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甘く優しい世界で生きるには  作者: 深/深木
本編(完結済み)
255/262

第二百五十五話 エピローグ

 ――十年後。

 マジェスタ一の武勇を誇るアギニス公爵家の庭でクレアと一緒に寛いでいたドイルの目に一羽のフェニーチェの姿が映った。

 青空にも負けぬほど濃い青を纏い、陽光を背に螺旋を描きながらゆっくりと降りて来る様は美しい。


 ……あれは、ツヴァイだな。


 紙の束を持ってきたフェニーチェにそう見当をつけつつ待てば、ほどなくして翼を大きく広げた彼が優雅に降り立った。



『エルフの里からお預かりしたお手紙です』

「ああ。ありがとう」


 ポニーほどの大きさまで成長したツヴァイから手紙の束を受け取り、駄賃代わりに魔力を与えてからそれぞれの封筒の差出人と内容をざっと確認していく。

 エルフの族長とリエスからは、里の近況とシエロの花についての報告だった。

 いつまた竜の国を襲った死病が流行るかわからないので、万が一に備えて栽培を続けてもらっているシエロの花がそろそろ盛りの時期を迎えるらしい。里へ遊び来ないかというお誘いの言葉も添えてあった。

 近いうちに一度顔を出しておくかと頭の隅に記憶しつつ、次の封筒を開ける。

 里帰りしているらしいムスケ殿とスコラ殿からの手紙には、フォルトレイスやアグリクルトの最近の動向とシオンについて書かれていた。

 それによると、どうやらシオンはとある獣人の国の姫君と近々結婚することになるらしい。


「まじか……」


 突然の知らせに驚くあまり零れた呟きに、隣でのんびりお茶を飲んでいたクレアが不思議そうに俺を見つめる。


「ドイル様? どうかされましたか?」

「シオンが結婚するらしい……」

「まぁ! でしたら飛び切りのお祝いの品をご用意しなければなりませんね。シオン様には参列いただいただけでなく、沢山お世話になっておりますから」


 嬉しそうに応えたクレアに「そうだな」と頷きながら、俺は手紙の続きに目を通す。

 ムスケ殿達の手紙には「逃げたシオンを追ってるから、そっちに行ったら捕獲しておいてくれ」と書いてあるんだが、果たしてどんな状況なのか……。

 また騒がしくなりそうだなと思いつつ、これはグレイ様にも伝えなければならない案件なので、ムスケ殿達からの手紙を亜空間へと仕舞う。

 最後に開いたのはユリアからの手紙だった。

 王太子付きのメイドをしていただけあって流麗な字で綴られた内容を読み切った俺は、彼女からの知らせをある男に伝えるべく立ち上がる。


「クレア。悪いが、奴に知らせてやらねばならないことがあるから少し席を外す」

「はい。いってらっしゃいませ」


 そう言って笑顔で送り出してくれたクレアに感謝しつつ、俺は足早に屋敷を通り抜けて正門の方へと向う。

 目指すは、屋敷から門へと続く道の中心に植わっている一本の木。

 純白の枝にエメラルドグリーンの葉を茂らせ、アギニス公爵家を見守るように生えているその木の根元には、金の髪を揺らしはしゃぐ幼子と疲れを顔に滲ませた青年が一人座り込んでいた。

 

「曽お爺様やお爺様みたいに槍を使うのもいいけど、やっぱりお父様みたいに刀でスパッと敵を斬る方が格好いいと思うんだ。でも、ジンさんがいつか聖槍を返したいから槍にしないかってすごく勧めて来るんだよね……。どうしたらいいと思う?」

