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玖拾伍.大いなる力

 俺が宴席へと戻ると、場の雰囲気が少し変わっていた。


 (なんか暗くなった?)


 暗いといっても光の加減ということではなく、気分の方のことだ。さっきより活気がないような気がするし、よく見ると俯いていたり涙目になっていたりする人がいる。


 (何が起きたんだろ…)


 と、脇から女房が出てきて手紙を持って1人の貴族に近寄っていった。その貴族は喜びと緊張が入り混じった表情でその手紙を受け取り、急いで開こうと手をかけた。対照的に、手紙を持ってきた女房は手紙を渡すと一目散に退散していった。


 貴族は手紙を開いてとたんに表情が曇り始め、泣きそうな顔になってしまった。


 (はぁ、式神のやつか…)


 貴族が受け取った手紙は式神が書いた返歌に違いないのだが、よほどその内容がショッキングだったんだろう。俺は式神と共有の記憶を覗いてどういう内容なのかを確認したところ、よくもまあこんなに人の心の傷を抉るような和歌を書けるものだと感心するような返歌ばかり書いているのが分かった。


 (和歌が詠めないんじゃなくて、和歌が上手すぎたか)


 さすがに相手を選ぶだけの配慮はあるらしく、それなりの身分の人にひどい返歌を書いたりはしていないのだけは救いか。逆に身分が低くて和歌も下手だと容赦ない内容の返歌になって、それを受け取った人は軒並み死にそうな顔をしている。


 どう考えても、さすがにこのまま放置するとせっかくの祝宴がお通夜になってしまいかねないと思って、1日観客側でのんびりするつもりだった俺は急遽戻って式神と交代することにした。


 一旦門をくぐって外に出て、それから人目に注意して塀を飛び越えて庭へと降り立つ。そして、そのまま立ち止まらずに一気に部屋へと駆け込んだ。


 俺「おわっとっと」

 墨「ニャニャニャッ!」


 飛び込んだところ足元に何かがあって踏みそうになってかろうじて避けたところバランスを崩して転けそうになったのを無駄にハイスペックな身体能力で宙返りしてこらえたのだが、足元にいたのはうつ伏せにうずくまっている全裸幼女だった。


 俺「…墨、何をしている…?」

 墨「ひぃっ、姫さま、ひっ、日向ぼっこです」

 俺「日向ぼっこを裸でしちゃいけないって、いつも言ってるよな」

 墨「すっ、すみませんっ」


 墨は相変わらず猫っぽいので、服を着るのを嫌がるのだ。特に日向ぼっこを始めると服を脱ぎたがるのでそのたびに注意しているのだが、今日は誰もいないと思って油断したな。


 俺「いいから着ろ」

 墨「はいっ」


 しかし、墨はやはり素晴らしい。さっき中納言を美形だとかなんだとか言ったが、墨の前に来ると全てが霞んで見える。透き通るようなオッドアイ、魅惑の猫耳猫尻尾、ちっちゃくてぺたんこでぷにぷにで…


 俺は無意識の内に小袖を片袖だけ通した墨を持ち上げて抱きかかえ、猫耳をふにふにし始めた。


 墨「ちょっ、ひっ、姫さまっ」


 ふにふにふに


 墨「はむー、く、くすぐったいですって」


 ふにふにふに


 墨「服着れないですよぉ」

 俺「はっ」


 (恐るべし唯一神「墨」。今、俺は完全に身体も心も何か大いなる力に支配されていたようだ…)

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