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番外654 隠者達と境界都市

 どうやら男湯と女湯では使われていた入浴剤の香りが違うというか、男湯が爽やかな薬草の香りなのに対し、女湯の方は柔らかな花の匂いがほのかに香るものであったようだ。


「ん。男湯の方は違う入浴剤だった?」


 シーラが俺の身体についた入浴剤の匂いに気付くと、みんなの興味を惹いたようで。


「あ、そうですね。違う香りです」

「ふふ。こっちもいい匂いですね」

「ほんとだ。私は……結構この匂い好きかも知れないわ」


 と、グレイス、アシュレイ、イルムヒルトが顔を近付けて匂いを確かめに来る。マルレーンも寝台の上で膝立ちになって俺の所まで来ると、ふんふんと目を閉じて匂いを嗅いだりしてから笑顔で頷いていた。


 むう。みんなから顔を近付けられたり、その上匂いを嗅がれたりと、何となく気恥ずかしい所があるが。

 風呂上がりという事もあり、みんなも夜着に着替えて肌も紅潮していたりして……その辺りも色々と刺激が強いというか何というか。


「薬草を混ぜた香りのようね。ん、ん……。混ぜると印象も変わるのだから、研究しがいのある分野よね」


 ローズマリーが少しだけ匂いを嗅ぎに来てから小さく咳払いをしてそんな風に言う。興味と気恥ずかしさとが半々といった印象であるが。


「薬効の配合はどうだったのかしらね」

「私達の方は重曹と薬草が配合してあったらしいわ。肌に良い感じがするわね」

「ああ、俺達の方も重曹が入ってたよ」


 クラウディアが首を傾げ、ステファニアが笑顔になる。

 重曹の事を話すとみんなに頬や腕を撫でられたりして、肌の手触りを確かめられたりしてしまった。うむ……。何やらみんな楽しそうな様子であるが。

 何というか、隠れ里の面々の接触と魔人化解除、魔物の撃退と撤収作業も上手く行って、みんなも安心したり嬉しく思ったりしているところがあるのだろう。実際俺もそうなのだし。うん。今日はこのまま、みんなとのんびり過ごさせてもらうとしよう。




 そうして……バルトウィッスル城での一夜が明ける。みんなでデボニス大公が用意してくれた朝食をとって、そうして点呼を取ってからシリウス号に乗り込む。

 俺達と一緒に面会場所へ向かった飛竜達も顔を出して、リンドブルムと顔を突き合わせて喉を鳴らし合ったりと、何やらコミュニケーションを取っていた。見送りに来てくれたというわけだ。


 そんな飛竜達の様子を見て、デボニス大公が表情を綻ばせる。


「ふふ。もう道中に大きな問題は起こらないかと思われますが、帰路もお気を付けください」

「ありがとうございます」


 と、デボニス大公に一礼する。


「ご指摘通り、件の魔力溜まり近辺に関してはこちらでも監視と人員の増強をしておきます」

「助かります。問題が生じたり、何か気付いた事があれば連絡を下さい。今回の一件に関わった者としての後始末と思っておりますので」

「こちらこそ助かります。心強いものですな」


 フィリップとも今後についてのやり取りを交わす。この件に関してはベシュメルク側からも同様に、監視と人員の増強をするという旨の返事を貰っている。


「では、魔力溜まりに関してはベシュメルク王国側と情報共有するというのも良いかも知れませんな」

「その事は妾が戻った時に伝えておこう」


 デボニス大公が言うと、パルテニアラが頷いた。

 というわけで、魔力溜まりに関しては念のため暫く経過を見るという事で意見が一致した。魔物全体の規模が縮小し、縄張りの候補地が余るので魔物の渡りは起きにくいと見られるが……魔獣という存在自体がそもそもイレギュラーだったわけだから、暫く継続的に注意を払っておく必要があるだろう。


