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16-28.ガルレオン同盟(4)

※2017/12/25 誤字修正しました。


 サトゥーです。戦争が情報戦に重きを置き始めたのはいつからなのでしょう?

 どんなにたくさんの兵器があっても戦場になければ意味がありませんし、相性のいい相手にぶつけられればそれだけで何倍もの戦力を用意したのと同じ効果があるのですから当然かもしれません。





『――ワシにガルレオン同盟を裏切れ、と言うのか?』

『ははは、滅相めっそうもない。私どもが同盟憲章に反する事を唆すなど、あるはずもございません』


 なかなかタイムリーな話が耳に届く。


 人魚達の里から戻る途中、オレは空間魔法の「遠見(クレアボヤンス)」と「遠耳(クレアヒアリス)」で同盟内の不和の調査をしてみたところ、そんな会話をしている場面に出くわしたのだ。

 もちろん、マップで一番怪しげな組み合わせの場所を選んだので当たり前と言えば、当たり前かもしれないけどさ。


 オレの「遠見」による視線の先で、神経質そうな小物感溢れる紳士と強欲そうな雰囲気の貴人が話を続けている。

 貴人の方はガルレオン同盟第二位で、盟主の地位を狙っているというガーボゥズ王国の王様だ。


『ガーボゥズ王、私どもは常々、国というものは王によって統治されるべきだと考えているのですよ』

『つまり、ガルレォーク市がかつて勇者の手でミンシュ化される前の地位に返り咲きたいということか? プサン・ガルレォーク?』


 なるほど、神経質な紳士ことプサン氏は元ガルレォーク王家の末裔という事のようだ。

 ついでに言うと、海賊「骸骨大公」の手先らしい。


 マップの詳細情報は相変わらずチートだ。


『返り咲くなどと……我らは元のあるべき地位に戻るだけ。そして同盟は強き王、ガーボゥズ陛下の導きで今以上の発展を遂げるのです』


 なんていうか、実に没落貴族らしい中身のない説得だ。


『貴公の申し出は分かった』

『では! 我らの後ろ盾となっていただけるのですね!』


 喜色満面のプサン氏と裏腹に、ガーボゥズ王の表情は冷め切っている。


『そのような話は知らん。ヘイツ、同盟への反逆者だ。捕らえて、ガルレォーク市の議会に送りつけてやれ』

『首だけでよろしいですか?』

『塩がもったいない。向こうで首を刎ねさせろ』

『お、お待ちください、ガーボゥズ王! 我らはあなたに盟主と――』


 なおも言いつのるプサン氏を一顧だにせず、衛兵に命じて運び去らせる。


『道化にすらなれぬ愚か者に無駄な時間を使ってしまった――報告せよ』

『御意。骸骨大公のもとに潜入させておいた間者は既に向こうの手に落ちてございます』


 小姓頭の報告に、国王が不快そうに鼻を鳴らした。


『ですが、間者に持たせておいた「祝福鳩」が情報を持ち帰っております』

『ほう、さすがは「賢者の塔」謹製の魔法道具だ』


 ――おっ、なかなか心躍る単語だ。


 確か、「賢者の塔」はカリオン神の大神殿がある都市の別称だったはず。

 今から訪問するのが楽しみな場所だ。


『それで、内容は?』

『はい、骸骨大公なる者は魔族の傀儡で、魔族達の真の狙いはガルレォーク市へ侵攻するついでにガルレオン中央神殿を襲って「黄金の舵輪」を手中に収める事との事です』

『ふん、魔族が「神の船」を狙うか……』


 二人の会話に出てきた「黄金の舵輪」はオレのストレージ内にあるので、盗まれようがなかったりする。


『さきほど魔族の傀儡と言ったな? やはり『自由の光』の連中か?』

『いえ、魔王信奉者ではないそうです』

『ふむ、ならば今回はあやつらの蠢動はないと考えて良いのか?』


 ガーボゥズ王の問いに、小姓頭はゆっくりと首を横に振った後、言葉を発した。


『まだ掴み切れておりませんが、護衛船団の傭兵の中に紛れ込んでいる可能性が高いと思われます』

『ならば、海賊どもの侵攻に合わせて護衛船団で反乱が起きるかもしれぬのか……』

『誠に遺憾ながら』


 それはちょっとまずいかもしれない。

 ガレルオン同盟の海上兵力の3分の2は、護衛船団の傭兵達だからだ。


 ――まあ、先に分かっていれば対処は可能だけどさ。


『我が国は静観するとしよう』

『承知いたしました。護衛船団はいかがいたしましょう?』

『すべてを国軍の船に変えるのは不可能だ。重要度の高い商船団には国の護衛艦を付けろ』


 国王の命を受けて小姓頭が配下の小姓達にメッセージを持たせて走らせる。


 その国王がこちらを見上げた(・・・・・・・・)


