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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリーⅢ
289/533

シア編 地下迷宮


「いや、リアルインデ○かよ」

「あるいは、ハム○プトラか、ト○ームレイダーですねぇ」


 視線の先で、人一人が無残な死に方をした感想がそれだった。異世界でリアルアドベンチャーを繰り広げた経験のある者からすると、もっと惨い死に方も見ているので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。


「それにしても、あの遺跡には何もなかったはずなんだけどな……」


 眼下で、顔面が溶けて死んだ男の周りに人が集まり怒号が飛び交う様子を見ながら、ハジメが訝しむように呟く。


「見落としたんでしょうか?」

「そいつを今から確かめてみよう」


 カサカサ、毎度おなじみ万屋(よろずや)アラクネさん達が姿を現す。一体が脚を振り、「野郎共! 仕事の時間だぁ!」とでも言っているかのように他のアラクネ達を先導していく。


 糸を枝に取り付け一斉に地上へ向かう姿は、特殊部隊の懸垂下降でも見ているかのようだ。


 そんな様子を「やっぱり意思がありますよね? でもやっぱり恐くて聞けない!」みたいな表情で眺めているシアの隣で、ハジメがスマホを取り出した。


 現代技術に、異世界製の水晶ディスプレイを組み込んだハイブリッドスマホだ。基本的に、ハジメ達のスマホは全てハイブリット製で、異世界とも連絡が取れたり、ステータスが表示されたり、針程度の太さではあるが超小型太陽光集束レーザーを撃てたり、とにもかくにも多機能である。


 今はその機能の一つである、アラクネとの視界共有機能を起動させる。ついでに、シアと一緒に見るには画面が少し小さいので、地球のホログラム技術と異世界の魔法(空間魔法など)、遠透石などの特殊鉱石から作り上げた立体ホログラム機能(空中ディスプレイ)を起動。


 ハジメとシアの眼前の空中に、スマホから投写されたアラクネリーダーの視界が立体的に作り出される。メイン映像の端には縦一列に小型の映像も並んでいる。他のアラクネ達の視界だ。


「よし、視界リンクは問題ないな。エーアストからフュンフトは遺跡へ。ゼクストからノイントは周囲のテント内へ行け」


 アラクネに指示を出したっぽいハジメに、シアは首をコキコキしながら「よ~し、ツッコミを入れますよぉ~」と気合いを入れた。


「ハジメさんハジメさん。アラクネさん達はハジメさんが操作してるんじゃないんですか! なんで命令に『らじゃ!』って感じで敬礼しながら従ってるんですか! やっぱり意思がありますね!? そうなんですね!?」


 ハジメは、このウサギったら何を言い出すのだろうと微妙な表情を見せる。シアはイラッとした。


「恐いこと言うなよ、シア。ミュウのゴーレム戦隊じゃあるまいし。意思なんてあるわけないだろう? ただ音声入力である程度動けるようプログラムしてるだけだ。ゴーレムだが、地球のロボット技術も搭載してるんだぞ?」

「……あの敬礼とかもですか?」

「おう。アラクネは隠密性を要求される場合に活用することが多いからな。特殊部隊の行動パターンを参考に入れてあるんだが、せっかくだし敬礼があってもいいだろう?」


 それなら、おかしくはない……のだろうか? シアがウサミミをへにょんとさせる。


 チラリとディスプレイを見ると、アラクネ達が器用にも脚を二本上げて、「やれやれだぜ」みたいなリアクションをしているのが目に入った。


「芸が細かいですね。あれも組み込んだ行動パターンなんですか?」

「ん? どれだ?」


 視線をシアからディスプレイに戻したハジメ。アラクネさん達は仕事を果たすべく既に行動を再開している。


「いえ、ですから、さっきの『やれやれだぜ』って言ってるみたいに肩を竦める動きですよ」

「だから止めろって、シア。俺を怖がらせたいのか? 指示も出してないのに、そんな動きするわけないだろ?」

「……」


 ビシリッとシアは固まった。ウサミミがゾワゾワッと逆立つ。「怖いのは私の方ですぅ! やっぱり、あのアラクネさん達、何か取り憑いてますよぉ!」と訴えたいシアだったが、藪を突いて出てくるのは蛇どころの騒ぎではなさそうだ。