 そうして、デボニス大公やフィリップ……大公家の面々に見送られて俺達はデボニス大公領を後にしたのであった。




 シリウス号での帰路は特に何か予定があるわけでもなく、高度と速度をそこそこに維持しつつ最短距離を進む。

 空を飛ぶ光景は魔人達にとっては見慣れた物だと思うが、魔人化を解除すればまた印象も変わるだろう。何より隠れ里の子供達は飛行術をまだ覚えていないという者も多いので、艦橋からの風景も楽しんで貰えるだろうと、班ごとに交代で見学してはどうかと提案してみると、里の住民は殊の外喜んでくれた。


「わあ……」

「すごい景色……」


 と、子供達は水晶板モニターを食い入るように見つめて喜びの声を漏らす。

 大人達も風景そのものに色々と感じ入るところがあるようで、感動した面持ちで外の様子を見つめていた。

 オズグリーヴもそんな光景に目を閉じて笑みを浮かべて……和やかな雰囲気のまま帰路の時間が過ぎていく。




 そうして地平線の彼方にセオレムが見えてくる。魔道具のお陰で転落防止に結界を手軽に使えるようになったという事もあり、速度と高度を落としつつ、甲板に出てセオレムを見ても大丈夫と許可を出すと、里の住民達は早速甲板に移動し、セオレムを見て歓声を上げていた。


「噂には聞いていたけれど、すごい物だね」

「これがタームウィルズ……。尊き姫君のお作りになられた都市……」


 レドゲニオスとイグレットも寄り添ってセオレムに目を奪われている様子だ。

 セオレムに関しては隠れ里にも噂は届いていたらしい。とはいえ、本物となるとやはりインパクトが違うようで里の住民達も目を丸くしていたが。


 そうしてシリウス号はゆっくりと造船所を目指して飛んでいく。面会や隠れ里の訪問、魔獣の襲撃に到着予定の頃合い等……諸々の事柄は既に通信機で連絡済みだ。到着したらオズグリーヴと隠れ里の面々は王城で歓迎を受ける事になるだろう。同時に、俺からも報告を行うという事になる。


「――魔物の素材については量が多いって言ったら冒険者ギルドの方から査定に来てくれるってさ。造船所に積荷を降ろしておけば大丈夫そうだ」


 と、甲板の様子を眺めつつ、到着してからのあれこれをみんなに話しておく。魔人化を解除した面々は勿論の事、オズグリーヴ自身も、人里にいる際の封印の呪具を受け入れる事には納得してくれているので、王城への立ち入りについては問題がない。


「歓迎の場には我らも出席しておくのが良いか」

「テオドール公の方針に賛同しているのが明確になりますからね」


 イグナード王とオーレリア女王も顔を見合わせて頷く。というわけで到着してからのあれこれも決まり、そんな話をしている内にシリウス号も造船所の上まで来る。ゆっくりと下降し、静かに土台の上に降りた。


 事前に連絡を入れていたという事もあり、王城からの迎えも既に造船所に来ていた。住民達の人数に合わせて馬車も出してくれているらしい。

 メルヴィン王とジョサイア王子の姿も見える。


「これはメルヴィン陛下、ジョサイア殿下」

「うむ。無事に帰ってきたようで何よりだ」


 タラップを降りて挨拶をすると、メルヴィン王とジョサイア王子が笑みを浮かべて応じてくれる。そんなわけでオズグリーヴを隠れ里の代表ということで紹介する。


「お目にかかり光栄に存じます。私は里の長をしておりましたオズグリーヴと申す者です」


 と、オズグリーヴがメルヴィン王に挨拶をする。


「新天地で力を制限されての暮らしというのは不安もあろうが……余らもまた、テオドールやそなたらの道行きを好ましく思っている。ヴェルドガル王国国王の名において、隠れ里の住民達を歓迎し、また王国の庇護下に置くことを明言しておこう」


 メルヴィン王の言葉にオズグリーヴは一礼して応じる。メルヴィン王とジョサイア王子からの印象も悪くなさそうな雰囲気だな。

 というわけで、隠れ里の住民達は一足先に王城へ向かう。俺達は船から魔物の素材やら物資やらを降ろし、ギルドの人員の到着を待って話を通した後で王城へ向かう、という事になったのであった。

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