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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅢ
353/533

トータス旅行記⑫ ライセンのアビィ




 その男は、酷い有様だった。


――ぐっ、我が秘奥義を破るかっ


 呼気は短く途切れがちで、片腕は脱臼でもしているのかだらりっとしたまま動かない。


――届かないというのかっ。我が力はっ


 裂けた額から流れ出る血が顔を凄惨に汚し、黒装束がなお黒く染まるほど流血して、まさに満身創痍。


――もはや……ここまでか……


 武器は尽き、折れたダガーが一本のみ。体力はもはや限界。


 しかし、けれど。


 心に立てた誓いだけは、健在!!


――一人ではダメでも、まだ俺がいる

――我が半身……

――共に行くっ、そうだろう!?

――ああ、その通りだ。その通りだ相棒!


 だから!


 誰も見ていなくても! 漫談みたいに一人二役だってしちゃう!


――まだだっ。まだ終わらんぞ! 深き迷宮の主よ! 我が深淵に限界なしっ


 まぁ、深淵卿である。


 力の入らない片腕をぶぉんっと振り回しつつこれだけはやめられないターンッを決めた直後、ミレディ・ゴーレムの鉄拳を食らってぶっ飛んだ深淵卿である。


――おげぇっ、ふっ、残像、ごふっ……だ!


 残像ではないので大ダメージ。文字通り血反吐を吐いていらっしゃる。


 そして、今のミレディ・ゴーレムはミレディの意思が反映されていない自律式なので、まったくこれっぽっちも容赦ない追撃がされる。


 必死に浮遊ブロックから浮遊ブロックへ飛び移って回避するが、そこへ騎士ゴーレムの集団が肉薄。


――ちょっ、まっ、やめっ


 タコ殴りにされる。これでもかとタコ殴りにされる。ゲシゲシと足蹴にもされる。ついでに身包みも剥がされそうになる。


 騎士ゴーレム達の包囲から命からがら飛び出した卿は半裸状態。ボロぞうきんと化した黒装束を胸元に掻き抱いて、涙目でチョコチョコ走る姿は完全に暴漢から必死に逃げる女子である。


 そんな、ある意味情けない姿に、


「めげねぇなぁ。やっぱ、遠藤は根性あるわ」


 称賛の言葉が響いた。


 ハジメだ。


 パッションとロマンを迸らせすぎて、シリーズ合作型ガン○ム風ラスボス――スーパーミレディGを開発・配備した結果、香織、雫、ティオの大迷宮攻略を阻止しちゃったハジメさんである。


 激オコな香織達に詰め寄られて泣く泣くスーパーミレディGを自爆させた後、ハジメ達は深奥の部屋へ入った。そこで、ミレディの魔法陣に乗ったのだが、やはりラスボスの攻略を認められなかったようで、香織達は重力魔法を得られなかったのだ。


 当然、激オコモード倍プッシュである。


 どれくらい怒ったかというと、あのティオが、抑揚のない声で理路整然と自重や道徳、倫理や道理を説き始めたという点で推して知るべしだ。冷静に、かつ真剣に説教してくる変態ほど恐ろしいものはない。


 あと、香織が黒く渦巻くブラックホールのような目でひたすらジィ~~ッと見つめ、雫が静かに黒刀を研ぎ出した点も、非常に恐ろしい光景だった。


 ハジメが思わず正座して「調子こいて済みませんでした……」と衝撃的光景を見せるほどに。


 で、親達とユエ達のなんとも言えない視線に居たたまれなくなったハジメは、ティオの説教が終わると同時に我等の深淵卿に頼ったわけである。


 あいつならきっと! この空気をぶち壊してくれるに違いない! と。


 そうしてユエに過去再生してもらい、深淵卿VSこの頃はまだ普通だったラスボスゴーレムを見学していたのだが……


「ああ、かれこれ一時間近くボコられているのに、な」


 (しゅう)がハジメに同意した。その表情にはやはり、感心の色合いが強く出ている。


 父息子揃って、迷宮攻略もクライマックスとあって香ばしさが極まっていた卿を、当初は両手で顔を覆いつつ指の隙間から観賞していたりしたのだが、今はそんな様子もない。


 それは、他の者達も同じだった。


 それはひとえに、卿の貫こうとする意志の強さに感銘を受けたからだろう。あらゆる手を尽くし、しかし及ばず、深淵卿モードなのになりふり構わず逃げ回ったり、情けない悲鳴をあげたり、涙目にすらなっているのに卿の中に諦めるという選択肢はないらしい。


