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16-42.「司法国家」シェリファード(6)

※2018/4/5 誤字修正しました。


 サトゥーです。正義であれ、悪であれ、欲望なり目的なりを持って行動する人は先が読みやすいと思うのです。無欲な人は行動指針が今ひとつ判りにくいんですよね。





「サガ帝国の――」


 聴衆がざわざわと囁き合う。


「――勇者セイギ」


 そんな聴衆の言葉など届かぬように、勇者セイギは堂々とした足取りで裁判長の前へと歩みでた。

 人々の視線が勇者セイギに集まる。


 淡い青い光を纏い、その足取りは揺らぐ事がない。

 つい最近まで普通の中学生をしていただろうに、なかなか肝の据わった少年だ。


「ただいまー」


 アリサがオレの横にひょこっと現れた。


「お疲れ様、アリサ。タイミングばっちりだったよ」

「まーね。牛歩戦術はなかなか辛かったけど、ご主人様の称賛で報われた気分になるわ」


 アリサに頼んでいたのは、勇者セイギをこのタイミングでここに連れてくる事だ。

 べたりと腕に抱きついたアリサが「えっちなご褒美があっても良いのよ?」とか言っているが、それはいつも通りスルーでいいだろう。


「勇者セイギ殿、どのような異議がおありかな?」


 裁判長が勇者セイギに尋ねる。


「俺には判る――」


 勇者セイギが掌で顔を覆い、指の隙間から人々を見回す。

 その瞳には青い光が宿っていた。


「――お前は悪だ! この中にいる誰よりも真っ黒な悪だ!」


 そして、その手をビシッと音がしそうな勢いで、一人の人物を指さした。


「ちょ、長官が?」


 長官の背後にいたスタリー監察官が驚きの声を漏らす。


 そう、勇者セイギが指し示したのは、中央司法局の長官その人だった。


「公明正大な法の鬼が『悪』?」

「勇者と言っても子供だ。誰かに良からぬ事を吹き込まれたのだろう」


 周りの人達も、長官が悪だとは思っていないようだ。


「私が悪ですと? どのような証拠があって――」

「証拠は俺だ!」


 蒼い光を纏いながら勇者が断言する。


「パリオン様から授けられた『正義心眼しんじつはいつもひとつ』と『邪悪探索わるものはどこだ』が教えてくれている! お前は悪だと! パリオン様の名にかけて、俺は告げる! お前は悪だ!」


 長官の求めたのは物証だと思うけど、勇者セイギはそんな事は関係ないとばかりに、神の名にかけて断言したのだ。

 神が実在する世界で、神によって招かれた勇者の言葉は重い。


 少なくとも、彼が虚偽の言葉を並べていないのは、ここに無数にいる審議官達が証明してくれるだろう。


 でも、それでも、言い逃れしようとする往生際の悪い者もいる。


「物証が無くば――」

『わざわざ架空の組織を作った甲斐がない』


 長官の要求に、別の声が重なる。


「こ、これは長官の声?」

「あ、あれは!」

「長官室だ」


 斜め上方向からの映像が、長官の背後に映し出される。

 この映像は潜入させた賢者鼠達が撮影したモノだ。


 ちょっと画質が悪いのは携帯用撮影機器の限界なので許してほしい。


『この不完全な国を、正義だけの、人族だけの、完全なる国にするには膿を出し切らねばならん。全ての悪を滅ぼす為には――』


 そこで画面内の長官は言葉を止めたので、映像を最初に戻してリピートさせる。

 彼は揺さぶりを掛けてもボロを出さなかったので、賢者鼠達に自白用の香を焚かせて、ようやく先程の映像を撮れたんだけど、自制心が強すぎてそこで独白が終わっちゃったんだよね。


 これだけだと「犯罪組織ドゥヂィ」の名を出していないし、明確な犯罪をしている証拠も無かったので、勇者セイギのユニークスキルや勇者のブランドを利用させてもらったのだ。


