364 最善を尽くす
まずは二人に道中でアンデッド化してしまった騎士達を治療した時と同じように時空間魔法タイムリバースを使用して、ディスペルで呪い解呪、リカバーで状態異常からの回復を促すことにした……。
しかし時空間魔法タイムリバースを使用した直後、二人の四肢に赤黒い紋様が浮かび上がると、そこから赤黒い魔力を帯びた瘴気が襲い掛かってきた。
「くっ」「くあああああ」「きゃあああああ」
幸いまだ聖域鎧の効果が持続していたので俺には届くことはなく無傷だったが、二人にはかなりの痛みが奔ったようだ。
しかもルミナさんとエリザベスさんの呪いは今の処置によって魔族化が加速してしまったらしく、髪の色や肌の色が変色していく。
しまった……。
こんなことなら最初にディスペルを発動してた方が……いや、魔法云々じゃなくて俺の魔力に反応して呪いが強化されたように思える。
きっとあの魔族以外の魔力が干渉すると呪いが強化されてしまう仕組みだったんだろう。
どうすれはいい……。そう思ってふと視線を上げると、戦乙女聖騎士隊の皆は治療する俺の邪魔にならない様にただ祈る様に互いの手を握りしめて俺を見つめていた。
「……ルシエル君……今なら……まだ……間に合う。今ならまだ人として……。それだけでも救われる」
そして俺の様子から何かを察したのか、ルミナさんはそう口にした。
そう覚悟させてしまったことが俺はとても恥ずかしかった。
「ルミナさん……それにエリザベスさんも俺に選択を一任してくれましたよね? だから最後まで信じてもらえませんか?」
「……お願い……しますわ。そうですわよね……ルミナ様」
「……ええ。ルシエル君、助けて……ほしい」
そして二人は苦痛に顔を歪めながらも俺を信じてくれた。
だからこそ今度は俺が二人の信頼にしっかりと応えたい……。
「任されました」
俺は長らく開けていなかったステータスウインドウを開き、貯まりに貯まっていたSPを使用して、まずは幸運、強運、激運、悪運、天運の全てプラスに働くはずの運スキルを取得する。
どのみち全ての運スキルをいずれは取得するつもりではいたけど、こんなに早く取得を迫られるとは思わなかったな……。
ただこうして簡単にスキルを取得することが出来るシステムがあって本当に良かった……心からそう思う。
さらに追加で自己犠牲スキルを取得してステータスウインドウを閉じた。
そして幻想杖に魔力を全力で注ぎ込み、限界突破スキルを念じながら二人を蝕んでいる呪いをこの身に宿す身代わりとなる自己犠牲スキルを発動させた。
その瞬間に身体の内側から引き裂かれる痛みが押し寄せてきたけど、俺は構わず二人にディスペルを発動させ肌の色が戻っていくのを確認して、リカバー、ピュリフィケイション、そしてエクストラヒールを発動させた。
たぶんこれでルミナさんとエリザベスさんは大丈夫だろう……。
だからもっと戦乙女聖騎士隊の皆は喜んでくれると思ったんだけど、全員が目に涙を浮かべながら必死に何かを叫んでいる。
ああ……そうか、限界突破スキルを使用していたから途中で痛みが消えてくれたんだな……。
どうやら魔族化の進んだ身体で聖属性魔法を使用したからなのか、その反動で身体が青白い炎に包まれていたらしい。
それにしても誤算だったのは魔族化の呪いを自己犠牲スキルで引き受けると、耐性スキルレベルが高くても呪いの進行までそのまま受け継いだことだ。
どうせなら耐性に勝てず、そのまま消えてくれれば良かったのに……まぁ勉強になったけど。
一応成功すればラッキーぐらいのつもりで幻想杖に魔力を込めて一度ディスペルを発動してみるが、やはり解呪することは出来なかった。
俺はそれでようやく覚悟を決め、レインスター卿の直伝オリジナル魔法“聖光の慈悲なる禊”を発動することにした。
すると発動した直後、俺の真上に魔法陣が出現し光の奔流が落ちてくると同時にあまりの衝撃に俺は意識を手放した。
☆★☆
ルミナとエリザベスは突然自身を蝕んでいた痛みが無くなったことに驚き、そしてルシエルの回復魔法で完全回復していくのが分かった。
(いつだって君は期待に応えてくれるし、期待以上のことをやってのけてくれる)
ルミナはきっと今も澄ました顔をしながらもどこか自慢気なドヤ顔を隠せないそんな正直者のルシエルへと笑みを浮かべて視線を向けた。
しかし視線の先にいたのは青白い炎の中で顔を歪めたルシエルの姿だった。
「ル、ルシエル……君? な、なぜ君が燃えているんだ……」
「ルミナ様、どういうことなのでしょう」
「分からない……。だが、この青白い炎には触れても問題はない」
ルミナは駆け出し、ルシエルが顔を歪める炎の外へと押し出そうとする……が、それを戦乙女聖騎士隊の面々が止める。
「隊長、ダメや」
「ルシエルを信じて~」
「マルルカ、ガネット何を……」
左右からルミナを止めたマルルカとガネットは涙を流していた。
「ルシエルさんはきっと大丈夫です」
「隊長が足手纏いになるのだけは駄目です」
「リプネア、キャッシー……だが」
リプネアも涙を流し、キャッシーは顔を歪めながらもルミナを真剣な表情で見つめる。
「ルミナ隊長、ルシエル君を信じてあげてください」
「そうです。そうだよ……ルシエル」
「さっさと回復して戻ってきてよ」
「……今なら隊長が抱きしめてくれるよ」
「ベアリーチェ、サラン、マイラ、クイーナ」
誰もがルシエルを助けたいのだ……それがようやくルミナにも伝わった。
「ルシエルはルミナ隊長とエリザさんの呪いをその身に受けたのに二人の回復を優先していました。だからきっと……」
「ルーシィー……」
その時、ルシエルの身体中から瘴気が溢れ出るが、ルシエルは自身に聖域鎧を展開したままで瘴気が戦乙女聖騎士隊の元へ飛んでくることはなかった。
「隊長……私達はここでルシエルさんを信じることしか出来ないですわ……。それにこうなってしまった責任は私に」
「それは違う……。責任は隊長である私にある。ルシエル君を待つことを選択出来なかった私に……」
その時、ルシエルの頭の上に魔法陣が展開され、瞬く間に魔法陣から放たれた光がルシエルを襲った。
その余波が暴風となってルミナ達を襲い、立っていることはもちろん目を開けていることさえ困難な状態となってしまう。
ただそれでもステータスが強化されていたルミナ達はルシエルの元へ駆け寄った。
するとそこにはボロボロになってしまった鎧を纏い気持ち良さそうに眠るルシエルの姿があった。
その姿を見たルミナは涙を流しながらルシエルに近寄り座り込むと、ルシエルの頭を抱き抱えてから膝の上に乗せ、頭を優しく撫でるのだった。
「やはりルシエル君は私の……私達の救世主だよ……」
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お読みいただきありがとうございます。
実はこの場面プロット段階ではルミナとエリザベスが魔族化して戦闘に突入し、復活した魔王と消える予定でした。それで最後に邪神の元で再会することになっていましたが……どうしても頼れる男となったルシエルを見守る戦乙女聖騎士隊を見たくなっていつの間にかこうなっていました。