番外664 旅立ちと帰郷と
レドゲニオス達が言うには隠れ里防衛戦に参加した他の面々にも贈り物を考えているとの事で、魔法生物組は「楽しみにしている」といって核を明滅させたり笑顔になったりと、上機嫌な様子であった。
そうして楽士達が楽しげな調子の音楽を奏で始め、和やかな雰囲気のまま食事の時間となった。
「宮廷楽士の皆……演奏できる曲の雰囲気が随分と増えているらしいわね。この曲もセイレーンの曲っぽい雰囲気があるわ」
曲を耳にしたステファニアが笑みを浮かべる。
「色々な音楽や新しい楽器に触れて、楽士達の士気も随分上がっていてね。色々と新しい物を取り入れていると聞いたよ」
と、ジョサイア王子がステファニアの言葉に応じる。
王城に魔法楽器も献上しているが、メルヴィン王の話によれば、宮廷楽士達はしっかりそれらに習熟し、使いこなし始めているとの事だ。
魔法楽器の新しい音色もそうだが、迷宮村やセイレーン、ハーピー達の音楽やBFOの曲が楽士達にかなりの衝撃を与えたとも聞いている。創作意欲や演奏技術へのモチベーションもかなり上がっているとの事で……まあ良い事なのではないだろうか。
食事にしても俺が作った物を取り入れたりしてくれているようだしな。
「ん。美味」
タルタルソースのかかったエビフライを食べて満足そうなシーラである。今回の送別会は海の民が多いという事で魚介類が多めなようだから、シーラとしては役得なのではないだろうか。
ヴィアムスの感覚器でも王城の料理は美味に感じるようで、食事をとるとスレイブユニットも笑顔になっていた。
隠れ里の面々にとっては音楽も食事もまだまだ新鮮な様子である。みんな楽しんでくれているようで何よりだな。
王城での食事が済んだら今度は境界劇場でイルムヒルト達の公演を楽しむ。
イルムヒルト達の演奏は既に耳にしている隠れ里の面々であるが、ドミニクやユスティアの歌声や演奏、シーラやシリルのソロであるとか、劇場の舞台装置による演出が加わるとやはり衝撃が大きいようで。皆一様に目を丸くしたり舞台に見入ったりしていた。
「あたし達からもヴィアムス君の門出を祝して歌を送るね!」
「旅立ちの歌だから、気に入って貰えたら嬉しいわ」
と、舞台の上から楽しそうにドミニクとユスティアが言って、冒険者に人気のある旅の歌を演奏する。期待を胸に旅に出て冒険を経て色んな人と出会い、絆を結ぶ。そんな叙述的な内容の歌だ。
ヴィアムスはドミニク達の言葉に驚いたような表情をして……大きな本体を軽くリズムに乗せて動かしながら、核を明滅させていたりした。
そうして何度かのアンコールも起きて賑やかな時間は過ぎていく。
この後は火精温泉でのんびりした時間を過ごしたり、幻影劇場に足を運んだりといった具合だ。それらが終わってもフォレスタニア城で、夜更けまで共に過ごす予定である。ヴィアムスにも隠れ里の面々にも楽しんで貰えたら嬉しいのだが。
流れるプールではヴィアムスは背中に深みの魚人族や隠れ里の子供達を乗せて……軽く浮かぶようにして一緒に遊んだりしていた。本体は金属の身体なので勢いよく泳いだりはしないが、それでも子供達に楽しんで貰えるように、という事だろう。
身体をぶつけないように軽くマジックシールドを展開したりして、色々配慮してくれているようで。
「格好いい」と喜んでくれる子供達を順番に乗せていたりして、ヴィアムス自身も楽しそうな様子だ。
火精温泉での入浴やプール、スライダーも隠れ里の面々には新鮮に受け止めて貰えたらしい。入浴に関しては大分オズグリーヴも気に入っている様子であった。
「これは良いですな……。温泉がこれほど良いものとは」
と、心地良さそうに目を閉じて頷いている姿が印象的だった。
