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無職転生 - 異世界行ったら本気だす -  作者: 理不尽な孫の手
第13章 青少年期 迷宮編
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第百二十五話「死闘」

 戦いが始まった。



 大きな部屋にどっしりと構えるヒュドラ。

 その後ろにある魔力結晶。

 その中に閉じ込められているのは、やはり紛れも無くゼニスであった。


 ヒュドラは俺たちの姿を見かけると、ゆっくりと体を起こす。


「よし、いくぜ!」


 パウロが走る。

 犬のように低い姿勢で、風のように速く。

 何もかもを置いてけぼりにする速度で。

 しかし、今回はエリナリーゼも付いていっている。


 その後ろからタルハンド。

 彼の足は遅い。

 俺たちはタルハンドにあわせるように前進していく。


 ギースは俺たちのさらに後方に待機している。

 戦うすべを持たない彼は、この場では役立たずだ。

 ヒュドラのような大型の魔物と戦うための術も無い。

 しかし、彼はいる。

 仮に俺たちが全滅したとき、脱出してその結末を伝えるのも、彼の役割だ。


「らあぁぁぁ!」


 パウロがヒュドラに到達する。

 同時に、ヒュドラの三つの頭が動いた。

 大きさに対して、ヒュドラは素早い。

 首の一つ一つが野生の蛇であるかのように俊敏に動く。


 しかし。

 パウロが一瞬ブレた瞬間、首のうちの一つが切断されていた。


 よし、いまだ。


火球弾(ファイアボール)!」


 杖の先へ、渾身の魔力を込める。

 凄まじい熱量を持つ火の玉がヒュドラへと飛ぶ。


 ――が、ダメだった。


 火球弾はヒュドラに近づくにつれて小さくなり、着弾と同時に消え去った。

 耳に残るのは、ガラスを引っ掻いたような不快音。


「やはり近接してぶち込むしかないか」


 近寄らなければ、倒すことはできない。

 至近距離で火魔術をぶちかまして、傷口を焼き落とすしか無い。


「予定通りですね。ルディ、いけますか?」

「大丈夫です。別に、魔術師としての訓練ばかりをしてきたわけではありませんので」


 口ではそう言いつつも、俺の心臓はバクバクと早鐘を打っていた。

 接近戦は苦手だ。

 俺の接近戦の記憶は敗北に彩られている。

 パウロに始まり、ギレーヌ、エリス、ルイジェルド。

 誰にも勝てず、今の俺がある。

 そりゃ、最近はそれなりに勝てるようにはなってきた。

 リニア、プルセナ、ルーク。

 予見眼を使ったとはいえ、彼らには勝利している。


 しかし、彼らはヒュドラに勝てるだろうか。

 否だ。

 パウロやエリナリーゼといった者達が苦戦する相手に、彼らが勝てるとは思えない。

 つまり、あいつらに勝ったからといって、ヒュドラに勝てる道理は無いって事だ。


 だが、今回は一人で戦うわけではない。

 チーム戦だ。

 パウロもエリナリーゼも、ロキシーもついている。

 タルハンドの力は未知数だが、彼らと同程度ならば役に立たないわけではない。


 俺は全速力で前進し、パウロのすぐ後ろについた。


「ルディ、俺の背中から離れるんじゃねえぞ!」


 目の前から聞こえるパウロの声。

 俺の左側にエリナリーゼが、右側にタルハンドが付く。

 そして背後にロキシーだ。

 まさにイ○ペリアルクロスだな。


「シャアアァァァァ!」


 三つの首が同時に攻撃を仕掛けてくる。

 ヒュドラは4つ以上の首を動かさない。

 そこまでのキャパシティが無いのか。

 それとも、単に他の首が邪魔になるからなのか。

 わからないが、とにかく好都合である。


 エリナリーゼが一つの首をいなし、タルハンドが一つの首を受け流し。

 そしてパウロが一つの首を切り落とす。


 切り落とされた首はビクビクと地面をのたうちまわった。


「いけっ!」

「はいっ!」


 パウロの叫びを聞いて、俺はのたうち回る首に近づき、魔術を放つ。

 火魔術は周囲を明るく照らしながらヒュドラの首に着弾。

 その傷口をブスブスと音を立てながら焼き、黒焦げに変えた。


「どうだ……?」


 俺はバックステップを踏みつつ、傷口を見る。

 まだわからない。

 すぐに別の首が襲い掛かってくる。

 パウロが受け止める。

 エリナリーゼが盾で受け流す。

 視界の端で、タルハンドから血しぶきが上がる。


「くっ!」

「神なる力は芳醇なる糧――『ヒーリング』!」


 タルハンドが傷を負うと、すぐにロキシーが詠唱しながら走っていき、その傷を癒やす。

 全員が俺に攻撃が行かないように立ちまわっている。

 俺が確認するしかない。


「……」


 首は、傷口はどうだ。

 炭化した切断面は再生するのか。

 どうだ。


「……よし」