 なので、「今度、ミュウちゃんに相談しようそうしよう」と、心の中で誓いつつ、シアは別のツッコミを入れる。


「ごほんっ。ではもう一点。アラクネさん達に名前をつけてるんですか?」

「一応な。固体名があった方がいろいろ便利だろう?」

「もの凄く聞き覚えのある名前なんですが」


 脳裏に過ぎる白金の使徒さん達。シアが頑張って殴殺した者達だ。


 ハジメはニヤッと笑い、


「良い名前だろう?」


 そんなことを言った。なんとも皮肉が効いている。かつて死闘を繰り広げた相手の名を配下のゴーレムにつけるとは……


「トータスの人達が聞いたら『罰当たりな!』て叫びそうなことを平然と……」

「使徒の名前まで一般人は知らないからいいんだよ。そもそも、シア、日本の創作業界を見てみろ。神だろうが悪魔だろうが、もう好き放題されまくってんじゃねぇか。エロゲなんて目も当てられないぞ。某大天使さんが、過去にどれだけ酷い目にあってるか……」

「恋人の前でエロゲの話するのやめてくれますぅ!? それと日本人の業は深すぎると思いますぅ!」

「それは否定できないな。最近はなんでも擬人化するし、その後もクリエイターの心の赴くままやりたい放題だしな。だが、俺はそんな業界人達を心から誇りに思う」


 キリッとした表情でそんなことを言うハジメに、「ダメだこの人、っていうか日本。もうどうにもならないですぅ」とシアはウサミミを抱えた。親の顔が見てみたいものだ。漫画家とゲーム会社社長という業界人だが。お父さんは鋭意新作エロゲを作成中であります!


 そんな馬鹿な話をしている間に、神の使徒の名をつけられたアラクネ達は無事にそれぞれ目的の場所へ侵入を果たした。


 ハジメは一番近いテントに侵入したゼクストの視界をメイン画面にすべく、空中ディスプレイに指を添えて中央へスライドさせる。タッチパネルの要領で画面を直接操作できるのだ。


 ゼクストはテントの骨組みを伝って天井へと張り付き、全体を俯瞰し出した。


「これは……なんつーか、胸がときめくな」

「ですよね! わっくわくしてきましたよ!」


 空中ディスプレイに映ったのは、透明なカーテンで覆われた個室と、防護服を着た研究者らしき者達。どう見ても無菌室、あるいは隔離室である。


 遺跡調査の設備としては似つかわしくないそれらに、二人して好奇心に瞳をキラキラさせた。


 他のテントに侵入を果たしたズィープト達の映像にも、発掘機材だけでなく、何かの測定器や検知器のようなものが多数映り込む。


 アラクネの一体がウィルフィードの背後へと回り込んだ。


 ウィルフィードは、溶けた男の様子を調べ、新たに何か指示を出し、怯える現地民を説得して作業に戻らせたせいか、少々疲れた様子で「やれやれ」と肩を竦めている。人の目がないときでも演技じみた身振りをするらしい。


 そんなウィルフィードに気付かれることなく、彼の肩に張り付いたアラクネは……


「ハジメさん。このアラクネさん、ルフィさんの動きを真似てから、脚で指差しましたよ。あ、今度は脚二本を口元にやってピクピクしています。『今のリアクション見た? くっさ~~い! プ~クスクス』という心の声が聞こえてくるんですけど」

「あれ、おかしいな。こいつは……ノイント、またお前か。どういうわけか、エーアストとノイントはよくバグるんだよな。何が原因なんだか。ほら、ノイント! しっかり働け! 変な動きをするんじゃない! はい、動作確認! 右上げて! 左上げて! 右下げないで、左下げる! あ、こら! 右は下げないだ! 左と一緒に下げてどうする! 音声認識が不鮮明なのか?」

