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番外680 女王と民と

 パルテニアラに在りし日のエルベルーレの広場の幻影や建築様式を見せてもらい、それに従って広場を修復しようと考えていたのだが、パルテニアラにとってこの都の風景というのは辛い記憶であったりしないのだろうか?


「修復にあたる前に……この街をどう思っていらっしゃるのですか? 辛い記憶であったりするのでしょうか?」


 そう尋ねてみるとパルテニアラは俺の言いたい事を理解したのか、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。


「いや、そんな事は無いな。だが記憶というのなら、この広場には思い出がある」


 そう言って、微笑みを浮かべて目を閉じるパルテニアラ。


「魔界に来た当時は妾達も民もかなり混乱していてな。この広場で演説をして、妾がお前達を守ると言って落ち着かせた事があった」

「そんな事があったのですか……」


 その言葉に、グレイスも表情を綻ばせる。


「うむ。口に出して約束してしまった以上はと、妾も腹を括ったものだよ。そのまま防衛や探索に奔走し……結局、王に逆らい打倒するところまでいってしまったのだから、分からぬものよな」


 パルテニアラは剛毅というか何というか。有言実行してしまうあたり、ベシュメルクで始祖の女王と慕われる理由も分かるというものだ。


「では、寧ろ綺麗に修復した方が良さそうですね」

「うむ。その方が嬉しいな」


 では――気合を入れさせてもらおう。みんなでやることを決め、手分けして行動を開始する。

 まず木魔法で石畳の隙間から生えた雑草や上に被った苔を除ける。

 スキャンをかけるように魔力を放射して破損状況を確認し、それらの情報をウィズと共に分析。砕けた破片を組み合わせて元の形に修復していくという……以前グランティオス王国で国母の像を修復した時と同じような方法だ。


 国母の像ほど精巧さを求められるわけでは無いので修復のレベルも程々のところに留めるが、薄く埃を被ってあちこち欠けていた石畳も綺麗なものになったから効果としては十分だろう。


 広場が綺麗になってくると、仔ベヒモスは「すごい!」と目を輝かせ、親ベヒモスはのんびり寝そべりながら「器用に魔力を使うものだ」と感心したような声を上げていた。


 端から綺麗に修繕しつつ、同時に石畳の下まで構造強化でしっかりと地面を固めて、シリウス号に積んである資材を使って飛行船の土台を構築する。


「アルファ。シリウス号を降ろしてもらえるかな」


 と言うと、アルファも心得ているというように土台の上にシリウス号を停泊させる。


「セラフィナ、どうかな?」

「うんっ。大丈夫だと思うよ」


 甲板の縁から顔を覗かせてセラフィナが笑って手を振ってくる。家妖精のセラフィナとしては広場の安全性はやや専門外だが、シリウス号はみんなの家のようなものという事で能力を発揮できるらしい。停泊させた上で安全という事は土台も安全というわけだ。


「そう。それらの資材を、あの辺に積んでおきなさい」


 運搬用ゴーレム達がローズマリーの指示に従って色々と資材を降ろしてくれる。それを使って広場の近くにエルベルーレ風の建築様式に合わせた拠点を造っていけばいい。パルテニアラに見せてもらったエルベルーレ風の屋敷を土魔法の模型にしてやれば、後はそれを元に実物を造るだけである。


「ああ。これはまた、随分と広場が綺麗になったわね」

「外壁と城壁回りの準備は出来たわ」


 そこにクラウディアとステファニアが広場に戻ってくる。護衛役でもあるピエトロの分身やアピラシアや働き蜂達の手を借りて、魔石の粉末を壁に沿って埋めてきたわけだ。


「では、後は私達が」

「うむ。妾達は外壁と城壁の術式の修繕に向かうとしよう」

「それじゃ、今度は私達が護衛につくわね」

「ん。行ってくる」


 と、エレナが微笑みを浮かべ、パルテニアラもエレナに同行する。イルムヒルトがにっこり微笑んで、シーラもこちらに向かって手を振り、エレナ達と一緒に広場を後にするのであった。


