16-29.ガルレオン同盟(5)
※2018/1/3 誤字修正しました。
サトゥーです。海戦モノのシミュレーション・ゲームは潜水艦ゲームのような索敵が主体の海戦をするのが好きです。いかに敵に発見されずに、先に敵を発見するかに頭を悩ませるのが楽しいんですよね。
◇
『サトゥー、先ほどいただいた魔法の査読が終わりましたわ』
『ん、頑張った』
『ありがとうございます。問題はありませんでしたか?』
『完璧』
『魔力制御の補助コードが完全にカットされていたので、熟練の魔法使いでも制御に苦労しそうだけど、動作に問題のありそうなコードはないと思います』
良かった。
一応、深夜の内に動作検証は済ませていたんだけど、クロスチェックは不具合発生前の保険としては必須だからね。
『それにしても、あれほどの呪文をいつの間に開発していらしたんですか?』
『航海中はヒマでしたから』
手慰みに「鉄魔帆船創造」の魔法を作ってみたんだよね。基本コードは既存の物をつかったので、比較的簡単だった。
これは鋼鉄製のゴーレム帆船を作る魔法で、ダミー船員用のリビング・スタチューもセットで作ってしまうのだ。
一番苦労したのは、このリビング・スタチューを人間っぽくする事だったりする。
なお、ゴーレム帆船は魔力砲を10門しか積んでいないので、レベル50程度のゴーレムとしては弱めだ。
もちろん、飛行帆船のように空は飛べない。
一度に12隻まで作れるので、何度か魔法を使えば今回の海賊退治でも役に立つだろう。
高威力の魔砲を搭載すると戦闘力は激増するのだが、すぐに魔力切れを起こすので今回の魔法には搭載しなかった。
今度暇な時にでも改造しよう。
◇
「――提督! 護衛船団が遅れています」
オレの耳に提督へ報告する船員の声が飛び込んできた。
「ちっ、あの銭ゲバどもめっ、魔核の消費をケチってやがるな」
部下の報告に、提督が舌打ちする。
自分が魔核を使わせずに風魔法使いを酷使している事は棚上げらしい。
今回の艦隊はガルレォーク市の軍艦9隻と護衛艦12隻、そしてガルレォーク市に寄港していたガルレオン同盟の他の都市からの援軍の4隻の合計25隻からなる。
なお、護衛艦のうち7隻に海賊の一味が乗り込んでおり、同盟の援軍も半数の船に海賊が潜り込んでいた。
彼らが反乱を起こすとしたら乱戦の最中だろうから、適度に監視するにとどめている。
『サトゥー』
空間魔法の「戦術輪話」ごしにミーアの声が届いた。
『海賊、日没方向』
『ありがとう、ミーア』
上空で哨戒している飛空艇から海賊が見えたようだ。
ほぼ同時に飛空艇下部に設置された光通信用のフラッシュライトが同じ内容を送ってくる。
ミーアの言葉より、光信号の方がデータ量が多いのは秘密だ。
『迎撃?』
『いや、討伐隊の力量が知りたいから、そのまま見物してて』
マップで見た限り、海賊に襲われている船舶もないから大丈夫だろう。
「提督! 2時の方角に艦影あり! 国旗は揚がってませんでした」
それから半時間ほどしてから、哨戒に出ていた鳥人兵士によってそんな報告がもたらされた。
「よし! 伏兵がいるかもしれん、風魔法使い」
船の増速に魔法を使っていた風魔法使いが、その魔法を解除して探索魔法の詠唱を始める。
「機関部! 魔力炉の出力を上げろ」
「アイアイサー」
甲板の下から伝わってくる振動と魔力の波動が強くなる。
「提督、魔力砲の準備をさせますか?」
「うーむ……偵察兵! 艦影は幾つだ!」
「一つであります!」
「ならば、速攻で沈めて艦隊の士気を上げる。魔力砲の準備を進めろ」
「アイアイサー」
舷側の砲門が開き、階下では魔力砲に掛けられてあった防水布が取り除かれていく。
「提督! 2時の方角、距離2200、艦影は1隻です」
魔力砲の準備が完了した頃、ようやく風魔法使いが調べ終わった情報を知らせる。
ガルレオン同盟の単位はヤード単位に近いらしい。
