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捌.ああ八幡様

 追い剥ぎ「八幡大菩薩様…」

 俺『は?』


 (何を言っているんだ、この男は。打ち所が悪くて、頭がおかしくなってしまったのか?)


 男は突然我に返ると、慌てて体を起こして、頭を土にめり込ませるほどに土下座をした。


 追い剥ぎ「おっ、お許し下さいぃっ。八幡大菩薩様とは全く存じ上げず、このような狼藉に至ったことは、深く深く反省しております。どっ、どうか、いっ、命だけは。お助けいただければ、すぐに出家して、生涯を仏道にお捧げいたします。もう2度とこのようなことはいたしませんっ。どっ、どうか…」


 (菩薩? 仏道?)


 俺は、頭にはてなが10個くらいついた状態で、男の熱弁を聞いていた。とりあえず、この男が何か勘違いしていることと、俺をひどく怯えていることは分かった。話の流れが読めないが、とりあえず、話を合わせておくか。


 俺「うむ。反省しているのなら、今回は許そう。だが、今度だけだ。分かるな」

 追い剥ぎ「あっ、ありがとうございます。今後は八幡大菩薩様に深く帰依致しまして、そのお姿を心に留め、念仏修行に勤しみたいと思います」

 俺「そうか。では頑張ってくれ。ところで、上賀茂神社に行きたいんだが、どの道か分かるか?」

 追い剥ぎ「上賀茂神社でございますか。でしたら、右の道を進んで川を渡って次の角を左に曲がれば後は一本道でございます」

 俺「ありがとう。それとこの太刀だが、お前にはもう必要のないものだ。頂いて行ってもよいかな?」

 追い剥ぎ「喜んでっ!」


 (なんか、追い剥ぎがキラキラした目で俺を見てる。き、気持ちわりー)


 とりあえず、道は分かったし、太刀も合法的に譲渡されたし、もうこの男には要はないのでさっさと先を急ぐことにしよう。男のキラキラがどういう意味なのか分からないが、改心したみたいだし、いい変化に違いない!


 俺「では、達者でな」


 俺は、太刀を鞘に収めると、踵を返して人間離れした速度でその場から走り去った。一路、上賀茂神社へ。


 後日談で、京でちょっとばかり名のしれたならず者の悪三郎というのが、突然発心ほっしんして、出家入道して念仏修行に明け暮れるようになったということで、噂になったらしい。まあ、俺には全く関係ない話だが。


 さて、道は本当に一本道で、俺は迷うことなく神社にたどり着いた。そこは想像以上に大きな神社で、よく手入れされた林に囲まれた広い参道が北に向かって伸びていた。


 走っているときには気づかなかったが、あたりをホタルが飛び交って、幻想的な風景を作り出している。元気なものは二階建ての屋根の上の高さほどまでも飛ぶものもいて、まるで参道が動く電飾で飾り付けられているようだ。


 (すげ…。綺麗だ…)


 俺はすっかり目的を忘れて、幻想的な光景に見とれたまま歩いていた。一ノ鳥居をくぐって参道を進み、二ノ鳥居の付近にたどり着いた時、事件は起こった。

八幡大菩薩とは代表的な神様の一つで、天照大御神に続く皇室の守護神ということになってます。本社は大分の宇佐神宮ですが、京都の石清水八幡宮も同じくらい有名です。この神様は阿弥陀如来の化身ということになっていて、阿弥陀如来といえば浄土信仰で念仏です。なので、「俺」をうっかり八幡大菩薩と間違えた追い剥ぎは、改心して念仏に勤しむことを決意したのです。


平安時代の念仏は、あの「なんまいだー」と唱えるやつではなくて、文字通り「仏を心に念じる」というやり方をしていたそうです。なので、わざわざ出家して修行しないとできない、それなりに敷居の高い修行だったようです。


この時代、「悪」というのは「強い」というような意味だったらしいです。例えば、「悪僧」という言葉は「僧兵」を意味していました。通り名に使われることもよくあったようです。「悪三郎」は、現代的に言うと「狂四郎」みたいなニュアンスで理解してもらえるといいかなと思います。

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