第百十話「別れの挨拶」
ベガリット大陸。
かの大陸は海を隔てた別の大陸にある。
目的地である迷宮都市ラパンは大陸の東側の内陸だ。
大陸に渡るためのルートは2種類。
中央大陸の端、王竜王国の港町イーストポートまで移動して船に乗る方法。
ベガリット大陸には東側から進入することとなる。
やや遠回りになるが、安全なコースだ。
もう一つはアスラ王国の港町より船に乗り、ベガリット大陸に北側から進入するルート。
ベガリット大陸を横断するため少々危険だが、大幅な時間短縮になる。
位置を考えるに、前者で18ヶ月。
後者で12ヶ月、といったところだろうか。
効率的な移動方法を見つけた所で、7ヶ月以内に往復して帰ってくる事はまず出来まい。
つまり、出産には間に合わない。
懸念はそれだけではない。
今回は人神の助言に真っ向から逆らう形となる。
案外あいつの事だから、俺が逆らう事も想定に入っているかもしれない。
だが真っ向からとなると、やはり話は別だろう。
言ってみれば、中央大陸に渡ってきた時にシーローン王国へと行かないようなものだ。
ザノバとも会えず、リーリャとアイシャは囚われたままとなる。
ただ、その場合は時期がズレるので、オルステッドには会わなくなるな。
そうすれば、今頃はどうなっていただろうか。
特に問題なく難民キャンプにたどり着いて。
やっぱりエリスと一発やって別れたかな?
10年後ぐらいに、リーリャたちの居所をしって、後悔しただろうか。
そう、奴は「後悔する」と俺に言った。
前回の助言も、今回の助言も変わらず、後悔すると。
恐らく時期的なものは関係ないのだろう。
俺はベガリット大陸に行けば、後悔する。
どんな後悔かはわからない。
いくつか想像できるものはある。
例えば、もしかすると……俺はなにかを失うのかもしれない。
右手か、左手か。
それとも、パウロかゼニスの……。
いや、深く考えるのはやめておこう。
どのみち、行かなかったら行かなかったで、
あと1年か2年はもんもんと暮らす事になる。
その結果、誰かが死んだという知らせがきて、
ボロボロになったパウロやギースに責められるなんて事も有り得る。
可能性はいくらでも存在している。
行くしか無いのだ。
後悔するとわかっていても。
---
俺はまず、エリナリーゼに話をすることにした。
シルフィに話して泣かれでもしたら、決心が鈍りそうだしな。
まずは周囲に話す事で、決心を固めたい。
学校の空き教室にエリナリーゼを呼び出す。
そこでベガリット大陸に行くことを告げると、彼女は苦い顔をした。
「あのね、ルーデウス、わたくしはあなたに、残れと言ったんですのよ?」
「ええ、ですが」
口ごもる俺に、エリナリーゼは言う。
「大体あんな手紙、ギースの早とちりかもしれませんのよ?」
「早とちりですか?」
「ルーデウスも知っているようですけど、あの男は大事なことを確認せずに、早とちりで何かをする時もあるんですの」
まあ、そういう事もあったかな。
ギースは真実を語らず、裏で動こうとするタイプではあった。
「今回も、その可能性は十分にありますわ。案外、一ヶ月ぐらいあとに『前言撤回、ゼニス無事』なんて手紙が来る場合もありますのよ」
「その可能性は俺も考えました」
行ってみたらパウロたちがすでに解決している。
入れ違いになってしまう。
そんな可能性は確かにあるが……。
「でも、考えてみると、ギースが俺の居場所を知っているのはおかしいですよね?」
「……は?」
「俺たちが住居を決めて手紙を出したのは、一年半も前。
ギースが半年以上も前からベガリット大陸にいたとして、
どうやって俺たちの居場所を知ってて、手紙を出せるんですか?」
移動するだけで一年近く掛かるのだ。
手紙の移動だって、それなりに時間がかかる。
携帯でメールのやりとりをしているわけではないのだ。
特別な速達便でも、届くのに半年以上だ。
時間が合わない。
もしギースがエリナリーゼと一緒に来て、
すぐに別れてベガリット大陸に移動したというのならまだしも。
ずっとベガリットにいたやつが、どうして俺たちの居場所を知ることができようか。
「恐らく、ギースは父さんたちと合流したんです。
それで俺の居場所を聞いて、例の速達便で手紙を出した」
「じゃあ、なんで差出人がギースなんですの?」
「ギースの独断か、もしくは父さんのプライドでしょうかね」
「プライド……」
エリナリーゼは顎に手をあて、考える。
