意外と早く話が決まったわね」
 朱水は椒ちゃんが持ってきたアップルパイの一片にフォークを刺して気が抜けた様に言った。
「あ、じゃあ自分、今日はもうお(いとま)しますね。帰ったら早速引越の準備っす」
 勢いよく由音ちゃんは立ち上がりテキパキと身支度を調える。なんだか張り切っていた。余程自分の案が受けいれられて嬉しいらしい。その楽しそうな由音ちゃんを見ているとふと思いつく。
「そうだ、朱水、由音ちゃんも一緒じゃダメかな?」
「はい?」
 私の言葉の意味がわからない由音ちゃんは首を大きく傾げた。
「そうねぇ、それも賑やかになっていいかしら。椒、準備をして頂戴な」
 朱水の言葉に椒ちゃんはお辞儀をして素早く部屋を出て行ってしまった。由音ちゃんの意見を聞かないのは流石と言えるね。一人だけ話の内容が分からないであろう由音ちゃんは困惑した面持ちで朱水と私に交互に目線を配っていた。
「あの、何の話っすか?」
「今日から二日間、貴女がここに泊まるという話しよ」
 朱水がさも当然のように言うもんだから由音ちゃんは口を開けたまま固まってしまった。そりゃそうだ、行き成り過ぎて訳が分からないだろうに。流石にこのまま彼女の頭を捏ね繰り回すのは可哀相に思い欲しがっている答えを渡してあげた。
「実はね私達明後日ピクニックに行くんだけど、良かったら由音ちゃんも一緒に来る?」
「うお、急っすね。まあ、暇ですから良いですけど。でもそれと泊まることに何の関係が?」
 私も今日から泊まることを説明しようとすると廊下で誰かがバタバタと走る音が聞こえ始めた。由音ちゃんの興味もそちらへ向いてしまった。
「全く、あの子は……」
 朱水はその足音で誰かわかったらしく苦笑しながら扉のそばに立った。すると扉が開き、梓ちゃんが椚ちゃんの手を引っ張りながら突入してきた。
「こら、有以外にお客様がいるのだからこういうコトしないの」
 待ち伏せていた朱水は優しく梓ちゃんのおでこを指で弾くと、梓ちゃんはちっとも反省して無さそうに「はーい」と元気一杯に答えた。
 梓ちゃんの腕を引っ張られている椚ちゃんは申し訳なさそうに無言で何度も頭を下げている。以前から思っていたのだけれども、椚ちゃんは他の誰よりも梓ちゃんの保護者みたいな感じだね。一つ上の姉なのに誰よりも姉らしくある。
「椚は良いのよ。どうせ梓が悪いのだから」
「ぶー。御主人様は依怙贔屓(えこひいき)するんですね」
梓ちゃんは不満そうにぶーたれるが、二人を見るとどうしても皆同じ反応を示すだろう。
「あら、でも間違いでないでしょう?」
 朱水の言葉に何も言い返せない梓ちゃんの頭を椚ちゃんは妹を可愛がるような手つきで撫でる。親愛故の優しさがひしと伝わる。
「で、何の用かしら? まあ、聞かなくてもわかりますけどね」
 流石はご主人様だ、彼女達の発言は読めてしまっているらしい。
「そーでした。私達、これから尼土様とお泊まり会するんですね!」
「そうだよ。よろしくね」
 梓ちゃんが私の肯定の言葉を聞くや否や飛びついてきたため、私は梓ちゃんを抱えたまま床に転げ落ちる形となった。元気が良すぎるのも問題なんだねと痛いお尻を撫でながら色んな意味で痛感した。
「それとそこの由音ちゃんも泊まることになったわ。今さっきですけどね」
 その言葉にずっと申し訳なさそうにドア横に立っていた椚ちゃんは駆け出し、由音ちゃんの手をぎゅっと握った。
「よろしくお願いします」
 頬を赤くして椚ちゃんは由音ちゃんにそう迫った。由音ちゃんは椚ちゃんの勢いに困惑した表情を見せる。
「はあ、急ですけどよろしくお願いします」
「はい……」
 由音ちゃんは鼻がくっつく程に近づく椚ちゃんの顔から必死に目をそらせる。そりゃそうだ、いくら可愛い顔でもあそこまで興奮した様に顔を近づけられると恐怖の対象でしかないだろう。
「椚、もうお止めなさい。本当に貴女は時々コミュニケーションが過剰すぎるのが玉に(きず)ね」
 椚ちゃんは朱水に咎められてシュンと縮こまり、応接間の隅に背を丸めて立つ。
 朱水はそれを見届けると手を叩き皆の注目を集めた。
「さあ、これから何をしましょうか。暇よね?」
 はいはーい、と梓ちゃんが、
「遊びましょうよ! 勿論皆でです」
 大声での提案で、それ以外の意見を言えばたちまち跳びついてきそうな勢いだった。
「椒姉様も勿論参加しますよね?」
 いつの間にか戻ってきていた椒ちゃんは突然の名指しにビクリと体を震わすが力強く頷いた。椒ちゃんも楽しみらしい。
「では姉様達を呼んできますね」
 梓ちゃんは勢いよく部屋から飛び出ていってしまった。まだ私達は何をやるかすら聞かされてないので皆お互いの顔を見回すだけで無言のまま時を過ごす。数分経って複数の足音と共に扉が開くと残りの使い魔さん達が現れた。
「あら、梓は?」
 朱水は梓ちゃんが引き連れてくると思っていたため、使い魔さん達の中に梓ちゃんがいないことが気になったみたいだ。
「梓ちゃんは長をお誘いに行きました」
「智爺を? 爺がこう言うのに参加するかしらね?」
 朱水は困ったように言う。槿さんも「一応形だけでも」と苦笑いする。どうやら執事さんは遊びとかに関わることはないみたいだ。そう言えば執事さんと使い魔さん達が話している光景とかあまり見て無い気がするよ。
「所で、梓は何をするって言っていたのかしら?」
「さあ、聞いていませんね」
 槐さんはにこやかに答えた。何だか皆で集まることがとても嬉しい、そんな感じの顔だ。
「お待たせしました!」
 いきなり扉が開き、大きな箱を持った椒ちゃんが入ってきた。あまりに箱が大きいために体の制御がうまくいっていない様だ。
「長は遠慮するって言ってました」
 梓ちゃんは口を尖らせつまらなそうにそう言った。梓ちゃんは執事さんのことも好きなんだな。
「智爺は静かに時を過ごすのが趣味だからしかたないわよ。それより、これからそれをやるの?」
 梓ちゃんの手にはスロットで出た数字の分だけコマを進めて架空の人生を送っていくゲームの箱があった。その大きさは梓ちゃんが一生懸命持っても床ギリギリをかすめるほどの大きさだった。こんな大きい物は今まで見たこと無いや。特注なのかな?
「有は私とペアになる? それとも椒となる?」
「ん? どういうコト?」
「流石に十人では多いでしょう? だからペア分けするのよ」
 ああ、そうか。今この部屋には私と朱水、アイシスと由音ちゃん、それと使い魔さん達六人の計十人いる。これならペアを組んでやった方が面白いね。こういうゲームはプレイヤーが少なすぎても多すぎても面白さが減少してしまう物だもんね。
 そう考えているとどことなく居辛そうにしている由音ちゃんの姿が目に映った。
「う〜ん、今回は由音ちゃんと組むよ」
 朱水は私の選択に始め意外と言いたげな顔をしたが、私の思惑が分かったのだろう、笑いながら私の頬を優しく抓った。
「少し嫉妬したわ。優しいのね」
 その後、自然にペアが決まっていった。どうやら大体こういう時の組み合わせは決まっている様だった。結果として私と由音ちゃんのペア、朱水とアイシスのペア、槐さんと椒ちゃんのペア、槿さんと梧さんのペア、椚ちゃんと梓ちゃんのペアとなった。
「有君、お願いしまっす」
 少しは見知った私と組めたことで気が落ち着いたのだろう、由音ちゃんは私の腕に抱きつく格好でスロットを回すよう催促してきた。その楽しそうな顔を見られた事は凄く嬉しいんだけれども、さっきから椒ちゃんの凍えるような視線が怖いんだわさ。