「……なんというか、ノイントやエーアストが頭に浮かんで来るんですけど。ハジメさんの命令に従って、旗揚げゲームしてる光景が見えて凄くシュールなんですけど」


 神の使徒が、無表情で手を上げたり下げたり。時々ちょっと間違えて慌てたり。


 確かに、もの凄くシュールな光景だった。


 ちなみに、シアがウィルフィードをルフィと呼んだのは、結局二人とも正しい名前を思い出せず、記憶を補完し合った結果、ルフィという響きはあったはず! ということで決まった呼び方だったりする。自称ビジネスマンなウィルフィードさんは、そのうち海賊王を目指すのかもしれない。


「ノイントはもういい。エーアストはどうだ?」


 本命のエーアストの視界へと切り替える。ちょうど、作業員が多数集まっている部屋に辿り着いたところだった。天井の隅に張り付いて俯瞰する。


「穴を掘ってますね。それもかなり本格的に」

「みたいだな。地下に何かあるってことか。ツヴァイト。直上に行け」


 エーアストの俯瞰映像はそのままに、ツヴァイトに指示を出して穴の真上からの映像を送らせる。「あぁ、私が100トンハンマー+ドリルで削り殺した人ですね」と、感慨深い表情を見せるシア。


「こいつは……どうやら、本当に地下への道があったらしいな」

「道……ですか? 四角い井戸みたいに見えますけど?」

「いや、よく見てみろ。ほら、ここ」


 そう言って、映像を拡大しながら指を差すハジメ。


 映像には、大人の男が九マス並びで並んでも余裕がありそうな四角い穴が映っている。四角い穴は四方を石で固められており、真っ直ぐ下へと伸びていた。


 確かに、シアの言う通り、一見すると〝道〟と言うより〝井戸〟という方がしっくりくる。


 だが、ハジメの指差した先をよく見れば、石の壁からは梯子のように規則正しい出っ張りが出ており、更には、何やら白煙を上げている筒のような物が突出したりしていた。


「あの筒の周辺を見れば分かる。さっき顔が溶けた男。おそらく、あの梯子を降りてる途中で、あの筒から飛び出た硫酸か何かにやられたんだろう。井戸だとすると、随分と物騒だと思わないか?」

「確かに、生活用水に入るかもしれませんからね」


 つまり、地下へ続く垂直通路ということだ。


 それも、〝秘密の〟と前に付く。その垂直通路の周辺に、重機で石の床を破壊し、その下の土を掘り起こした残骸が散乱していたことから間違いないだろう。


 そして、現在も垂直通路の五メートルほど下で掘削している現地民の姿があることからすると、土と石で完全に埋め立てられていることが分かる。かなり厳重に。


「床の石と別に、土まみれの石がかなりある。それもある程度加工されたものだ」

「つまり……」

「自然に埋まったものじゃないってことだ。意図的に、土と加工したでかい石を幾層にも敷き詰めて塞いだってことだ」


 ハジメは「こいつはいよいよインデ○さんっぽいな!」と、シアは「いえいえ、どちらかといえばレ○ダーさんですよ、きっと! あ、でも、ハム○プトラ的な古代のミイラが! っていう線も消えてませんよ!」と、テンションを上げていく。


