忍び装束
「忍者刀に鎖鎌、手裏剣にクナイ!さすが忍者の里だねぇ!」
「こっちは忍装束に鎖帷子ですね。」
少年のようにはしゃぐラングとそれにくっついて周るロゼさん。一見すると買い物をしているカップルのように見えるが、買おうとしている物がやばすぎるな。リアルだったら通報されてるレベル。
「こっちは【忍術】に【火遁】【水遁】【木遁】【土遁】の【技術巻物】が!素晴らしい!!」
「まきびしもありますね。どれほどの効果があるんでしょうか?」
・・・さっきから煩いぞラング。店の中では静かにしろ。・・・いや、俺も興味は過分にあるんだけどね?
俺たちはハンゾウ殿と別れた後、教えてもらった店に来ていた。理由は言わずもがな、忍者装備とスキルを買い付けるためである。里の外をうろついている亡霊武者がそこそこのレベルのためか、売っている武器は防具は結構高品質だ。と言っても☆8程度だが。一応買う。・・・手裏剣とかクナイとかあこがれるじゃないか。
忍者刀は刀に分類されるため、【刀術】スキルを使うことが出来る。【侍ギルド】が関係していたのは【刀術】スキルが関連しているんじゃないかと言うのがラングの談。早速クランメンバーに確認してみるようメールを出していた。手裏剣は投擲武器、クナイは投擲武器と短剣に分類されるらしい。鎖鎌は鎌と投擲武器だ。一つの武器で複数の効果を兼用というのはあまり無いらしい。ロゼさんが鎖鎌に興奮しているように見えるが・・・大丈夫なのか?
俺が気になっているのはスキルのほうだ。【忍術】は皆さん予想通り【分身の術】が使えるらしい。詳しい効果は試してみないと分からないが、敵を翻弄する技らしいから幻みたいな物なんだろう。【火遁】【水遁】【木遁】【土遁】は言ってみれば魔法のようなものだが、BPを消費して使うスキルだ。魔法とは参照ステータスが異なるようなのでこちらも試してみるのが楽しみだ。
とりあえず、【忍者】クラスは取得した。スキルも装備も手に入った。やるべきことはとりあえずやったんだがなぁ。・・・先ほどのハンゾウ殿との会話が思い出される。
===回想===>忍の里・長の屋敷
「亡霊武者というのは亡霊とは呼ばれておるが、実際には魔物の邪気が死体に憑り付き、さ迷っているに過ぎん。故に肉体を滅すれば倒すことが出来る。しかし、この樹海は今だ多くの亡霊武者がさ迷っている。つまり・・・」
「それだけ多くの犠牲者が出たということですか。」
ハンゾウ殿が神妙に頷く。神様が出張ってくるほどの魔物だからな。おまけに倒すことが出来ず封印したって言うんだから言わずもがな。
「我ら忍の者は魔物の封印が解けぬよう見守る役目を受け、この地に留まっておるのだ。ただし、封印自体は他言無用。言えば邪なる者が封印を解こうとするやもしれん。故に封印の地や封印の要となる社も秘匿されてきたのだ。」
・・・ふむ、ここまでは大体予想できてたな。それぐらいの理由が無いとこんな物騒な場所で暮らすことなんてできないだろう。・・・となると気になるのは・・・
「では、あの【ヤタガラス】については?」
「・・・正直分からぬ。【ヤタガラス】は導きの神と呼ばれ、力ある者を導くとされている。噂では、この地のみならず様々な場所に現れていると聞く。」
・・・ということは、あの【ヤタガラス】はこの地で暮らしているとか言うわけではないのか?他の場所でも目撃されているなら俺たち以外のプレイヤーも見た奴がいるかもしれないな。俺はチラっとラングを見ると、ラングは頷いた。調べておく、と言うことだろう。
「そして、【ヤタガラス】が現れた地では凶事が起こるという。それを治める事ができる者を導いて来るとも。・・・【ヤタガラス】がこの地を訪れたのも何かの予兆なのかもしれん。」
・・・それは出来れば聞きたくなかったなぁ。ラングが少年のように目をキラキラさせているじゃないか。
「アルク殿、お主が【ヤタガラス】に導かれし者ならば、何かの災いに巻き込まれるやもしれん。その時は里を挙げて助けとなろう。代わりと言ってはなんだが、里に災いが降りかかるような事があれば手を貸していただきたい。」
ハンゾウ殿が頭を下げるが・・・まあ、良いか。もう既にフラグ立ってしまったっぽいし。里を見捨てる事もできないしな。・・・うーむ、NPCに感情移入してしまってるな。だって彼らの話し方から何から人間そのものなんですもの。
「勿論です。俺でよかったら喜んで力になりますよ。」
「おお!それは助かりますぞ!!宜しく頼みますぞ!!」
こうして俺とハンゾウ殿は固い握手を交わした。・・・後ろでラングがウンウン頷いているがお前も巻き込むからな?