 結果、朱水とアイシスのチームの圧勝でゲームは終わった。朱水もアイシスも狙ったかのようなマスにコマを進めていた。二人ともかなりの強運の持ち主なんだね。

 そして私達は梧さんと梓ちゃんが夕食を作るために抜けるまで楽しいひと時を過ごした。二人が抜ける際に椒ちゃんが急に立ち上がり自分も今日は厨房に立つと高らかに宣言した。
「だったら折角だから椒は有に料理を教えてもらいなさい」
 朱水は私にアイコンタクトを送ってくる。そうだね、丁度いい機会だ。私は強く頷き返した。勿論事前にそういう話があったなど分からないようにする。突発的な朱水の気まぐれだと思えば椒ちゃんも受け入れると思うんだ。
「そうだね。椒ちゃんには作ってもらってばかりだから恩返ししなきゃね」
 椒ちゃんはぶつぶつ文句を呟きながらも「御主人様のご命令ですから」と言って私達三人の後をしっかり付いてきた。






Sepia

「おめでとうございます」
 その人は私の前に立って満面の笑顔と共にそう言った。
「救い出された方達の中で貴方だけが陽性でした」
 陽性と言う所でその人は拍手をした。
「それもかなり有望な」
 その人は私の事はお構いなしとばかりに捲し立てる。
「貴方は必ずや優遇されるでしょう」
「まだ入るとは言ってませんが?」
「おや失敬。しかし貴方の望みに近づくかも知れませんよ?」
 望み? 私は誰にもそんなことは話した覚えはない。
「言わなくて結構ですよ。でも貴方がしたいことは分かっているつもりですが」
 その人は私の手を取ってこう呟いた。


「力があれば……できますよ?」
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