 いたたまれなくなるような香ばしい言動での〝空気ぶち壊し〟を狙っていたのに、予想外に見入る卿の戦い。


 今や、誰もが香ばしさにいちいちツッコミを入れたり赤面したりすることもなく、純粋に卿の死闘を応援していた。


「……んっ。結末は分かっているのにワクワクさせるとは……エンドウ、やりおるっ」

「好きな人のためだなんて燃えるよね! がんばれ~!」


 ユエと香織が手に汗握る感じでいれば、雫、ティオ、愛子も応援しつつ、同時に元凶について口にし出す。


「ほんと、これ見るととんでもなく鬼畜な条件にしたと改めて思うわ」

「このあと、もっと鬼畜な条件が待っておるしなぁ。普通は遠回しに拒絶されてると思ってもおかしくないが……」

「当時のラナさんの雰囲気からして、思わず言っちゃった! みたいな感じでしたよね。本当、流石ハウリアです」

「うちのラナさんがすみませんっ」


 加えて言うなら、クリアすれば付き合えるわけではない。ただ、付き合うことを〝考えてくれる〟だけなのだ。ラナお姉さん、まるでどこぞの国の姫ばりにいい女のつもりかよ、とツッコミが入りそうである。


 もちろん、本人的には生まれて初めての異性から超熱烈求愛に照れるやら焦るやらで思わず口にしちゃっただけなのだが……そういうところがやはり〝またハウリアか〟の所以なのだろう。


「でも一人の好きな女の子のためって素敵よねぇ」

「本当ね。遠藤君って何度か会ってるはずなのに全然顔を思い出せない不思議な子だけれど、これを見るともう忘れないわね――たぶん」


 (すみれ)の言葉に、薫子(かおるこ)が同意する。昭子や霧乃も深く頷く。


「実は、ここで過去映像を見るまで〝遠藤くん? 誰だったかしら?〟って思っていたのだけど、こんなに凄い子だったのね」

「戦闘技術も見事なものだわ。八重樫流の裏を学ばせてみたいくらい」


 ママ~ズからも大変好評な様子。愁たちパパ~ズは言わずもがな。浩介の評価が爆上がりしている。


 が、そこでふと、菫が首を傾げた。


「あら? でも変ね。よく顔を思い出せない……」

「そういえば……こうして見ていても、不思議と顔が見えないわ」

「不思議ね……。前髪とか粉塵とかゴーレムとか、顔が見えそうになる度に何かが邪魔してよく見えないわ」


 薫子と霧乃も、その摩訶不思議な現象に首を傾げた。


「こうすけお兄ちゃん、まるで無貌の神様みたいなの~」

「「「!!?」」」


 ハジメと愁と菫が揃ってバッとミュウを見た。レミアがのほほんとした様子でミュウに尋ねる。


「ミュウ、無貌の神様って何かしら?」

「親切なおじちゃんなの~」

「ミュウ! ちょっとそれ詳しく! どんなおじちゃんだったんだ!?」

「? よく思い出せないの。だからこうすけお兄ちゃんみたい!」

「今はこうすけお兄ちゃんはどうでもいい!」

「ちょっとハジメ! ミュウちゃんの冗談よね? そうよね!?」

「お、大方、ネットか何かで見たんだろ? な? ミュウちゃん、そうだろ?」

「?」


 愁の問いに、ちょっと何言っているのか分からない……みたいなキョトンとした表情をするミュウを見て、南雲親子の表情が揃って引き攣った。


「誰かの悪ふざけよ、そうに決まってるわ。でもハジメ! 念のため、なんとかしなさい!」

「ああ、そうだ。あれはフィクションだからな! でもハジメ! 念のため、なんとかしろ!」

「合点承知!」


 ピンッと来ているのは南雲親子だけらしい。何を慌てているのかと誰もが不思議そうな表情だ。


 と、その直後、過去映像の中で卿が絶叫を上げた。天井のブロックが外れて、豪雨のように降ってきたのだ。


「ああ、あれか。俺達もやばかったなぁ」


 ミュウの奇縁を引き寄せる体質に頭を悩ませていたハジメもはっと我に返り、感慨深そうに言葉を漏らした。限界突破と瞬光でどうにかくぐり抜け、それでも無傷ではいられなかった〝天井落とし〟。言ってみれば、ラスボス必携の全体攻撃である。


「あれ? でも私達のときと違って、落ち方が規則的ですね」

「……ん。たぶん、ミレディが操作していないと、あらかじめ決められたパターンで落ちるんだと思う」


 ユエの言葉通り、天井のブロックはただ真っ直ぐ、微妙にタイミングをずらして落下していた。言うなれば、高速のテトリスのようなものか。ギリギリ、くぐり抜けられるようになっているらしい。