パウロは俺にあてた手紙にも、後の事は任せろと書いていた。
そのことが邪魔して、助けてくれとは言い難かったかもしれない。
エリナリーゼは俺を見て。
しかし、うーんと考えて。
最終的には、うんと頷いた。
「……仕方ありませんわね。二人で行きましょうか」
彼女の中でどんな葛藤があったのかはわからない。
けれども苦笑しながらエリナリーゼは言った。
まるで、こうなる事はわかっていたとでも言わんげに。
ベガリット大陸には、二人で行く。
そういう事になった。
---
一時間後。
「じゃあ、早速、ルートを決めますわよ」
エリナリーゼは一端自分の部屋に戻り、大きな地図を持って戻ってきた。
旅のため、あらかじめ用意しておいたのだろう。
二人で顔を突き合わせ、地図を覗きこむ。
詳しい道や町の場所も書いていない、大陸の形と山の場所がわかるだけの簡易的な地図だ。
エリナリーゼはこの数日で予め道を調べたのだろう。
ラパンの大まかな場所や、道中の重要拠点に印が打ってあった。
やはり俺の想定したとおり、2ルートだ。
「とりあえず、ラパンに到着するのは早ければ早いほどいいですわ」
エリナリーゼは、近道を指差す。
北から侵入するルートだ。
「でも、北から侵入するルートは危険ですよ?」
このルートは危険だ。
道もわからないし、危険な大陸を横断しなければならない。
俺も魔物との戦いには、そこそこ自信がある。
戦力的に不安はない。
とはいえ、知らない土地はやはり怖い。
「確かルーデウス、闘神語を話せましたわよね?」
「え? ええ。あまりネイティブではありませんが」
「なら、現地で案内人と護衛を雇えばいいんですのよ」
「なるほど」
旅慣れたエリナリーゼの助言に従い、あっという間にルートが決まる。
その後、おおまかな旅の流れを決める。
まず、この町で馬を購入。
荷物はアスラ王国までギリギリの量にしておく。
荷物が重すぎると、移動速度が鈍るからだ。
軽くして距離を稼ぐ。
途中で馬を買い換えつつ、アスラの港町まで体力の続く限り、急いで移動する。
アスラの港町に辿り着いたら、そこで装備や食料等を買い揃える。
とくに食料品は、ベガリット大陸で満足に買い揃えられるとは限らない。
アスラでは物価は高くなるが、食料に関しては確実に揃う。
用意ができたら船に乗り、ベガリット大陸まで移動。
港町で案内人を雇う。
場合によっては護衛も何人か雇う。
この時の交渉はエリナリーゼが行う。俺が通訳だ。
案内人の手引きでベガリット大陸を移動し、ラパンまで移動する。
そこでパウロたちと合流し、問題を解決。
同じルートを通って帰る。
「アスラまでは何度も旅をしてますから大丈夫ですわ。
問題はベガリットに持っていく荷物の選別ですけど……」
何でもかんでも持っていけるわけではない。
馬車とか手に入れば楽だろうが、ベガリットは砂漠が続く土地という事だ。
恐らく何か別の運搬手段があるだろう。
魔大陸でいうところのトカゲみたいな奴だ。
俺の予想だと、ラクダだ。
「そっちは何とか経験で揃えて見せますわ」
「さすが年の功」
「煽てないでくださいまし」
俺も五年ほど冒険者をしていた。
とはいえ、エリナリーゼのような大ベテランに比べればひよっこもいい所だ。
かなりまかせっきりになってしまう。
「わたくし達は体力もあるから、かなり無茶な移動も出来ますわね」
「そうですね」
エリナリーゼはいいだろうが、問題は俺がどこまでもつかだな。
トレーニングは続けているが、旅なれたエリナリーゼの足を引っ張る形にはなったりしないだろうか。
大丈夫だとは思うが。
「このあたりでは長距離に向いた馬が飼育されているから、丁度いいですわ」
目標は二ヶ月以内にアスラ到達。
船旅がどれぐらいかはわからないが、一ヶ月と仮定。
ベガリットはお互い行ったことがないが、きつい土地らしいので、半年を目標に移動。
……片道8ヶ月だ。
想定よりかなり早いな。
魔術を使えばもっと短縮できるような気もするが、
素人の浅知恵で何かをやって失敗すれば、余計に時間が掛かる可能性もありうる。
ここは確実に到着しておきたい所だ。
そのほか、道中で気をつけるべきことなどを、一つ一つ確認していく。
エリナリーゼは、流石ベテランという所だろう。
俺との認識の違いを無くし、旅の間に齟齬や意見の食い違いがないように。
くだらない言い争いで一日がつぶれる事が無いように。
細かい所まで、一つずつ確認した。
「問題は」