「……放っておけ」

「真剣に悩んでるんだから、マリスも真面目に考えてよ!」


 幼子の主張に、マリスは重いため息を零す。

 十年前、マリスとの戦いに勝利したあと見付けた白く細い枝のようなもの。

 真っ二つに折れてはいたものの、もしかしたらという淡いの期待を胸に俺はエルフの族長にこの木を生き返らせることは出来ないかと頼んでみた。

 結果は見てのとおり。

 聖刀の浄化作用によって漂白された上に少し若返ってしまったが、マリスは再びこの世界に戻って来た。

 今度は魔王としての力など持たぬ、ただのドライアドとして。


 勿論、目覚めた当初は散々文句を言われた。

 ようやく終わらせたのになぜだ、お前ならわかるだろう、と。

 しかし俺が前世を思い出した時のことを語り、なにも得るものがなければ責任もって終わらせてやると約束し、もう一度この世界で生きてみないかと尋ねたところ、マリスはゆっくりと頷いた。

 死んで生き返ったようなものだと言ったのが効いたのか、心残りがあったのか、マリスはあまり語ってくれないのでわからない。

 しかし、精霊達のお蔭で土壌としても魔力的にも豊かな我が家ならば食事には困らないし、枝を加工してやれば共に外出も出来るこの生活は悪くはないそうで。息子の相手にはちょっと辟易しているようだがそれなりに日々を楽しんでいるらしく、たまに浮かぶマリスの穏やかな笑みを見る度に俺はあのまま眠らせることなく連れてきてよかったと思っている。

 誰にも知らせることなく、墓場まで持っていく予定だった前世の俺についてまで話した甲斐があった。


 ちなみに俺とクレアの息子ウェルトは、ラファールやアルヴィオーネやティエーラにフィアーマと様々な属性の精霊が勢ぞろいしている中、木の精霊であるマリスが一番のお気に入りだ。

 一番遊んでくれるしな。

 まぁ、他の精霊達と違ってマリスは本体の木から気軽に離れることができないため逃げ切れず、しぶしぶ遊び相手になってやっているうちに懐かれたというのが真相なのだが……。

 暇があれば彼の元に居るウェルトをそれなりに可愛がっているようなので、さしたる問題はないと思われる。


「悩んでると言っても、結局のところお前はドイルのように刀を使いたいんだろう?」

「うん! だって僕は【氷刀の勇者】の息子だからね!」


 呆れた様子で問いかけたマリスにそう言って誇らしげに胸を張る息子の姿に俺は在りし日の己を重ね、今は王都を離れている両親やお爺様へ想いを馳せる。


 父上達も【槍の勇者】に成ると言っていた俺を、こんな気持ちで見ていたのだろうか……。


 母親譲りの深緑の瞳を輝かせる息子の笑みがくすぐったくも嬉しくて、大切に守り慈しんでやりたい。

 我が子を想えばそれだけで強くなれる気がするから、親になるというのは不思議なものである。


 エピス学園高等部を卒業してから、早十年。

 子供の頃、何度も口にした「父上やお爺様のような槍の勇者になる」という言葉は結局守ることができなかったが、俺はお二人や歴代のアギニス公爵達が築いてきた功績に恥じぬ男になろうと尽力してきた。

 その努力が実っているかどうか知りたくとも、どうも昔から俺の周りには甘い人間が多いため皆から与えられる評価を真に受けるのは憚られる。

 だから皆にきちんと恩返しできているかどうか、不安だった。

 しかしこうして息子に胸を張って誇ってもらえるのなら、これまでの日々は間違っていなかったのだろう。


 ――これは、クレアやグレイ様に自慢しなければ。


 込み上げる喜びを噛み締めつつそんなことを考えていると、俺に気が付いたマリスと目が合った。

 息子の相手をしていてよほど疲れたのかこちらを見る目は鋭く、非難めいている。

 しかし、俺に向けられたマリスの怒りはお門違いというもの。

 別に久しぶりの休みをクレアとゆっくり過ごすために息子を押し付けたりしたわけではなく、ただ純粋にウェルトがマリスのことをとてつもなく気に入っており、自主的に足を運んでいるのだ。俺の所為ではない。

