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235 搦め手

 エビーザで治療を求められた患者は、帝国の元皇子と元聖女、そして残りも帝国関係者だと思われる者達だった。

 どれだけの治癒が必要なのか調べると、元皇子と元聖女からは瘴気が漏れていることが確認出来た。


 きっと俺の顔は少し強張ってしまっていただろう。

 直ぐに治療を始めようとして、魔族化しているなら魔族化に関わった者が集まった人の中にいるだろうと判断し、ピュリフィケイションウェーブで魔族の洗い出しを始めた。

 人のままなら苦しむことはないので、無意味に終わる可能性もあったが、それでも大事の前の小事で躓く訳にはいかないと判断したのだった。


 ピュリフィケイションウェーブにより、元皇子や元聖女も苦しみだしたので、直ぐにディスペル、リカバー、エクストラヒールとかけようとした時だった。

「危ない」

 そう聞こえた瞬間、俺は右側から突き飛ばされた。

「なにを――!? エクストラヒール」

 俺を押したのはバザック氏だった。

 そして押されたことに抗議しようと、彼に向き直った時、彼の胸に短剣が深々と突き刺ささり、血でローブが赤黒く染まっていく様が見てとれた。

 彼が倒れかかったところを受け止めると、まだ息はしていて即死してはいなかったので、直ぐにエクストラヒールを発動したのだった。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ。痛みもありませんし、やはり賢者になられる方の回復魔法は凄まじいものがありますね」

「庇っていただいてありがとう御座います」

 本当に意識外からの投擲に全く反応出来なかったので、心から感謝する。


「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けしました。申し訳ありませんが、彼等の治療をお願い致します」

「分かりました」

 どうやらバザック氏は問題なく回復出来たようだ。

 それにしても魔導士なのに身体張るとか、不手際を直ぐに謝れるとか、この人は相当優秀人だと思う。

 気を取り直して、元皇子達の魔族化を順番に解いていくことにした。 


 短剣を投擲した者は、怪我人として運び込まれた中の一人だった。

 ピュリフィケイションウェーブでダメージを受け、苦しみながらも立ち上がって、何処に隠していたのか短剣を取り出して俺に投擲したらしい。

 短剣を投げた者は瞬時に、ナディアとエスティアが無力化して、今後はケティ、ケフィン、エスティアの三人で聴取することが決まった。



「大変申し訳ありませんでした。まさかこんな凶行に出る者がいるとは……」

 バザック氏は九十度近いお辞儀をして、俺にずっと謝罪をしていた。

「謝罪はさっき受け取りましたよ。それよりこちらも助かりました。治すことに集中していたので、短剣には気がつきませんでしたし、この町にも私達が相手にしないといけない者達が、紛れていたみたいですから」

 そう、俺に短剣を投げつけ者以外にも、集まった人達の中にも苦しみだした者が二人いたのだ。

 皆がそちらへ向かったために、俺のケアが遅れてしまったのだが、それは仕方ないことだともう割り切っていた。


 治療した元皇子達は、短剣を投げつけてきた者以外、直ぐに起き上がることが出来る者はいなかった。

 その間に彼等がこの町で何故これだけ慕われているのかを、バザック氏に聞いてみることにした。


「ライオネルが先程、彼と彼女のことを殿下と聖女と言っていましたが、何故この町で二人のことを慕うものがこれだけ多くいるのでしょうか?」

「アルベルト様とメルフィナ様は、現在帝国の在り方に疑問を持ち、皇帝との間に溝が出来、そして反旗を翻したのです。その為に追われる身となりました。そして困っている者達を助けたことで、徐々に我等の仲間になっていったのです」

 ギリリリリとライオネルの歯を食いしばる音が聞こえてくる。


「……もっと詳しく説明をしてください」

「現在のイルマシア帝国は戦争に資金をつぎ込みながら、戦争に勝てない日々が続き、軍資金を賄う為に住民に重税を課すだけでなく、武力に秀でた者のみを優遇して、文官たちを冷遇し始めているのです」

 ライオネルから感じるプレッシャーがより強くなる。


「そ、そんなことをすれば、統治していたバランスが崩れてしまうのでは?」

「ええ、ですから、お二人が皇帝に進言されたのですが、逆にそれで反乱の疑いを掛けられ、帝都から逃亡したのです」

 なるほど。彼等がこのエビーザいる理由は分かった。

 だが、それは慕われている理由にはならない。

「何故これだけの人に心配されているのでしょうか?」

 それだけが知りたいのであって、それ以外の情報はあまりほしくなかったりする。

 それでも知らなくては微妙に動けなくなりそうな情報を搦めくる、まさに搦め手で話をされている気がするのは気のせいか?