最後にエリナリーゼは顎に手を当て、難しい顔を作った。
大体、決まったと思うのだが、何かあるのだろうか。
「わたくしの、呪いの事、ですわね」
「ああ……」
男と性行為をしなければ、彼女は死んでしまう。
気ままに旅をするならいい。
寄った町で、適当に相手を見繕えばいい。
長旅になるなら、どこかのパーティにくっついて行くのもありだろう。
が、急ぐ旅では、どうしても出来ない時が来てしまう。
「……」
「…………」
お互いに黙ってしまう。
解決方法はある。
俺が相手をすればいいのだ。
俺も男だ。
大学に通う前、エリナリーゼとパーティを組んでいた時とは違う。
相手をしろと言われれば、相手をするぐらいはできるだろう。
だが俺は、シルフィもクリフも裏切りたくない。
「旅の間、俺とエリナリーゼさんはしない」
「ええ、そうですわね」
「途中で、娼館か何かを利用するという事にしましょう」
旅の間、互いに手を出さない。
そこは明確にしておこう。
そうしなければ、なし崩しでズルズルいっちゃいそうだし。
「そういえば、例の魔道具は? 呪いの効果を弱められるんでしょう?」
「あれを持ち出すとなると、クリフが……」
「クリフに話してないんですか?」
エリナリーゼはクリフに黙って出て行くつもりだったのだろうか。
それはいくらなんでも、クリフが可哀想じゃないだろうか。
「クリフには話さないとダメでしょう」
「でも、わたくし……」
「俺に任せてください。悪いようにはしませんから」
俺達は、クリフのところへと向かった。
---
クリフの研究室。
クリフは俺達を見ると、満面の笑みで例の魔道具を見せてきた。
「見てくれ、少し改良して小さくなったんだ。これで、長時間穿いていても股がこすれて痛くなることは……」
「クリフ先輩、エリナリーゼさんの事を愛していますか?」
俺は言葉をさえぎって、単刀直入に尋ねた。
クリフはきょとんとした顔で俺を見ている。
「当たり前だろ?」
昨日、飯食ったか? と聞かれたような顔だ。
流石だな。
「何があっても愛し続けますか?」
「当然だ。僕はリーゼを愛している。君だって知ってるだろ?」
「その言葉が聞きたかった」
俺は状況を説明した。
自分の家族が窮地に陥っている可能性があること。
自分の父親はエリナリーゼとも関係深く、助けに行きたいこと。
長旅になること。
その間、エリナリーゼが他の男と関係を持つ可能性が高くなる事。
その他、色んな事を話した。
「……」
クリフは、話が進むにつれて、押し黙った。
そして、ポツリと言った。
「……僕が一緒にいくと、足手まといなんだな」
ズバリそうなのだが、しかし答えにくい言葉である。
答えたのは俺ではなく、エリナリーゼだ。
「そうですわ。正直、クリフの体力では持ちませんわね」
エリナリーゼは、いつもならもっとオブラートに包むだろう。
しかし、今回はハッキリと突き放すように言った。
「そうか……」
クリフは、悔しそうに視線を落とした。
そのしぐさが、胸に刺さる。
彼の心中はいかほどのものだろうか。
旅に出れば、エリナリーゼは他の男と性行為を行わなければいけない。
いくら心がクリフを向いていると言っても、
クリフが呪いの事を理解していると言っても。
やはり辛いものだろう。
「ねぇ、エリナリーゼさん、やっぱりクリフ先輩にも来てもらいましょう。
彼は結界魔術も使えますし。神撃も上級です。
確かに体力はないかもしれませんが、きっとどこかで役に……」
「いや、いいんだルーデウス。
前に一緒に冒険に行った時にも、僕は足手まといだった。
きっと、今回の旅についていっても、邪魔になるだけさ」
そういって、クリフは俺の手に、例の魔道具を乗せた。
「ルーデウス」
「はい」
「リーゼを頼む」
正直もっと、わめくかもしれないと思っていた。
けれど、やはりクリフは俺が思っている以上に、自分の力を理解しているらしい。
「リーゼ」
クリフはエリナリーゼのほうを向き直る。
そして、やや彼女より低い背を伸ばし、そっと抱きしめた。
「クリフ……」
二人はそのまま、ぎゅっと抱き合う。
「リーゼ。帰ってきたら、式を挙げよう。
呪いはまだ解けてないけど、二人で家を買って、一緒に住もう。
今まで、そうしなかったから、不安にさせてしまったんだろ?
口だけじゃないかって」
「ああ、クリフ、でもわたくしは酷い女ですのよ。今回も、実はあなたに黙っていこうとしていましたのよ」
「結婚式は、ミリス式になるけど、いいか?
