102.勇者、体力測定で度肝を抜く
夏休みが終わり、2学期になった。
始業式から数日後。
俺たちは、運動着に着替えて、教練室にいた。
「今日は身体測定を兼ねた、体力測定も行う」
実技の先生が、俺たちを見渡していう。
「お前達も知ってると思うが、秋は【対校戦】等の大会が多く催される。自分の実力はしっかりと把握しておくこと!」
「対校戦ってなんだ、弟よ?」
俺の隣に立っている弟、ガイアスに尋ねる。
さらさらの金髪に、夏の日の空みたいな青い目が特徴的だ。
「学園同士が集まって開かれる大会のことだよ」
「え、他にも学園ってあるの?」
「あるよ。世界各国にね」
「へー……全国大会的な感じか」
「もう、兄さん。いくら転生してきたからといって、もう5ヶ月も経ってるんだから、少しは色々知ろうとしようね」
俺、ユリウス=フォン=カーライルは、実は2000年前から転生してきた勇者だ。
4月にこの体になってから、今は9月。
確かに半年ほど経っているのか。
「ではこれより測定を始める。身体測定の後に体力測定の順だ!」
クラスごとに測定を行うらしい。
まずは身長体重を量るとのことで、一列に並んでいる。
「あにうえー。並ぶのだるいですー! つまんないー!」
俺の前に立っているのは、小柄な少年。
名前をミカエルという。
俺の義弟であり、実は天使だ。
普段は6枚の翼を収納している。
「早く体力測定したいです!」
「まったく、すぐに終わるんだからおとなしくしてなよ、ミカ」
やれやれ、とガイアスが首を振る。
「やーだー! 待てない-!
「まあまあ、すぐ終わるからおとなしくしてなー」
「わかったです! おとなしくするです♡」
ミカエルは俺の前に立つと、胸板に頬ずりしてくる。
「おい、ボクと同じこと言われてるのに、なんだそのリアクションの差は」
「がいあす怖いです。あにうえ優しいから好きです。そーゆーことです」
「このっ!」
「わーん、がいあすがいじめるー。あにうえ~」
よしよし、と俺はミカエルの頭をなでる。
義弟はスリスリベタベタとひっついてくる。
「ほら列が進んだよ!」
「あいつなにキレてるんだ?」
「いつもの焼き餅です。風物詩です?」
身長体重を測定した。
女子はスリーサイズも測ることで、少し時間が掛かった。
「ユリウスはーん♡」
俺たちが女子の測定が終わるのを待っていると、黒髪の女の子がこちらにやってきた。
「おー、サクラ。終わったか?」
長くつやのある髪に、常に笑顔のこの子は【サクラ】。
極東出身で、第一皇女様だ。
「ぜんぜん胸おっきくなってなかったわ。すまんなぁ」
「なにに謝ってるんだよ……まったく」
やれやれ、とガイアスが首を振る。
「ガイアス、あんたスリーサイズどないやった?」
「測ってないよ。ばかなこというなよ」
「そっか、あんた男やったなぁ。あんたユリウスはんの女やから、ついな」
「みょ、妙なこと言うなよばかっ! ふんだっ!」
「がいあすツンデレヒロイン枠です?」
ぐにぐに、とガイアスが義弟のほっぺたを引っ張る。
「おーい、みんなぁ~」
「あ、えりちゃん!」
ハーフエルフの少女、エリーゼが、俺たちのもとへやってくる。
「えりちゃーん! がいあすがいじめるです!」
義弟がエリーゼに抱きつく。
よしよしと頭をなでる。
「ミカちゃん、なにかガイアス君に酷いこと言わなかった? 理由もなく怒る人じゃないよ」
「がいあすは女っぽいって言ったです」
「それがいけなかったのね。男の子に女みたい、って言われたら嫌に感じるひといるもの。ごめんなさいしましょう?」
「はーい。ごめんですがいあす」
エリーゼがミカエルを連れて俺たちの元へやってくる。
「エリーゼはんすごいんやで。おっぱい、めっちゃでっかくなってたわ」
「さ、サクラちゃんっ! へ、変なこと言わないで。は、恥ずかしいよぅ~」
顔を真っ赤にして、エリーゼが自分の体を抱くようにする。
ぐにっ、と彼女の大きな乳房がひしゃげて、エロかった。
「…………」
ゲシッ!
「え、どうした弟よ?」
「べ・つ・に! ふんだっ! 他の女にデレデレしちゃってさ! そんなに大きな胸が良いのかよ!」
「なに怒ってるんだよおまえ?」
首をかしげる一方で、ミカエルとサクラがうんうんとうなずく。
「いつものやつです?」
「いつものやつやなぁ」
ややあって。
「ではこれより体力測定を開始する!」
教練室には、さまざまな測定器具が置いてあった。
握力計や垂直跳びなど、オーソドックスなものが多い。
「じゃ1つずつやってくか。まとまって測ると時間掛かるし、バラバラでやろうぜ」
「「「はーい!」」」
義弟はまず、握力計のところへいった。
「うむ30kg。平均的だな。次!」
「一番、ミカエル! いきまーす!」
ミカエルが握力計を握る。
「ミカ! わかってるな!」
「わかってるです。がいあすはうるさいです。小姑です?」
ぐっ、と思い切り力を入れる。
ばきぃん!
