356 追走
想像していた通り階層を下るごとに瘴気が濃くなっていき、十階層へたどり着くと一メートル先が分からないぐらいの酷い状況だった。
まぁ瘴気がいくら濃くなっても状態異常に関しては耐性があるから問題はなかったけど、問題はこの瘴気が視界だけでなく空間把握や索敵系スキルが遮断されていたことだった。
それに気がついたのは瘴気が濃くなった八階層へ下りた時のことだ。
今までと同じように階層を下りて浄化魔法で瘴気を払うと、大量の魔物が青白い炎を纏って魔石へと変わっていったのだ。
その時は少し違和感を感じた程度だったけど、九階層とこの十階層で浄化魔法を発動した時、八階層と同じように知覚していなかった大量の魔物が浄化されたことで確信へと変わったのだ。
ただどんな魔物がいるのかまでは全く分かっていない。
浄化魔法を発動して直ぐに魔石へと変わってしまうからだ……。
もちろん浄化魔法を発動するまでの一瞬とはいえ、視界だけではなく魔物を索敵するスキルまで封じられているため、万が一に備えて警戒しながら進んでいる。
それにしても戦乙女聖騎士隊は一体どこまで進んでいるのか……。
ルミナさんは迷宮から魔物が出ないように足止めをしていると言っていたのに、今までその姿を確認することが出来ていない。
もしなんらかの事情があって戦乙女聖騎士隊が先行しているとしても、大抵の魔物には遅れを取らないと思うけど……。
邪神の活動が本格化する前にパワーレベリング以外にも、属性魔法のスキル熟練度を上げるため一番有効だと思っている属性魔力を剣に流しながら魔物を倒すことを教えていた。
戦乙女聖騎士隊は最初からステータスでは見ることが出来ない熟練度のことを信じてくれて、各属性魔力込めた魔力剣で魔物を一体でも多く倒すように努めてくれたのだった。
元々聖騎士のジョブを天から授かり、その境遇に甘えることなく努力してきた戦乙女聖騎士隊は俺よりも遥かに戦闘技術に長けていたので、直ぐスキルレベルが上がる効果が出始めた。
そしてルーシィーさんとクイーナさんは高ランク治癒士に負けないぐらいの聖属性魔法を扱えるようになったし、他の隊員達も光龍に褒められるぐらい光属性魔法が扱えるようになったのだ。
ただ気になっていたのは大量に残されている魔物ことだ。
瘴気を産み出す魔物がいたので、まだ瘴気が濃いことは分かる。
しかしあの戦乙女聖騎士隊が迷宮から魔物が出ないように足止めに入ったのにも関わらず、これだけの魔物を残すだろうか? と、いうことだ。
いくら迷宮から魔物が産み出されるとしても、限度がある。
ルーシィーさんとクイーナさんが浄化魔法ピュリフィケイションを発動していないければ、既に視界を確保することは難しい段階だろう。
いや待てよ……。俺がここまで瘴気が濃く見えるのは精霊女王の祝福と加護による可能性もあるか……。
祝福や加護のオンオフが出来るか聞いておけば良かったな……。
まぁそのことはひとまず置いておいて、必然的に浄化魔法を発動しているのなら魔物との戦闘になっているはずだ。
しかしこれまでの階層を浄化しながら探索してきたけど、魔物の数が減っていた印象はなかった。
もちろん瘴気が濃いのだから魔物の出現率も上がるのかもしれないけど……。
色々と考えていたら十階層のボス部屋へと到着してしまった。
こうなってくると戦乙女聖騎士隊は十一階層まで足を進めたと思うけど、残念ながら俺はそれを知るすべがない。
迷宮へ入ってから何度かルミナさんへ通信を試みるも応答はなく、現在何階層まで潜っているのか、その安否さえ確認することが出来ないのだから。
ただ確かなことは各階層を浄化して直ぐに空間把握スキルを発動して探索してきたのだから、戦乙女聖騎士隊が今までの階層にいなかったことだ。
思い返せば交信した時のルミナさんは珍しく弱気だったような気がするし、出来るだけ早く合流することを優先しなきゃな。
俺はそう思いながらボス部屋の扉を開いた――。
ボス部屋もやはり変化していて、軽く見積もっても元の数倍は拡がっていた。
ここまで変化しているのなら試練の迷宮とはやはり別の迷宮だと思って探索した方が良さそうだな……。
たぶんボスも新しくなっているんだろう……。
それにしてもこの部屋の瘴気はかなり薄い。
考えられることは戦乙女聖騎士隊がボス部屋を攻略してからあまり時間が経っていないということだ。
さっさと追いつかないとな。
そう思って中央へと進んだところで、大量の瘴気を溢れさせながら巨大な魔法陣が出現し始めた。
俺は迷うことなく魔法陣を聖域結界で囲み、何が出てきても対処出来るように身構えた。
すると出現したのはアンデッドドラゴンだった。
「邪神や魔族じゃなかったか……浄化波」
ボス部屋は初回はかなり強い魔物がいるはずだし、戦乙女聖騎士隊は何と戦ったんだろうな……。
そう思いながら聖域結界内に現れたアンデッドドラゴンを浄化波で成仏してもらった。
「さてと地下への階段は…………あれ?」
ボス部屋を見渡してみるが、地下へと続く扉や階段だけでなく、入ってきた扉もいつの間にか消えてしまっていて、俺はいつの間にかこのボス部屋に閉じ込められてしまっていた。
しかし次の瞬間、再び中央に魔法陣が……それも二つ出現した。
「今度は召喚されてくるんじゃなくて、転送される魔法陣か……悩んでも仕方ないか」
覇運先生にはお休みいただき、豪運先生に是非導いてもらいたと祈ってから、迷うことなく右側の魔法陣に乗った。
すると魔法陣から黒い渦が噴き出すのが見えた気がした……。
お読みいただきありがとうございます。
久しぶりになろうへと戻ることが出来て、私自身も嬉しく思います。
活動報告は何度も書こうと思っていたのですが、どれぐらい休載するのか、その原因なども含めて考えていたら年が明けようとしていました。
そんな時、ニコニコ静画内の水曜日のシリウスで秋風先生に連載していただいている聖者無双が、孤軍奮闘して大多数の方から見ていただいたことを知り、このままではいけないと筆をとりました。
活動報告にも書きましたが、皆様から復活したと思われるように精進していきます。