320 迷宮の仕掛け
物体Xの敵を退ける効力に感謝しながら、土魔法で簡易な囲いを作り、その周辺に物体Xの樽を蓋を開けた状態で置き、囲いの中で眠りに就いた。
正直な話、飛行生物が上から何か落としてくるのではないかと思っていたけど、そんなこともなくぐっすりと睡眠出来たので、体調も魔力も完全回復していた。
「じゃあ食事を済ませたら、一気に行くか」
バーベキューをした後に余っていた肉料理と新鮮なイエニス産の生野菜を魔法袋から取り出し、それ食べ終えると物体Xを回収し、空に開く黒い穴を目掛けて飛び出した。
接近する度にやはり穴から飛び出してくる魔物は強力で、キマイラ、巨大翼竜、多頭鳥。
数が多く、それぞれが油断の出来ない攻撃を仕掛けてくる。
攻撃を避けながらでは、黒い穴へ行くまでにかなりの魔力を消耗するし、一気に向かった方がいいだろう。
もちろん物体Xを持ちながらの飛行も考えたのだけど、空中でもしも攻撃を受けてしまったらと考えてると、その選択肢はなくなった。
「まぁそこまで悩む必要もないんだけどさ」
俺はそう呟きながら、空を飛んで斬る風の魔力に、雷属性の魔力を混ぜ、一気に加速していく。
雷龍で使っていた加速する魔法をアレンジして、使う魔力を減らし使い勝手を良くして、魔物達を躱し一気に黒い穴へと到達した。
そしてその中へ入ろうとすると、見えない壁にぶつかり弾かれてしまった。
「なんだ? 魔法の壁? チィィ」
魔物が毎秒産まれて来るようで、そんなにノンビリもしていられずに、逃げ場のない集中攻撃が迫ってくる。
当たったら痛いんだろうな……そんなことを思いながら、闇属性魔法でこの場を打開することにした。
「【グラヴィティコントロール】からの【エアバリア】そして【ディスペル】」
下から上になった俺は、魔物達へ重力を掛け少しでも攻撃の勢いと魔物達のバランスを崩させることしたのだ。
即死攻撃を受けても、死ぬことはないのだから。
それよりも囲まれる原因となった黒い穴が問題だった。
これが解決しなれば、俺は前に進むことが出来ないのだ。
その為にディスペルを発動したのだけど、効果は抜群だった。
ディスペルを発動した直後、黒い穴は光の粒子とともに消えていき、それと同時に周りにいた魔物達も同時に光の粒子となって消えていったのだった。
「……そういう仕掛けなのか?」
確かにそうじゃないと、空を飛べない時点で詰むから分からなくもないけど……。
この迷宮の設定を考えた人は、相当捻くれた性格の持ち主なのは間違いない。
ステータスを確認すると、昨日と今の戦闘でレベルは三百に達していた。
キマイラやあの巨大翼竜がとてつもなく強い存在だったのか、それとも経験値のインフレが起きているのかは理解出来ないけど、ただ一つ言えることがある。
「今みたいな魔物が現れる黒い穴を、潰していかないといけないってことだろうな」
しかもたぶん徐々に魔物も強くなっていく……そんな気がする。
まるで魔界みたいなところだな。
そうと決まれば、敵が出てくるまで、魔力に関しては温存をしていく方がいいのだろう。
俺は再び森の中へ戻ると、魔力が回復するまでは歩くことにした。
幸い迷宮だからなのか、魔物以外に虫や蛭等もいないので、少し歩き辛いだけで、徐々に気にならなくなっていった。
俺に余裕があるのは、数か月分以上の食料と、物体Xを作り出す魔導具があることだろう。
もちろん孤独ではあったけど、それが返って攻略に集中出来ることになっていった。
森の中をひたすら歩いてると、やはり魔物が現れた。
ゴブリンやオークといった魔物……の上位種であるゴブリンキングやオークキングといった昔メラトニで魔物図鑑で勉強した個体だった。
しかもその上位みたいな人に近くオーガのような巨体と角を生やしたロード種と思われる魔物が現れたのだ。
[ロード何だから、普通は一体だろう……]
まさにキングやロードしかいない集団が、木々をなぎ倒してこちらへと近づいて来る。
「時間は掛けられないから、これで散ってくれ【シャイニングレーザー】」
魔力操作で頭を狙い、一気に魔石へと変えていく。
ポーラやリシアンがいたら、狂喜乱舞してしまいそうだな。
そんなことを考えてながら、こちらからも近づいていく。
身体強化して光の魔力属性を幻想剣へ注いでから撃ち漏らした敵を倒していく。
俺が強くなったというよりは、龍達の力を内包しているこの幻想剣が本当に凄いことが分かる。
きっとこれを作ってもらっていなければ、今も俺はここにはいないだろうな。
そう考えていると、あっという間にキングやロード種との戦いは終わってしまった。
「龍神やさっきの巨大翼竜達と戦った後だと、あまり強さを感じないな」
そんなことを呟きながら進むと、今度は巨大な沼が見えて来た。
そこからは夥しい魔物が、沼から這い上がってくる。その中には多頭竜を始めとした、毒を吐く魔物が沼を覆いつくそうとしていた。
「さっきみたいにレベルが上がる前提なら、数だけ増やして一気に浄化した方がいいのか?」
そう思って空中に浮かび上がったところで、空から蛇と鳥が混ざったような魔物がブレスを吐いて攻撃したきた。
当たっても問題ないと思ったけど、念のため避けると、下にいた魔物が石化し始めた。
「これがバジリスク? それともコカトリスなのか?【ディスペル】」
制空権はこのままでも維持出来るけど、一度浄化出来るのか試して見ると、綺麗さっぱり沼ごと消えてしまい、沼があった場所だけは原っぱとなった。
仮にディスペルが使えない者がここへ送られていたのなら、もしかして迷宮が魔物を吐き出さなくなるまで倒し続けないといけなかったのか?
もしそうなら、龍神には物体Xの樽飲みぐらいでは済ませられないな。
そう思いながら森を歩き、時には空を飛んで森と空の違和感を探す。
出現する魔物は本当に徐々に強くなるばかりだった。
それでも魔物が現れるところを優先的に回っていき、六つの目の森に出来た巨大な黒い穴をディスペルで解除した時だった。
ふと空を見上げると、遠くの空に黒い渦が巻き起こり、それから少しするとディスペルで解呪したはずの黒い穴が復活したのが、何となく分かった。
「時間制限ありとか……本当にいい性格しているよ」
こうなったら目印をして、一気にディスペルしていくしかないな。
だけど、一体どれぐらいの魔物の湧く場所があるんだろうか? とりあえず全容を解明するために、俺は森の中をさらに歩き続けるのだった。
お読みいただきありがとう御座います。