『そういう事だ。後はお前達だけで奮闘せよ』


 どうやら、彼は空間魔法で覗かれているのに気が付いていたようだ。

 まあ、小なりとはいえ都市核を支配する王様だし、それくらいはできるのかもね。


 もっとも、オレが覗いていたのではなく、ガルレォーク市の魔法使いが覗いたと考えているみたいだったけどさ。


「どうでした?」

「ガーボゥズ王は謀反を企んでいないようですね」


 問いかけるシスティーナ王女に答える。


 こっちに気がついていたし、単なるポーズの可能性もあるけどさ。

 続けて、他の五都市の調査を行なったが、いずれもグレーなだけで同盟を裏切って海賊につこうとする都市はなかった。

 オレとしては一つくらい裏切っている所がありそうだと思っていたので、少し意外だった。





『大公閣下ぁ~、先ほどの演説見事だったナノ』


 化粧の濃い女海賊が、ひょろりとした貴公子風の海賊に声を掛ける。

 後者は骸骨大公、骸骨のような顔――いや、骸骨風のマスクを被った人族の男性だ。


『これで海賊連合は無事に結成され、閣下の望み通りガルレォーク市は壊滅しちゃうノ』

『う、うん。でも、あれで大丈夫だった?』


 小心そうな青年が、豊満なボディの女海賊にすがりつく。

 胸だけじゃなく、全体的にボリューミーなので、あまり羨ましくない。


『完璧ナノ』

『よ、よかった……ねえ、いつまでこんな事を続けたらいいのかな?』

『本物の骸骨大公が帰ってくるまでナノ』


 なるほど、こっちの青年は偽物なわけか。

 骸骨大公という称号を持っているから、本物かと思ったよ。


 でも、既知のマップ内には骸骨大公はいない。


『大丈夫ナノ。あなたなら、できるに決まっているノ』

『で、でも、氷の島をガルレォーク市にぶつけて混乱している隙に、魔物を使って軍艦を沈めるなんて、本当にできるのかな?』


 なるほど、この間回収した中級魔族付きの氷山は、そういう目的で運ばれていたものだったのか。


『心配無用ナノ。本物の大公閣下は魔族だって操るノ。軍艦の底に穴を開けるくらい――』


 言葉の途中で女海賊がこちらを見上げて睨み付け、短剣を投げつけてきた。


『――覗き野郎がいるみたいナノ』


 どうやら、女海賊に気付かれたようだ。

 オレは空間魔法を中断し、意識をこちらに戻す。


「海賊達は連合を結成してガルレォーク市に攻め込むみたいだ」

「大変ですわ!」

「ん、危険」


 オレの言葉にカリナ嬢とミーアが気色ばむ。


「やはり、海戦になりそうですか?」

「それなんですが――」


 オレは空間魔法で得た情報を告げる。

 海賊達の、というか海賊達を裏から操る魔族が魔物を操って破壊工作に出る感じなんだよね。


「偽物の骸骨大公を操る女というのは、もしかして?」

「ええ、魔族に憑依されているようです」


 前に調べた時は魔族の気配がなかったのに、この間の氷山といい、いつの間にか魔族が紛れ込んでいた。

 まったく、油断も隙もないよね。


「とりあえず、神殿騎士の団長を連れて市長に会ってきます」

「私達は待機ですか?」

「いえ、ガルレォーク市沖に集結しつつある海賊達が、行きがけの駄賃に商船団を襲っているようなので、そちらの救援をお願いします」


 システィーナ王女にそう告げる。


「退治じゃない?」

「うん、できれば海賊を追い払うだけにしておいて」


 ミーアの言葉に首肯する。

 海戦が始まる前に海賊を減らし過ぎると、「集団の武」を示す前に戦いが終わっちゃうからね。





「海賊が連合を組んでガルレォーク市に向かっている?」


 オレはガルレオン神殿のコネで市長と面会していた。

 シガ王国伯爵の身分でも会えるのだが、神殿のコネを利用した方が早く会えそうなので仲介を頼んだのだ。