「お二人がこのエビーザに逃げ込まれた頃から、日に日に帝国の評判は落ちていくことに我慢出来なくなられたようで、皇帝の圧制を止めるための組織を作られたのです」

 レジスタンスを結成したのか。元が付くのだろうが、第一継承権がありそうな皇子がそれをするとはな。

 本来であれば暴走した皇帝を止めるのはライオネルの役目だったのかもしれないな。

 先程から険しい顔が限界突破しているようにも感じるぞ。


「……組織活動は具体的に何をしているのですか?」

「違法奴隷商から奴隷の解放、帝都で好き勝手する兵士への裁き、無実の罪で投獄された者達の解放。それと帝国が暴走する原因を作った戦鬼将軍の暗殺……まぁこれは失敗してしまいましたけどね」

 完全にライオネルを挑発しているが、きっとそうすることでライオネルを怒らせ、この話を有耶無耶にするつもりなのだろう。

 バザック氏は結構腹グロイのかもしれないな。


 これだけの人の心を掌握しているということは、何かがあるはずだけど、それを悟られないようにしているのか、それともこちらに協力させたい思惑があるのか迷う。

 レジスタンスの最終目的が、元皇子の帝位に就くことだと考えると、今回の失敗は大きな痛手になる筈だ。

 それを話したということは、やはりこちらに協力させたい思惑があるのかもしれない。


 本来であれば、ここは挑発して煽りたいところだけど、それが本当の狙いかもしれない。

 こういう頭のいい人と話すと疲れるから、俺はここで一気に会話から離脱することを決めた。


「なるほど。組織運営はどこも大変なんですね。さて、彼等の治療も終わりましたし、魔力を使い過ぎたので、そろそろ宿へ案内をしてください」

「……彼等が目覚めるまで待ってはいただけないのですか?」

 思惑が外れたのか、バザック氏はここに留まらせようとして来るが、俺はそれを断ることにする。

「私は私に出来る最善の魔法を発動しました。それは主神クライヤ様、聖治神様に誓えます。それとも何か宿に案内出来ない理由でもあるのですか?」

「……いえ、そういう訳ではありません。今回は無理に治療を頼んでしまったことも含めて、お礼として是非私が住んでいる屋敷へ招待させていただきたいのです」

 本当にあの手この手で来るな。

 本当なら断りたいところだけど、リィナとナーニャさんをこの町に置いていくつもりなので、ここで波風を立てることはしたくない。

 仕方なくバザック氏の屋敷でお世話になることにしたのだった。



 屋敷はグランドルで泊まった高級ホテル並に大きさだったこともあり、俺達が宿泊するのも全く問題無さそうだった。

 しかし昼間のこの時間帯でドラン達がジッとしていられる訳もなく、庭が広かったことで、ドランが飛行艇の調整をすると言い出し、ルシエル生産部は皆庭についていってしまった。