「さて、どうするシアさんや」

「もちろん、地下に眠る秘密を暴くに決まっていますよ、ハジメさんや」


 ふっふっふっと怪しげな笑い声を上げながら顔を見合わせるハジメとシア。旅先で遭遇した古代の秘密に心がときめいて仕方ないらしい。


「連中を制圧して、一体どんな情報を持っているのか聞き出すのが一番手っ取り早いが……」

「私、攻略本は見ずに攻略する派です」

「冒険とはかくあるべし、だな。俺の錬成魔法が輝くぜ。奴等とは別ルートで地下に潜って、先に古代の秘密とやらを拝ませてもらおう」


 企業が金をかけた発掘チームだ。特殊な機材・設備もある。となれば、単なる学術的調査ではない。そこには必ず、投資に見合った利益があるはずだ。お宝という利益が。


「ハジメさんハジメさん。あれやりましょう。怪盗っぽく、メッセージ残しましょ!」

「いいなそれ! 『お宝は先に頂戴しました――」

「――by魔王とウサギ』ですね!」


 イエ~イと拳を付き合わせやる気を滾らせる魔王様と森のバグウサギさん。


 二人は気配を殺したまま木から飛び降りると、武装した護衛の男達から完全に見えなくなる密林の奥へと引き返した。


 シアのウサミミが「はっやくぅ! はっやくぅ!」とわっさわっさしながらはしゃいでいるのを横目に、ハジメは小さく笑いながら錬成魔法を発動。


 真紅のスパークが鮮やかに迸る中、二人が横並びに入っても余裕な大きさの穴が空いていく。それも階段状に。加えて、ご丁寧にも土が万が一にも崩れないよう、周囲が金属板で補強されていく。


 そうやって、地下への階段を降りながら錬成を進めていけば、二人の姿が完全に見えなくなるまで十秒もかからなかった。


「取り敢えず、八メートルくらいの深さで、真横からあの垂直通路に繋げてみるか」


 方角を確かめながら、現在掘削が進んでいる深度のプラス三メートルほど下を目安に、横穴を錬成していくハジメ。地面はそのままだが、壁と天井は金属板に錬成しつつ、ケミカルライトを順次壁にセットしていく。


 もちろん、ハジメには〝夜目〟があるし、シアも獣人であるから夜目はかなり利く方だ。加えて、真っ暗闇でも足音の反響などからある程度は空間を立体的に把握できる超優秀なウサミミがあるので、明かりがなくてもそれほど困らない。


 とはいえ、真っ暗闇とはそれだけで結構気が滅入るもの。実際、緑の光で照らされた地下通路に気持ちは幾分安らぐ。


 そんな気持ちをあらわすように、緑のケミカルライトで照らされた通路は、まるで【オルクス大迷宮】のようだと、二人は顔を見合わせて笑った。


 地上に残してきたエーアストの位置をスマホに表示させているので、方角を間違えることもなく、やがて地下通路は石壁に突き当たった。微妙な震動が伝わってくるので、間違いなく上で作業している垂直通路だ。


 まさか、彼等も、いつトラップの溶解液が飛び出すかと戦々恐々としながら必死に掘削しているその下に、既に人がいるとは思いもしないだろう。


「このまま垂直通路の石壁に沿って下まで行くぞ」

「どれくらいの深さまで続いているんですかね」


 石壁に沿って螺旋階段を垂直に作っていく。


 地下深くへと掘り進めていくと、途中、所々に仕掛けのようなものが石壁に設置されていた。溶解液だけでなく、短い矢を飛ばすものや、槍が突き出される機構、回転する刃物が飛び出す仕掛けなどなど……


 現地民の犠牲者が増えるのは哀れなので適当に破壊しておく。なんて日本人らしい気遣いなんだと、ハジメが心の中で自画自賛する。


 おそらく、石壁の他の面にもトラップはあって、本当に現地民を慮る人なら全て破壊しておくのだろうが……その辺りはスルーしておくハジメさん。


 やがて、体感的に相当深くまで掘り下げ、まだ垂直通路は終わらないのかと思い始めた頃、遂に足下の石畳に辿り着いた。


「……深ぇな」

「体感で四十メートルくらいありましたけど」

「エーアストとの距離測定だと……約四十三メートル。天井までの高さを除くと、確かに大体四十メートルだな」


 スマホで距離測定をしつつ、ハジメは足下の石畳を錬成。開けた穴の下にぽっかりと口を開けたような暗闇が広がる。なんとも言えない匂いが鼻腔を突いた。


 〝夜目〟で確認する限り、特に怪しいものは見えない。シアを見るが、ウサミミにも特に反応はない。


 念の為、ケミカルライトを落としてみる。三メートルくらい下でカランと音を立てて転がるが、明かりの範囲には何もない。石畳が見えるだけだ。何かが反応することもなかった。