 一方で、ヴェリト達の様子はどうかと言えば――。バロールの浮かべる魔法の明かりと共に採掘用の道具を手に階段を降りて行った。パルテニアラによれば城の地下には元々牢獄と上水路といった施設があったそうだが……都市部ごと魔界に飲み込まれた折に水路は平常通りに機能しなくなってしまったそうだ。


 流れ込んでくるはずの水が寸断されてしまったので新しい水の確保はできなくなったそうだが、地下に溜め込まれていた清浄な水そのものは魔界に対応する為の初期段階で多いに役立ったとの事である。


 ヴェリト達が降りて行ったのはそんな地下水路側に続く階段で――水が枯渇した時点で使われなくなっていた区画、との事だ。

 飲み水に使われる上水を溜め込む場所なので、元々は簡単に立ち入れないように地下へと繋がる扉もきっちりと閉ざされていたそうだが……長い年月と共に扉もすっかり朽ち果て、簡単に出入りできるようだ。


 通路があちこち崩れており、安全とは言い難い環境だな。バロールに同行してもらって正解だったと思う。


「言葉は届いているんだったな。改めて言うが……助かった。感謝している」


 ヴェリトがバロールを通してお礼の言葉を伝えてくれる。俺からの返答を示すように飛んでいるバロールがヴェリト達に向き直り、目蓋を閉じるようにしてお辞儀をすると、ディアボロス族の少女――オレリエッタが「バロールだっけ? 遠隔で術が使えるなんて、可愛い姿をしてるのに能力は凄いのね」と微笑みを浮かべていた。ディアボロス族の感性ではバロールは可愛い姿と捉えられるようで。


 ヴェリト達もどうやら心理的な余裕を取り戻してきたらしく、バロールを肩に乗せて撫でるオレリエッタを見て微笑みを浮かべていた。

 そんな調子で地下通路を進んで行くと開けた場所に出る。水を溜めておくための大きな穴が開いているが、ヴェリト達の目的はそこではなく、かつての水路であったその奥という事になる。


 水源に続いていたのであろう地下水路を進むと――そこに魔石の鉱床があった。崩れた壁面や通路から大小様々な虹色の結晶化した魔石が飛び出している。水路と魔界の地層との接合点というところか。


「さて……。それじゃ始めるか」


 と、採掘用のタガネとハンマーを手に各々作業を開始するディアボロス族の4人である。バロールとしてはやや手持ち無沙汰になるので、折角なので木魔法で木枠を造ったり、採掘と関係のない場所に構造強化をかけて通路を補強する事で崩落の危険性を軽減したり、運搬用の簡単な猫車を構築したりといった作業を行う。


「何というか……至れり尽くせりだな」

「補強してもらえると安心感があるな。助かるよ」


 と、ヴェリト達はそれを見て驚いた様子だったが礼を言ってくれた。

 まあ、例え崩落してもバロールが一緒なら4人を守れるだろうとは思うが、補強してあると視覚的にも安心ではあるだろうな。


 ヴェリト達が丁寧に採掘した魔石は――鉱床から離れると虹色の輝きを失う。魔石が活性化していたのは鉱床と繋がっていて、生きて(・・・)いたからなのだろう。地脈から流れ込む魔力を取り込んで成長していたのが、先程の淡い虹色の輝きとして表れていたわけだ。


 採掘された魔石自体は――割と癖のない比較的良質な魔石といった雰囲気だった。


「採掘に来てみたら癖のない鉱床だったから、大当たりだなって話をしていたんだ」


 恐らく魔石鉱床は、鉱床ごとの性質によって均質化された魔石が入手できるのだろう。その点、癖がなくて用途を限定しないここの魔石は需要が高いというわけだ。


 面白いな。魔石が自然に鉱床や鉱脈を形成して成長するというのは……。ルーンガルドでは確認されていないし、パルテニアラも知らなかった情報だ。魔力の濃い魔界が年月を重ねたからこそのものなのだろう。

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