大体2キロメートルほどの距離だ。
「よし、伏兵はなし、だな」
提督がにやりと口角を上げた。
『呼ぶ?』
『――いや、精霊はいいよ』
ミーアからサポート用の疑似精霊を用意するか聞かれたが、疑似精霊だとオーバーキルもいいところなので断った。
『むぅ』
『心配しなくても、後で出番が来るから待ってて』
『わたくしも参加したいですわ』
『ええ、もちろん。システィーナ様も本番までお待ちください。それまではガーゴイル部隊で哨戒補助をお願いできますか?』
『はい、承りましたわ』
ミーア達の本格的な出番は、海賊の本隊が集結してからだ。
でも、カリナ嬢やシスティーナ王女は先に出番があるかもしれない。
マップに表示される大物の赤い光点がそれを示している。
オレは海賊船の直下を航行する複数の赤い光点をチェックする。
赤い光点の正体は魚雷烏賊と烏賊型海魔の二種だ。
前者はレベル20ほどで12匹、後者はレベル45もあるが1匹だけだ。
いや、レベル一桁のシーオークも30匹ほど追従している。
どの魔物も「従属支配」という珍しい状態になっている。
たぶん、調教状態の一種だろう。
これらの魔物達は海中を進んでいるので、風魔法による探索では見つからなかったようだ。
一見、水魔法による探査を省略した艦長が無能にも思えるが、魔力を大量に消費してまで行うのを嫌うのも無理はない。
海棲の亜人達を随伴する海賊もいるが、戦力的には海賊船一隻に及ばないのだから。
なお、あの海賊船の後ろから来る本隊は、数を増やしつつ10から20キロ後方にあるので、さきほどの風魔法では探知できなかったようだ。
こっちにも複数の烏賊型海魔が随伴しているから、ミーアやシスティーナ王女の出番はたっぷりあると思う。
◇
「艦影見ゆ!」
やがて、水平線に海賊船が見えてきた。
「黒い海賊船?」
「おい! あの海賊旗を見ろ!」
「髑髏に絡みつく海蛇――骸骨大公の海賊船だ!」
マップによるとあの船に骸骨大公はいない。
たぶん、攪乱や威圧の為に、部下にも旗を持たせているのだろう。
「あの旗、変~?」
「そうなのです?」
オレの足下の影から出てきたタマとポチが、舷側の手すりに身を乗り出して呟いた。
もうお昼休みなのかな?
幸い、周りは戦闘準備に忙しいようで、二人に気付いた様子はない。
「二人とも、この船は女性禁止だからカリナ様達のいる船から見物しておいで」
オレを見上げる二人の顔がしょんぼりとする。
「にゅ~?」
「残念なのです」
それでも二人は素直に影を通って上空の飛空艇へと移動してくれた。
『ダミー信号を頼む』
『ほいほーい』
飛空艇の操縦士ブラウニーに、ダミーの光信号を頼む。
その光信号に気付いた航海士が、物問いたげにオレを見つめる。
「提督、敵艦が魔物を随伴している可能性が高いそうです」
「随伴? 調教されたシーオークなら、とうに捕捉しておる」
「いえ、そうではなく――」
「ペンドラゴン卿! 私は戦闘で忙しい。観察官なら観察官らしく、大人しく我らの戦いを観察しておれ!」
魚雷烏賊と烏賊型海魔の方を警告したかったのだが、彼は聞く耳を持たないようだ。
このままだと艦隊に被害が出そうだから、烏賊型海魔の登場と同時にカリナ爆弾を投下して倒してもらおう。
さすがに25隻も軍艦がいたら、半数以下の魚雷烏賊くらいはなんとかなるだろうしね。
『カリナ様、もうすぐ出番です――』
オレは上空で無聊を託つカリナ嬢に声を掛けておく。
◇
「奴さん、真っ直ぐ突っ込んできますね。やけになったんでしょうか?」
「ふん、無能な海賊どもなど、こんなものだ。十分に引きつけて魔力砲の一斉射撃をしろ」
海賊を半包囲する位置取りをした艦隊が、海賊船に側面を向ける。
「海賊からの攻撃がありませんね?」
オレは航海士に尋ねてみた。
「向こうは風下ですから、まだ矢の射程外なのでしょう」
そうなのかな?