 ハジメとシアは頷き合って地下空間へと飛び降りた。


 そして……


 シアの足下から音が鳴った。


 ガコンッと。


 妙に懐かしい不吉な音。


 僅かに沈み込んだ床の石に、シアが「あら?」とウサミミを傾げた瞬間、横の壁から槍が飛び出した!


「ひょわ!?」

「ぬわっ!?」


 シアが仰け反るようにして槍をかわす。直ぐ後ろにいたハジメが珍しいことに小さな悲鳴を上げて槍を掴み取った。左目の眼前で穂先が止まっている。わりとギリだった。


「シア、お前なんで避けるんだよ。掴み取るか叩き落とすと思ってたから、ちょっとびっくりしただろ」

「す、すみません。なんだか昔のことを思い出して、反射的に避けちゃいました」

「ライセンか……」


 かつて【ライセン大迷宮】で、ブービートラップの尽くにはまっては死に物狂いで回避していたシア。当時の記憶が蘇ったらしい。


 改めて周囲を見渡せば、石造りの通路が右と左、奥へ奥へと延びている。幅は五メートルくらい、高さは三メートルくらいの立派な造りだ。壁には金属製の扉があって、おそらく垂直通路を通ればそこから出てくることになるのだろう。


 なるほど。先程のトラップといい、この通路といい、確かに【ライセン大迷宮】を彷彿とさせる。


「それにしても……本当に古代の遺跡か? だとすると、当時の石造技術は想像を超えているなぁ」

「テレビとかで古代文明は高度な技術を有していた! みたいなのよくやってますけどね」


 石が風化するほど年月が経っても作動するトラップがあり、崩落することもなくしっかり残っている地下通路。それも深さが四十メートル。確かに、テレビ番組で特集されるような〝高度な技術を有する古代文明〟を匂わせる。


「それで、どっちの道に進みます?」

「そうだな……。シア、〝仮定未来〟使ってみたらどうだ? 占術師(笑)だろ。未来を示すのが役目じゃないか」

「人の天職に(笑)をつけないで下さいよ」

「だって、お前の天職ってどう考えても〝武闘家(モンク)〟だろ? それか〝阿修羅〟とか〝武神〟とか……〝狂戦士〟とか? 少なくとも、森の奥でひっそり暮らす、未来を見つめる占い師様って柄じゃねぇし」


 黙っていれば、見た目は〝らしい〟。淡青白色の髪に、美しい顔立ち。巫女服でも着て森の奥の神殿なんかでひっそり生きていれば、如何にも世を見通す神秘的な占い師様に見えるだろう。


 間違っても、数秒先の相手の動きを見通して先手必勝の殴殺劇! あらゆる致命的奇襲を察知する不意打ち不可能な超戦士! みたいな戦闘にのみ能力を活用する者を〝森の占い師様〟とは言わない。


 シアは視線を逸らした。本来の、〝この選択肢を選んだら?〟という仮定から未来を見通す〝仮定未来〟をほとんど使っていないので余り言い返せない。一応、反論はするが。


「でもでも、私、占い得意ですし。よく当たるって、女の子に大人気ですし。特にクラスの女の子達には、よく相談されるんですよ?」

「問題は、占いが大の得意なのに、本人的に特に好きでもなんでもないってことだよな。趣味は格闘技とバイク。――占い? どんな種類でも出来るし高確率で的中しますけど、別に趣味じゃないです――だろ?」