針が一回転した。
「なにぃい!? あ、握力計を破壊しただとぉおおおおお!?」
「ああもうばかミカ……!」
ミカエルが首をかしげる。
「壊れてるです?」
「おまえが壊したんだよ!」
実技の先生が、ミカエルを見て戦慄する。
「特別製で……トロールも計れる握力計を壊すなんて……」
次に、エリーゼは垂直跳びのところにいた。
「うう……ジャンプ苦手だなぁ」
「えりちゃんがんばー!」
教練室の壁に、黒板が設置してある。
ジャンプして触り、距離を測るそうだ。
「ではエリーゼ!」
「は、はい……軽く。軽くね……ええっと、えいやっ!」
ふわり……とエリーゼの体が飛ぶ。
そして、教練室の天井にタッチ。
ふわり、と着地する。
「ふぅー……」
「なんだってぇええええええ!?」
実技の先生が、またも驚愕の表情を浮かべる。
「え、エリーゼくん!? 今魔法でも使ったのかね!?」
「え? 使ってませんけど?」
「身体強化せずこの飛距離だと!? すごい、すごすぎるぞおおおお!」
エリーゼは困惑している様子だった。
「ユリウス君から軽体術って、常に身軽になる体の動かしかたを教えて貰ってたけど、特別ほかに何かしてないし……」
「エリちゃん、あにうえってるです?」
「え、なんだよそれ?」
「あにうえになっている、の略です!」
次にサクラは反復横跳びをしていた。
「す、すごい! 早すぎて分身ができてるだとおぉおおお!?」
「え、分身くらいでなに騒いでいるん?」
「サクラちゃんもあにうえってるです!」
普通に体力測定をこなす、同好会の面々。
「す、すげえ……なんだあいつら……」
「カーライル兄弟もやばかったけど、サークルメンバーたちもすげえことになってないか?」
同級生達が青い顔をしていた。
なにに驚いているんだろうか。
「もうっ! みんな手加減しろよっていったじゃないか!」
ガイアスがエリーゼ達に怒っている。
「手加減したです」
「だいぶ手ぇ抜いたつもりやったんだけどなぁ」
「ユリウス君のおかげで、なんだか強くなれたみたいだね。さすがユリウス君!」
はぁ、とガイアスがため息をつく。
「ほんと手加減が苦手なんだから。まったく、誰に似たんだか……」
「え、誰に似たの?」
「兄さんにだよ、もう!」
続いて50メートル走。
「ボクが手加減のお手本見せてあげるから、ちゃんと見てろよ」
ガイアスが構えを取る。
「いちについて……よーい、ドンッ!」
その瞬間、ガイアスが消える。
とんっ、とゴールした。
「…………」
「うん、0.1秒。ほらこれくらいが」
「す、すごすぎるぅううううううう!」
実技の先生がガイアスに近づいて、ガシッ! と手を握る。
「君は天才だ! 身体強化なしでここまで早いなんて!」
「え、え? なに言ってるんだよ。0.1秒なんて遅すぎるだろ? 兄さんなんてもっと早いし……ねぇ?」
するとミカエル達が、あきれたようにため息をつく。
「化け物はんと比較しちゃだめやで」
「がいあす芸人です? 前振り完璧です?」
「しまった……! これでも手加減になってないのか!」
ガイアスが頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでいる。
「がいあすもあにうえってるです」
「そうやで、あんたもあにうえってるわ」
「同類にするんじゃねえ!」
弟がすっかり友達と仲良くなっている。
うんうん、よいことだ。
「ユリウス君。きみ、まだ1つもやってないぞ?」
実技の先生が俺に言う。
「あ、はーい」
「兄さん、わかってるね?」
「大丈夫大丈夫?」
結果。
握力測定→握力計が粉々。
垂直跳び→天井を突き破って月へ。
反復横跳び→摩擦熱で大火事寸前。
50メートル走→早すぎて測定不可能。
「そんじゃ最後に遠投な」
「「「やめてぇええええ!」」」
ボール手に持って、軽く投げる。
「そい」
ボッ……!
軽く投げたボールが一直線に吹っ飛んでいく。
教練室の壁を粉砕し、グラウンドの地面をえぐりながら、学園の森を衝撃で吹っ飛ばした。
「ふー……よし。手加減できた」
「「「できてねえよ!」」」
その様子を見ていた同級生達が、言葉を失って俺たちを見ている。
「素晴らしいですユリウス君! 飛距離、威力文句なしです!」
実技の先生は感動して涙流す。
あれ、これ威力測るテストだっけ?
「てか化け物が5人に増えてない!?」
「とんでもない進化を遂げてるぞ! なんなんだあいつら!?」
ガイアスは手で顔を覆ってしゃがみこむ。
「ああ……いつの間にかボクたち全員兄さんの同類にされてる……」
「あにうえに、みんなでなれば、怖くない、です?」
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