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315 修行の成果

 龍神に通された部屋は、冒険者ギルドの地下にある訓練場のような場所だった。


 少し違うのは天井がなく空が広がっていることと、竜が出入りする無数の穴がそこらかしこに空いていることぐらいだった。

 ここで龍神の訓練を受けるのか。


 そう思っていると、後ろからフォレノワールと闇の精霊が話し掛けて来た。

「ルシエル、大丈夫なの?」

「いつの間にか、少し印象が変わったような?」

 二人は俺の変化に気づいたのだろう。


「だいぶ訓練してきたからね。フォレノワール、闇の精霊も力を借りるよ」

 俺は微笑みながらも、視線は前を歩く龍神を捉えていた。


 そして龍神は訓練場の中央へ止まり、こちらを振り返って声を上げる。

「ここで俺と戦ってもらうが、ここの竜達は俺の支配下にいない竜達だから、攻撃を仕掛けてくるだろう。頑張って……何だ? さっきまでと様子が変わって随分余裕そうだな」

「そんなことはないですよ。ここで強くならなければ、平穏を得られないんだなぁって、思っただけですから」

 レインスター卿の特訓のおかげで、やけに身体が軽いし不思議な感じなのだ。

 それだけでなく、魔力が精神世界よりも濃く感じることが出来ている、そんな気がする。


「思考を停止したら死ぬぞ?」

 竜達に囲まれているから絶望した気持ちになったと勘違いしたのか、龍神は心配そうに声を掛けてくれた。

 だけど俺はただ、ここにいる竜達は誤った属性で攻撃しても、強化されることはないんだろうなと思っていただけだった。


「龍神様はそのまま戦うんですか? 龍の姿になったりは?」

「くっくっく。龍形態にさせられるものならさせてみろ」

「……善処します」

 龍神からは威圧された感覚もあるけど、レインスター卿の前に立つ方が怖いし、これなら問題なく動けそうだ。


「光の精霊、闇の精霊、手出しは無用だぞ?」

「分かっているわ。私は相棒が強くなるところを見に来ただけだもの」

「私はお姉様の付き添いですから」

 どうやら基本的には一対一対竜達のような構図になるみたいだな。


 俺は魔法袋から盾を取り出し、左手に持つと、幻想剣を右手に構えて龍神と対峙する。

「いいね。やる気満々だな」

 そう言って龍神は何もないところから大剣を取り出すと、挨拶代わりの斬撃を放ってきたのだった。


 後ろにフォレノワールと闇の精霊がいて、俺がどう対処するのか興味があったような斬撃はそこまで強いものではなかった。


 だからレインスター卿がやっていたように飛んでくる斬撃をより強力な斬撃で撃ち返すというあれを真似てみる。

 こちらに戻って来てからも、常時身体強化は継続していたので、スムーズに幻想剣へ魔力を込めて振ることが出来た。


「なっ!?」

 挨拶代わりの一撃が、まさか戻って来るとは思わなかったのか、龍神は俺からの斬撃をちょっと大げさに避けた。

 俺はそれを見ながら、さっきの斬撃が戦闘開始の合図と判断して、直ぐに移動を開始した。

 後方にいるフォレノワール達を背に闘い続けるのはキツイかもしれないと思ったからだ。


 俺の接近に驚いた龍神だったけど、まともに掛かって来たことが嬉かったのか楽し気な顔をしていた。


 そこへ龍魔法の龍纏で炎龍を身体強化の上に発動させ、思いっきり斬りかかると、龍神は驚いた顔をした直後に身体から闘気(オーラ)のようなものが吹き出した。

「おいおい、いつの間にそんな精密な龍技を操れるようになったんだ?」

「塞がれているからまだまだですよ。それよりその闘気は何ですか?」

 俺の一撃を簡単に防いだ防御力は尋常ではなかった。


「これは龍気だ……そんなことはどうでもいい。一体……」

 龍神がそこまで言葉を零したところで、周りにいる竜種がこちらに向けてブレスを放ってきた。

 俺と龍神はブレスを回避しながら、互いに後方へと距離を取った。

 そして俺は精霊魔法を発動させた。


「ええぃ、邪魔だ」

 龍神は竜達のブレスが煩わしかったのか、斬撃を放っていく。

 だけどそれは命を刈り取るものではなく、鼻っ柱を斬りつける竜の躾のようにも思えた。


「ここの訓練場を選んだのは貴方でしょうに」

「ふん、少しは力を温存していたってことか。だが、調子に乗るなよ」

「はい。真の力を目覚めさせないと、平穏が訪れないのでよろしくお願いします」

「……調子が狂う奴だ。戦闘を終わらせたら、しっかりと聞かせてもらうぞ」

 すると龍神は自分の斬撃よりも速い速度で俺の前に現れると、全力で俺を斬りに来た。

 そして俺の防御も虚しく、俺が()ぜた……。


 そんな俺の水人形を見ながら、俺は龍神へ向け修行の成果試すことにした。

「隙だらけですよ? 【シャイニングレイン】」


 闇の精霊の力を借り存在を薄めた俺は、風の精霊の力を借りて空中へ上がると、最後にフォレノワールの眷属達に力を借りて、空中からフォレノワール張りのレーザー光線の雨を龍神に降らせた。

