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番外933 ホウ国の都へ

「この武器は?」

「ああ、それは御守り刀というものですな」

「子供の誕生等の折に御守りや魔除けとして送るという風習があるのです。先日依頼を受けて私達が浄化の力を込めたものですね」


 鍛冶場で作られた武器の中で気になるものがあったので尋ねてみると、刀匠とユラからはそんな返答があった。御守り刀、か。鞘から抜いてみれば清浄な魔力を感じられて……御守りとしてかなり強力な物だろうと思う。というか、短刀としても良い出来のように見えるが。


「子供が育つ事を願って、ですか。良い風習ですね」


 俺達の子供が生まれた時に備えて一式注文するというのも有りかも知れない。そんな事を考えていると、刀匠が少し思案してから言った。


「その一振りは――そうですな。テオドール公にお譲りしましょう」

「こんな貴重な物を……貰ってもいいのですか?」

「良いものを見せて頂いたお礼でもありますが……西国でもその御守り刀の評判が広がれば、という思惑もありますな」


 刀匠はそう言って少し冗談めかして笑う。なるほどな……。仕事にも繋がるからというわけだ。

 というか……これだけの魔力を持っているなら、性質としても冥府に向かった際にも有効に働く場面もありそうだ。武器として見た場合の造りもしっかりしているし、良いタイミングでの申し出というか何というか。


「近々、御守りが必要そうな場所に赴く予定なのです。かなり有難いお話かも知れません」

「ほう。それは何よりです」


 俺の言葉に、刀匠は表情を綻ばせていた。お礼という事でこちらからも何か……西国の武器を渡す事にしよう。そんな考えを伝えると刀匠は「それは楽しみです」と笑っていた。




 そうして俺達は鍛冶場を後にする。観光なので風光明媚な場所も見ておきたいという事で都の外れにタダクニが案内してくれた。


「祭事に使う道具が収められている施設でして。本来なら関係者以外立ち入り禁止ではあるのですが……。ヨウキ陛下はこの時期なら是非にと」

「それは――何というか楽しみですね」


 しかし祭具の保管庫が風光明媚とはどういう事なのか。

 色々疑問はあるが到着するまで上空から施設が見えてしまわないようにと、リンドブルムは護衛と道案内の面々の誘導に合わせるようにして、途中から低高度で道の上を進んでいくように大型フロートポッドを牽引する。

 やがて都の外れにある小さな山というか、高台の頂上へと向かっているのがはっきりしてくる。整備された石造りの階段を登っていくと――やがて高台の頂上にある施設の門が視界に入ってきた。


 かなり大きな武家屋敷といった印象だ。祭具を色々収めているとの事で、陰陽寮の者達が管理しているらしいが。

 俺達の到着を待ってくれていたのだろう。近付くと門が開かれて施設の面々が顔を見せる。フロートポッドを降りて案内を受け、みんなで門を潜ると――そこにその光景が広がっていた。