 再生しない。

 奴の傷はそのままだ。

 以前のように、肉が盛り上がり復活する事はない。


「有効です!」

「よっしゃ!」


 パウロが叫び、次の首を切り落とした。

 俺がその首を焼く。

 凄まじい熱。

 息苦しくなるほどの熱量が俺にまで届く。

 パウロも額に汗を垂らしている。

 だが、これぐらいの火力を出さなければ、切断面を焼けない。

 生焼けでは再生される可能性だってあるのだ。


 この調子でいけば……。


「……っ! カバーを!」


 予見眼がヒュドラの動きを捉えた。

<動いていなかったヒュドラの首が二本、俺を狙う>

 片方は回避出来る。

 しかしもう片方は回避した先を狙ってくるだろう。


「任せなさい!」


 俺が片方の首を避けた所で、エリナリーゼが飛び込んでくる。

 一つの首を弾き飛ばしながら、やや無理な体勢で飛び込んでくる。

 俺とヒュドラの間に自分の体をはさみ、

 自分とヒュドラの間に盾をはさみ、

 ギャリギャリという音を立てながら、俺を守る。


 ピッと、エリナリーゼの血が俺の頬に飛んだ。


「ロキシー! 治癒を!」

「神なる力は芳醇なる糧――『ヒーリング』!」


 ロキシーがすぐさまエリナリーゼの傷を治す。

 そして、二人は何事もなかったかのようにポジションに戻る。


「ルディ! 三本目行くぜ!」

「はいっ!」


 パウロの叫び。

 同時に、目の前に血柱を立てながら落ちるヒュドラの首。

 焼く。

 俺の仕事は焼くだけだ。

 肉を焼く。

 ひたすらに焼くのだ。


 他の事は他の奴に任せる。

 ただ目の前の事に集中する。


 パウロが斬る、俺が焼く。

 エリナリーゼとタルハンドが俺を完璧に守る。

 そして、彼らをロキシーが守る。


 四本目の首を焼き落とした。


 いける。

 そう思った瞬間。

 ヒュドラは動きを変えた。


 唐突に。

 そう、唐突にだ。

 ヒュドラは残る5本の首を、同時に動かして、タルハンドを狙った。


「くぅッ!」

「タルハンドっ!」


 1本目の攻撃を避ける。

 2本目は避けきれない所を、タルハンドが地面を転がるように逃げる。

 その際、ヒュドラの体が掠り、重そうな甲冑の肩の部分が弾き飛ばされ、地面をカラカラと転がった。


 3本目。

 タルハンドは尻もちをついた体勢で、斧を盾にそれを受け止める。


 4本目。

 タルハンドの足に食らいついた。

 タルハンドは一瞬にして宙吊りにされる。


「ぐおおぉ!」


 そして、5本目が、身動きの取れないタルハンドの胴体を食い破ろうと――。


「オラァッ!」


 ドン、ドンと音をたてて首が落ちてきた。

 ヒュドラの首が、だ。

 四本目、五本目が、パウロの斬撃によって切り落とされたのだ。


「すまぬ、助かった!」

「燃やします!」

「神なる力は芳醇なる糧――『ヒーリング』!」


 タルハンドの声、俺の声、ロキシーの声。

 同時に聞こえ、それぞれが別々に動いた。

 ヒュドラの首が二つ、同時に焼ける。


 残り、三本。


「ん?」


 そこで、ヒュドラの動きがまた少し変化した。

 俺たちを恐れるように、よたよたと後ろに下がり始めたのだ。


「いける、押しこむぞルディ!」


 パウロが出る。

 いや、まて。

 罠じゃないのか。

 相手がなにを企んでいるかわからないのに攻めるべきでは……。


 と、思った瞬間。


「なっ!」


 ヒュドラの首の一つ。

 ひときわ大きな首が。


 焼け焦げた首の一つを、食いちぎった。


「なにぃ!?」


 食いちぎられた首は、みるみるうちに再生していく。


「いかん!」


 焼いた断面からは再生できない。

 だが、その断面を食いちぎってしまえば、再生出来てしまうのだ。


「再生させる暇を与えるな!」

「やあああぁぁぁ!」


 エリナリーゼが雄叫びを上げながら走る。走る。

 そしてグラディウスを、再生しかけている首の一つに突き刺し。


「汝の求める所に大いなる氷の加護あらん、

 氷河の濁流を受けろ、『氷撃(アイススマッシュ)』」


 魔術を、再生しかけている首へとゼロ距離で叩き込んだ。エリナリーゼがだ。

 まだ鱗のない、ぶよぶよの肉肌に、氷の塊がぶち当たり、はじけた。

 ザクロのような血を撒き散らせながら、首がのたうちまわる。


「ロキシー!」

「小さな燻りが巨大なる恵みを焼きつくさん『火炎放射(フレイムスロワー)』!」


 いつしか、エリナリーゼに追随していたロキシーが火炎放射を放つ。

 鱗によって威力が減衰していたものの、ヒュドラの首は煙をあげて焼けた。


「よし!」


 パウロが追撃を掛けようとする。

 しかし、ヒュドラは首をさげない。

 大きな体を持ち上げて、天井スレスレまで頭を持ち上げて、こちらを睥睨した。

 残り三本の首、全てで。


 怯えているのか?

