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250 温存

少し短いです。

 本来はアルベルト殿下の側近になっていた筈のメルフィナさんとバザック氏だが、二人が呼び合う名前は、俺達が知っている名前ではなかった。


「聞いてもいいか?」

「何だね? 命乞いか」

 下卑た笑みを浮かべたバザック氏は既に勝った気になっているようだ。

 メルフィナさんの方も大してこちらのことを気にしていないみたいだ。

 しかしここで邪魔が入る。

「メルフィナ、何だか分からないが早くこのロープを切ってくれ」

 殿下が大きな声で叫んだのだ。

 さすがに空気を読んでほしかったのだが、メルフィナさんは殿下を見つめると笑顔になった。

 まだ意識があるのか? 一瞬そう思ったのだが、そうではなかった。

「あっはっはっは。貴方が大好きだった従順なメルフィナちゃんはもういないよ。それに殿下のこと昔から気持ち悪いと思ってたの~。だから死んでいただけますか」

 まるで性格が百八十度変わってしまったかのような喋り方となり、格好も少し際どくなっていて、メルフィナさんだけど全く違う人に感じた。

 その影響を一番受けているのは殿下で、メルフィナさんの言葉に愕然としてしまっているのが、手に取るように分かった。

「馬鹿者。まだ使い道があるのだから、殺すな」

 そんなメルフィナさんに、バザック氏が殿下を人質にするでもなく、ただこちらを攻撃するように命じた。

「え~、別にいいじゃない。それにあの顔見ているとモヤモヤしてくるのよ」

「駄目だ。るなら奴等にしろ」

「私に指図するな。はぁ~まぁいいわ」

 メルフィナはこちらに向き直り、魔力が一気に高まったと思ったら、こちらに魔法を放ち……爆発に巻き込まれた。

 そう。俺達がではなく、メルフィナが巻き込まれたのだ。


「何とか間に合ったな」

「ルシエル様、結界を張っていたのですか!?」

 ライオネルは驚いた顔をして聞いてきた。


「ああ。戦うと色々面倒になりそうだし、既に殿下とバザック氏にも聖域結界を張ってある。何とかギリギリだったよ」

 アルベルト殿下があそこで叫ばなければ、もっと魔力を消費しないで済んだが、何とか戦闘にならなかったのでホッとした。

「なんと!……ですが、メルフィナは聖域結界に気がついていない様子でしたが?」

「ああ。覚えたての闇魔法で、結界の内側に薄い膜をコーティングさせてあるんだ。向こうも身体に慣れていなそうだし、少し体調が悪いと感じてもばれないと思ってな」

 これは一種の賭けだったけど、エスティアとリディアと色々と魔法の可能性を模索して編み出した魔法だった。


「では、バザックは?」

「ああ。あの人はまだ人だな。魔族ではないよ」

 先程まで下卑た笑みを浮かべていたバザック氏は、その表情を凍らせていた。

「何故だ――!! ルシエル殿であればメルフィナを正気に戻すことだって出来た筈だ。それなのに何故……」

 アルベルト殿下に睨まれるが、ここで何を言っても無駄だろう。

 俺は結界内で倒れたメルフィナさんに魔法を発動させながら、バザック氏に声を掛ける。

「さて、お話しの続きをしましょうか。本物のバザック氏は何処へ? 貴方が魔族になっていないなら、魔族に身体を乗っ取られたわけではないでしょ?」

 すると、先程まで硬直していた顔に少しの余裕が出来たようだった。

 そしてバザック氏は独白するように呟いた。

「あいつなら死んだよ。いや、私が殺してやったんだ」

 確かに殺したと宣言したバザック氏を見ながら、彼がバザック氏の贋者であることは理解した。

 しかし俺にとっては彼がバザック氏なので、あまり深く感情移入することなく、次の質問をすることにした。


「そうか。ちなみに迷宮で会った五人組も魔族や翼竜部隊がいたのは、貴方がこちらの情報を流したからですよね?」

「……ああそうだ。クラウド様の邪魔にならぬように、お前達を亡き者にしようとしたのに、使えないやつ等だったよ」

 ヤレヤレと首を横に振る。

 そんな彼を見ていると、どうしても気になる点があった。

「ところでずっと気になっていたんですが、貴方は何故魔族になっていないんですか?」

「潜入していたんだから仕方がないだろう。それに確率的に八割が死んでしまう実験に命を賭けられるか」

 バザック氏の気に触ったか、強い口調で魔族化のデメリットを主張してきたが、どうやら攻撃をしてくる様子はない。

「まぁ聞きたいことは聞けたかな。ライオネル、彼はどうする?」

「放っておいても害にしかなりそうにないですが、気絶させておくのが一番有効でしょう」

「そっか。エスティア頼む」

「はい」

 エスティアはバザック氏と十数メートルのある距離を一気に縮めて頭に触ると、バザック氏は抵抗することなくそのまま倒れていた。

 見事な手際だと感心しながら、事前にライオネルに打ち合わせた通りに、兵士達をまとめてもらうことにした。

 そして俺はメルフィナさんのところへ向かう。


 まずメルフィナさんは死んでいなかった。

 気絶しているようにも見えるけど、これが狸寝入りの可能性もある。

「自爆したからもっと酷いことになっていそうだと思ったけど、魔族って生命力が高いのか? それより……」

 これまでディスペル、リカバー、ピュリフィケイションの三連コンボで、魔族化が解けなかったことはなかった。

 しかし、メルフィナさんの魔族化は解けていなかった。

「先程の別人格が入ったようなことを言っていましたから、完全に魔族へとなってしまったのではないでしょうか」

 こちらについて来たケフィンが俺の気持ちを代弁してくれたけど、彼女を救う時間はあまり残されていない。

 正直な話、聖域結界を維持するのに魔力を消費し続けるからだ。

「まぁライオネルとの約束もあるし、あの殿下が解放されたら突っ込んできて面倒なことになりそうだし、やれることはやってみるか」

 そして詠唱を始めようとした時だった。

「やめろ――」

 あろうことか殿下が勘違いして飛び掛ってくるのが見えた。


お読みいただきありがとう御座います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ルシエルの発言のほとんどが 「ああ、…」から始まってるのが少し…もやっとするような。。。
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