 とはいえ、これ以上黙って見ているとあとで煩そうなので、マリスを息子から解放すべく声をかけるとするか。

 嬉しい言葉を聞いて気分もいいしな。


「――ウェルト」

「! お父様」

「庭にツヴァイが来てるぞ。側でクレアがお茶を飲んでるから、おやつついでに遊んでもらってきたらどうだ?」

「本当に?」

「ああ」


 俺の使いで方々を飛び回っているフェニーチェが帰ってきていると聞いて、ウェルトの目が輝く。

 マリスのことを大層気に入っているが、ブランとか動物も好きなんだよな。

 嬉しそうに手を伸ばすウェルトと満更でもない様子で相手してやるブランやフェニーチェ達を思い浮かべていると、元気よく立ち上がった息子がマリスへ声をかけていた。


「マリス。僕ちょっと行ってくるから、待っててね!」

「ゆっくりしてくるといい」


 返事を聞くなり駆けだした息子にホッと息を吐いたのもつかの間、途中で足を止めて振り返ったウェルトの「すぐに戻ってくるから!」という言葉に、マリスはがっくりと肩を落とす。

 元気いっぱいなウェルトの遊び相手を務めるのは、ドライアドの身であっても辛いらしい。


 まぁ、お爺様や父上や俺の血を引いているだけあってウェルトの体力は底なしだし、身体能力も高いからな……。


 あの子が満足するまで遊べる相手は限られているので、どうしてもマリスが相手する頻度が高くなる。

 グレイ様の戴冠式が近いため、最近は俺もあまり帰って来ることができずウェルトの相手をしてやれないので、余計マリスに懐くのだろう。

 これでも悪いとは思っている。

 来年にはまとまった休みをいただけるはずなので、その時にはエルフの里や竜の国に皆を連れて行く予定だ。


 それにしても、こうしてみるとマリスも随分と感情豊かになったよな……。


 幼いあの子に釣られたのだろう。項垂れるマリスを見て「良いことだ」と心の中で呟くが、ここで表情に出そうものならグチグチと煩くなるので素知らぬ顔を貫いておく。

 しかし今日はよほど疲れたのか、顔をあげたマリスから恨みがましい眼差しをいただいてしまった。


「お前の息子はどうにかならないのか」

「マリスがお気に入りだからな。こればっかりはなんとも。まぁ、人の生は短いのだから大目に見てやってくれ。すぐに大きくなるし、遊んでくれと強請られるのなんて今だけだ」

「……それを他の精霊達にも言ってやれ」


 暗に彼女達にも子守を頼めと告げたマリスに、俺は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。

 俺がお願いすれば、彼女達は快く引き受けてくれる。

 だがしかし。

 自由気ままなラファールに頼んだ日には、姿が見えないと思ったらエルフの里へ遊びに行ってたなんてことになるし、繊細なティエーラは子供相手であっても強く出られないので、あっちこっちを駆けまわるウェルトを叱ることができずハラハラし過ぎて倒れてしまうし、フィアーマは面倒になってくるとすぐにセルリー様に投げるし、アルヴィオーネに至っては褒められると気をよくして大技を使い始めるから、先日うっかり屋敷の裏にある井戸を破壊したばかりである。

