おい、暴れるな
「アリオス様……。なんだったんですか、あの人……」
「さあ。わからん」
いまだ引き気味なエムに対し、僕は肩を竦める。
覚えてやがれ……とダドリーは言っていた。
もしかしなくても、また襲ってくる可能性があるわけか。勘弁願いたいな。
「…………」
「あれ? どうしましたか? アリオス様」
「あ、いや。なんでもないんだ」
――さすがに考えすぎか。
僕は物思いを中断し、続けて言う。
「ま、あいつのことはいったん置いておこう」
僕は剣を鞘にしまうと、スキル《原理破壊》を解除した。
その途端、世界の色が元に戻る。青色に包まれた世界が、見覚えのある風景に変わっていく――
さて。
思わぬ邪魔者が入ったが、やるべきことは変わらない。
アルド家を制圧するためにも、いまは一刻も早く動くべきだろう。
ちょうどいいスキルも手に入ったことだしな。
――新スキル《原理破壊》。
これが適用される範囲には制限があるが、高さにおいてはこれといって限界がない。つまり、屋敷にさえ近づいてしまえば、わざわざ馬鹿正直に一階から侵入する必要はない。
いくら陽動によって敵の人数が割かれているとはいえ、ユーフェアスの屋敷には多くの構成員が警戒を張っているはず。そこを狙う必要はない。
「エム。ユーフェアスがいつもいる部屋はどのへんだ?」
「えっと……あ。あのへんです!」
エムが指さす方向には、一際大きな窓がひとつ。
黒いカーテンのせいで内部は見通せないが、たしかにあのへんから邪悪な気配をいくつか感じるな。ユーフェアスと……あと数人か。
「よしエム、あそこにいくぞ」
ユーフェアスの私室のほぼ真下を指さす僕に、エムがぎょっと目を見開く。
「えっ!? アルセウス救済党の人が結構いますよ!?」
「問題ない。強硬突破だ」
ま、念のため《チートコード操作》であいつらの攻撃力を1/4にしておくけどね。
エムもかなり強いし、そこいらの構成員には負けないはずだ。
「さ、エム。手を」
「あ……。は、はい!」
僕の差し出した手を、エムは頬を赤らめながら握り返す。
ぎゅっ、と。
暖かな感触を確認したところで、僕は勢いよく地面を蹴る。
「ひゃあ! 早いっ!」
黄色い悲鳴をあげるエムに続いて、構成員たちが遅れて僕たちに気づいた。
「出た! アリオスだ!」
「迎え撃て! 全員でかかれば勝てるはずだ!」
真剣な顔で戦闘の構えをとる構成員たち。
だが、悪いね。
こっちは戦う気分じゃないんだよ。
スキル《原理破壊》発動。
使用する能力は飛翔。
一気に室内まで転移しようかとも考えたが、踏み入れたことのない部屋にいきなり入るのはリスクが高い。いったん空中で様子を見るべきだと考えた。
ふわり――と空中に浮かんだ瞬間。
「え! わ、わぁぁぁぁああ!!」
エムが絶叫をあげながら僕にしがみつく。
「高い! 高いですよアリオス様!」
「お、おい! 抱きつくな! 当たってんぞ!!」
なにがとは言わないが。
「だって! アリオス様、こんなのすんごい怖いですって!」
「……仕方ない。そのままでいいから、暴れるのだけはやめてくれ」
集中が切れてスキルが解除されたら大事件だからな。
結局、エムが僕の首に両腕をまわす格好で落ち着いた。
……アルセウス救済党はエムを人造人間と言っていたが、生身の人間とまるで同じ温もりだな。まったく違いがわからない。
って、そうじゃなくて。
「おい、アリオスの奴、どこにいった!?」
「まさか幻影を見せてきているのか!?」
「俺たち全員で集団催眠にかかっているかもしれんぞ!」
「ありえる! 各自警戒を怠るな!」
……ずいぶんな言いようだな。
さすがにそんな性悪な能力は持ってないんだが。
ま、あのまま捜されても迷惑だ。ここいらで無力化しておくか。
スキル《チートコード操作》発動。
選ぶ能力は《火属性魔法全使用》。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁあああ!」
「やはりさっきのは幻影だったか……!」
数秒後、僕の放った中級魔法によって、構成員たちは地面に伏すこととなった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
本当にありがとうございます。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
すこしでも
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
今後とも面白い物語を提供したいと思っていますので、ぜひブックマークして追いかけてくださいますと幸いです。
あなたのそのポイントが、すごく、すごく励みになるんです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
何卒、お願いします……!