リーゼはミリス教徒じゃないけど……」
クリフはエリナリーゼの言葉を意図的に無視したのだろうか。
ともあれ、エリナリーゼにとってはそれでよかった。
彼女はそんなクリフの言葉だけで、感極まってしまったらしい。
「ああ、クリフ……愛してますわ! この世で誰よりも!」
エリナリーゼが、クリフを押し倒した。
クリフの上半身が裸に剥かれたあたりで 俺は研究室を出た。
ここから先は二人の時間。
邪魔者は退散しよう。
しかしクリフめ、結婚の約束とは不安になることをしてくれやがる。
---
その他、関係各所に挨拶に回った。
一年半は戻ってこられない。
向こうでのトラブル如何では、二年は掛かるだろう。
二年は長い時間だ。
あいさつ回りだけはしっかりしておかなければいけない。
最初に向かったのは職員室。
ジーナスの所だ。
事務的な手続きだけは先にしておかなければなるまい。
彼は相変わらず書類の束を前にして、精力的に働いていた。
「どうも、ジーナス教頭」
「ああ、これはルーデウスさん。お久しぶりです。
聞きましたよ、セブンスターさんの所で大規模な実験に成功したとか」
「ええ、ザノバとクリフの手伝いのお陰ですね」
「そうでしたか」
例の実験の話はジーナスにも伝わっていたらしい。
そういう情報は案外入ってくるものなのか。
「それで、本日は?」
「はい、二年ほど、留守にしようと思いまして、その手続きを」
「二年もですか?」
「少々、立て込んでいましてね」
「そうですか……」
理由を言わない理由もないのだが、ジーナスはそれ以上追求してこなかった。
「わかりました。休学の手続きをしておきますので、帰ってきたら、また私の所に顔を出してください」
「二年も休学して、大丈夫なんですか?」
「普通の生徒であればよくない所ですが、特別生なら特例で許されます」
普通なら退学だろうしな。
「ありがとうございます」
「いえ、そのための特別生制度ですから」
「では、ついでにエリナリーゼという人も休学扱いにしておいていただけますか? 彼女は特別生ではありませんが、僕の都合で護衛してもらうつもりですので」
「そうですか……わかりました。なんとかしてみましょう」
ジーナスは快く請け負ってくれた。
ありがたい話である。
俺はジーナスに礼を言って、職員室を後にした。
---
職員室を出てすぐ、リニアとプルセナに鉢合わせた。
二人は俺の姿を見つけると、手を上げて近づいてきた。
二人にも、2年ほど留守にすると話す。
「そうか、寂しくなるニャ」
「二年だと私達、卒業しちゃうの。もう会えないの」
言われて気づいた。
彼女らは六年生。あと二年で卒業なのだ。
大森林へと帰るのだ。
その別れに立ち会えないというのはさびしいな。
「そうですね……」
そういえば人神は、この二人と関係を持てといった。
あと2ヶ月ぐらいして発情期がくれば、そういう展開になるのだろう。
二人をよくみてみる。
「なんニャ、なんか付いてるか?」
リニア。
ぴくぴくと動く猫耳とフラフラうごく尻尾、健康そうな太ももが特徴的。
胸のサイズも大きい。DかEぐらいか。
獣族はみんな大きいので、平均的なのだろう。
健康的な巨乳ちゃん、という感じだ。
ベッドの上でも、生意気な反応を見せて楽しませてくれそうだ。
「すんすん……もしかしてボス、会えなくなるなら一回ぐらい、とか思ってるの?」
プルセナ。
柔らかそうな犬耳と、むちむちボディが特徴。
獣族の中でも犬系は大きいのか、胸はFぐらいあると思う。
何度か揉んだけど、相当柔らかい。
彼女に埋もれるように抱きつけば、それはもう気持ちいいのだろう。
「失礼。先日、ある方から、二人が発情期になったら押し倒してしまえ、とアドバイスを受けましてね。その事を思い出して」
「マジか、ボス、その気あったのかニャ?」
「誘惑しても乗ってこないから、嫌われてると思ってたの」
二人はあっけらかんとしつつ、ニヤニヤと笑った。
彼女らと子作りをする。
しかも、人神の言い方では、シルフィがそれを咎めないようだ。
妊娠中だからか、それとも修羅場の末に収まるのかはわからない。
だが、より幸せになるという事は、俺にとって都合のいい結果に終わるのだろう。
シルフィに操を立てた身だが、俺も男だ。
やはり少し惹かれる。
ハーレムは男の夢だしな。
彼女らを側室に迎えて、シルフィと4P。
そういう未来もあったのだ。
「リニア、プルセナ」
「はいニャ」
「はいなの」
呼びかけると、二人はやや緊張の面持ちで俺を見ている。
「友達でいましょう」
二人は相好を崩した。
肩をすくめて、両脇から脇腹を突いてくる。
「……しょうがないニャ。ボスは寂しがり屋ニャんだから」
「友達でいてあげるの、裏切ったら嫌なの」
俺は二人と握手を交わした。
思えば、握手をしたのは初めてだったかもしれない。
女友達か。
男と女の間に友情は成立しない、なんて話は聞くが。
まあ、多少性欲が混じっても、友情は友情として成り立つさ。
大切なのはお互いの距離感というものだ。
「じゃあ、また会いましょう。十年後になるか、二十年後になるかわかりませんが」
