246 戦闘準備
いつも聖者無双をお読みいただきありがとう御座います。
ゴールデンウィーク中、執筆出来ない環境で過ごすことになります。
そのため休載させていただきますので、あらかじめご了承くださいませ。
迷宮から戻り早四日、明日の早朝に帝国へと突入する件で、最後の作戦会議を飛行艇の中で行うことになった。
ちなみにこの四日間は、ドランに作ってもらった地下の訓練場でライオネルの対人戦を強化するために、一対多の模擬戦を何度も何度も繰り返していた。
回復役として参加を表明したのにも関わらず、そんな甘い時間は俺にはなかった。
模擬戦だけに時間を費やす訳にはいかず、それ以外の時間を有効的に活用するべく、エスティア、リディアと共に魔法の研究を行なった。
少しだけ期待していた闇精霊とエスティアの入れ替わりはなかった。
それでも身体を使う模擬戦と脳を使う魔法研究のバランスが良かったのか、色々実になる期間だったと思う。
まぁポーラとリシアンとリィナが暴走したせいで、全員が死に掛けたのだけはいただけなかったが、それ以外は本当に順調だった。
皆が飛行艇の食堂に揃ったところで、作戦会議を始める。
「まず飛行艇で明日の日の出前に帝都へ突入する。そして飛行艇は俺達が下りたら速やかにエビーザ方面へと退避してもらう。責任者はドランだ」
「本来ならば戦いたいところだが、仕方あるまい。但しエビーザまでは戻らずに、帝都上空を飛行しておく」
「翼竜と戦うつもりなのか?」
「もし失敗した時に救出出来る場所に居なくてどうやって助けるのだ」
「……分かった。だが、決して無理はしないでくれ」
「ああ。任せておけ」
ドランなら大丈夫ということにはならないが、任せる相手がドランしかいないので、信じることにする。
「次に帝都へ降下し終えたら、まずは帝都の中央へ降り立ちライオネルに演説してもらい、そこから城へ向かうことにする。それでいいな」
俺は皆にそう話しながら、今朝方にライオネルに頭を下げられたことを思い出していた。
本来であれば、飛行艇から派手な降下をして翼竜と戦う予定だった。
しかし翼竜を撃ち落とした場合、その下敷きになり、建物を壊す畏れもあるので、住民を極力巻き込まないように、派手な登場を控えることになったのだった。
それでも演説の際には魔族と帝都内で戦うことになる可能性もあり、これについてはどうしても住民危険を晒すことにもなる。
だけどそれについては、現在の帝国の真実を住民に知ってもらうことするために必要なことだと、ライオネルは首を横に振って、俺に頭を下げて言った。
「ルシエル様に相当な負担を掛けてしまいますが、魔族となった者達もその場では誰も殺さないでいただきたいのです」
あまりに無茶な内容だった。しかしライオネルが軽々しくそれを言ったとも思えなかった。
「無茶苦茶なことを言っている自覚はあるよな? 何か理由があるのか?」
「はい。ルシエル様なら、それでも成し遂げられると信じています」
「答えになってないし、なんとも簡単に言ってくれるな」
しかしライオネルは俺から視線を外すことはなく、本当に俺なら出来ると信じている目をしていた。
「ルシエル様が帝都で住民達の信頼を勝ち取ってもらうためです。どうか、よろしくお願い致します」
ライオネルが頭を下げると、こちらも頭を下げたくなるから不思議だ。
そんなことを思いながら、俺がどれだけ頑張ったとしても限界があることは分かっていることを踏まえて、それでも出来ると判断したのだろうな。
「はぁ~本来は絶対にしないぞ。でも従者筆頭のライオネルが俺を信頼しているんだから、誰も死なせないように頑張って見せるさ」
「ルシエル様、ありがとう御座います」
「その代わり俺は住民の回復と魔族化した者を弱体化させることを担当する。指揮はライオネルに全て任せるぞ。それとサポートも頼む」
さすがに皆の指揮を執るのは無理だし、敵が近づかないようにサポートしてくれる人がいないと、困難を極める。