 とはいえ、もはや限界などとっくに過ぎて満身創痍の卿である。必死に天井ブロックの豪雨をくぐり抜けるがその動きはやはり精彩を欠き、遂にその内の一つがヒットした。


 苦悶の声を上げて吹き飛び、広大な空間の地面へと落下する卿。地面に叩き付けられる寸前で、どうにか一瞬の障壁を張って衝撃を緩和する。が、大きなダメージに血反吐を吐く。


 容赦なく降ってくるブロック群に絶望的な表情になりながら、這うようにして転がり、どうにかブロックとブロックの隙間に身をねじ込んで地面の染みになることだけは避けた。


 とはいえ、それだけだ。ブロックの山に埋もれ、どう見ても万策尽き、ついでに力尽きている。


「……おいおい。あいつ、ここからどうやって……」


 ハジメの疑問はもっともだ。チェックメイトの宣言は暗黙のうちにされているようにしか見えない。


 すると、


――くっそぉ……情けねぇ……


 浩介の呟きが響いた。掠れて、今にも消えそうな小さな呟き。


 しかし、何一つ諦めていない力のある声だった。


――でもまぁ、この程度……だよな

――でなきゃ、あいつに傷一つ……つけられるはずがねぇ


 自律式ミレディ・ゴーレムと、騎士ゴーレム達が上空で包囲する中、ざわりざわりと不穏な気配が積み上がった天井ブロックの下から流れ出てくる。


――だってあいつは……南雲は……何一つ諦めなかった


「……」


――手も足もでなかった相手に……神にっ……それでも勝ちやがったっ


「……」


――なら、俺だってなぁっ


 ざわざわざわざわと黒い靄のようなものがブロックの隙間から流れ出る。瞬く間に地面を埋め尽くしていくそれは……


――最後まで諦めてたまるかぁっ、この魂燃やし尽くしてやらぁっ


 黒い靄から、せり上がるようにして現れる分身体。


 当然、ライセンの分解作用が霧散させる。


 直後に、再び生まれる分身体。


 霧散。


 出現。


 霧散し、出現し、更に出現。


 霧散し、出現して、出現して出現して……


 霧散すれど更に出現! 出現出現出現霧散出現出現出現出現霧散出現出現出現出現出現出現出現出現出現霧散出現出現出現出現出現出現出現出現出現霧散――


 分身体の出現速度が、ライセンの魔力分解作用を上回る!


 壮絶な意志が、分身体から分身体を生み出すという離れ業をこの土壇場で会得させ、圧倒的速度での増殖を実現する!


 その光景を見て、自分の在り方を心の支えに奮起した友を見て、ハジメは――


「うわっ、気持ちわるっ」


 と、ドン引きした。


 ついでに、


「パパぁっ、こわいの~~っ」


 ミュウが涙目でパパに抱きついた。


 だって、しょうがないのだ。ブロックの隙間からカサカサと無限に湧き出すのだもの。あっという間に地面が黒く蠢く卿で埋め尽くされていくのだもの。


 その光景、まさにGの大群。ハルツィナ樹海の悪夢再来である。


「ひぃっ。あれはもういやぁっ」

「雫ちゃん! 気を確かに! あれはGじゃなくて遠藤君だよ!」

「どっちも一緒よ!」

「錯乱してるのはわかりますけどっ、雫さん! それは流石にかわいそうですぅ!」

「くろくて、いっぱい、いや!」

「ああっ、八重樫さんが幼児退行しちゃってます! はいっ、魂魄魔法!」

「正気に戻さないで! 愛ちゃん先生!」

「雫よ、情けないぞ。我が八重樫流には、ゴキを使った忍術――ごほんっ、雑技や拷問――ごほんっ、尋問術もある」

「お祖父ちゃん! いい加減、忍者だって認めて! なんにも誤魔化せてないわ!」

「雫が苦手を克服できるよう、今度教えてあげましょう」

「親子の縁ぶった切るわよ! お母さん!」


 と、雫がハルツィナ大迷宮でGを愛でてしまった凄惨な過去を思い出してプチ発狂している間にも、真に覚醒した深淵卿が最後の戦いを繰り広げ始めた。


 分身体を踏み台にし、時に投げ飛ばし、無限に増殖し続ける圧倒的物量を以てミレディ・ゴーレム達へ飛びかかっていく。


 騎士ゴーレムはあっという間に数十人の卿に組みつかれて地に落とされ、あるいは一斉自爆に巻き込まれて粉砕されていく。


 その騎士ゴーレムから剣やシールドを強奪し、全方位からの波状攻撃でミレディ・ゴーレムの武装を削り取っていく。


――クッ、この黒鉄っ、固すぎるぞっ

――自爆でも傷一つ付かんかっ


 ミレディ・ゴーレムの核を守るアザンチウム製の装甲。威力減していたとはいえ、ハジメのレールガンすら防いだ防壁に卿が歯がみする。が、同時に、


――むっ!? これは……そういうことか!