彼我の距離は100メートルくらいしかないんだけど。
「魔力砲、斉射準備――撃てぇえええええええええええ!」
提督の号令と同時に旗艦の魔力砲が火を噴き、信号手の旗を見た僚艦が次々と魔力砲を放つ。
「おや?」
海賊船の黒い船体の手前に水の壁が生まれ、魔力砲の火弾の雨を次々と受け流す。
あれは海中にいる烏賊型海魔の魔法だろう。
「ば、ばかなっ! 次弾放て!」
その様子に提督が泡を食って指示を出す。
「まだ、魔力砲の充填が終わっていません」
このままだと海賊に突撃されそうだ。
接近する海賊船の舳先には、特大のイッカクの角骨を使った衝角がある。
向こうは初めから衝角突撃からの接舷攻撃をもくろんでいたようだ。
オレは格納鞄から魔弓と鋼鉄製の矢を何本か取り出した。
「提督! 敵艦、衝突航路です」
「ええい、面舵だ!」
旗艦が急激に舵を取り衝突コースを回避したのだが、無理な機動のために速度が落ちてしまった。
そこに魚雷烏賊が向かってくる。
「提督! 水面下に魔物!」
「シーオークなど放置しろ!」
「違います、魚雷烏賊です!」
「な、なんだと――」
ようやく旗艦の人達が魚雷烏賊に気付いたようだ。
こいつはレベル20ほどだけど、旗艦の半分くらいの全長があるんだよね。
「少し手伝います」
オレはそう断って水中を魚雷のように進む魚雷烏賊に向けて矢を射る。
「水中の敵に矢など通じ――」
タイミングを考えながら三本の矢を放ち、七匹の魚雷烏賊を射殺す。
全部始末して手柄を独り占めするのも悪いと思ったので、残り三匹は半殺しに留めてある。
「――当ててみせたのみならず倒した、だと?」
嘲笑しようとしていた提督が、目を剥いて驚く。
いや、そんなリアクションより、艦隊の指揮を執ろうよ。
彼が驚く間にも部下達は行動しており、水魔法使い達が水銛を魚雷烏賊に放ち、風魔法使い達が矢避けの魔法を唱えている。
船員達も船を再加速する為に、懸命にロープを操って帆を制御していた。
「そろそろ来ますよ」
オレは前方で持ち上がる海面を指さして告げる。
海を割って最初に現れたのは10本の触手。
その先端には銛のような尖った爪が生えており、吸盤一つ一つが人一人より大きい。
「ク、クラーケンだ!」
「に、逃げろ! 船を沈められるぞ!」
その姿に船員達がパニックを起こす。
当然ながら、旗艦だけではなく僚艦全てだ。
まだ、烏賊型海魔の本体さえ出ていないというのに、阿鼻叫喚の状態になってしまっている。
それを収めるべき提督や艦長達も、自身のパニックを抑え込むのでギリギリのようだ。
『カリナ様、やってください』
『待ってましたわ!』
空間魔法越しにカリナ嬢の嬉しそうな声が届く。
『西に向けて強風が吹いているので――』
『クンフゥウウウウウウウ、キィイイイイイイイイイイイイイイイック、ですわぁああああああああああああ!』
風に流されないで気をつけて、という前にカリナ嬢が技名の叫びと共に降ってくる。
いやいや、その技名をここで言っちゃダメだろう。
聞いている余裕のあるヤツはいないと思うけどさ。
流星のような速さで降ってきたカリナ嬢が、空中で空気を蹴って軌道修正しながら烏賊型海魔の頭部に突き刺さった。
『ヴォーパル・ピアシング、なのです!』
『バンキッシュ・トルネード~?』