火精温泉で暫く過ごして幻影劇場へ。アンゼルフ王の話についてはヴィアムスも好きだと言っていた。あちこち旅をして仲間達を増やし、そうして国元に戻ってくる。そうした側面もあるので送別会という事もあり、演出よりストーリーに思うところが多かったようだ。
初めて見る隠れ里の面々はと言えば、こちらも一気に引き込まれたようで、作った身としては鑑賞して喜んで貰えているのは嬉しく思う。
幻影劇の興奮も冷めやらない隠れ里の面々……。皆を連れてフォレスタニア城のサロンへ向かい、談笑したりチェスやビリヤードに興じる。大きな本体で行儀よく座り、丁寧にチェスの駒を動かす。そんなヴィアムスの様子を見て、みんなも微笑ましそうな表情を浮かべたりして……そうして送別会は賑やかな雰囲気のまま、夜遅くまで続いたのであった。
明けて一日――。送別会も終わってヴィアムスは予定通り任務に就くという事で、転移港から深みの魚人族と共に集落へ向かう。
それをみんなで見送りに行くという具合だ。まあ、魔界探索も近付いているという事もあってスレイブユニットはまだフォレスタニアに残るのだが、それでも本体は基本的に深みの魚人族の集落で過ごすことになるからな。
本体と別れる前に――ヴィアムスの手を取って、十分な魔力補給を行う。
「ああ。やはりマスターの魔力を貰うと活力が湧くな」
「ふっふ。ヴィアムス殿の本体と共にタームウィルズを訪れる機会を増やすのも良いかも知れませんな」
「情勢が落ち着いている分には大丈夫かもね」
と、レンフォスの言葉を肯定するとヴィアムスはこっくりと頷き、嬉しそうな反応を見せていた。贈り物の首飾りも装甲の中に仕舞って……旅立ちの準備は万端といったところだ。
「お身体に気を付けてくださいね。治癒魔法ではあまりお役に立てないのが残念ですが」
「まあ、異常を感じたり、装甲が破損した場合は――わたくし達が力になると覚えておきなさい」
アシュレイとローズマリーがそんな風に言うと、ヴィアムスは一礼する。
「承知した。旅立ちに際して心配して貰えるのは……何というか嬉しいものだな」
マルレーンもにこにことした笑みを浮かべて口を開く。
「元気でいてね。私も、応援してるから」
「おお……。これは……気合も入るな」
みんなからも門出を祝う言葉を掛けられ、コルリスやティールといった動物組からはハグされたり。
そうしてこちらに向かって一礼する深みの魚人族達と共にヴィアムスは転移門で集落へと向かって行った。
「自分の門出をスレイブユニットで見送るというのは不思議な物だが……。いや、これはまた……私用の家まで用意してくれたようだ。入口が大きく作られていて……良いな」
と、ヴィアムスのスレイブユニットは本体を通して深みの魚人族の集落を見てそんな風に向こうの様子を教えてくれた。
「それは良かった」
「歓迎の催しをしてくれるらしい。もう少ししたら、あちらの様子に集中するかも知れない」
「了解。その時はフォレスタニア城に連れていくよ」
そう答えるとヴィアムスは頷いて、深みの魚人族の集落の感想を聞かせてくれる。
集落そのものが、ヴィアムスにとっては何やらとても落ち着く雰囲気であるらしい。集落の作りや、環境魔力がそう感じさせるのかも知れないな。
「テンペスタスや瞳からの影響もあるのかも知れないわね」
「そうであるなら……嬉しいな」
クラウディアの言葉に目を閉じるヴィアムスのスレイブユニットである。
そういう意味では門出でもあり、帰郷でもある。深みの魚人族の子供達とも仲良くしていたし、馴染みやすそうなのは良い話だ。本体は大型で戦闘用の姿だが、深みの魚人族は承知で仲良くしてくれているしな。寿命の長い種族だけに、本体とスレイブユニットの、どちらにも親しみを持ってくれるのは良い事だろう。
「私も……公爵家では家族として受け入れられていますから。そうした扱いは嬉しいものです」
ライブラはヴィアムスの様子を見て、嬉しそうな声色で言うのであった。