――吹き飛ばせ!

――我、自爆する! 深淵に栄光あれ!


 積み上がっていた天井ブロックが弾け飛んだ。物量ごり押しの自爆攻撃で粉砕された天井ブロック。その粉塵を突っ切って、黒い剣や槍を持った分身体達が跳び上がってくる。


「そういうことか……」

「……ん? ハジメ、どうしたの?」


 納得顔を見せたハジメに、ユエが首を傾げて尋ねた。


「いや、ミレディ・ゴーレムの核を守るアザンチウム製の胸部装甲な。魔法がまともに使えない場所だと、ほとんど破壊不可能なんだよ。それこそ、莫大な魔力のごり押しでもできないと詰みなんだ」

「……ん。確かに」

「魔法が使えないところなのに、魔法を使えないとクリアできないって……流石ミレディ! 汚い! ミレディ汚い!」

「いや、一応、救済措置はあったということなんだよ。ほら、俺のパイルバンカーも、威力は足りていても普通の金属杭だったら壊れただろうけど、あれもアザンチウムで加工してたからな」


 直後、分身体が黒い剣や槍で何十回と叩き付けたミレディ・ゴーレムのアザンチウム製装甲に、遂に亀裂が入った。そこを押し広げるように、少しずつ少しずつ削り取っていく。


 香織が得心したというように頷く。


「そっか! 遠藤君が持ってる武器もアザンチウム製なんだ! 天井ブロックの雨を凌いだご褒美に、そのブロックを砕くと中から対抗用の武器が得られるということなんだね!」

「本来は、そういうことらしいな」

「嘘です! ミレディにそんな良心があるわけありません!」

「シア、お前、ほんとミレディには辛辣だな。いや、気持ちは分かるけど」


 なんて会話をしている間にも、卿は絶えることなくそれこそ飢えたGがたった一つの餌に群がるが如くミレディ・ゴーレムに突貫し続けた。


――我に、まだこれほどの力が!?

――湧き上がってくるこれは……

――そうか。これが、これが……愛の力かっ


 ただの深淵卿モードの特性だよ。という解説が、香織から親の皆様へ丁寧に説明される。


 直後、遂にミレディ・ゴーレムを壁に叩き付けることに成功した分身体達。その直線上の浮遊ブロックの上に、本体である卿が黒い槍を持って着地する。最後の踏み込みは激烈だ。


――受けてみよっ、(いにしえ)の守護者よ! これが我が深淵流最終究極奥義(アビスゲート・ゼロ)―――


 なんだかんだいって、男の子はいつまで経っても王道とか厨二が好きなのさ……と言わんばかりに、ハジメと愁の父息子だけでなく智一達も「おぉっ」と盛り上がる中、遂にコウスケ・E・アビスゲートは止めの一撃を――


――バァアアアアニン○・ラァアアアヴッ!!!