「犯罪組織ドゥヂィを作った主犯が長官だったとは……」


 長官の庇護下にあったスタリー監察官が膝をつく。


「どうやら、ウリオン神は全てをご存じだったようだ」


 オレは長官にそう声を掛けながら、「黄金の天秤」を水平にする。


「わ、私は正義の為にやったのだ。不正の蔓延るこの国を、完全な正義の国にする為に……」

「長官」


 独白する長官の前に、副長官が進み出る。


「全ての人が清廉潔白ではないのです」

「そんな事は分かっておる! だから悪を排除し――」

「その悪の基準は?」

「決まっておるではないか! シェリファードの法こそ正義! その法を犯すモノが悪だ!」


 なんだか、めんどくさい会話が始まってしまった。

「黄金の天秤」を使ったインチキで、さっさと長官を有罪にして終わろうとしていたのに、副長官が長官の独善を正そうと頑張り始めてしまった。


 オレの横でアリサが「それは違うでしょ!」とか「うん、まー、そーよね」とか忙しい。

 勇者セイギ君が口を挟まないのは変だと思って振り向くと、真っ赤な包帯のようなモノで口を覆われていた。

 この間の包帯使いの従者さんの仕業のようだ。


「わ、私の正義は間違えていたのか……」

「性急に事を進めれば軋轢が出ます。今日より明日、明日より明後日、そうやって少しずつ正していくしかないのですよ」

「だから、君は――」


 なんだか長官と副長官が見つめ合っている。

 オレとしてはウリオン神のオーダーを満たし終わってそうな感じなので、後はどうでもいいのだが、このままだと上層部不在で国が荒れそうなので最後の映像を流す事にした。


『酒の密造所が摘発された。酒を求める市井の者は多い。このままでは悪徳都市ドドブからの密輸が増え、()の国の影響力が高くなる。しかも我が国に恨みを持つ獣人達が多いドドブだ。密輸酒に何が混入されているかしれたモノではない……。国を守る為に悪に手を染める必要があるとは、皮肉な話だ……』


 先程長官に話していた内容と被るようだが、誰もが野次の一つも飛ばさずに静聴している。


『勇者と「ウリオン神の試練」を受けた伯爵か……他国の者どもに力を借りるのは業腹だが、この国にはもはや自浄作用はない。資料を調べれば、私こそがドゥヂィの首領だと判断してもおかしくない。いっそ、私を告発してくれれば、スタリー監察官が調べた者達を道連れにして、この国の膿を全て白日の下に晒してくれようものを……』


 こっちのセリフは流さなくても良い気がしたのだが、せっかくだし公開してみた。


「ブーパ副長官!」

「あなたこそ国士だ!」


 感きわまったような顔をした人達が副長官を称賛する。

 半分以上の人は演技のようだが、国の行く末の為に副長官が必要だと考えているようなので、オレは口を挟まなかった。


「なんでだ? あいつも悪だぞ?」


 勇者セイギ君が腑に落ちないと言いたげな顔で漏らしたその言葉は、残念ながら誰の耳にも届かなかったようだ。





『――悪は白日の下に暴かれ、不正は正された。我が証を与えよう』


 ウリオン中央神殿の神託の間で、オレは藍色の光に照らされながら、試練完了の言葉を受け取っていた。


>称号「ウリオンの証」を得た。

>称号「ウリオンの認めし者」を得た。

>称号「ウリオンの聖者」を得た。

>称号「ウリオンの使徒」を得た。

>称号「盗聴者」を得た。

>称号「盗撮者」を得た。


 最後の二つは犯罪臭いので止めて下さい。


 ウリオン神との短い交神を終え、意識を神殿へと戻す。

 天から降り注ぐ光の中に、光の粒子が集まり、一つのアイテムに変わる。


 ――メガネ?


