おい、どうしてそうなる
「これは……」
僕は戸惑いの声を発する。
女神ディエスによって、エムから放出されたなにか。
それがあまりに禍々しかったからだ。
黒いリング状の物体で、あちこちがモゴモゴと蠢いている。しかも眼球っぽいのがいくつもあって……うん。気味悪い。
「ンググ……グゴゴゴォ……。おのれ、人間めが……」
しかも自我があるっぽいな。
ドス黒い声でなにか呻いている。
「女神様。これは」
「ええ。エムの精神を蝕んでいたものの正体でしょう」
なるほど。
つまりこいつを倒せば、エムは苦しみから解き放たれるということか。
「人から引き剥がせば、これ自体は強くありません。アリオスさん。早急にトドメを……」
あいつを引き出すのに、女神も相当の力を使ったっぽいな。
心なしか、女神の全身が透けてきた。
「……わかりました」
僕は頷くや、咄嗟に駆け出す。
その際、チートコード操作で《攻撃力アップ(小)》を自身にかけることも忘れない。
淵源流。
一の型。
――神速ノ一閃。
僕の繰り出した剣技が、黒い物体を的確に捉える。
「ヌオオオオオオッ!」
女神の言う通り、こいつ自体はそこまで強くないみたいだな。
醜い悲鳴をあげながら蠢く。
やはり気持ち悪い。
「おのれ人間めがぁぁぁぁあ! この私を始末する気かぁぁぁぁあ!」
「…………」
「私は最強だ! 私はすべてを手に入れる! 私はッ、私は……ッ!!」
全身をしならせ、大きく叫ぶ物体。
――これは、欲か。
心なしか、僕は奴からそんな感情を感じ取った。
「ウオアアアア!」
物体はそのまま飛びかかってくるが、避けるのは容易だった。
「……消えろ」
僕は再び剣を振り下ろし、トドメを刺す。
「あ……」
ふいにエムが素っ頓狂な声をあげた。
さっきまで彼女を包んでいた漆黒のオーラが、完全に消えたからだ。
いや――それどころか。
仄かな輝きが、彼女の周囲を舞っているような。
「私、もう苦しくない……?」
自己確認するかのように、エムがぼそりと呟く。
「あの変な声も聞こえないし……身体もモゾモゾしない……?」
そんな彼女に向けて、僕はできる限り優しい声音で告げた。
「ああ。あいつはもう消えた」
「――これできっと、あなたも長年の苦しみから解放されるでしょう。いままで大変でしたね」
続いてそう言ったのは女神だ。
……そろそろ限界っぽいな。
まだ消えてはいないが、さっきよりだいぶ身体が透けている。
それでも天上の笑みを浮かべる彼女は、まさしく女神の名にふさわしかった。
そんな女神に向けて、エムは当然の疑問を浮かべる。
「あ……あなたは……?」
「そうですね。あなたたちには、女神ディエスと名乗ったほうがわかりやすいでしょうか」
「め、女神様……!?」
大きく目を見開くエム。
「どうして女神様が……!? そっか、アリオス様が神様だから……?」
「いやいや、どうしてそうなる」
僕が呆れ顔で突っ込むと、女神は「ふふ」と笑って続けた。
「エムさん。災厄から解放されたことで、あなたは自由に《力》を使えるようになった。今後はそれを……自分のために使ってください」
「自分の……ために……?」
「ええ。あなたには――難しいかもしれませんが」
そうか。
そうだよな。
いままで彼女は我慢を強いられてきたんだ。
自分のために、と言われてもピンとこないだろう。
「だ……だったら!」
エムは意を決したように言い放つと、なぜか僕の手を握る。
「私、アリオス様のために力を使います! 私にとっての、神様ですから……」
おい、どうしてそうなる。
「ふふ……そうですか」
女神はなおも達観した笑みを浮かべると、最後に僕に向き直った。
「アリオスさん。その日は刻一刻と近寄ってきています。まずはアルド家の探索をお願いできますか? そうすれば……大きな一歩が踏み出せると思います」
「アルド家……ですか」
ユーフェアス・アルド。
大物領主にして、エムを非人道的にこき使ってきた人間か。
「わかりました。僕になにができるかわかりませんが……できる限りのことはします」
「……ありがとうございます」
姿が消えゆくなかで、女神は僕の頬に唇を重ねた。
「いつもお願いばかりで申し訳ありませんね。アリオスさん、あなたにはいつかきっと――」
そう言い残して、女神は姿を消した。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
本当にありがとうございます。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願い致します】
すこしでも
・面白かった
・続きが気になる
と思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
今後とも面白い物語を提供したいと思っていますので、ぜひブックマークして追いかけてくださいますと幸いです。
あなたのそのポイントが、すごく、すごく励みになるんです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
何卒、お願いします……!