 ちがう。

 そんな感じではない。

 なんだ、覚えがある、危険だ。


「何かくるぞ、警戒しろ!」

「はい!」


 パウロの声。

 そこからの俺の動きは直感だった。

 いや、経験によるものと言えるかもしれない。

 俺はこの体勢を、一度だけ見たことがあった。


 ドラゴンが体を直立させ、大きく"息を吸い込む"その姿を。


「ブレスがきます! 俺の近くに寄ってください!」

「おう!」


 パウロが大きくバックステップを踏み、俺の目の前まで来る。

 エリナリーゼとタルハンドが、転がるように俺の足元まで走りこむ。

 ロキシーが抱きつくように飛びこんでくる。 


 俺は水を創りだした。

 分厚い、水の壁を。


 ほぼ同時に、ヒュドラが吐いた。


 三つの首から、凄まじい量の火炎ブレスが降り注ぎ、水壁にぶち当たる。

 凄まじい湯気が発生し、室内の温度がぐんと上昇した。


「……!」


 ドラゴンの火炎ブレスは、凄まじい温度を誇る。

 鋼を簡単に溶解させ、小さな沼を一瞬で蒸発させてしまうほどの。

 それが、三つの首から同時に放たれた。

 並の魔術師には、これを防ぐ術はない。

 五人、いや十人近い魔術師が結集して一つの水壁を作り出せば、あるいは可能だろう。

 それでも無理かもしれない。


 しかし、俺の魔力は並ではない。


「父さん!」

「おう!」


 ヒュドラが首を落とした所に、パウロが躍りかかる。


 ブレスには使用制限がある。

 理由は分からないが、とにかく連射は出来ないらしい。

 体内機関を使っているのか、魔力の溜めが必要なのか。

 理由は分からない。


 ゆえにドラゴンの切り札なのだ。

 それを、三つの首から同時に放った。

 連発はない。


 一つの首ならば、あるいは別の首がブレスを使ったかもしれない。

 だが、奴はそれをしなかった。

 恐らく、他の首が巻き込まれるからだ。


 ともあれ、今がチャンスだ。


「おおおぉぉぉっっ!」


 パウロが首を切り落とした。

 即座に俺が焼く。


 あと、二本。


 太い首と、細い首。

 ひときわ太い方が本体か?

