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16-26.ガルレオン同盟(2)

※2017/12/24 誤字修正しました。

※2017/12/11 一部修正しました。


 サトゥーです。女装も極めると本物の女性より女性らしくなるそうです。最近は化粧技術だけでなく、写真の加工技術も向上しているので、ナチュラルな美女を見つけるのはなかなか大変ですね。





「生きているようですね」

「早く助けないといけませんわ!」

「ん」


 人魚の娘が死にかけていたので、「理力の手(マジック・ハンド)」で水辺から引き上げようとそちらに伸ばす。

 だが、それより早く水しぶきが上がり、縦ロールの金髪が海面に広がった。

 どうやら、オレより早くカリナ嬢が海に飛び込んで救助を行なったようだ。


 その様子にミーアとシスティーナ王女が目を丸くしている。


 カリナ嬢が人魚を持ち上げてこちらに渡そうとするが、当然ながらそんな事をすると彼女自身が海の中に沈む。

 もう少し孤島宮殿の浜辺で遊ばせた方がいいかもしれない。


 オレは「理力の手(マジック・ハンド)」でカリナ嬢を海面まで持ち上げて、人魚の娘を受け取り、そのままカリナ嬢の手首を持って桟橋まで引き上げた。

 水に濡れた彼女の胸元が物理的に凄い事になっているが、あまり凝視するのも悪いので、適当なところで布を被せてから生活魔法で乾かしてやる。


「過労」


 ミーア先生の診断では、人魚の娘――というか幼女は過労で倒れていたらしい。

 AR表示される彼女の氏族は、このマップ内にいないので遠くから漂流してきたか、海賊などに攫われた後に逃げ出したのいずれかが考えられる。


「うん、怪我は無いようだね」


 身体に小さな傷跡や下半身の鱗に剥がれた箇所などがあったので、念のため魔法薬を掛けて癒やしておく。


 人魚――鰭人族は肺呼吸なので飛空挺のブラウニーに預けて養生させてから事情を尋ねようと思う。

 故郷で虐待等を受けていたなどの特殊事情が無い限り、後で飛空挺で故郷まで送ってやろう。





「近くで見ると、ずいぶん手の込んだ神殿ですわね」

「ええ、見事な彫刻ですね」

「ん、美麗」


 遠くから見たガルレオン神殿は質実剛健な灰色の神殿だったが、近くまで来ると壁や柱に独特の彫刻が施され、そのまま世界遺産に登録されそうな感じの荘厳な建物だった。

 よく見ると灰色一色の石材ではなく、石材以外にも銀や黒鋼という変わった金属を用いて装飾がされているようだ。


 中央神殿だけあって、巡礼らしき人々や裕福な商人達の姿も多く、神殿に仕える神官達も頻繁に往来している。


 ――ん?


 神殿の門前で、やってくる人々を睨むように見回していた神官が、オレを見て驚いた顔で神殿内に駆け込んでいった。

 先ほどの神官は人物鑑定スキルを持っていたみたいだから、オレが公開称号に設定しておいた「神の試練に挑む者」という称号を見つけて報告に戻ったのだろう。


 少し待てば出迎えが来るだろうし、オレ達はゆったりとガルレオン神殿の彫刻を鑑賞して過ごした。


 そして――。


「サトゥー」


 ミーアが神殿の入り口を指さす。


 そこには巫女の衣装を着た女性達の姿があった。

 いや、中央にいる美人さんは少年のようだ。

 AR表示によると「巫覡(ふげき)」や「(かんなぎ)」という称号を持っていた。アーゼさんの奉納舞の時にも男性の巫覡を見かけたが、エルフの里以外では初めて見たかもしれない。