「……」


 シアは視線とウサミミを逸らした。そして、この話題を避けるように〝仮定未来〟を行使する。右の通路へ行ったら? 左の通路の場合は? と。


 ウサミミがみょんみょん。


「むむっ、分かりましたよハジメさん! どっちへ行ってもトラップにはまりまくります!」

「……」


 ハジメのジト目が突き刺さる。


「で、でも大丈夫です! 危険は感じません! 私が大体、正面から粉砕するので!」


 ハジメは無言でケミカルライトを取り出した。そして、地面に立てると指を放す。ポテッと左の通路に倒れた。


「よし、左にしよう。光が左を指し示したんだ。縁起がいい」

「……莫大な魔力を消費して占った私っていったい……」


 さっさと左の通路へ進んでいくハジメの背に、シアは悲しそうな目を向けつつ付いて行くのだった。






 それから数時間。


 シアの占いの通り、二人はトラップの嵐に遭っていた。


――地面から突き出した無数の槍


 シアが震脚で地面ごと爆砕。


――壁から霧状の溶解液が噴射


 シアが拳圧で吹き飛ばした。


――吊り天井が落下


 シアが天を衝くような昇竜○で粉砕。


――槍衾(やりぶすま)が設置された落とし穴


 落下しながら変成魔法〝鋼纏衣(こうてんい)〟で、槍衾をそのまま破壊。


※シアの変成魔法〝鋼纏衣〟:ティオの〝竜化〟のように、体の一部を変成させ〝鋼化〟させる技。本編最終章「シア・ハウリアは凌駕する」で初登場。


――巨大な岩の大玉


 二重○極み!


 そして、今……


 らんらんら~ん♪ と、シアが軽いステップで踏み込んだ通路の両サイドと天井から、おそろしい熱量の火炎が噴き出した。


 炎に呑まれたシアを、通路の手前から何とも言えない表情で眺めているハジメ。その表情に心配の色は皆無だった。むしろ、このトラップだらけの地下空間作製者に同情の念すら抱く。


「なんのこれしきぃ! 気合い防御ォッ!!」


 一体何をしたのか。全方位に衝撃波が走り、炎が押し返された。壁や天井に亀裂が入って炎も止まる。


 シアは当然、火傷を負うどころか煤一つ付いていない。


「……シア。気合い防御ってなんだ?」

「某筋肉達磨なバグキャラさんを参考に作り上げた、気合いで防御する技です!」


 ハジメは思った。説明になってねぇと。


 あるいは、ハジメが使う防御技〝金剛〟を、気合いで修得したということだろうか?


 先へ進みながら、ハジメは表情を引き攣らせつつ尋ねてみた。


「他にも、その某バグキャラを参考にした技があったりするのか?」

「もちろんありますよ! あと、シアインパクトとエターナルシアフィーバーを修得済みです!」

「マジ、か……」


 万歳したシアが発光して、なんか全身から飛び出すのか……と、ハジメは戦慄にも似た表情をシアへと向ける。同時に、シアがムキムキの筋肉達磨になってモストマスキュラーみたいなポージングを取っている光景を幻視。


 ハジメは、機嫌良さそうに先陣を切るシアの前に回り込むと、両肩をガッと掴んで至近距離から訴えた。


「いつまでも、いつまでも今のままのシアでいてくれ」

「は、はい? いきなりどうしたんですか、ハジメさん。恐いぐらい目が真剣なんですけど……」


 若干、引き気味のシア。それくらいハジメはマジだったのだ。マッチョなシアは見たくない!