「そうニャ。十年もしたらあちしら偉くなってるから、せいぜいひれ伏すがいいニャ」
「大森林を征服するの」
野望を語る二人に、俺は「下克上されない事を祈りますよ」と、一言言って別れた。
運がよければまた会えるだろう。
---
ナナホシの研究室の前にやってきた。
どうやって切り出すべきか。
彼女は寂しがり屋だ。
つんつんとした態度とは裏腹に、大量の「寂しい」が陳列されている。
2年も留守にする。
となれば、研究も滞る。
彼女が帰るまでの時間も遅くなる。
当然ながら、引き止められるだろう。
なんのかんのと理由をつけて。
脅されたりもするかもしれない。
もし旅立つならシルフィを×す、とか言われたらどうしようか。
そこまでヤンデレじゃないとは思うが。
「ふぅ……」
一つ息を吐いて。ノックを一つ。
「どうぞ」
返事を待ってから、研究室に入った。
ナナホシは机から顔を上げ、こちらを見ている。
「なに? いつもと時間が違うけど」
「実は、一つ残念なお知らせをしにきました」
「残念なお知らせ?」
ナナホシが怪訝そうな顔をする。
まあ、どう言おうとも変わらんな。
ありのままを言おう。
「旅に出ます。家族がピンチなので。
ベガリット大陸の迷宮都市ラパンまで。
往復で、約二年ほど」
「……えっ」
しばらく呆然とした後、
ナナホシはガタンと椅子を蹴って立ち上がった。
机の上に手を付き、呆然とした顔で俺を見ている。
「…………ベガリット、迷宮都市ラパン、二年……?」
俺の言葉を、反芻するように繰り返す。
「手伝うと言っていたのに、申し訳ありません。
でも、どうしても行かなければならないんです」
ナナホシは、俺の言葉に目を見開き、ぐっと息を飲んだ。
そして、ガタンと椅子に座り、天井を仰いだ。
「二年……」
「帰ってきたら、きちんと研究の続きをします」
「……二年」
ナナホシは腕を組み、二年としか言わない。
それ以上、何も言わない。
引き止めもしないし、喚いたりもしない。
ただ、何かを考えるように、天井を見ている。
そのまま、五分ほど時間が流れた。
なんとも居辛い時間が。
「では、失礼します」
仕方がない。
彼女とて、俺があくまで好意で手伝っているのはわかっているはずだ。
本当は引き止めたいだろうに、
我慢してくれているのだ。
俺は踵を返し、
「待ちなさい」
という声で、足を止めた。
正直、あまり話はしたくない。
止められるのはわかってる。
でも、きちんと話しておいた方がいいだろう。
そう思い、振り返る。
ナナホシは机の一番下の段から、何やら冊子のようなものを取り出していた。
それをパラパラとめくり、あるページを俺に開いてみせた。
「これを見て」
言われるがまま覗き込む。
冊子には、地図の切れ端が貼り付けてある。
地図の方は見覚えがある、この町の周辺だ。
とはいえ、やや縮尺がでかいか。
地図の上部には、大きく「N1」と文字が書いてあった。
南西にある森に、赤い×印が打ってあった。
×印の上には、「B3」という文字が書かれている。
「これは?」
「…………」
ナナホシは、明らかに迷っていた。
言うべきか、言わざるべきかを。
しかし、最終的には、言った。
「世界各地にある、転移魔法陣の遺跡の場所を記した地図よ」
転移魔法陣?
「えっ?」
俺は再度、冊子へと目を落とす。
『B3』の文字。
これはもしかして。
「ベガリット大陸への、転移魔法陣よ」
「おま……」
そういえば。
そういえば、ナナホシは、オルステッドと一緒に旅をしていたと言っていた。
確か、世界各地に散らばる転移魔法陣を利用して、あちこちに。
「場所は覚えていないって……」
そうだ。ナナホシは転移魔法陣の場所を覚えていないと言ったはずだ。
「オルステッドに口止めされていたのよ、口外するなって。
その時は、どうせ覚えられないから、言えっこないって言ったんだけど……」
でも、いざという時のために記録に残したのか。
その土地、その土地でこっそりと地図を買い、あるいは手書きで地図を書いて。
さりげなく、オルステッドに土地の名前を聞き出して。
近くの町や、大体の位置を覚えて……。
記憶ではなく、記録に。
俺は冊子をパラパラとめくる。
完成度は低い。
地図を買えなかったり、町にすらたどり着かなかった所は「左手に山が見える。恐らく東へ3日、川を一つ渡り、さらに2日」という書き方をしている。
アルファベットは大陸名を表し、番号は通過した順番を書いているようだ。
Nが中央大陸北部。
Sが中央大陸南部。
Wが中央大陸西部。
MTが魔大陸。
MLがミリス大陸。
天大陸はさすがに無いのか。
そして、Bがベガリット大陸。
どこの大陸か分からない所は、XやYのアルファベットが用いられている。
ナナホシの努力の後が伺える一冊だった。
「ラパンという町の名前は確かに聞いたわ。覚えている。この転移魔法陣の近くにあるバザールから、北へ一ヶ月ぐらい移動すればたどり着けるって。だから、間違いないはずよ」
「一ヶ月……だと……」
先ほどのページに戻る。
ラノア王国・魔法都市シャリーアから、南西の森まで。
この地図の縮尺だとわかりにくい。十日ぐらいの距離か?
