ビンタ姫のターン!
「ビンタ姫!? 」
突如現れた思いがけない人物に俺は勝手に付けたあだ名を叫んでいた。
「誰がビンタ姫よ!? 」
姫咲日奈子はビンタ姫である事を否定しながら、バシっと俺の顔に改心のビンタをくらわした。
……え? これ会う度にされるの?
さすがに毎回となると俺のポジティブゲージも尽きそうである。
「ちょっと? 姫様いきなり何してるの!? 」
と、新嬢さんが仲裁に入ってくるパターンを待っているが、その気配がない。
ちらっと新嬢さんを見ると驚いた顔も心配した様子も一切見せず、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
「いや―、まいったね。まさか私以外にも姫様にビンタされるヤツがいたなんてね。」
……お前もされてるんかい!?
パンツくださいと言ってビンタされはじめた俺と同様またはそれ以上の事をこの人はやらかしているのか?
「三日月君、さっきまで悪態ついて悪かったね。君とは仲良くやっていけそうだよ。これからよろしくね。」
共通点を持っている事を知った新嬢早苗は手を差し出し、俺も仲良くするに越した事はないので、それに応じるため手を近づけた。……が、二人の手が握られるより早く姫咲の手が新嬢さんの頬にクリーンヒットした。
バシっと音が響いた後、静まるスタッフルーム。
黙る二人をよそに姫咲のターンは終わらない。
「なんでこいつがここにいるのよ!?」
……それは俺サイドも姫咲に言いたいが、このタイミングで言ったらビンタが来る。ビンタ授与は一日一回までにしたいので黙ることにした。新嬢さん、説明お願いします。
「昨日、今日から新人さんが来るって説明したでしょ。それが彼よ。」
「早苗さんに見せてもらった写真と違うじゃない!」
姫咲は先程まで新嬢さんが抱いていた疑問を尋ねた。
「フォトショの力らしいわ。これがこれになるみたい。これがこれよ。これがこれ。私の胸もフォトショ使えば大きくなったりするのかしら? 」
新嬢さんは俺と写真を交互に指差し説明している。
「……フォトショ凄いわ。全く別人じゃない。」
ゴクリと喉を鳴らし姫咲は俺の顔の横に新嬢さんの携帯を置き、俺と写真を見比べ感嘆していた。
俺としてはフォトショの俺の話題より姫咲がここにいるほうが気になる。
「それで姫咲は、なんでここにいるんだ? まさか俺に会いに来たのか? 」
二度と関わらないでと言っておきながら、わざわざ会いに来るなんて可愛い行為だ。好きな子にそんなことされて俺の彼女への好感度はマックスを超えた。
「そんなわけないでしょ? ちゃんと見てよ。衣装着てるじゃない。ここで働いてるのよ。」
そう言って姫咲は一回転してみせた。だが、俺は一回転して見せた衣装の全体図より一回転により揺れ動く胸にロックオンされている。
プルン、プルン、プルン、プルン。プリンのように
揺れる胸。
「ちょっとドコ見てるのよ!? 」
姫咲は俺が凝視しているのに気付き慌ててスカートに手を当てて隠した。
違う。今はそっちは見ていない。もっと上だ。
「またパンツが欲しいとか言い出すんでしょ? 」
パンツは絶対に見せないと固い意思を持ち前屈みで絶対防御体制の姫咲の胸は服の隙間からチラチラ見えていた。
姫咲は俺の好感度ゲージを上げる天才か? わざとかと言わんばかりの姫咲の行動に好感度ゲージはもうすでに二ゲージ目もマックスまで溜まった。
「何?三日月君、姫様のパンツが欲しいの? 」
パンツという単語に反応した新嬢さんが興味深々に聞いてくる。
「あれは……」
一連の流れを説明しようとした俺の言葉を遮り、
「そうなんです。こいつ大勢の前で私のパンツ欲しいって告白したんです。」
たしかに告白はしたんだが俺がしたのは性癖の告白ではなく愛の告白。しかし、彼女には届いていなかった。
「姫咲、もう一度この場で告白させてくれ。」
真剣な顔で彼女に問いかけるが、
「嫌よ。昨日も言ったけど二度と関わりたくないんだから。」
即拒否された。
「そういえば姫様、花蓮ちゃんはどうした?」
「花蓮ならあそこで寝ているわよ。」
姫咲が指さす方を見るとカフェのテーブルで大の字で寝ている女の子がいた。
「三日月君に紹介したいから呼んできてくれ。」
姫咲は女の子の元に進めた足をピタッと止め、何か思い出したように、俺の目の前に立った。
「あの……これさっきパンツ見ようとした分。」
バシっ!!
ビンタ姫の名に恥じないビンタを決め、花蓮と呼ばれる女の子の元に向かって行った。まだ、姫咲に会って三十分も経っていないのにすでに二発決められている。
……今日は長い一日になりそうだ。