 そんなわけで、家人達から彼女達には子守を頼まないでくれと懇願されているのだ。

 ちなみにクレアは第二子を妊娠しているので、却下。

 バラドに任せると美化され過ぎた思い出話を吹き込まれるし、リェチ先輩とサナ先輩は一緒になって悪戯を仕掛けて回りレオ先輩に叱られていたので論外。

 レオ先輩は仕事が山積みな上に、リェチ先輩達がやらかさないように見張るので忙しい。

 リヒターさんは仕事で、ちょっと遠方に行ってもらっている。

 皮肉なことに、現在手が空いている者の中だとマリスが一番常識的で面倒見がよかったりするんだな、これが。


 そう考えると、俺の部下って大丈夫なのだろうか……。


 いや。悲しくなるから深く考えるのはよそう。

 なんだかんだいって上手いこと回ってるから問題はないはずだ。

 数いる部下達と比べると元魔王の方が断然無害というなんとも言えない現実から目を逸らすべく、俺はマリスにユリアからの手紙を差し出す。


「……そんなことよりもだ。さっきユリアから手紙が届いてな。最後の一人も、無事に目覚めたらしい」

「先に言え」


 俺の手から手紙をひったくり読み始めたマリスに、小さく息を零す。

 十年前、マリスの死と復活の経緯を知ったユリアが「私も同じ可能性に賭けたい」と言い始めた時はどうしようかと思ったが、結論から言えばそちらも上手くいった。

 不確かなことも多く、ユリア達の命を賭けるには分が悪かったので当初、俺は断った。

 そうしたら別の勇者に頼みに行くとまで言い出し、俺が実行すると決断するまでに隠れ住んでいた同胞達を巻き込んでのひと悶着があったのだが……。

 なんとか丸く収まったので、今は良き思い出だと言っておこう。

 

 現在、彼女達はエルフの里がある森の中で、ただのドライアドとして生活している。

 エルフ達や聖木のお蔭でなかなか快適に過ごしているらしく、先ほど受け取った手紙には聖刀の力で浄化された同胞の最後の一人が目覚めたと書かれていた。

 その知らせは大変喜ばしいもので。

 ユリアから書いて寄越した朗報を俺が嬉しく思ったのと同様に、同胞達の元に戻ることを拒み、我が家に居ることを選んだマリスも彼女達の無事を喜んでいるらしい。

 読み進めるにつれて眉間に刻まれていた皺が和らぎ、マリスの口元に小さな笑みが浮かぶ。


 嬉しそうな表情を見て思い出すのは、話し合いの末に俺がユリア達を斬ることになった時のこと。

 話を聞いたマリスは無関心を装ってはいたが、すごく不安そうだった。

 エルフの力を借りドライアドが宿る苗木として復活したものの、元々の力が弱かった所為か目覚めない同胞の話を聞いた時は「心配でたまらない」と顔に書いてあった。

 眠ったままでいる者達のためにエルフの里の近くに皆で移住するという話を聞いた時など、ひどく安心した顔をしていたのだ。

 なんだかんだ言いつつも、ユリアやその同胞達はマリスにとって守るべき大切な仲間だったのだろう。

 そして、その想いは今もマリスの胸にある。

 

「――仲間の元に帰るか?」


 嬉しさと寂しさが滲む顔でユリアからの手紙を見つめるマリスにそう問いかければ、エメラルドのような瞳が俺を映し出す。

 美しいその目には、帰郷の念と不安と恐怖が浮かんでいた。



「………………いや。まだいい」


 たっぷりと考えてから、マリスはゆっくりと首を横に振った。

 戻りたいが、受け入れられてもらえるかわからないから怖いのだろう。

 ユリアが言うにはマリスは昔、同胞達と暮らしていたそうなのだが、不思議なことに誰もかれもがそのことを忘れていたそうだ。

 俺がアグリクルトでマリスを倒してから一人、また一人と彼の存在を思い出していったそうなので、洗脳かそれに類似したスキルが魔王の能力としてあったのだと俺は推測しているが真相は定かでない。だがマリスが以前「皆を捨てた」と言っていたことを思えば、その力を使い皆の中から己の存在を消して旅に出たと考えて間違いないと思う。