カリナ嬢に釣られたポチとタマが新技と共に降ってくる。
すでに烏賊型海魔の体力ゲージはゼロなのだが、それは黙っていよう。
「総員! 海賊船を拿捕せよ!」
オレは腹に力を入れて、突然の流星に頭が真っ白になっている人達に向けて叫んだ。
魔力充填の終わっていた魔力砲が、烏賊型海魔の守りを失った海賊船のマストを折り飛ばし、海賊船の船体に大穴を空ける。
衝角突撃をギリギリで躱した二番艦に海賊達が乗り込んでいく。
その反対側に接舷して海賊船へと乗り込んでいく。
「強いのがいますね」
「骸骨大公の腹心の一人、骸骨騎士ザムドでしょう」
骸骨騎士ザムドという名前だが、魔物や魔族ではなく骸骨風の面防を付けたパリオン神国の元騎士だ。
レベル38もある近接戦闘特化型の人らしい。
放置すると海兵達がたくさん死んでしまうので、少し加勢しよう。
「ほいほい、っと」
魔弓でザムドの剣を弾き飛ばし、利き腕を射貫く。
ついでに海賊船の船長を――。
「ぱんち、ですわ!」
――海藻を頭に載せたカリナ嬢の拳が打ち抜いた。
海老反りに飛ぶ海賊船長が、甲板にバウンドする。
「ポチ参上、なのです!」
「タマも参上~?」
船体を上ってきたポチとタマがシュピッのポーズを取る。
「ポチ、タマ、二人のお陰で悪者の頭目を退治できましたわ!」
さっきのカリナ嬢は二人が海面から甲板へ投げ上げたようだ。
「なんくるないさ~?」
「まだ油断するのは早いのですよ!」
カリナ嬢の背後から襲う海賊をポチが海上へ蹴り飛ばす。
一斉に飛びかかってきた海賊達をタマとカリナ嬢が蹴散らした。
可愛い外見に騙されたのだろうが、この三人はさっきの巨大クラーケンよりも凶悪なのだ。
『捕まえた』
逃げようとしていた海賊達を、ミーアの水精霊達が捕らえたようだ。
『サトゥー、哨戒させていたガーゴイルから、20隻以上の海賊船が集まっていると報告が来ましたわ』
『システィーナ様、ありがとうございます』
さて、敵の本隊が集結するまでまだ間があるから、その前にやるべき事をやっておこうか。
「ペンドラゴン卿、貴公の助力は感謝するが、越権行為は控えてもらおう!」
提督がつばを飛ばして詰め寄ってくる。
敵を倒すよりも、こっちの相手の方がよっぽど憂鬱だよ。
敵艦の残りは62隻。
彼らは複雑な潮の流れが支配する岩礁や群島からなる難所に、約20隻ずつの3つの集団になって、こちらの艦隊を待ち受けている。
一番目立つ場所にいる囮に引っかかったら、間違いなく包囲されてしまうだろう。
この提督に任せたら、確実にそうなりそうな気がする。
包囲殲滅はされる方じゃなくて、する方が好みなんだよね。
※次回更新は 1/7(日) の予定です。
※今年の更新はこれが最後です。
読者の皆様、良いお年を~
※本日よりタイトルを少し変えました。
漫画版や書籍版からデスマを読み始めた方で、小説家になろう掲載のオリジナル版との違いに混乱する方が増えてきたので、タイトルの最後に「(web版)」と付けました。
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詳しくは活動報告をご覧下さい。
※以下、アニメ公式twitterより
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