 なら、奴は後回しだ。


「父さん、細い奴を先に!」

「わかってる!」


 パウロが走る。

 エリナリーゼとタルハンドが太い首の相手をしている。

 残り二本となって、かなり楽になった。


「だぁらぁぁぁ!」


 パウロが首を切り落とす。

 俺は即座に火魔術を叩き込む。

 いける。

 残り一本だ。

 勝った。

 ここまでくれば再生の隙は与えない。

 もし最後の首が不死身だとしても、一本ならいくらでも相手を出来る。


 俺が魔術でその首を焼いた瞬間。

 ヒュドラが身震いをするように動いた。

 俺は、その動きが何かわからなかった。

 予見眼には、映っていたのに、わからなかった。

 大きすぎて。


「馬鹿野郎!」

「っ!」


 気づけば、パウロに突き飛ばされていた。

 すぐ目の前を、巨大な何かが通過した。


 もう首は無いはずなのに。

 違う。

 首は"ある"のだ。

 ただ"頭がないだけ"で。


 頭の無くなった首を、ヒュドラはバラ鞭のように振り回したのだ。

 八本の首を。

 おろし金のような硬い鱗で覆われた、一抱えもあるような首を。

 体を振って、一斉になぎ払ったのだ。


「ルディィ!」


 パウロが叫ぶと同時に、俺を再度、蹴り転がした。


 ほぼ同時に、ダァンとでかい音をたてて、俺の真横に何かが落ちた。

 何かが。

 膝をつく俺のすぐとなりに。

 俺がいた場所に。

 俺とパウロの間に。


「う、うおっ!」


 そこに眼があった。

 切羽詰まった眼をしていた。

 追い詰められた眼をしていた。

 ギリギリになって、生き延びようとする眼をしていた。

 ヒュドラの眼が。

 額のあたりから、角のようなものが飛び出している頭が。


「おおおおおおぉぉぉ!」


 俺は反射的に、その眼に左手を突っ込んだ。

 グチャリという音と共に、やけどするような熱が腕に伝わる。

 ヒュドラがまぶたを閉じた。

 鱗に包まれたまぶたが、落ちてくる。断頭台(ギロチン)のように。


 次の瞬間、俺は岩砲弾を放った。


 ヒュドラの頭が爆散すると同時に、まぶたが閉じられた。

 同時にぐいんと上へと持ち上げられる。


 ゴキンという音の後、ブチィという音が脳髄に響いた。


「ろ、ロキシィィ!!」


 痛みをこらえて俺は叫ぶ。

 信頼できる師匠の名を。


「小さな燻りが巨大なる恵みを焼きつくさん『火炎放射(フレイムスロワー)』!」


 その声は、小さく、しかし俺の耳には響いて聞こえた。



 最後の首は、黒焦げになって落ちた。



 ヒュドラの巨体が轟音をたてて、崩れるようにして倒れる。

 土煙を上げて、首の無い死体が、ビクビクと痙攣しながら、地面に横たわった。

 その体から生命が消失していくのを感じられる。

 再生はない。

 最後の首は不死身ではなかったのだ。


「はぁ……はぁ……」


 倒した。

 倒したのだ。


「やった……っつぅ!」


 そう認識した瞬間、俺は左手に激痛を覚えた。

 見て、愕然とした。


「うっ……」


 左手が無かった。


 まぶたについた鱗によって皮と肉を切られ、強靭なまぶたの筋肉によって骨を砕かれ。

 そして最後の一瞬、頭を上げたヒュドラによって、ちぎり取られたのだ。

 動脈からビュービューと血が噴き出している。


「手が、俺の左手……」


 眼だ。

 ヒュドラの頭の中に、俺の左手がある。

 そう思い、先ほどの頭を見る。