「――見事なものね。わたくしは嫌いではないわよ」

「庭園の見た目が映えるように整えたのですね……。壮観です」


 ローズマリーが感心したように言うと、エレナも感動からか溜息にも似た声を漏らす。みんなもそれは同様のようで、目の前の光景に目を奪われているらしかった。


「池にも葉が映ってて……すごいね」

「……ほんとに綺麗」


 ユイが言うとリヴェイラもその光景を食い入るように見ながらこくこくと頷いていた。

 門の内側は広々としたヒタカ風の庭園が整えてあった。

 そこに植えてある木々は全て楓で……高台周辺は冬が近づいている光景なのに、敷地内ではまだ紅葉を見る事ができた。


 目の覚めるような黄や赤に色付いた楓が、何とも美しい。庭園には人工池もあるが、鏡のような水面に庭園の風景が映りこんでいて、そうした光景もまた見事だった。


「ふふ、綺麗ね、カイ」

「ああ。ヒタカの庭園も風流で良いね」


 ホウ国の面々も庭園の中の様子を見て表情を綻ばせている。シュンカイ帝とセイラン王妃が寄り添い、それを見てリン王女が微笑む。


「秋の実りに感謝を捧げる為の祭具も収められているのですが……その影響か、この敷地内では本来より植物の保ちが良くなるわけですな」

「何代か前の施設管理者が庭園を今の形に整えたそうです。秋頃に祭具が力を発揮するので、紅葉が長持ちしてさぞ美しくなるだろうと語ったと」


 タダクニの言葉をユラが補足するように言った。


「なるほど……。確かに敷地の外では紅葉ももう終わっていましたね」


 そこにあるだけで植物に影響を与える祭具というわけだ。敷地の中は確かに……清浄な魔力が満ちている。

 ヨウキ帝達も秋頃になるとこの施設を訪れたりと、行楽に来たりするらしい。

 そんなわけで庭園に面した座敷でタダクニが手ずからお茶を立ててくれた。茶菓子も用意されて……そこに腰を落ち着けて庭園を眺める。時折ししおどしの小気味よい音が響いて、クラウディアが楽しそうにほう、と息をつく。


「落ち着くわね。良い場所だわ」

「ん。いい感じ」


 と、シーラも耳と尻尾を動かしながら頷いていた。

 縁側の陽当たりの良い場所にラヴィーネやアルファ、ベリウスが寝そべったり、祭具保管施設の職員達がティールやコルリス達を見に来て撫でたりして……中々まったりする平和な光景だな。




 そうして暫くの間、庭園を見たりお茶と茶菓子を楽しんだりしてから、俺達は都の中心部へと戻った。美しい庭園を見ながらお茶を飲んで、中々リラックスさせてもらえたな。


「楽しんで貰えたかな?」


 御所に戻るとヨウキ帝が笑顔で迎えてくれる。


「有意義な時間を過ごさせてもらいました。庭園も素晴らしかったです」

「ふふ。それは何よりだ」


 ヨウキ帝は満足そうに頷く。というわけでここからはまたヨウキ帝も加わり、みんなでホウ国に移動となるわけだ。ヨウキ帝もホウ国に向かう前に、どうしても片付けておかないといけない仕事があったらしいが、それも無事済んだとの事である。


 というわけでみんなと共に転移門を潜る。一旦タームウィルズの転移港を経由してホウ国へと向かうと、カヨウやゴリョウといったホウ国で知り合った面々が俺達の到着を迎えてくれた。カヨウはガクスイに仕えていた女兵士、ゴリョウは諜報部隊の出身の人物だな。

 カヨウ達は俺達とヨウキ帝達に丁寧に挨拶をしてくる。


「お久しぶりです、テオドール公」

「ああ。みんな元気そうで良かった」


 ここに顔を見せているみんなは、今は都で働いているとの事だ。コウギョクも俺達の訪問に合わせてホウ国に戻っており料理を用意してくれているとのことであるが。


 というか……麒麟も一緒に出迎えにやってきているな。シュンカイ帝達が俺達と共に姿を見せると、満足そうに頷いて隣に付き添う。笑顔のリン王女が鬣を撫でると軽く喉を鳴らして応じる麒麟である。

 ともあれ、初めて会う面々という事でユイとオウギを俺から軽く紹介する。


「この子はユイ。こっちはユイの使い魔のオウギだね」

「初めまして……!」


 ユイは俺の記憶で彼らの事を知っているので、にこにこと嬉しそうに挨拶と自己紹介をして、そんな明るい挨拶にホウ国の面々も笑顔で応じていた。


 転移門施設から、まずは王宮へと移動する。宮中では文官や女官達が俺達に挨拶をして迎えてくれた。みんな表情も柔らかいというか、ショウエンが支配していた時のような緊張感も大分薄れているように思う。


 さて。ではフロートポッドに乗り込んで、都の様子も見てくるとしよう。以前から復興も大分進んで活気も戻ってきているそうなので見て回るのが楽しみだな。

明けましておめでとうございます!

昨年中は大変お世話になりました。ここまで続けてこられたのも皆様の応援のお陰です!

今年も頑張りますのでよろしくお願い致します!

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