もっと近いかもしれない。
そこにある、魔法陣を使って『B3』の位置へ。
冊子をめくる。
『B3』は前のページだ。
『B3』の魔法陣から近くにある町まで、一週間ぐらいか。
そこから一ヶ月という事は……。
47日。
往復で、94日。
たったの三ヶ月で往復できる。
向こうで、一ヶ月で事を終わらせれば……。
4ヶ月。
間に合う。
間に合ってしまう。
シルフィの出産に。
リニアとプルセナの発情期には間に合わないが、それはまぁどうでもいい。
「でも、いいのか? 口止めされてたんだろ?」
「迷ったけど、あなたにはこの間、お世話になったし。
でも、あまり言いふらさないでほしいわね。
転移魔法陣は禁術だから、世間に広まればすぐに国に潰されるもの」
潰されると、オルステッドの移動手段が減るわけか。
怒られるのは、広めたナナホシか、俺だな。
オルステッド……。
その名前を思い浮かべるだけで震えが走る……。
俺は言わんぞ、誰にもな。
「ありがとう、ナナホシ。助かるよ」
「私は早く帰りたいだけよ」
ナナホシは、そう言って、ふんと鼻を鳴らした。
ツンデレで困る。
俺は冊子を手に取り、深々と頭を下げる。
そして、意気揚々と踵を返した。
「あ、言い忘れてたけど、最初のページに、魔法陣のある遺跡の目印と、隠蔽魔術の破り方が書いてあるから、ちゃんと読んでおきなさい」
「了解。恩に着ます」
「私は恩を返しただけよ」
ナナホシの言葉に苦笑しつつ、俺は研究室を後にした。
---
そして、エリナリーゼの所へと戻る。
はやく戻れる。
朗報だ。彼女も喜ぶだろう。
旅の計画も変更しなければならない。
一ヶ月半だ。
もしかすると、クリフだって連れていけるかもしれない。
もちろん、シルフィのお産にだって余裕で間に合う。
口元が緩む。
ペシペシと頬を叩きつつ、クリフの研究所の扉を開けた。
次の瞬間、俺の目にルネサンスな感じのヴィーナスが飛び込んできた。
「ごめんなさいルーデウス。わたくし、やっぱり行けませんわ!」
エリナリーゼがヘタれていた。
モデルのような肢体に毛布を巻きつけた悩ましい格好で。
エリナリーゼのナイアガラの滝のような胸と、スラリとした均整の取れた体は芸術的に思える。
だが、芸術的な何かはまったく感じない。
ただ単純にエロいだけだな。
大体、俺に芸術なんてものはわからん。
フィギュアにすればエロカッコイイだろうと思うだけだ。
クリフは研究室の隅の方で、ファラオのようになっている。
ミイラだ。
顔は幸せそうだ。
こっちの方がよっぽど芸術的だ。
性と死の狭間、とかそんなタイトルがつきそうだ。
「二年もクリフと離れ離れになるなんて耐えられませんわ!
不義理とわかっていても、私は行きませんことよ!」
女は感情で生きる生物。
そんな一文が頭をよぎった。
「大体、ルーデウスが行くならわたくしが無理に行く必要はありませんわよね?
わたくし、まだパウロとはわだかまりがありますし?
わたくしとは顔なんて合わせたくないでしょうし?