 従姉妹の神社で聞いた話だと「巫覡」は総称で、「覡」が男性の巫女を指す言葉だったはずだが、こちらの世界の「巫覡」は男性の「神託」スキル持ちだけが持つ称号のようだ。

 現に、過去に知り合った「神託」スキル持ちの巫女達に「巫覡」という称号はない。


 巫女の周りで祈り始める巡礼者達を意に介さず、巫女達の視線はオレに固定されている。

 ここで知らんぷりする意味も無いので、そちらへと歩み寄った。


「ガルレオン神殿にようこそ――神の試練に挑む者よ」


 中央に立つ巫覡の少年がオレにそう挨拶した。

 その言葉を聞いた周りの巡礼者達が、驚いてオレの方を見つめてくる。


 AR表示によると少年の名前はサウァーニと言い、このガルレォーク市の市長令息のようだ。


「初めまして、ガルレオン神殿の(かんなぎ)殿。シガ王国伯爵、サトゥー・ペンドラゴンと申します。ガルレオン神より試練を賜るために参りました」


 思わぬ悪目立ちに居心地の悪い気分を味わいながら、こちらも挨拶を返す。

 オレの言葉を聞いた少年や周囲の巫女達が驚いた顔になった。


 一見(いちげん)の相手に性別が見抜かれるとは思わなかったのだろう。





 年配の巫女に促され、オレ達は神殿の奥にある応接間の一つへと案内された。


「初対面で性別を当てられたのは初めてだ。君は竜眼か精霊眼を持つのかい?」


 なぜか、巫覡の少年サウァーニはスキンシップ過多で、妙にベタベタしてくる。


 ミーアは「ぎるてぃ」判定ができないのか眉がくるんと困惑気味だ。

 カリナ嬢は面白くなさそうな顔でお茶とお菓子をパクパクとむさぼり、システィーナ王女は小声で受け攻めの考察をしている。元鬱魔王シズカの薫陶は彼女に届いてしまったらしい。


「いいえ、観察です。骨格で分かるのですよ」


 オレは詐術スキル先生に頼りながらそれらしい言葉を返す。

 もちろん、答えながらサウァーニ少年を引き剥がすのも忘れない。


「神託を介するには接触を多めにした方がいいんだよ?」

「その心配はご無用です。ヘラルオン神殿で用いた秘術を用いれば手を繋ぐだけで十分なのです」


 オレがそう言うと、なぜかサウァーニ少年が落胆した。


 ――なぜ落胆する。


 そう突っ込むと余計な墓穴を掘りそうだったので、「沈黙は金」という格言を頼りにスルーしておく。


「ガルレオン神より試練を賜りたいのですが、いかがすればよろしいでしょうか?」

「神殿の準備はできております」


 落ち込む少年に代わって、年配の巫女さんがオレの質問に答えてくれた。


「星回りは今日を逃すと10日後まで待つ必要がございますが、閣下のご準備はいかがでしょう?」

「万全です」


 年配の巫女さんに力強く首肯する。

 ヘラルオン神殿で「星回り」の話題が出た後に、孤島宮殿のセーラに各神殿の星回りについてレクチャーしてもらったので、今日が一番良いタイミングというのはちゃんと把握していたのだ。


