3 耳を揃えて用意しろ
ご無沙汰ですいません。一応完結まで下書きしました。順次更新していきます。
最近引っ越してきた怪しい外国人、悪野太郎さんの家は怪しい雰囲気が漂っていました。ここはずっと空き家でした。庭付き一戸建ての古い木造建築。庭には草がぼうぼう、植木も伸び放題。家の壁には草が絡まっていて、とこどころ穴が空いていました。家を囲むブロック塀には、黒いスプレーで「死」とか「呪」などと書かれていました。恐らく、夜中に誰かがいたずらしたのでしょう。「悪野太郎」元からあった表札の上に、達筆な筆文字で書かれた紙が貼ってあった。・
悪野さんに用事があって来た私だが、その家の雰囲気が怖くて、チャイムを押すのをためらっていました。
山が丘三丁目町内会は、400世帯の小さな町内会でございます。戸建てが中心で商店はありません。近隣で10軒くらいずつの班を作っています。その班の中で回覧板を回したり、市から配られる広報紙を配布したり、町内会費を集金したりしています。班の代表者の班長は、輪番で一年毎に交代しています。4月から翌年の4月までが班長の任期でしたが、3班の班長吉田さんは、急に入院してしまいました。吉田さんは一人暮らしで、班長を交代できる家族もいません。吉田さんの隣の家の、悪野さんに班長をお願いしに、今日私は悪野さんの家にやってきたわけです。
「ちーん」
表札の下にあるチャイムを鳴らすと、仏壇にある鈴のような音がしました。
「誰じゃ、我を呼び覚ますものは」
草ぼうぼうの庭から、おどろおどろしい声が聞こえてきました。黒い塊がゆっくりと、こちらへ向かってきます。
「あ、町内会長さん。それで、なんでしょう」
事前に電話をしてから、悪野さんの家に向かっていました。
「今日は悪野さんにお願いがあって、参りました。町内会の班長をお願いしたいのです。本来なら、来年の4月に班長が回ってくるのですが、お隣の吉田さん入院してしまいまして……引っ越してきたばかりで班長ですが、どうでしょうか」
悪野さんはしばらく考えて、
「班長とはどのような任務で」
意外と好感触な悪野さん。私はエコバックを悪野さんに渡しました。中には回覧板等の、班長の仕事で使うものが入っています、私は班長の仕事の説明をしました。
「わかりました。先ずは回覧板を回して、町内会費を集めるんですか」
太郎さんは私の説明を簡単に理解したようです。私はよろしくお願いしますと言い、その場を去りました。太郎さんの家から、ゴーというなんとも不思議な音がします。
翌日、太郎さんの家の草が刈られていました。あれは草刈機の音だったようです。
2週間後、今日は町内会費の集金日です。班長さんが町内会費を持ってくるので、私達役員が町内会館に待機しております。
「会長、会長の班は引っ越してきたばかりの悪野さんが班長でしたっけ?」
会計さんが心配そうに尋ねました。
「私のところにも集金は来ました。きっちりしている方のようですよ」
私は太郎さんが先日集金に来た時のことを思い出しました。
「耳を揃えてお願いします」
と太郎さんが、一瞬怖い表情をしていたのに、少し戸惑いました。
太郎さんが事前に回した回覧板にも、
「町内会費一年分3600円、耳を揃えてご用意ください」
と怖いくらいにきちんとした筆文字で書かれていました。
「こんにちは。3班の悪野太郎です。町内会費耳を揃えてお持ちしました」
差し出された太郎さんの手は、刃物のようでした。