===回想終了===>忍の里・【転移装置】前
「とりあえず今日の所はこんな所かな?僕とロゼはさっそくホームに戻ってメンバーに報告しないとね。皆喜ぶよ。」
掲示板でもそうだったが【インフォガルド】の中にも忍者ファンみたいな物が一定数いるらしい。中には忍者になるために情報系クランに所属する強者もいるとかいないとか。
「本当に【インフォガルド】で情報を公開しても良いんですか?アルクさん。」
ロゼさんが心配そうに聞いてくるがあいにく俺には独占しようなんて思いは無い。
「ああ、そのうちばれるのは目に見えてるしな。」
代わりに大勢のプレイヤーが【インフォガルド】に押し寄せてくるかもしれんが、情報系クランの宿命として諦めてもらおう。正直、俺のところに来られても困るからな。
「まあ、そこまで心配しなくても、直ぐに情報公開とはならないさ。僕達で検証したい事は山ほど残ってるし、それに・・・」
「イベントがまだありそうだ、だろ?・・・明日も来るのか?」
「勿論だよ!君だってイベントを進めるつもりなんだろう?」
イベントかどうかまだ分からないけどな。アナウンスも何も出てきてないし。
「そうだな。明日は俺たちが行った【ツクヨミ神社】以外の神社を探してみるつもりだ。それにアテナたちにも話して興味あるようなら連れて来るつもりだ。」
あと、あいつらがあの場所に入った時のリアクションが見たい(笑)。特にラグマリアとカイザー。果たしてアンドロイドとロボットに【神気】が通じるのか否か。
「ふむ、まあ人数が多いほうが良いだろうね。・・・ところでアテナ君たちとどうして一緒に来なかったんだい?別行動中?」
「・・・聞くな。」
ほとんど忘れかけてたのに(現実逃避)。
ま、まあ今回は手土産もある。何とかなるだろう・・・多分。
と、いうわけで今日は解散と言う事になった。
===移動===>【アークガルド】クランホーム
「「お帰りなさい。」」
「・・・」
戻ってきた途端、ステレオで挨拶されるってどうよ?そこにはアテナとアルマが待ち構えていた。遠めにはアーニャたちも見える。許してくれたのかな?と思うかもしれない。しかし、二人の表情はまったくの無表情、心なしか目が冷たい。
しかし!これはチャンスだ!二人から話しかけてきたってことは弁解のチャンスがあるってことだ。今こそ男を見せるとき。
「・・・ふーっ。二人がまだ怒っているのは分かっている。とりあえずお土産があるからそれを受け取ってから話を聞いてくれないか?」
二人が顔を見合わせている。予想外の展開で困惑しているのだろう。しかし、俺の、物で釣って許してもらおう作成はこれからなのだ。・・・男らしく無いって?ほっといてくれ。
「・・・お土産ってなんですか?」
「私達が気に入るようなものなんでしょうね?」
お、二人が興味を示してくれた。二人にならきっと気に入ってくれるだろう。俺はお土産を【収納箱】から取り出し、二人に渡す。
「忍の里で手に入れた、このきわどいくノ一装束を!!・・・ぐふぅ!!!」
俺は二人同時の腹パンによりその場にKOされたのだった。
「アホなのです。」
「アホなのだ。」
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