「それにしても、この地下空間、想像以上に広いな。もう、空間っていうより迷宮だぞ。物理トラップの山といい、マジでライセン大迷宮みたいだ」

「うざコメが出て来ない分、ずっとマシですけどね~」


 てっきり、垂直通路の下に空間があって、そこにお宝でも眠っているのかと思ったら、むしろそこからが本番。垂直通路は地下迷宮への入り口に過ぎなかったらしい。


 本格的に、ウィルフィード達の目的が気になってくるところだ。


「すごいお宝が眠ってるのかもな」

「金銀財宝でしょうかね~。発表とかしたら、時の人になりそうですね~」


 そうやって雑談しつつ、殺意高めのブービートラップの山を正面から叩き潰して(主にシアが)進むことしばし。


 不意にハジメが「お?」と声を漏らした。


「どうしたんですか?」

「掘削作業が中断されたぞ。……こっちの探索に夢中になっている間に、更に三人くらい犠牲者が出たみたいだな。現地民がかなり怯えてる。ルフィが何か話してる」


 ハジメはノイントにウィルフィードの音声を拾うよう指示を出した。


「……どうやら報酬額をつり上げて引き留めてるみたいだ。ついでに、士気の低下がやばいみたいで、今日のところは全員を休ませるみたいだな」

「作業はどれくらい進んだんですか?」

「十五メートルくらいだな。明日、遅くても昼前には下まで到着しそうだ」

「そういえば、もう日付が変わりそうです。楽しい時間は直ぐに過ぎるものですね~」


 普通ならダース単位で人死が出ていそうな地下迷宮も、今のシアにとっては遊園地のアトラクションと変わらないらしい。


 と、そのとき、キュ~~~という音が鳴った。シアがバッと自分のお腹を押さえる。


「えへへ。お腹空いちゃいました」

「そう言えば、晩飯食ってなかったな。俺等、どんだけはしゃいでたんだ」


 照れたように頬を染めるシア。ハジメはほっこり笑いつつ、休憩を提案した。


「どうせ連中が地下空間に到達するのは明日の昼前か、早くても日が昇って数時間後だ。追いつけはしない。俺等も今日は休もう」

「は~い。それじゃあ、パパッとお夕飯作っちゃいますね~」


 二人は適当な場所に陣取った。シアが宝物庫から〝どこでもシステムキッチン〟を取り出しテキパキと料理を始める傍で、ハジメはソファーベッドやテーブルセットを取り出したりして、快適空間の構築に勤しむ。もちろん、千鳥先生(セントリーガン)の設置も忘れない。


 そうして、シアが夕食を作り終えた頃には……


 まぁ、なんということでしょう。殺風景で殺意高めのトラップに溢れていた古代の地下迷宮は、温かなランタンの灯りに彩られた素敵な空間へと変わりました。


 アンティークなテーブルセット、最高級のソファーベッド、千鳥先生、そして食欲をそそる具沢山のビーフシチュー……


 匠の技が光ります。


 いただきますの後、がつがつと夕食を貪るハジメ。


「おかわり」

「もうっ、ちゃんと噛んでます? ビーフシチューは飲み物じゃありませんよ?」


 そんなことを言いながらも、自分の料理をうまうまっと夢中で食べてくれる姿が嬉しいようで、シアの表情はぽわぽわだ。ウサシッポはふりふりしているし、ウサミミもみょ~んみょ~んとしている。


 まさか、古代の人達も思いもしないだろう。〝侵入者絶対殺す迷宮〟を作ったのに、そこで新婚夫婦みたいな光景を展開されるとは。


 その後、仲良く並んで皿洗いなどして食事の後片付けをした二人は、ソファーベッドの上でぴっとり引っ付きながら眠りに落ちたのだった。





 翌朝。


 地上では既に掘削作業が開始され、もう数メートル程で地下空間に到達するという頃、ようやく目を覚ました寝坊助な二人は、ちょっと急ぎ目で最奥を目指した。


 そうして辿り着いた先。


 そこで初めて、二人は本来あってもおかしくない〝それ〟を発見した。


「ようやくか。ずっと奇妙には思っていたんだが……」


 見つけたのは白骨化した遺体だ。剣や鎧らしきものも落ちている。この致死性トラップ満載の迷宮からすれば、もっと多く、あちこちに散乱していてもおかしくない骸。最奥でようやく見つけるというのもおかしな話だ。