「急で申し訳ございませんが、本日でお願いできますか」

「ええ、もちろんですとも」


 にこりと笑う年配の巫女さんが、周りの神官達に命じて神託の準備を始めさせる。

 主にサウァーニ少年とオレの支度だ。


 ヘラルオン神殿よりも手際よく準備は進み、数時間後には儀式が始まった。





 儀式の手順はテニオン神殿やヘラルオン神殿と同じだ。


 オレはわざわざ詠唱して、精神魔法の「精神接続マインド・コネクション」で巫覡のサウァーニ少年と心をつなぐ。

 ついでに念話スキルも使用して精神同調を補助しておいた。


『ああ、サトゥー殿が入ってくる』


 巫覡のサウァーニ少年の内心の声が聞こえてきた。

 そういう欲望丸出しなのは勘弁してください。


『サウァーニ殿、ガルレオン神への呼びかけを』


 いつまで経っても儀式を始めずに欲望を垂れ流すサウァーニ少年を促し、ようやく儀式が進行し始めた。

 まじめなヘラルオン神の巫女ツリャが懐かしい。


『――神よ。我らが崇める強大なる神よ』


 神への呼びかけはそれぞれの神殿で少しずつ違うらしい。


 サウァーニ少年の呼びかけに応え、空から明るい光が降ってきた。

 涼しげな蒼い色なのに、オーブンで焼かれるような熱い光だ。肌がヒリヒリとする幻痛を感じる。


 恍惚の表情をしていたサウァーニ少年から表情が抜け落ちた。

 トランス状態に入ったようだ。


『試練に挑まんとする無謀なる者よ』


 粗暴な感じがする豪快な男性の声が脳裏に響く。

 これがガルレオン神の声らしい。


『軍勢を指揮し、集団の武を示せ』


 ――むむむ。


 オレの苦手分野だ。

 軍隊の戦闘でオレや仲間達が無双して勝利に導いたら、試練を達成できない気がする。


『我がしもべ達の国を守り、外敵を殲滅せよ』


 オレの脳裏に、宝石が飾られた黄金の舵輪が思い浮かぶ。

 ヘラルオン神の黄金剣と同様に、この舵輪がガルレオン神の名代である事を示すのだろう。


『あまねく我が名を民が崇めたなら、汝に証を与えよう』


 この辺りはヘラルオン神の言葉と同じ気がする。


『ガルレオン神よ、外敵とはどのような者達でしょうか?』


 そう問いかけてみたのだが、ガルレオン神からの応答はなく、そのまま神との交信は途絶えた。

 ヘラルオン神と同様に言葉のキャッチボールは好きじゃないみたいだ。





「『軍勢を指揮し、集団の武を示せ』、ですか?」

「ええ、そうです」


 儀式が終わったオレは、老巫女や神官達に試練の内容を伝え、軍勢で挑む必要がある相手について尋ねてみた。

 なお、巫覡のサウァーニ少年はダウン中だ。


「ガルレオン同盟に仇なす者ならば、やはり海賊でしょう」

「――海賊、ですか?」


 オレは海賊と国が正面から戦うイメージが思い浮かばずに、思わず問い返してしまった。


「ええ、(いにしえ)の大海賊の後継者を自称する輩が、ガルレォーク市を訪れる外洋船を襲う事案が急増しているのです。ガルレォーク市の軍隊だけでなく、同盟艦隊まで出動しましたが、神出鬼没の海賊達に翻弄されるばかりで、なんの成果もあげられずに出戻ってくるばかり……」


 そういえば港で聞いた噂に、『骸骨大公』と呼ばれる海賊が周辺海域の海賊を糾合して一大勢力を築いているっていうのがあったっけ。


「周辺諸国からの侵略はないのですか?」


 外敵と言えば外国だろうという先入観があったので一応確認してみた。

 去年、隣国と共同でパリオン神国に軍を進めていたはずだし、その辺の報復で攻められるかもしれないからね。


「以前はありましたけれど――」


 神官の話によると、外敵たりえる周辺国家は先だっての天罰によるスタンピードで疲弊中らしく、とても侵略戦争を起こす余裕がないそうだ。

 しかも、サガ帝国が派遣した勇者が、魔物の掃討という名目で国境沿いを飛空挺で巡回しているらしく、下手に侵略行為を企んでも、番犬よろしく勇者が侵略軍を蹴散らして、敗残兵達を魔物掃討に徴発してしまうそうだ。


 オレの知る勇者メイコにそんなマネはできないだろうから、彼女の後に召喚された勇者が対軍に向いたユニークスキルを持つか、軍隊を意のままに操る魅了や支配系の能力を持っているに違いない。


