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第二話 『ニーナ・クリーステル』

※※※   ※※※   ※※※   ※※※



 わたしが死を覚悟したとき──


 周りが紫色の光に満たされた。


 これはお爺さまの魔法。時空転送の魔法だ。


 助かる──わたしたち、助かるの?


 顔を上げて、お爺さまを見ようとしたことまでは覚えている。



※※※   ※※※   ※※※   ※※※



 頭が痛い………。ガンガンする。どうしたんだ。ヤマゲンのせいか?


 そういえば今朝、ヤマゲンにボディープレスくらったっけ。いつもあいつはほんとに。後先考えないやつだ。


《 そ のひとは あなたの なに? 》


 ん、あ? ヤマゲンか? 同級生だ。知り合って間もないが、けっこう馴れ馴れしいやつで、毎日のように絡んでくる。


《 いや なの? 》


 別に嫌じゃないけど、あいつ、いつも無茶やって、後で自分自身の行為を反省して落ち込んでるんだ。見てると、何故だがイライラする。


《 どう して? 》


 いや、自分でもわからないんだけど。落ち込んでいるあいつを見ると、居心地が悪いんだ。


《 ふーん 》


 ふーんってなんだよ。


《 そ のひとに いつもどおりに あかるく いて ほしい のね 》


 え? そうなの? いや、そうか。そうかもな。


《 なにも してやれない どう したら いい のか わからない から いや なんだ 》


 うーん。そうなのかな。


《 そうよ 》


 なんでわかるんだ?そんなこと。


《 だって わたし こころ の なか みえる ちから ある 》


 心の中が見える力? なんだそれ? おまえ誰だ?


《 わた し は ニーナ・・・  ニーナ・クリーステル 》


 ニーナ・クリーステル?


《 はい アルカー・エクサーラおうこく だいいちおうじょ です 》


 えっと……なに? 夢なの? なんなの? 頭打っておかしくなったの? なに? アルカー・エクサーラ王国って。聞いたことねーよ。それに王女とか。

 あはは……RPGのやりすぎかな。そんなにやっているつもりはないんだけど。


《 いえ あなた は せいじょう です 》


 早く目を覚まさないとな。てか、なんで寝てるんだ?


《 すみません わたしが あなたに ぶつかった せい です 》


 ぶつかった?


《 わたしが ここに とばされて あなたに ぶつかりました 》


 えっと・・・

 

《 わたしのしたじき に なって あたまを うたれた ようです 》


 下敷き?


 ズキンッ!


 急激な頭痛に襲われた。

 何かを思い出そうとしたときに、記憶喪失のシーンのときによくある、あの頭痛なのか? 実際に自分が体験するとは思ったことなかったけど。


 何かが降って来たんだ。なんで思い出せないんだろう?


《 あ それ は わたしが けしました 》


 消した? え? なんで?


《 みられたくないもの でしたから 》


 観られたくないものってなに?


《 …… 》


 ん?


《 ゆっくり と めを あけていきます 》


 すっと目が開くと、陽光が眩しかった。

 しばらく目を瞬いていると、逆光の中に人の顔らしきシルエットが浮かび上がった。

 視線の先には金髪の少女がすぐ近くで俺を見降ろしている。陽光に目が慣れてくると、その顔立ちがうっすらと見えてきた。目は碧くすごく綺麗だ。外国人? 顔立ちから推測するに、同い年ぐらいに見える。

 状況から察するに、これは膝枕というやつか。

 その子の顔の前にある、2つの膨らみは大きかった。


 これはこのまま堪能したい気持ちもありながら、恥ずかしいのですぐに起きたい気持ちもある。この2つの感情の間で葛藤している間に、頭を膝の上からコンクリートの上に丁寧に降ろされた。


 仕方がないので起きようとしたら、ズキンっ!とまた、頭痛がした。


《 しばらくは ゆっくり うごいたほうが いい です 》


 おそらく目の前の女の子の言葉なんだろうけど、耳ではなくこころに直接語られているように感じた。


《 はい そのとおりです あなたの こころに かたっています 》


 合ってたようだ。あ、いや。やっぱり頭打って幻聴が聞こえているのかもしれない。その可能性は捨てられない。


《 げんちょう では ありません 》


 目の前の女の子は、真剣な表情でこちらを見つめていた。口は動かさずに。


《 このせかいの ことばは まだ はなせません 》


 彼女は思案しているような感じで、恐る恐る伝えてきた。


《 あなたの きおく から じょうほうを いただきながら いしの そつう を はかって います 》


 なんか難しい話になってきた。俺はこんな難しいことは、わからない。だからたぶん、これは夢ではなく現実なんだろう。自分で創りだした夢が、自分の理解を超えることはないと、思うから。


《 わたしは ことばを つたえているのでは ありません 》


 彼女は、顔を近づけて


《 わたしは おもいを あなたの こころに つたえています 》


 やっぱり、さっぱりわからない。一瞬告白かと勘違いしそうになった。が、どう考えても告白の文脈じゃない。それに、いきなり合ったばっかりの外国人の女の子に、俺が告白されるなんてことは、到底有り得ない。


《 はい 》


 肯定された……


 や、まあ、そうだろうけど……そんなズバッと言わなくても……


 頭痛がだいぶ収まったので、立ち上がろうとすると、この女の子と手を繋いでいることに気づいた。

 いままでずっと手を繋いでいたのか? 恥ずかしくなってとっさに繋いでいた手を離す。


 と、慌てて彼女は手を強引に繋ぎなおした。


 え? なに? なんなの? もしかして?


《 ちがいます 》


 否定された……


《 しんたいに ふれてないと この コミュニケーション が せいりつ しません 》


 どうもそういうことらしい。つまり、身体に触れていれば、口で喋らなくても意志が疎通できるということなのだ。


 いま起きている事柄は、現実なんだと認識しようと思う。まあ、幻覚でもいいんだけどね。それはそれで面白そうだし。


 そういえば、いま何時だ?! やべ! 確か、昼休みだったけ? どのぐらい時間経ったのさ?


 腕時計をさっと見る。午後の授業はすでに始まって、二十分ぐらい過ぎていた。


「ごめん。授業始まってるし、もう行くわ。」


 さくっと別れを告げて立ち去ろうとしたが、彼女はその手を離さず付いてきた。

 

 えっと、こういう場合はどうすれば? とりあえず本人に聞いてみよう。そうしよう。


「えっと、俺に何か用ですか?」


 うーん。なんか場違いのセリフのような、すごく突き放したような、すごく冷たいような言い方に聞こえてしまいそうな。ちょっと自分の発言が不安になったので、彼女の様子を窺った。


 彼女のその顔は疲労によってひどくやつれているように見え、碧い瞳は恐れと怯えの色をして震えていた。


 そして、その掴んだ腕をギュッと握りしめ………


 声を押し殺して泣き始めた。


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