 突き出した。普通の刺突だったが、たぶんきっと最終で究極な奥義なのだ。一応、ミレディの核にはきっちり届いたので。


 脱力し、目から光を失い、壁に磔にされたミレディ・ゴーレムと、精根尽き果てたように地に落ち大の字になった卿を見て、ハジメは――


「パクリか?」

「パクりだな」

「パクったわねぇ~」


 南雲一家に容赦はなかった。確かに、某擬人化された高速戦艦さんのようだった。そのうち「YES! アビィの実力、見せてあげるネー!」とか口にするかもしれない。


「と、とにかく勝ったね! 遠藤君すごかったぁ」

「ほんとね。流石、〝さりげなく人類最強〟とか〝魔王の右腕〟とか呼ばれるだけあるわね」


 香織と雫が、南雲一家が壊した空気を修復するようにそう言えば、まるで一大ハリウッド映画でも見たかのように称賛の声が上がっていく。


「本当にな」


 言葉は少なくとも、ハジメの小さな笑みの浮かぶ表情は、何より雄弁に称賛を物語っていた。


「う~ん、でも大丈夫でしょうか? 遠藤君、本当に死力を尽くした感じですけど……」

「ピクリとも動かないわよ? なんだか今にも、そのまま死んでしまいそうじゃない」


 畑山母娘が心配そうに地に伏す卿を見やる。


――しくしくしくしく、やった、やったんだ俺……死んでしまいたい……しくしくしくしく、これでラナに一歩近づいて……一人で来て良かった……しくしくしく……なんだよ内なる俺って……なんで一人二役してんだよ……俺は俺だよ……あっ、この言い方もっ……くそっ、心が侵されたよう……俺が俺じゃなくなって……ってだから違うだろ、俺! そういう言い方しちゃいけません! あっ、また独り言を! やべぇよぉ、やべぇよぉっ、卿モード解いたはずなのに言葉が微妙に香ばしいよぉ……


 ダメージで動けないまま、しかし、体のダメージよりも心のダメージに耐えかねてひたすら滂沱の涙を流し、ブツブツと呟き続ける浩介の姿が、そこにはあった。


 ハジメ達の感心顔が「うわぁ」と、一気に同情の色に塗り変わる。


 とはいえ、ダメージが深刻なのは事実で、手持ちの回復薬などもとうの昔に尽きており、であるなら浩介は一体全体どうやってここから先へ進み、そして帰還したのか。


 全員で見守っていると、その答えがやってきた。


 一体の騎士ゴーレムが再生し、ガシャンガシャンと浩介に近寄っていったのだ。


 目だけを動かしてそれを確認した浩介の表情が青ざめる。指一本動かせない疲弊の極致。まさに死に体。今攻撃されれば、赤子にそうするより容易く殺される。


 だが、その騎士ゴーレムは剣を抜くでもなく、のっそりと浩介の隣に膝を突くと、次の瞬間、驚くべき行動に出た。


 なんと、液体の入った小瓶をどこからともなく取り出し、それをそっと浩介の口元にあてがったのである。そうすれば、体を起こすくらいには回復していく浩介。


 どうやら、大迷宮クリアのご褒美として多少の回復ボーナスがあったらしい。


 それを見て、


「嘘だっ、こんなの嘘だっ! ミレディがこんなに良心的なはずがなぁい!!」

「……んん!? シア、落ち着いて! 〝ですぅ〟を忘れてるですぅ!」

「ユエも落ち着け! 語尾が〝ですぅ〟になってるぞ!」


 錯乱するシア。混乱し、語尾をパクるユエ。気持ちは分かると、ハジメが二人をなだめる。


 それくらい、ミレディの優しい心遣いは、彼女が真に世界を思う守護者と知る今でも衝撃的だったのだ。少なくとも、飲ませてあげるなんてあり得ない。回復薬をくれるにしても、きっと動けない人の手が届くか届かないかというギリギリの場所に置くはずだ! と。


「そうです! きっと、回復薬と見せかけて痺れ薬とかそういう――」

「あ、遠藤君が立ち上がったよ! 回復したみたい!」

「ミトメタクナイッ! ミトメタクナァイッ!!」


 シアのミレディに対する思いは、良くも悪くも相当強いらしい。ウサミミとウサシッポがぶわんぶわんっと荒ぶっている。


 全員でシアをなだめている間に、浩介の前に浮遊ブロックがやってきた。ハジメ達が乗ったのと同じだ。ほうほうの体ではあるがどうにか乗り込んで、浩介は最奥の間へと消えていった。


 そうして、どうにかこうにかシアが落ち着いた頃。


 大量の水が流れる音と共に、「ア~~~~~ッ!!」という悲鳴が聞こえてきたのだった。




いつもお読みいただきありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


どうにか更新できましたが、急ぎ足で書いたため短い上に話進まずで申し訳ない(汗

旅行記はじっくりやりたいというのもあるので、どうかご勘弁を。

次の更新まで、また少しお時間いただければと思います。


※ネタ

・バァアアアニン○・ラァアアヴッ 

 艦これの金剛お姉様より。

・無貌の神様 

 クトゥルフ神話の神様より。※某名状し難いバールのようなもので戦う子ではない方です。

・ミトメタクナイッ

 ガンダ○のハロより



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― 新着の感想 ―
しんだいまほうをもってる、、、使徒に勝てる人類最強格3人で突破できないゴーレム、、、、 はじめさん、、やってますねwww
ミュウ、考えてみればある意味魚人族の末端というか亜種的なものだと考えたら海底の奥深くに眠るカミサマと相性がいいのもうなづける……いや、デモンレンジャーは?!
ミュウちゃんのSAN値は……
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