 警護としてナディアとリディアも付いて行ってくれた。


 ケティ、ケフィン、エスティアは魔族化していた三人の拷も……聴取をする為に、屋敷の地下室へと下りて行った。

 その際、ケフィンから物体X一樽ほしいと言われて渡したのだが、あれだけで足りるのだろうか? そんなことを考えている。


 そんな俺はライオネルとテーブルを挟んで対面するように、居間のイスに座って、今後のことについて話し合いを始めた。

「ルシエル様、明日は予定通りに出発されるのですか?」

「迷っているけど、そのつもりでいる。ただ本当に迷っているから、何か案があるなら聞きたい」

「アルベルト殿下は私が武術指南をした方なのです。戦争よりも民の暮らしを安定させる道を模索する思考の持ち主でした」

「それが謀反により廃嫡される身となったから、その裏を知りたいということかな?」

「はい。私はルシエル様の従者として誇りを持っておりまし、今更帝国へ戻るつもりもありません。ですが、このまま帝国が内部から朽ちていくところを見たくないのです」

「それでどうしたいんだ?」

「アルベルト殿下が率いている組織と協力して動きましょう。我等の目的は魔族と魔族化の研究、それと偽者の私を討つことです。帝都を制圧することではありません」

「確かにそうだな。じゃあバザック氏が来たら、アルベルト殿下に繋いでもらうか。そういえばバザック氏と戦場であったような話をしていたが?」

「はい。私がまだ将軍になる前の話です。戦場で基本四属性魔法を自在に操る魔導士と相まみえることになり、死に掛けましたが、何とかその者を叩き切りました。おかげで戦争が終結した際に私は将軍になったのです」

「人の魔法をバカスカ斬っておいて手強そうに話を盛るな。火達磨にしてやったのに、そのまま突っ込んできて私を切り伏せる戦場の鬼だった癖に」

 声がした方を向けば、バザック氏が居間へとやってきて、それに続いてアルベルト元殿下と聖女メルフィナが入ってきた。


 俺は立ち上がりそちらに目をやると、バザック氏が二人の紹介を始めた。

「ルシエル様、ご紹介させていただきます。こちらが組織のリーダーであるアルベルト様と副リーダーのメルフィナ様です」

「賢者ルシエル、この度は命を救っていただき感謝申し上げる。私は元帝国第一皇子でしたが、今はただアルベルトと名乗っております」

「命を助けていただきありがとう御座いました。私も今はメルフィナと名乗っております」

 威張るでもなく、淡々とお礼と自己紹介を彼等はしてきた。

 案外楽な人達、そういう印象を持たせるような気がした。


「ご丁寧にありがとう御座います。私もただのルシエルと名乗って下ります。身体の具合はいかがですか?」

「身体はまだ少し重いですが、動く分には支障はありません」

「私もです。先程魔法を使えるか試したのですが、使えるように戻っていました」

「それは良かった。さてお二方も気になっているので、ご紹介させていただきます。私の従者でライオネルです」

 ライオネルを紹介すると、二人の顔が強張ったのを感じた。

「ご無沙汰しております殿下。そしてメルフィナよ」

 ライオネルはアルベルト殿下に軽く会釈をして、あとはどっしりとして心の乱れは感じなかった。


「本当に本物の先生なのですか? 私の記憶にある先生よりも少し若返った……それこそ昔の先生のような……」

「ライオネル様はもう少し鬼の様な顔をされていた記憶がありますが……」

 若返った影響もあるが、髭が無いことで更に若返っているように感じるのだろう。

 あと鬼のような顔は先程していたが、子供が生まれてくると分かってから、毎日笑顔の練習をしているライオネルの顔が柔らかくなったのは、努力の成果だ。


「殿下は悪さをする度に十二歳まで私に尻を叩かれておりました。さらに成人されてからは、何度もメルフ「先生、先生です。いいです。分かりました」そうですか」

「ライオネル様なんですね。それならあの聖都の地下にいたライオネル様と呼ばれていた者は一体誰だったのでしょう?」

 ライオネルはアルベルト殿下の黒歴史を語り始めて、直ぐにライオネルだと認めさせた。

 そのやり取りを見ていた聖女メルフィナは、ライオネルよりも早く口を開いていた。

 女の人って、皆危機意識がとても高いよな。

 そんなことを考えて、元皇子率いるレジスタンスと手を組むか、それとも単独で帝国に奇襲を掛けるか、話し合いが始めることにしたのだった。



お読みいただきありがとう御座います。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公、並列思考を持ってるのに魔法使うと周りが見えてないのはなぜですか?ここまで読んで思ったのは主人公のピンチって並列思考を使ってれば問題なく回避できると思うんだけど……
[気になる点] 平仮名が多すぎて、読み難いです。もう少し、漢字を 使って下さい。 [一言] 話し合いが始めることにしたのだった。 ↓ 話し合いを始める事にしたのだった。
[一言] そしてメルフィナよ ↓ そして、メルフィナよ
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