「その扉を守っているみたいにも見えますね」


 シアの言う通り、骸は最奥で見つけた扉に背を預けるような形で倒れており、装備などからしても、一見すると扉の先へ通すまいと死守したという印象だ。


 取り敢えず、扉の中を確認しようと、ハジメは骸を避けて扉に手をかけた。


 大きな金属製の扉で、ハジメの膂力でも動かない。もしやスライド式かとやってみるが、やはり動かない。


「ハジメさん、この窪みはなんでしょう?」

「ん? ……鍵穴、か?」

「だとすると、鍵がないと普通は入れないということになりそうですね」


 シアが骸の周辺へ視線を走らせる。が、鍵らしきものは見当たらない。


「しょうがない。どうせ地下空間に入るにも反則技を使ってるわけだし、今更鍵探しなんてしていられないからな」


 ハジメはそう言って金属の扉に手を置いた。真紅のスパークが奔り、扉がただのインゴットへと変わっていく。


 強制的に開けられた扉の奥へ、ハジメとシアは足を踏み入れた。


「また死体か……」

「金銀財宝じゃなかったですね。あ、でも、あの骸さん、何か抱えてますよ」


 骨格からして女性の骸だろう。六畳ほどの部屋の奥には、白骨化している骸が一つ転がっていた。金銀財宝は見当たらず、多少、骸がつけていたであろう装飾品があるだけの、むしろ殺風景な部屋だ。


 故に、骸が抱える黒ずんだ金属製の箱は殊更目立った。まるで母親が子供を抱き締めているかのように、装飾品が適当な感じで落ちているにもかかわらず体を丸めて大事そうに抱えている点からも特に。


「これだな。これが連中の目的だ」

「ですね。早速、中身を拝見しましょう!」


 わくわく、どきどき。シアの期待に輝く眼差しに応え、ハジメはそっと黒い金属箱を骸から引き抜いた。


 金属の箱は溶接されている。余程大事なものが中に入っているらしい。


 だが、どれほど頑丈な蓋も、どれだけ厳重な封印も、それが鉱物を使ったものであるなら、ハジメにとっては無意味だ。


 さぁ、開けるぞ、とハジメが錬成魔法を行使する――


 その寸前。


「ッ!? ダ、ダメです、ハジメさん!!」

「!?」


 シアがハジメの手から金属箱を弾き飛ばした。ウサミミがぶわりと逆立ち、好奇心に輝いてた瞳は警戒の色で染められている。


「お、おい、シア。一体なんだってんだ?」

「……あれ、やばいですよ。久々に発動しましたもの」


 その言葉で、ハジメは察した。同時に、警戒心が最大レベルで跳ね上がる。


「幻視したのか?」


 シアはこくりと頷いた。


 神話決戦以降、バグキャラたるシアを脅かす存在・事象など存在しなかったために、もうずっと発動などしていなかった固有魔法〝未来視〟の能力の一つ。


 シアの死に直結する未来に関しては自動発動する〝死の幻視〟だ。


 それはつまり、あの黒い金属箱の中身は金銀財宝などではなく……


 魔王とバグウサギですら殺し得る〝何か〟だということだった。


いつもお読み頂ありがとうございます。

感想・意見・誤字脱字報告もありがとうございます。


※念の為のネタ解説

・某筋肉達磨なバグキャラ

 ネギ○のジャッ○・ラカンさんです。白米の超好きなキャラ。27巻は厨二心を鷲掴みする。


※ありふれた日常最新話、更新してます!

安定の可愛さと原作弄りの面白さ。

時折ネタを逆輸入させて頂いておりますw(シアママとか、マッチョシアとか)

森みさき先生に圧倒的感謝!

オーバーラップ様のHPより見れますので、是非、見に行ってみてください。


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― 新着の感想 ―
地球なめんなファンタジー
正規の道を錬成で通行不能にしたりはしないんだな。
[一言] ラ○ンは造物主に抗えないはずの魔法世界の住人でありながら、気合で対抗してましたよねぇ…理不尽ですよねw 自分も彼、好きです。 今連載してる悠久には流石に出ないやろなぁ…
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