 藍色の「藍晶石」という宝石が飾られた金縁のメガネだ。

 一般的なメガネと違って、蔓の部分が無骨で不思議な感じの浮き彫りが施されている。


 AR表示によると、この「黄金の眼鏡」は勇者セイギのユニークスキル「正義心眼しんじつはいつもひとつ」や「断罪の瞳」と似た効果が付与されているようだ。

 今までの試練で、初めて欲しいと思える品が出た気がする。


 オレは試練後に宴を開いてくれるという神殿長の言葉を固辞して、中央神殿を去った。

 神殿の食事も市内の食堂と同様にメシマズ系だったからだ。





 中央神殿を去ったオレは、パン屋の前で店主に向かって「お前は悪だ!」と告げている勇者セイギを見つけた。

 店主が「俺だけじゃない! 皆やってる事だ!」と叫びながら包帯従者に連行されていく。


 ちょっと気になったので、アリサ達に事情を尋ねに行ってもらった。


 オレに気付いた勇者セイギが振り返る。


「勝利を勝ち誇りに来たのか、ペンドラゴン?」

「そんな用事じゃないよ」


 忘れていたけど、アリサを賭けて勝負していたんだっけ。

 勇者セイギの中では、犯罪組織ドゥヂィのヒミツを暴いたオレの勝利という事になっているようだ。


「そんな事より、今代の勇者について教えてくれないか?」


 単刀直入に尋ねてみた。


「他の勇者? なんでそんな事を聞くんだ?」

「先代勇者のハヤト様から、次の世代の勇者に会ったら力になってやってくれって頼まれていたからさ」


 今ひとつ質問の答えになっていないが、勇者セイギは満足したようだ。


「俺と一緒に召喚された勇者は四人だ。勇者メイコは知ってるよな?」


 集団召喚の噂は正しかったらしい。


「ああ、知ってる。魔物による災害が大きかった地方へ慰問に行っているらしいね」


 オレがそう言うと、勇者セイギが訝しそうに眉を寄せた。


「慰問? あのメイコが?」

「違うのか?」

「帝都を離れたのは知ってるけど、その後ドコに行ったかは知らない。でも、あいつが慰問なんて退屈な事をするとは思えないよ」


 彼の偏見なのか、実際に違うのかは判断が難しい。

 マップのマーカー一覧によると、勇者メイコはドラグ王国という(ドラゴン)が守護する国を訪問しているようだ。

 とりあえず、勇者メイコについては要調査でいいだろう。


「後の二人はどんな感じの人達なんだい? たしか『爆炎』の勇者ユウキって人がいるんだよね?」

「爆炎バカのユウキは勇者なんかじゃない」


 勇者セイギが吐き捨てるように言う。


「あいつは神様から貰った力を、自分がスカッとする為だけに使ってるんだ」


 まあ、中学生の頃に、こんな力を貰ったら増長してもしかたないよね。

 文字通り神様に選ばれた訳だし。


「魔族や魔物を倒す為だったら、住んでる人の避難が終わってなくたって――」

「セイギ!」


 駆け寄ってきた文官従者がオレと勇者セイギの間に割り込んだ。

 お目付役の彼女としては、勇者セイギの不用意な発言を阻止したいのだろう。


「年若い勇者から、サガ帝国の内情を無理やり聞き出そうとするのはご遠慮願えますか? ペンドラゴン伯爵?」


 文官従者はトゲトゲの声でオレを牽制する。


「そんなつもりは毛頭ありませんよ。先代勇者のハヤト様から、次の世代の勇者に会ったら力になってやってくれって頼まれていたので、今代勇者の方々のお話を問題ない範囲で聞かせていただいていただけです」

「そうですか。ですが、誤解を招きかねませんので、必ず私達従者が同席の上でお尋ね下さい」


 サガ帝国の勇者もなかなか大変そうだ。


「もうお話は終わりですね? では、失礼いたします」


 従者が無理やり話を切り上げようとする。


「すみません、もう一つだけ」


 まだ、残る一人の勇者の事を聞けていないんだよね。


「セイギ殿、もう一人の勇者はどのような方ですか?」

「フウか? あいつは引きこもりだからよく知らない。死霊術でスケルトン作ってはニマニマして――」

「セイギ!」

「あー、もう分かったよ。他の勇者の悪口は言うな、だろ? まったく先生より口うるさいんだから」


 最後の勇者フウは引きこもりらしい。

 セリビーラの迷宮下層にいる小鬼姫ユイカのような感じかな?

 死霊術が好きみたいだし、迷宮下層の愉快な転生者達と気が合うかもね。


 とりあえず、勇者フウの方は問題ないかな?

 勇者メイコの方も気になるけど、どっちかっていうと勇者ユウキの方が問題を起こしそうな気がする。


「行きますよ、セイギ。それではペンドラゴン伯爵、失礼致します」


 慇懃な挨拶をして、文官従者が勇者セイギを引き連れて去っていった。


「ご主人様、聞いてきたわよ」


 アリサ達がパン屋の店主について尋ねてきた事を教えてくれた。

 なんでも、パン屋の地下に地下酒場があったのを摘発されてしまったそうだ。


「あのパン屋の女の子も不幸よね。ストーカーにはつきまとわれるわ、親が逮捕されちゃうわ」


 アリサの発言で気がついたけど、このパン屋はあの時の店か。

 オレの脳裏にストーカーとして処断された百人隊長の言葉が蘇る――。


『向こうの親が「軍人や衛兵には娘をやれん」と言ってきたんだ』


 ――なるほど。「汚職をする軍人や衛兵」がダメなんじゃなくて、「地下酒場が摘発される」からダメだったのか。

 どうでも良い事だが、なぞが一つ解けて少しすっきりした。


「それじゃ、次の国に行こうか」

「観光地もありませんしね」


 微笑むセーラに首肯し、オレ達は飛空艇で「司法国家」シェリファードを後にする。


 なお、ゼナさんが助けた獣人は、悪徳都市ドドブ近隣の村出身との事だったので、エチゴヤ商会の悪徳都市ドドブ支店開設の為の駐在員として雇ってみた。

 同じように不遇な獣人は多かったので、真っ当な受け入れ先を増やしたかったんだよね。



 ウリオン神の試練は二日で終わったし、次のザイクーオンの試練もサクサク終わらせたい。

 喧嘩っ早い神みたいだし、いきなり「自分と戦え」なんて言われないといいんだけど。


 まあ、いくらなんでも無いか。


 オレは飛空艇の進路を次の目的地、ザイクーオン中央神殿のある「変幻の国」ピアロォークへと進路を向けた。



※4/8(日)の更新はお休みします。

※次回更新は 4/15(日) の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ウリオン神との短い交神を終え、意識を神殿へと戻す。 他の神との同様の場面でも、交信だったり交神だったりしています。 誤字でないとして、使い分けが微妙で不明。 どうなんだろう? [一…
[一言] シェリフェード編は、ファンタジーらしからぬエピソードのようで、仕込みが多かったです。 ミステリーで定番のミスリードもあるようですからね……? 探偵物だと、サトゥー無双も良いのですが、アリサ…
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