 ロキシーの渾身の火魔術によって、炭化した首の跡。


 それを見た瞬間、俺は悟った。


 もう、左手は無い。

 恐らく、探しても見つかるまい。

 あったとしても、探している間に俺の血が。


 ああ、早く治癒魔術を使わなければ。


「奇跡の天使よ、命の鼓動に天なる息吹を与え給え。

 天にいただきし太陽。神なる御使は赤を嫌う。

 光の海に舞い降りて、純白の翼を広げよ。

 さすれば赤は駆逐されん。

 『シャインヒーリング』」


 上級の治癒魔術を詠唱する。

 上級では、失われた部位が元に戻らないのは知っている。

 しかし、上級を使った。

 切断された部分からピンク色の肉がモリモリと膨らんでいき、血が停止した。

 ついでに、顔にあったらしい傷や、パウロに蹴られた時の打ち身も治っていくのを感じる。


「ふぅ……はぁ……」


 息が荒い。

 落ち着け。落ち着け。

 左手を失った。

 だが、ヒュドラはかなりの難敵だった。

 左手だけで済んだ、そう思えば、安いものだったかもしれない。


 ギリギリでパウロが助けてくれなければ、死んでいた可能性も高かっただろう。


「……助かりました、父さん」


 俺は振り返りつつ、パウロの姿を探した。


 返事はない。

 誰もが黙っている。


 エリナリーゼが立ち尽くしていた。

 タルハンドが無言だった。

 ロキシーが口元を抑えていた。

 その後ろから、ギースが顔面蒼白で走ってきている。


 パウロの返事が無い。


「……父さん?」


 全員の視線の先。

 パウロが地面に倒れていた。


 そう、倒れていた。

 上をむいて。

 けど。

 ただ倒れていただけではなくて。

 意識が無くて。

 うつろな眼で。

 そして。


 下半身が無かった。


「……あ?」


 理解できない。


「え?」


 ああ、いや。

 何が起こったのかは、知っている。

 そうだ。

 見てたじゃないか。


 パウロは、俺を蹴り飛ばした。

 俺がいた場所に、ヒュドラの最後の首が迫ってきたから。

 だから、俺を蹴ったのだ。

 人を一人、蹴り転がすためには。

 そう、思い切り蹴らなければならない。

 俺はもう子供じゃない。

 思い切り蹴るには、こう、腰を突き出すみたいにしなければならない。

 普通なら、俺を蹴った反動で後ろに下がれるだろうが、パウロはこの世界の剣士だ。

 有能で、闘気をまとえていて、筋力のある剣士だ。

 つまり、俺を蹴り飛ばしても、自分の位置はそのままで。


 てことはつまり、つまりだ。

 つまり理解、したくない。

 つまりだ。


「あ、なんで?」


 そう言った瞬間、パウロの目がぎょろりと動いた。

 俺と目が合う。


「…………」


 パウロは何も言わなかった。

 ただ、安心したように口元を少しだけ動かして。

 ほっとしたように息を吐いて。

 こぽりと力なく吐血して。


 そして、その瞳は光を失った。








 パウロが死んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何回読んでもつらいです ああパウロ...
[良い点] 来週ついにこの話がアニメ化されるのかぁ …来週父の日じゃね?? ちくしょう!!おのれ孫の手!!
[一言] これルイジェルドいたらもしかしたらパウロも生き残ってたのかな?
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