表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/362

傘.あやしのこしおれ

 雪のリクルート。すでに俺の専属の女房である雪をリクルートするなんて意味がないと思うかもしれないけれど、もともと雪は俺が採用したわけではない。爺が探してきて女房になり、雪が俺の側にいると決意して専属になったのだ。俺が雪に好意を示していることが考慮されたとはいえ、俺自身が雪を指名したわけではない。


 この時代の人間でない俺がこんな風に他人を束縛するのはエゴかもしれない。というか、エゴなんだろう。でも、だからといって俺の側の態度を不明確にしたまま雪に甘え続けるのは不誠実なんじゃないかと思った。だから言葉にしようと思ったのだ。


 雪にはずっと側にいてほしい。たとえ結婚しなければいけないことになっても、俺にとっての1番は雪だ。


 そう思った時、ふと天照のことを思い出した。どうして思い出したのかわからない。曖昧な断片的な思考が存在するだけで、すぐに具体的な考えに至らないまま四散してしまう。


 (天照のことは置いておこう。あれは神さまなんだから)


 俺「雪。これからもよろしくね」


 そう行って俺は握手を促すように右手を差し出した。


 雪は俺の右手を見て、どういう意味かわからず少し泣きそうな困った顔をしている。あー、そうか。平安時代に握手の習慣は存在しないから、出された右手がどういう意味でどういう応対をするのが正しいのか、雪には全くわからないんだ。だから、あんなことを言われた直後に俺に無知をさらけだすような返事をして嫌われるのが怖いと思っているのかもしれない。


 俺はそんな雪の右手を取って、俺の右手に重ねて握手をさせた。


 俺「わからないことがあったら聞いてね。私は雪に全部見せたいと思ってるのだから」

 雪「…、はい。頑張ります」


 雪は一瞬何を言われたのか分からない顔をしていたが、すぐにはっと気付いたような顔をして、俺の目をしっかりと見てそう言った。今後、俺は雪に現代のこと、天照や他の神さまのこと、魔法のことなども伝えていこうと思う。それは雪の常識とはかけ離れたことばかりのはずなので、雪がわからなくても仕方がないのだ。


 だけど、今日はもう十分だ。俺はその後雪に居住結界の使い方を教えて、自分の部屋へと戻った。



 (今日あたり、上賀茂神社に行ってみようかな)


 雪が移り住んできて数日経ったある日の昼間、俺は部屋の日当たりのいいところに座って、墨を膝の上に置いて猫耳を触りながらそんなことを考えていた。


 ちなみにぼーっとしていたわけではなく、読書をしていたのだ。ただし、俺の場合、一度見たものは全部脳内に記憶しておけるので、読書といっても本を手元に置いて読むわけではなく、脳内コピーを読むだけだ。俺はこれを脳内自炊と呼んでいる。


 別に読書が趣味というわけでもない。俺が好きなのは主にラノベなので、堅苦しい漢文とかを好んで読む習慣はない。もっとも女流文学には時々掘り出し物があるけれど。


 とにかく、これは趣味ではなく、和歌の勉強なのだ。いい和歌が読めることはいい女の秘訣なのだそうだ。そして、近いうちに裳着があるので、その時の宴席で和歌を披露しなければいけない可能性が高いということで、目下特訓中なのである。


 どうも俺の裳着は結構大掛かりなものになるらしく、最近は爺も婆もなにやら忙しくしているようだ。


 (もう天照とも随分会ってないもんな)


 話は戻して上賀茂神社である。そろそろ前回行ってから1週間くらいが経つ。その間に生理があって身の回りも変化があったのでいい頃合いだと思う。例によって会えるかどうかは分からないが。


 あうことも かなわぬきみを まつゆうべ こよいこそはと かようみちかな


 1首読んでみたがどうだろうか? 雪に聞かせても、爺や婆に聞かせても、ステータス補正が入っているせいでどんな駄作でも褒めてくれるから、上手いか下手か全く見当がつかないんだよね…

古語は現代語に響きが似てても全く意味の違う言葉があったりしますけど、「あやしのこしおれ」は中でも印象深い古語だったりします。意味は「不審者の老人」ではなくて、「下手くそな和歌」という意味になるんです。なんでそんな意味になるのかは興味ある人は調べてみてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この小説は、一定の条件の下、改変、再配布自由です。詳しくはこちらをお読みください。

作者のサイトをチェック
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