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番外663 海の守護者と送別会

 そうして――ヴィアムス送別会の日がやってくる。

 予定通り深みの魚人族が訪問してくるので、劇場や温泉を貸し切りにしてみんなでヴィアムスの門出を祝う。その際、まだ劇場や温泉に足を運んでいない隠れ里の面々にも楽しんで貰う、というわけだ。


 丁度良い頃合いを見計らって転移港に足を運んで待っていると、深みの魚人族の集落と繋がっている転移門が輝き、レンフォス達が姿を見せた。女性陣や子供もヴィアムスを歓迎する為にやって来ている。男衆は集落が完全な留守にならないように交代制で留守番をするとの事である。


「おお、皆様。目出度い日に相応しい、良く晴れた日になりましたな」

「こんにちは、レンフォスさん」

「これはレンフォス殿。西方も良い天気だったのかな?」

「ふっふ。あちらの海も穏やかで、良い日和でしたぞ」


 俺やヴィアムスの言葉にレンフォスがにこやかに頷く。ヴィアムスも、感情を示すパーツが嬉しそうに明滅していた。

 今回は送別会という事で本体での参加だ。まあ、肩にスレイブユニットも乗せていて、そちらの表情もにこにこしているので内心は一目瞭然であったりするのだが。


 更にエルドレーネ女王、デメトリオ王とバルフォア侯爵、コンスタンザ女王にネレイド族といった面々も姿を見せた。魔法生物組の先輩後輩にあたるということでライブラもお祝いに来てくれている。


「おお、テオドール」

「元気そうで何よりだ」

「これは陛下。皆様もお元気そうで安心しました」


 エルドレーネ女王達は通信機でタイミングを合わせての転移らしい。西方にヴィアムスが着任するという事で、海の民や西方海洋諸国との友好と平和を願ってヴィアムスに歓迎の意を示しに来たいとの事で連絡を貰っている。


「ヴィアムスの本体は――やはりというか、見るからに頼りになるな」

「しかもやる気に満ち溢れているご様子」


 と、デメトリオ王とコンスタンザ女王。


「海の民の友として、これからよろしく頼むぞ」

「ふふ、少し里は離れていますが、ネレイド族ともよろしくお願いしますね」

「私からもよろしくお願いします。同じ魔法生物。それに任地がフォレスタニアからは離れているという事で、個人的にも応援したいと思っています」

「こちらこそ。こんなにも沢山の人達に歓迎してもらえるというのは――嬉しいな」


 エルドレーネ女王やモルガン、ライブラもヴィアムスと握手を交わす。ヴィアムスのそんな言葉に、王様達も微笑ましそうな様子だ。

 バルフォア侯爵もそんなやり取りにうんうんと頷き、ヴィアムスに歓迎の挨拶をするとローズマリーやヘルフリート王子、カティアにも言葉をかけていた。


「そしてその者達がオズグリーヴ殿や隠れ里の者達か。テオドール公から話は聞いている」

「お初にお目にかかります。隠れ里の長をしておりましたオズグリーヴという者です。これからはテオドール公の家臣として仲間達共々、よろしくお願い致します」


 と、オズグリーヴは丁寧に一礼する。というわけで初対面の顔触れを紹介してから王城セオレムに移動だ。西方海洋諸国の王や海の民の女王や族長が来るという事で、まずは王城で送別会の開会、それからあちこち移動してみんなで過ごす、というわけだ。


 馬車に乗ってセオレムに向かう。練兵場前までやってきて馬車から降りたところで、メルヴィン王やジョサイア王子も姿を見せて出迎えてくれた。


「よくぞ来られた。これだけの顔触れを揃え、海の平穏を守護する者――ヴィアムスの門出を祝える事を、余も嬉しく思う。任務に向かう守護者を見送り、そして互いの親睦と信頼を深める――そんな有意義な時間を過ごそうではないか」


 メルヴィン王がそう挨拶をして、みんなも拍手で応じる。そうして女官達が迎賓館へと案内してくれた。迎賓館のダンスホールにはテーブルと椅子が並べられ、料理の良い香りも漂っていてと、準備も万端なようだ。