ルーデウスが行くなら、初産の孫娘を守るのはわたくしの仕事でしょうし?」
「……」
そこに「後のことは任せて待っていろ」とカッコよく言い放った女の影はない。
実に女々しい。
きっと、この数時間の間に、よほど気持ちのいい楽園にでも行っていたのだろう。
「そうですか。実は、最短三ヶ月で往復できる方法が手に入ったのですが……」
「えっ!?」
エリナリーゼが動きを止めた。
「なんですの、それは」
俺はクリフが寝ているのを確認した後、エリナリーゼに耳打ちする。
「実は、ナナホシが……」
「あっ、み、耳はだめですわ、感じちゃう」
「真面目に聞けよ」
「じょ、冗談ですわ」
俺はナナホシの冊子を見せて、概要を説明した。
そしてナナホシから、これについて固く口止めされている事も。
エリナリーゼは冊子をパラパラとめくり、驚愕を隠せないようすだった。
「たったこれだけの日数で……」
「そうです、これなら、シルフィの出産に間に合う」
「……いけますわね」
片道、一ヶ月半。
長い旅ではない。
エリナリーゼの目の色も変わっていた。
この日数なら、という顔だ。
「まあ、これなら問題ありませんわね。やっぱり行きますわ」
気が変わったらしい。現金なものだ。
でもまあ、やっぱり二年は長いもんな。
「一ヶ月半なら、体力的にクリフ先輩を連れて行くのもありですよ」
「……いえ、クリフは置いていきますわ」
「いいんですか?」
「クリフきっと、転移魔法陣のことを知ったら、言いふらしちゃいますもの」
いや、クリフ先輩はそんな人ではないはず。
ないはずだが……。
でも、俺の知り合いの中で一番ポロッと漏らしそうな人でもある。
うむ。やはり大人数で行くのはまずいな。
知る人が増えれば、それだけ秘密も広まりやすい。
だが窮地というからには、実力のある人を連れて行きたい。
少数精鋭だな。
連れて行くのは例えばそう、ルイジェルドとかだ。
あの人ほど頼りになる人物はいない。
寡黙だから、誰にも転移魔法陣のことを漏らさないだろう。
もしくはバーディガーディだ。
千年単位で生きている奴なら、転移魔法陣の事も実は知っていたかもしれない。
オルステッドの事も知っているようだし、話しても問題はなさそうに思える。
まあ、どっちも最近見ないから、頼めないのだが。
となると、他につれていけそうな人物は……いないな。
ザノバもあまり旅には慣れてなさそうだし。
……そうだ。
いっその事、向こうで手が足りなかったら、呼びに戻るというのも手だな。
今は未知の道程を歩くがゆえに警戒しているが、
一度通った道なら、誰かを連れて歩くのもそう難しくはない。
転移魔法陣の事を話すことになるが、背に腹は変えられない。
往復で三ヶ月だが、逆に言えば三ヶ月で確実に人手が足りるのだ。
「とりあえず、二人で行きましょうか」
「さっと終わらせて、さっと帰りますわよ」
こうして、エリナリーゼの一時の気の迷いは晴れた。
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そして、最後にシルフィに話をする。
自宅のリビングに、シルフィとアイシャ、ノルンを集めて。
俺は切り出す。
「父さんと母さんを助けに行こうと思う」
シルフィは小さな声で「えっ」と呟き、不安げな色を見せた。
面食らったような顔だ。
しかし、すぐに首を振り、真面目な顔で頷いた。
「うん、わかった。家の事は任せて」
「突然いなくならないって約束、守れなくてすまない」
「守ってるよ。全然、突然じゃないしね」
シルフィははにかみながら微笑んだ。
しかし、その笑顔は、若干作り物めいた感じがする。
なんだかんだ言って、彼女も動揺しているのだろう。
少々いたたまれない気持ちになる。
「えっと、どれぐらい掛かるのかな? 二年ぐらい?」
「いや。実は、ナナホシの協力で、転移魔法陣を使わせてもらえる事になった。だから、出産までには戻れると思う」
転移魔法陣の事は話しておく。
シルフィに話さず、一体誰に話せというのか。
「えっ!」
シルフィは驚いた顔で俺を見る。
そして、やはり不安な顔になった。
「転移って、大丈夫なの?」
お互い、例の転移事件では苦労した。
そういう言葉も出てこよう。
「わからん。でもナナホシも実際に使ったみたいだし、大丈夫だとは思う」
「う、うん」
シルフィはまだ不安げな顔だ。
俺は彼女を抱き寄せて、耳元で囁いた。
「大丈夫、絶対に帰ってくるから」
「うん」
「ごめんな」
「ううん」
後を任せる、というのも信頼の証だ。
シルフィの後ろに立つ、メイド服の妹にも声をかける。
「アイシャ」
「お兄ちゃん……」
アイシャはシルフィよりも不安そうな顔をしていた。
「頼めるな?」
「大丈夫……だと、思う。妊婦さんの事、お母さんにきちんと習ったから」
「ダメだと思ったら頼れそうな奴に頼るんだ。
何でも一人でやろうとするな。お前は優秀だけど、まだ経験が浅い。
経験のある大人に、手伝ってもらうんだ」
「は、はい」
アイシャが頷く。
少々不安は残るが、仕方あるまい。
物事に完璧はない。
「ノルン」
「はい」
「アイシャやシルフィが一杯一杯だと感じたら、それとなく助けてやってくれ。
話や愚痴を聞いてやるだけでもいい。
精神的な辛さってのは、お前もわかるだろう?」
「はい! 兄さん!」
「あと、勉強もおろそかにしないように」
「はい!」
ノルンがなんだか張り切っている。
張り切りすぎてアイシャと喧嘩しないようにしてもらいたいところだ。
さて、あとはなんだろう。
何を言っておくべきだろうか。
「……そうだ、子供の名前だけでも、行く前に決めていこうか」
帰ってくるつもりではある。
だが、万が一という事も有り得る。
せめて名づけぐらいはしておいた方がいいだろう。
どんな名前にしようか。
この世界は中二病系がカッコイイとされるから、それ系にするか。
女だったらシエルとかシオンとか。
……男だったらネロとかワラキアとか。
いやいや、ゲームじゃないんだから。
えーと、ルーデウスとシルフィの子供だから。
男だったらシウスとか、シリウスとか?