 そして皆と生きる道を捨てた罪悪感故に、マリスは未だにユリア達の元に戻れずにいる。

 マリスとユリアや同胞達、双方を知るが故に俺はそのことがもどかしくてたまらなかった。

 現在ドライアドとして再び命を授かった彼の一族に王となる素質を持つ者は居らず、恐らく生まれないだろうと言うのがユリア達の見解だ。なんとなく、そんな気がするらしい。

 とりあえず今はユリアが代表みたいな形になっているが皆、王たる者の帰還を待ち望んでおり、マリスが戻る日を心待ちにしているのだ。

 しかし、十年という歳月は長いようで短い。

 マリスが魔王時代から抱く罪悪感や様々な葛藤を越えて仲間達の元に戻るには、今しばらく時間が必要なようだ。


 ――早く帰れるといい。


 愛する者達が待つ、在るべき場所に。

 木の精霊であるドライアドの寿命は長いので、その瞬間を俺が見ることは出来ないかもしれない。

 しかし幸いなことに、マリスに懐いている息子のウェルトがいる。

 あの子が大きくなったら機をみてこのことを伝える予定だ。


 俺が死んでも、ウェルトが。

 ウェルトの生きている内にその時が来なくても、彼の子供が。

 いつかアギニスの血を引く子孫達の誰かが、マリスを見送ってくれることだろう。


 それまでは、この家で過ごせばいい。

 騒がしくも温かいこの場所で過ごしているうちに傷も癒え、帰郷の意思が固まる日も来る。


「まぁ、今お前に帰られるとウェルトの面倒をみれる者が居なくなるから、もう少し我が家でゆっくりしていってくれ」


 冗談めかしてそう告げれば、マリスの眉間の皺が復活した。

 クレアの妊娠が発覚してからウェルトはますますマリスの元に足を運んでいると聞いているし、お疲れなのだろう。


「ウェルトの世話は断る」

「働かざる者、食うべからず。食事代だと思ってくれ。ティエーラが整えている土壌も、アルヴィオーネの水も美味しいだろう? 母上のお蔭で聖水だって飲めるし、雨期に入ってもラファールに頼めば雲をどけて陽の光を浴びられる。最高じゃないか」

「……」


 我が家に居る利点を挙げれば、思い当たる節があるのか表情が僅かに綻ぶ。

 しかし素直に同意しないあたり、よっぽど遊び相手になるのが嫌らしい。


「それになにより、我が家に居れば退屈する暇もない」

「……それは否定しない」

「だろう? それに次の誕生日に専用の武器を与えられれば、夢中で鍛錬するようになる。そうなったらお爺様や父上やジンがこぞって相手するだろう。城の者達も聖槍と聖刀のどちらを継がせるか、本人や俺達以上に白熱した論議を繰り広げているからな」

「暇な奴らだな。羨ましいかぎりだ」

「平和でいいじゃないか」


 憎まれ口を叩きつつも、ウェルトのお世話係が終わりそうだと知って嬉しそうなマリスに俺はこっそり胸を撫で下ろす。

 嘘は言っていない。

 次の誕生日で五歳となるウェルトのために、グレイ様が特製の武器を設えてくださる予定だ。

 俺がお爺様から初めて槍を与えられた歳だからグレイ様も気合が入っているらしく、色々な素材を用意してくださっている。素材集めにかこつけて、思い通りにならない臣下達への苛立ちを紛らわそうとしているだけという感じもするが、息子もグレイ様からの贈り物を楽しみにしているので問題ないだろう。

 財政部門に居るリュートは泣くだろうが、グレイ殿下に取り立ててもらい無事にセレジェイラ殿を娶れたのだから頑張ってもらうしかない。

 最も割を食うだろうリュートに心の中で手を合わせつつ、俺は息子のこれからについて考える。

 今から刀にするか槍にするか悩んでいるくらいなので、ウェルトも俺のようにすぐに鍛錬し始めるだろう。

 そうなったらお爺様や父上がしていたように息子を城へ連れていって鍛錬所に置いておけばいいし、俺も仕事の合間に構ってやれるので、マリスもゆっくり出来ると思われる。


 まぁ、ウェルトの誕生日まで半年以上あるけどな……。


 マリスもその事実にすぐに気が付くことだろう。

 しかし直にクレアのお腹も大きくなってくるし、近いうちにシオンが厄介事を持ってきそうな気配もしている。まだまだマリスの助力が必要だ。

 機嫌を損ね、本体の木の中に籠られると大変なので、今のうちに父上と一緒にアグリクルトの大神殿へ里帰りしている母上に一筆したためて聖水を送ってもらうとしよう。今のマリスにとって聖女が神々に祈り創り出す聖水はご馳走なので、きっと苛立ちも静まるはずだ。


 ……というか、そうであってくれないと俺が困る。

 

 聖水が届くまでどうか気付きませんようにと祈りながら、俺は一騒動起こりそうなこれからの日々に想いを馳せたのだった。







これにて完結となります。

最後までお読みいただけたこと誠に嬉しく存じます。

お付き合いいただき、ありがとうございました。


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