 俺達が席に着いたところでダンスホールに次々料理が運ばれてきた。


「さて。では、送別会を始めるとしよう。だが食事の前に――するべき事がある、という話であったな」


 穏やかな表情のメルヴィン王に視線を向けられ俺も頷く。


「そうですね。それじゃあ――ヴィアムス。こっちに来て貰えるかな?」

「何だろうか?」


 ダンスホールの前に出て名前を呼ぶと素直に応じてくれるヴィアムスである。レドゲニオスとイグレット、レンフォスとヴェダルも顔を見合わせ、前に出てきてくれた。


「みんなからヴィアムスに、話したい事があるんだ」


 そう言うとヴィアムスは核をゆっくりと明滅させ、レドゲニオス達に向き直る。


「実は、我らの里で思い出の品も守りたいと言って下さったヴィアムスさんに、お礼をしたいという話が持ち上がりまして……」

「テオドール公にお話を通し、送別会に間に合うようにと用意を進めていたのです」

「お話を聞いて我らも協力しました。海水に強い素材が必要でしたからな」


 レドゲニオスとイグレットが真剣な表情で言うと、レンフォスも穏やかな表情を浮かべた。


「思い出の品を守りたいと……そう言って戦ってくれた貴方に――私達からのお礼です」


 イグレットがそう言って――リボンでラッピングされた箱を差し出す。ヴィアムスはまだ少し状況を掴みかねている様子であったが、核を明滅させ、スレイブユニットの目を瞬かせながら箱を受け取る。


「お礼……開けても良いのだろうか?」

「勿論です」


 と、そんなイグレットの言葉にヴィアムスはリボンを解いて箱を開ける。中から現れたのは首飾りだ。

 青い魔石を中心に、紋様魔術の刻まれた魔物の牙と爪を配置。首飾りの紐はミスリル銀線と水蜘蛛の糸をよりあわせ、水魔法で強化した物だ。首飾りなので海の中では一次装甲の内側に付けてもらう、ということになるだろう。


「おお……。これは……」


 ヴィアムスがそれを大切そうに持ち上げるとみんなから大きな拍手が起こる。


「おめでとうございます、ヴィアムスさん」


 と、グレイス達も微笑みを浮かべて祝福の言葉を口にする。


「一応我らは知っていたが、当日まで知らせない方が喜びも大きくなると思ってな」

「そうですね。ヴィアムスが頑張った結果の絆。先達として誇らしいものです」


 マクスウェルやアルクスからもそんな言葉を受け、ヴィアムスは激しく核を明滅させておずおずと首飾りを装着する。そうやって身に付けると改めて会場にいるみんなから大きな拍手が巻き起こった。

 コルリスやアンバー。ティールやヴィンクルといった面々も楽しそうに手やフリッパーを打ち鳴らし、アステールも雲でサムズアップをしていた。


「せっかくだし実用性のある魔道具にしたいって思ってね。何が良いか色々考えたんだ」

「境界公に術式を書き付けて貰い、私が術式を魔石に刻んだ。里の為に戦ってくれた、その礼だ」

「刻まれてる術は――自分と自分の周囲に迷彩フィールドを展開するものだね。これならヴィアムス自身の身を守る事ができるし、守りたい人が近くにいる時も助ける事ができる。勿論、任務の役にも立つと思う。まあ……海の中では装甲内部に入れておく必要があるかな」


 同時に、魔力を消耗した際、魔道具が未使用なら予備の動力として回す事もできる、という仕掛けも用意している。ちょっとした魔力でも動く事さえできれば魔力変換装甲を利用してリカバリーができる、というわけだ。


「ああ、これは……嬉しいな。とても、とても嬉しい。マスターや……みんなの気持ち、確かに受け取った」


 そう説明するとヴィアムスは何かを感じるように核を明滅させ、首飾りに手を重ねるようにして目を閉じていた。


「私達としては……里の為に戦って下さった方々には同様に何か贈り物を作ってお渡ししたいと考えています、ですがまずは、任務に向かうヴィアムス殿からですね」


 レドゲニオスが言う。何というか、義理堅い事だ。さて、ヴィアムスにも喜んで貰えたようだし、みんなで親睦を深めるという事で、楽しく過ごすとしよう。

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