 全てレインスター卿がみせてくれた戦術を真似してみたけど、上手くいったみたいでホッとする。

 これで少しは驚かせることが出来ただろう。


 一度フォレノワールと闇の精霊に視線を向けると、こちらを向いて驚いた表情をしていたから作戦は成功だな。

 まぁこれぐらいは三種類の魔力を分けられるようになってから、直ぐに使うことが出来たし、大したことではないはずだ。

 その証拠に龍神は無傷で現れ……あれ?

「何で怪我しているんですか?」

 レインスター卿はデコピンの要領ではね返してきたり、魔力障壁で受け止めたりしていたのに、龍神は竜人の身体だったからか、擦り傷を負っていた。


「……どういうことだ! 何故龍魔法だけでなく、精霊魔法を使えるようになっているんだ!!」

 龍神は驚きを通り越して、(おこ)り始めてしまった。


「色々あったんですよ」

 本当に色々あったけど、あれが現実では一瞬の出来事だったから、説明するのは難しい。

 転生者だと言わない限り……。

 まぁここにいる龍神や精霊のフォレノワールと闇の精霊に、転生者であることはバレているのだろうけど。


「そういう秘密主義は好かん。一度徹底的に負かして、全てを吐いてもらうぞ」

 龍神の身体が光り出すと、どんどん身体が大きくなっていく。

 全長は巨大ビルに相当し、その大きさは巨大“ルシエルン”やデストロイヤーに引けを取らない。


 前に闇の精霊からレインスター卿と闇龍の戦いを見せてもらったけど、龍神はあの時の闇龍と同等かそれ以上に大きく感じる。

 そしてアンデッドではない為、聖域円環も通じない。


 ただ龍族のブレスは、地形を変えてしまう程の威力を秘めている。

 だからこそブレスは顔を狙った攻撃をされると、龍族の本能が誘爆を恐れ、ブレスが吐けなくするのだとレインスターが教えてくれていた。


「物体Xを口に入れるのもいいけど、一度ぐらいはちゃんと戦ってみるか。その上で……」

 俺は目標を立て、空を駆けた。


『策モ無シニ掛カッテ来ルトハ、豪気。シカシ向コウ見ズナ性格ハ、命ヲ落トスダケダ』

 龍神の念話が頭に響いたと同時に、龍神から俺に向かってブレスが吐き出された。


「【ドラゴニックシールド】」

 俺は龍の魔力を使って魔力障壁よりも強固なシールドを創り上げ、そのままブレスを放つ口へと突っ込んでいく。


『馬鹿ガ。我ガ毒龍ダト教エタダロウガ!』

 そんな声が聞こえたところで俺は龍神のブレスに飲み込まれるのだった。


 チリチリ痛いし、変なニオイもする。

 それでも死ぬことはないし、絶望感もなかった。

 ドラゴニックシールドがほとんどブレスを無効化してくれたことで、俺に目立った傷はない。

 そして既に毒耐性Ⅹの俺には、どんな凶悪な毒でも身体が毒されない耐性となっているので、龍神様ブレスが一番怖くなかったのだ。


「【エクストラヒール】【龍剣八陣】」

 身体を回復させた俺は、ブレスが止む瞬間を見極め、幻想剣から幻想杖に変形させて魔力を込めると、レインスター卿の服へ掠った、現時点での最高奥義を放った。


 炎龍、水龍、風龍、土龍、雷龍、光龍、闇龍、聖龍を幻想杖から発動させたのだった。

 大きさはレインスター卿の全力よりは小さいが、それでも半分ぐらいの大きさの龍が龍神へと巻き付いていく。


 本物のようにブレスを吐くことも出来るけど、相手によっては巻きついて噛みつき、相手にそれぞれの属性攻撃を与えることが出来る凶悪な魔法だ。

 『グォオオオオ』

 龍神は激しく身体を振って嫌がるけど、俺が創った龍はそう簡単に切れないようになっている。


「じゃあ行きますよ」

 俺は再び幻想剣へ変形させると、龍神へ向かって魔力を込めた斬撃を放っていく。


 龍神は逃げようともがくけど、八龍がまとわりついて離れずに、まともに斬撃が入っていく。

 龍神は堪らずに叫ぶような声を上げ、八龍が消えたところで、力をなくしたように大地へと落ちていった。





お読みいただきありがとう御座います。


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