「はっ。身命を賭して、成すことを成します」
こうして作戦の変更を申し出たライオネルに、俺は帝国へ入ってからの指揮権をライオネルに委ねることに決めたのだった。
「皆の者も危険が増してしまう中、承認していただき感謝する」
ライオネルは何度目か分からない頭を下げた。
律儀なライオネルに何故かこそばゆさを感じながら、話題を変えることにする。
「しかしライオネルの装備ってこんなに厳つかったのか」
「ニャ。ライオネル様は赤と黒の鎧を纏って戦場を駆け回っていたニャ。昔と同じように覇気が溢れているように感じる姿は、帝都民にライオネル様が本物だと分からせることが出来るはずニャ」
ケティが太鼓判を押すライオネル装備は、帝国将軍時代に着ていた装備を、ドランが忠実に再現して作ってくれたのだった。
戦鬼将軍をしていた時と全く違和感がなくなったと嬉しそうに頷いている。
確かにこの厳つい鎧を着て、帝国特殊部隊を屠った顔で戦場を駆け回れば、戦鬼将軍と敵に恐怖を与えていたのも納得出来るものだった。
もちろんそれだけではなく、若返った対処としてここ二週間で無造作に伸びていたヒゲを有効的に使うことにしたのだ。
「兜がないのは顔を見せるためもあるけど、人が相手なら弓矢による攻撃も予想できるけど、その辺は大丈夫か? それと本当にこれでライオネルだと分かってもらえると思うか?」
「ライオネル様に何故か矢は当たらないニャ。それとヒゲを伸ばしたライオネル様は、昔のライオネル様のイメージのままニャ。きっと帝都民はライオネル様の声に呼応するはずニャ」
矢が当たらないとかそんなススキルがあったら欲しいが、相手にプレッシャーを与えてもらわないってことなんだろうな。
それにしてもあの無精ヒゲこそが、今回の作戦を成功させるための重要なファクターだとケティが力説したのには驚いたな。
まぁ結局俺達も信じることにしたけど、後々考えると不安になるものだな。
「そしてその声量を増幅させる魔道具でライオネルが帝都民に呼びかければいいのだな?」
魔道具として開発された拡声器を開発したのはリィナだった。
「魔力消費はそれ程なく使えるようになっています。これでテストも終わっていますし、私達は皆さんが成功されるのを祈っているだけです」
「それはありがたいけど、あれだけ嫌がっていたのに、本当について来るのか?」
「はい。最初は恐かったですが、私の作ったテンペルンが翼竜を吹き飛ばすところを見てみたいですから」
きっと主砲はドランが作ったものだから、テンペルンと呼ばれたのは飛行艇の左右についているどちらかの魔導砲だろう。
しかし戦う予定がないことは何度も言っているのだが……。
目の下にあれだけ隈を作っていながら、清々しく笑う彼女に俺はもう何も言えなかった。
しかしその隣では涙目になってリィナを見つめるナーニャの姿があったので、声を掛けることにした。
「……ナーニャさんはここに残ってもいいんだぞ?」
「いえ、知らない人だけの場所に一人で過ごすことなんて、恐くて出来ませんからついて行かせてください」
「……分かった。」
泣きそうな顔をしながら、ナーニャさんがそう告げたので、それ以上は何故か罪悪感が芽生えてしまったので聞かないことにした。
「一応最後の確認だけど、突入は俺、ライオネル、ケティ、ケフィン、エスティアの五名だけだ。飛行艇はこれからの行動に関しても重要なものだから、ナディアとリディアを含めた皆で守ってくれ。いいな」
「「「「はっ」」」」「「「「「はい」」」」」「おう」「おー」
ポーラの棒読みな返事に苦笑しながらも、こうして作戦会議が終了した。
その後は皆で夕食になり、これが最後の晩餐にならないことを誓いあって、明日の帝国に向けて英気を養うのだった。
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