女だったらルーシィとか、ルルシィとか?
安直すぎるかもしれない。
パウロあたりにこの世界の名づけについて聞いた方がいいかもしれないな。
ふと見ると、三人は微妙な顔をしていた。
「な、名前って、ルディ……」
「お兄ちゃん、なんでそういう事いうの?」
「兄さん……」
みなさん不安げな目だ。
アイシャに至っては、目の端に涙をためている。
何か変な事を言っただろうか。
この世界では、子供の名前は生まれるまで付けてはいけないとか、あるんだろうか。
「旅に出る前に子供に名前なんて付けたら、帰ってこれないよ……」
シルフィの顔は不安げだ。
この世界の死亡フラグを、俺だけが知らない。
あ、いや。
思い出した。
そういえば、ペルギウスの伝説にそういう一幕があった。
ペルギウスの仲間の一人、『幸運の男』火帝級魔術師フロウズ・スターが、戦から帰ってこられないかもしれないと、旅に出る前に子供に名前をつけたのだ。
それも、自分と同じ名前を。
フロウ・ジュニアと。
しかし、フロウズ・スターは戦いの途中で命を落とす。
己の息子の事を思い浮かべつつ、魔王ライネル・カイゼルの手により、打倒される。
その息子は、偉大なる父親の名を継いで、立派な魔術師へと成長していく。
と、物語ではなっているのだが、実際はかなり落ちぶれてしまったという話だ。
そんな逸話が有名であるがゆえか、
旅に出る前に妊娠した己の子供に名前をつけるのは、あまりよくない事とされている。
別に名前をつけた事が原因でフロウズが死んだわけではないのだが、
まぁ、縁起を担ぐって奴だな。
「……やっぱ、今はまだ決めない方が、いいか?」
「ど、どうだろうね」
「でも、俺も名付けに参加したいな……万が一の事を考えても……」
「万が一とか、言わないでよ」
「すまん」
なにせ、初めての子供だ。
まだ実感はあまりわいてないが、名前ぐらい付けてみたい。
「こほん」
アイシャが咳払いをした。
何か策があるらしい。
「お兄ちゃん。こうしましょう。
子供が生まれたら、ルーデウス・ジュニアと呼ぶことにして、
お兄ちゃんが帰ってきたら、その時点で名前をつけるのです。
かの北神カールマンのように、『ルーデウス』をミドルネームにすればいいのです」
ルーデウス・ジュニアか。
この世界では、自分と同じ名前を息子に付けるのは、それほど珍しくもない。
例えばルーシィという名前をつけたら、ルーシィ・L・グレイラットになるわけか。
悪くは無いな。
偉人と同じことをする、と思うと妙な恥ずかしさはあるが……。
わりと皆やってる事みたいだしな。
ん?
まてよ、もし女の子で、しかも俺が帰ってこれなかったらどうするんだ。
一生ルーデウス・ジュニアなのか?
名前でグレちゃわないか?
名前でからかわれて、ルーデウスが女の名前で何が悪いんだ! って怒鳴って殴りかかる子に成長しちゃうんじゃなかろうか。
いや、まさか、どっかの狂犬じゃあるまいし。
……うん、帰ってくればいいのだ。
「わかった、そうするか。シルフィ」
「はい」
「……えっと」
俺はシルフィに何か言おうと思ったが、
しかし言葉が見つからなかった。
こういう時、何を言っても嫌な予感のする言葉になりそうだったからだ。
「シルフィ」
俺はシルフィの正面に立つと、両肩に手を置いた。
「えっ……あ」
シルフィは察して、目を閉じた。
顎をくっと上げて、手を胸の前で組んで、ぷるぷると震えている。
別に初めてじゃないんだけど、こういう感じで畏まってするのは初めてかもしれない。
ちらりとアイシャを見ると、なんか身を乗り出してこっちを見ている。
ノルンは目を手で覆いつつ、指の間からこっちを見ている。
二人にバチっとウインクを一つする。
すると、ノルンは指をパッと閉じた。
対するアイシャはパチパチっとウインクを返してきた。
オチャメなやつだな。
そんなにキスシーンが見たいか。
まあ、こういう時ぐらいはいいか。
俺はシルフィにそっとキスをした。
アイシャのキャーという小さな悲鳴を聞きながら……。