 それはさておき――。


「ガルレオン同盟も天罰で被害を?」

「いいえ、我が国にはガルレオン神のご加護がありますから」


 なるほど、と納得しかけて一つ気がついた。


「隣のパリオン神国は被害を受けていたのでは?」

「ええ、そのようですね」


 神官は明言しなかったが、先ほどの情報から考えてパリオン神はパリオン神国を天罰から守らなかったらしい。

 神殿のトップが魔王を囲っていたし、その上「神の欠片」まで宿していたから、パリオン神から見放されたのかもね。


 まあ、パリオン神の中央神殿を訪れるのは最後だから、今はいいか。


「少し話がそれましたね。ガルレオン同盟が天罰の被害を受けていないなら、ガルレオン同盟内の他の都市が攻めてくる事は考えられませんか?」


 一枚岩じゃないみたいだし、盟主の座を狙う同盟内の他都市からの侵略があるかもしれない。

 他にも、ガルレオン同盟が侵略してこないように、周辺国家が同盟に内憂を仕掛けてくる可能性もありそうだ。


「ガーボゥズ王国の事を仰っているのですか?」


 老巫女の出した名前は、ガルレォーク市に成り代わってガルレオン同盟の盟主に立とうとしているという噂がある小国だ。


「特にどことは言いませんが」

「同盟内の国々が軍を率いて攻めてくる事はありません」


 老巫女がきっぱりと断言する。


「ですが――」

「希望的観測や倫理的な事を言っているのではありません。ガルレオン同盟の国々はガルレオン神の名の下に交わした盟約を破る事はできないのです」


 オレの言葉を遮って、老巫女が説明してくれた。

 奴隷契約などよりも遥かに強制力が高いらしく、都市核を支配する王や領主にも解除できないらしい。

 盟約を破った場合、国民全てが免罪不能な「背信」の罪を負ってしまうそうだ。


 神様に会った時に、変な約束をすると危なそうだ。

 気を付けよう。


「では、現状では海賊団との海戦が一番可能性が高いわけですね」

「ええ、そうです。もし、閣下が軍を率いられるのであれば、ガルレオン神殿の神殿騎士達をお貸しいたしましょう」

「よろしいのですか?」

「ええ、ガルレオン神の試練に少しでも関わる事ができるなら、それは神殿騎士達の誉れになりますので」


 なるほど。


 その割にヘラルオン神殿の神殿騎士達は全然協力してくれなかった気がする。

 まあ、あっちは「個人の武」だったから、協力しても意味がなかったんだろうけどさ。


 仮想敵の目星がついたところで、オレは神殿をお暇する事にした。


 ――っと、その前に。


「神から黄金の舵輪のようなものの啓示を受けたのですが、心当たりはございますか?」

「ええ、もちろんです」


 老巫女に案内されて中央神殿の礼拝堂へと向かった。


「サトゥー!」


 礼拝堂に行くと、そこで見物していたミーアがめざとくオレを見つけ、トタトタと駆け寄ってきてポフンと抱きついてきた。

 カリナ嬢やシスティーナ王女もミーアに続いてやってくる。


「ミーア達もあれを見ていたのかい?」

「ん、舵輪」


 ミーアが首をねじって、礼拝堂の壁面に飾られた「黄金の舵輪」を見上げた。


「古き神殿の言い伝えに、『舵輪の主、神の船を召きて天空を翔る』とあります」


 老巫女が「黄金の舵輪」の蘊蓄を教えてくれた。


「サトゥー! 舵輪が!」


 カリナ嬢が舵輪の異変を知らせてきた。


 舵輪の周辺に、濃い蒼と金を混ぜたような光がたゆたっている。

 光は明るさを増し、まばゆい光を放つ。


 ――なんだ?


 すさまじい、魔力と畏怖を舵輪から受ける。


 次の瞬間――。


 光は唐突に消え、静寂が場を支配した。


「だ、舵輪が!」


 壁に飾られていた舵輪は光と共に消え去っており、それに気付いた老巫女や神官が狼狽の叫びを上げた。


 だが、焦る必要は無い。


 なぜなら、消えた舵輪はオレの眼前に浮いているのだから。


「巫女殿」


 オレは老巫女に声を掛けながら、目の前に浮かぶ舵輪を掴む。

 なぜか、舵輪がそれを望んでいる気がしたからだ。


 舵輪はオレが触れると同時に大きさを縮め、掌に収まるサイズとなった。


「さて、と――」


 試練終了まで舵輪を借り受ける交渉をしないとね。



※次回更新は 12/17(日) の予定です。


※※2017/12/11 巫覡の間違い指摘が多かったので、その辺りを修正しました。


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