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番外662 送別会に向けて

 パルテニアラの体験談によれば、魔界での食糧確保については可能ではあるようだ。

 変異が起こった物をただ口にした程度では別に変異しない、というのもパルテニアラ達ベシュメルクの民が過去に確認した事実なので、食糧の現地調達も可能ではあるのだろう。


 とはいえそれは過去の知識が通じれば、の話である。


 環境も年月が経って変化しているだろう。安全な食料を首尾よく見つけられて、満足な量の確保ができるかと言われると難しいだろう。

 というわけで食料品については多めに用意する。シリウス号は食料品を冷凍保存できるから日持ちが良いが、魔界に移動してからの補給の目途がついていない今の段階では保存食の類も多めに積み込み、当面は無補給で行動できるように準備を整えておくべきだ。


 というわけで現在保存食の用意も前から進めている。主に乾物、燻製に発酵食品の類だが……。新たな保存食の開発と備蓄も進めていきたいところだ。これに関しては通常船舶の航行にも役に立つので、準備がてらドロレスにも説明をしておく必要があるだろう。


「乾燥させた――野菜やキノコ……それに果物、ですか」


 箱に詰められたそれらの品を目にするとドロレスは感心したように呟く。

 フォレスタニア城や東区の別邸で作った物だ。シリウス号に詰め込む前に、ドロレスにも見てもらっておく。


「そうです。魔法や天日干し、砂糖を使っての脱水ですね。重量や体積も減るので多めに積み込めるようになる他、野菜や果物の含む栄養がそのまま残る上に果物の方はそのままでも食べやすいので、以前お話した欠乏症の対策になるという面があります」


 野菜やキノコは水で戻して使う必要があるが、ドライフルーツに関してはそのまま食えるので調理の仕方でビタミンが壊れるという事もない。

 果物故に比較的値段が張るという問題はあるが、今が秋口で食糧を確保しやすいというのは幸運だろう。保存も利くので準備期間を長く取ればそれだけ多く備蓄もできるしな。


「箱自体にも紋様魔術を施してあるようですね」

「継続的に内部の乾燥状態を維持する事ができます」

「良くできていますね」


 と、ドロレスが俺の言葉に感心したように頷く。

 密閉容器を開発して数を揃えるよりはローコストだ。シリウス号だけではなく、外洋航行船でもこうした乾燥させた食品は積極的に利用していきたいところである。

 醤油や味噌といった調味料は管理に気を付ければ長期保存が利くし、燻製も味や風味が良いので保存食を多めに積んでも当分の間は食生活が貧しくなる、という事もないだろう。




 そんな調子で執務や巡察等、普段の仕事に加えて、資材、建材の搬入、食料品の加工と備蓄、魔道具の準備といった魔界探索に向けての諸々の準備を進めている内に、ヴィアムスを送別する日取りが近付いてくる。


 深みの魚人族を迎えてヴィアムスの為に送別会を開こうというわけだ。とは言っても魔界探索も控えているので、ヴィアムスの本体は深みの魚人族の集落へ向かうが、スレイブユニットは暫くフォレスタニア側に残る、という事になるのだが。


「――ヴィアムスさんには私達からもお礼したいのです」


 そんな風に申し出てきたのは隠れ里の面々だ。仕事を終えてフォレスタニア城に戻ったところでヴィアムスには内密で話があると切り出された。そんなわけで折を見て城の一角に場所を移して時間を取ったところ、そんな風に切り出されたというわけだ。


「勿論皆さんに感謝していますが、ヴィアムスさんはあの時、私達の思い出の品を守りたいとそう仰って下さいましたから」


 イグレットが真剣な面持ちで言う。なるほどな。ヴィアムスの心意気に報いたいと。


「そういう事なら……送別会に参加して貰えると嬉しいな。元々生活にも慣れてきた頃合いだと思うし、劇場や温泉にも招待をとも思っていたから、深みの魚人族と一緒に貸し切りで、みんな一緒に過ごすっていうのはどうかな?」

「ふふ。それは……楽しそうですね」


 グレイスが微笑むと、レドゲニオス達も顔を見合わせ嬉しそうな様子を見せる。


「それは――楽しみです。ただ、それでは私達からのヴィアムスさんへのお礼という事にはならないので……実は当日までに贈り物を用意して渡したいと、オズグリーヴ様と相談して準備を進めているのです」


 そう言ってレドゲニオス達が見せてくれたのは、魔物の爪と牙と魔石といった品々であった。


「元々里にあった魔物の素材ですな。価値がそこそこあるのと、大して嵩張らないからと持ち出されたものではありますが、守って下さったから残ったとも言えます」


 オズグリーヴがそれらの素材について説明してくれる。


「毛皮がないのは、ヴィアムスが向かうのが海だからかな」

「そうですな。耐水の魔法等を施すにしてもやはり素材によって向き不向きというのはあるでしょうから。その上で……これらの素材を使って作り、贈るならどんな物が良いかと相談したかったのですよ」


 確かに……魔法生物への贈り物となると、どんなものが良いか迷うというのも分かる。オズグリーヴを交えて話をしても結論が出なかったという事だろう。

 コルリスやデュラハン達は揃いのデザインのスカーフやサーコートを装備していたりするが、行先が海という事を考えると衣類を贈るなら水蜘蛛の糸が必要になってくるし、隠れ里の面々が用意した素材をメインにしたいという気持ちも分かる。


「なるほど。けど、そういう事なら俺達も手伝うのは有りだと思うんだ。元々、ヴィアムスを送別するっていう目的なんだし」

「それは確かに」


 レドゲニオス達は真剣な面持ちで頷く。

 合同で何かを作っても隠れ里の面々の気持ちに水を差す、という事にはならないだろう。

 そんなわけでアルバートに通信機で連絡を入れてみると、すぐに乗り気の返事がある。


『ヴィアムス君の送迎会は僕達が開くものでもあるからね。僕達からも海水に強い素材を提供して、一緒に何か作るっていうのは良いんじゃないかな?』


 との事だ。というわけで工房の協力も取り付けられたから……後は何に加工してどんな効果を持たせるかの相談すればいい。


「これで工房にある素材も使えるし、魔道具も作れる。後はここにある素材を主軸にして何か考える、と」

「装飾品の類になりそうな素材だけれど」


 と、クラウディアが言う。そうだな。爪や牙は装飾品として用いても良い。武器にするには……ヴィアムス本体が振るうには耐久力の面で心許ないという印象だが。


「魔石に術式を刻む役は任せてもらいたい」


 と、オズグリーヴが言う。オズグリーヴは隠れ里の結界も構築したしな。魔石の加工に関しては任せておいても問題あるまい。


「ん。装飾品なら首飾りや腕輪とか?」

「海の中で身に付けるなら首飾りは不向きかも知れないわね」


 シーラが首を傾げ、イルムヒルトが思案を巡らす。


「装甲の中にしまっておいてもらうっていう手もあるかな」


 見た感じ牙や爪は質の良いもので、触媒としても使える。紋様魔法を刻んだりして魔石を補強するという使い方もあるだろう。

 その上でヴィアムスに必要になりそうなもの、便利そうなものと考えると……。そうだな。例えば非常用の動力として使える魔力のサブタンクというのが考えられるし、幻術や反射呪法など防御的に使える術式を刻む、というのも有りだ。


 まあ、その辺はまだ少し時間もある事だし、今日皆で相談して決めて着手していく、というのが良いだろう。隠れ里の面々にそう告げると真剣な表情で頷き、こんなのはどうだろうかとグレイス達も交えて、みんなでアイデアを出し合うのであった。

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