表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
617/737

17-幕間.リザの憂鬱

※発売日記念のサプライズ更新です。

「――私ではご主人様の傍らには立てない」


 大砂漠の異界で私は一人呟く。


 アリサとミトが話しているのを聞いてしまった。


 世界中に現れた紫塚は神の手によるモノであり、対神魔法以外の手段で傷つける事ができないらしい。


 私は手に持つ竜槍に視線を落とす。

 ご主人様の振る竜牙剣すらすり抜ける紫塚を、私にどうこうできるはずもない。


 自分の不甲斐なさにほぞを噛んでいると、巨大な黒い影が過ぎった。


『どうした小さき好敵手ともよ』


 豪快に砂を吹き飛ばし、巨大な影が私の近くに降り立つ。

 ご主人様の友である黒竜ヘイロンだ。


『死合うか?』

「いえ、今はその気になれません」

『……珍しい』


 黒竜ヘイロンが長い首を巡らせて、私を正面から見る。


『悩みがあるなら聞いてやろう』

「私は」


 どのように言えばいいのだろう。


「私は欲深い蜥蜴人です」


 私はご主人様の役に立ちたい。

 ご主人様が頼りにしてくれる自分になりたい。


 そのために――。


「神を傷つけうる存在になりたいのです」

『なれば良いではないか?』


 黒竜ヘイロンがこともなげに言う。


「ご主人様の振るう竜牙剣でさえ不可能だったのです。遥かに劣る私では――」

『気合いが足りん』

「――え?」


 黒竜ヘイロンが私を見下ろす。


『気合いが足らんと言っておるのだ』

「気合いで埋められるような溝では――」


 私の言葉を黒竜ヘイロンが遮る。


『我らは成したぞ』


 私は言葉の続きを待つ。


『届かぬ相手に何千年も何万年も挑み続け、その果てに「全てを穿つ・・・・・」牙を作り出した』

「それは永遠の命がある竜だからです」


 励ましてくれる相手に対し、子供のような言い訳が口を衝いて出る。

 それが甘えだと気付いて、私は恥ずかしさに俯いてしまう。


『まったく、竜の牙を用いた武器を得、小さき者でありながら我と互する力を得ながら、その体たらく』


 勢いよく吹き付けられた黒竜の鼻息で、身体が吹き飛びそうだ。


『小さき好敵手ともよ、お前は古竜の婆さんから何を学んだ』


 ――古竜?


「私は古竜様とお会いした事はありませんが?」

『無い? ふむ、あれはクロとだったか?』


 黒竜ヘイロンの瞳が宙を泳ぐ。

 勘違いを追及するよりも気になる事がある。


「教えてください、ご主人様が何を学んだのか」


 ご主人様が古竜に学んだ事を教えてもらう。

 面倒だから嫌だと言いつつ、黒竜ヘイロンは砂から山羊を作って見せてくれた。


「こ、これが原始魔法――」

『そうだ。強烈なオモイ・・・カタチ・・・に変える(いにしえ)の魔法だ』


 それは自分の限界さえ超えるチカラ・・・になる。

 黒竜ヘイロンはそう言いたいようだ。


『瞳に力が戻ったな。抗え、小さき好敵手ともよ。そして限界を超えろ』


 バサリと翼を広げ、謳うように風魔法を詠唱すると、空に舞い上がる。


 私は「気付き」を与えてくれた黒竜ヘイロンに深く頭を下げて謝意を表した。





 そういえば――。


「タマ」

「あい~?」


 足下の影からタマが現れた。


「ポチを呼んできてください」

「あい」


 タマが影に手を突っ込むと、すぐにポチを吊り上げた。

 どうやら、一緒に影の中で遊んでいたようだ。


「呼ばれて飛び出てジャンバラヤ・・・・・・なのです」

「ポチ、質問があります」


 私は天罰事件の時に、アリサの対神魔法以前にザイクーオン神が傷ついていたという話を思い出して、現場にいて目撃したであろうポチに事の詳細を尋ねた。


「イタチ大魔王のリューガ・カクジラインが黄色い巨人を下からばびゅんと吹き飛ばしたのです」


 その余波はポチの持つ神授の聖剣デュランダルの刃を欠けさせ、ファランクスすら貫くほどだったという。


 リューガ・カクジライン――確か、ご主人様との会話にあった兵器の名前だ。

 強大な爆弾で竜の牙を砕いた砕片を撒き散らして如何なる防御も無視してダメージを与えるらしい。

 つまり、竜の牙は使いようによっては神にダメージを与えうる。


 それはリューガ・カクジラインを起動したイタチ大魔王のユニークスキル――神の権能ゆえかもしれない。

 だが、竜や魔王にできた事が、私達にできないはずがない。


「ポチ、タマ、私はこれから修業に行きます。一緒に来ますか?」

「もっちのロンなのです。ポチはもっともっと強くなってご主人様に褒めてもらうのですよ」

「タマも~?」


 私の質問に二人が即答する。


 それに今なら、修業の場所には困らない。


『アリサ、お願いがあります』


 私は通信の魔法道具で呼び出したアリサに、人目に付かない場所にある紫塚へ送ってもらう。


 試金石としてこれ以上ない練習台だ。


 私は竜槍で紫塚を突いてみる。

 予想通り、私の竜槍は紫塚をすり抜けた。


「――今の・・私ではご主人様の傍らには立てない」


 うつむきそうになる顔を上げる。


「でも、必ず、私はそこに辿り着く」


 竜達が一念で自分を変えたように、私達もまた新たな私達を作り出してみせる。


 私は絶対に貫いてみせるという決意を胸に竜槍を突く。


 必ず、ご主人様の傍らに胸を張って立てるように。




【宣伝】


 デスマーチからはじまる異世界狂想曲、書籍版16巻および漫画版8巻が本日 3/9(土)発売です!

 電子版も同時発売予定!


 詳しくは活動報告をご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」33巻が8/8発売予定!
  著者:愛七ひろ
レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025/8/8
ISBN:9784040760513



漫画「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」18巻が発売予定!
  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2024年12月9日
ISBN:978-4040757025



― 新着の感想 ―
ところで、タマが思い込みから実現してスキル化したらしい各種忍術も、原始魔法の分類ではなかろうか?
[一言]  自分の不甲斐なさに臍ほぞを噛んでいると、巨大な黒い影が過ぎった。 蜥蜴人であるリザですが、作者の中の人がさり気なく、卵生ではなく臍があるので胎生だと明言していますね。 手塚治虫の「海のト…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