「ええ、迷子の人魚を送り届ける時に、船団を組んで航行する海賊船を複数見かけました」

「それだけで、目的地がガルレォーク市だと?」

「確証はありません。それぞれの船団の進路が交差するのがガルレォーク市だったのです。警戒しておいた方がよいかと存じますが?」


 オレの答えに、市長が渋い顔をする。

 臨戦態勢を維持するのはコストが高いだろうから、軽々に実行したくない気持ちは分かるんだけどさ。


「――市長」


 今まで黙っていた神殿騎士団長が口を開いた。


「複数の海賊が向かっているのは事実。神殿騎士団の船は『黄金の舵輪』の主、ペンドラゴン伯爵に従って出立する」

「『黄金の舵輪』だと? 主と認められたのか?」

「ガルレオン神より貸与許可を与えられておるのだ」

「――まさか、『神の試練』を」


 市長の言葉に神殿騎士団長が重々しく頷いた。


 しばし絶句していた市長が、腕を組んで黙考する。

 やがて、オレの方を見つめ市長が口を開いた。


「先に言っておく、ガルレォーク市の艦隊指揮権を譲渡する事はできない」


 ガルレオン神のお膝元とはいえ、宗教国家というわけでもないんだし、あたりまえだと思う。

 そもそも指揮権の譲渡なんて望んでいないし。


「だが、観察官(オブザーバー)として艦隊旗艦に同乗する事を許可しよう」

「市長――」

「むろん、騎士団の艦隊も同行して構わん」

「――感謝する」


 なんだか、オレが口を挟む前に話がまとまってしまった。

 まあ、願ったり叶ったりだから、このまま話に乗っかっておこう。





「待て、貴族の若造!」


 市長と面会した翌日、旗艦に乗船しようとしたところ、ひげ面の提督に止められた。


「貴族に艦隊指揮など任せられるものか! 市長を籠絡したようだが、この艦隊の提督は俺様だ!」


 提督が唾をまき散らしながらまくし立てる。


「ええ、もちろんです。私はガルレオン同盟屈指の名提督の指揮を間近で見学するために乗艦させていただいたのですよ」

「ふんっ、おべんちゃらは得意のようだな? だが、覚えておけ! 同盟屈指ではない、大陸一の名提督だ!」


 自尊心は高いらしい。


「あと、女どもは乗せるな! 神殿騎士団の船にでも乗らせろ」


 同行していたカリナ嬢とミーアが(まなじり)を決したが、二人が噛みつく前に笑顔を作って彼に答える。


「分かりました。彼女たちは私の用意した船に乗せます」

「むぅ」

「ミーア達は飛空艇で上空から哨戒を頼むよ」

「ん」


 ミーア達に飛空艇で同行するように告げて、オレは肩を怒らせてタラップを上る艦長に続いて、黒鉄(くろがね)の旗艦へと乗り込んだ。


「野郎ども! 碇を上げろ!」

「碇ー、上げぇー」


 提督と言うよりは海賊のようなかけ声で、船員達を叱咤する。

 現代だと提督と艦長は別な事が多いようだけど、ガルレオン同盟では提督と艦長は兼任するようだ。


「帆を張れ!」

「帆をー、張れぇー」


 艦長の言葉を、士官達が船員に伝達していく。


「魔法使い、風を」

「魔力炉の補助は――」

「怠けるな! 燃料の魔核もタダじゃねぇんだ! 魔力炉は戦場まで温存する」


 船長の言葉に、風魔法使いと水魔法使いが渋い顔になったが、それ以上言いつのる事なく指示に従って魔法を使った。

 聞き耳スキルが拾ってきた情報によると、魔法使い達が使ったのは帆に風を集める魔法と船底の摩擦を減らす魔法のようだ。


 普通の帆船よりも速いスピードで艦隊が出発した。


 とはいえ、飛空艇にくらべるとかなり遅い。

 海賊船団との会敵地点まで、何をして時間を潰そうか……。


 そんな事に頭を悩ませながら、オレは潮風に身をさらした。



※次回更新は、12/31(日)の予定です。


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