第463話 塔と学院、依頼報告
王都冒険者組合に入ると、そこは非常に賑わっていた。
受付も、依頼受注、依頼達成、新人登録用、パーティー申請用、などなど分かれているが、それでも結構並んでいる。
いずれも複数あってそれなのだから、王都冒険者組合の規模が分かる。
時間帯の問題もあるだろうが、こうして見るとマルトとは全然違う。
王都から都落ちしてくる冒険者が少なくないのも頷ける。
ただ、あんまり辺境を舐めてかかってくるような冒険者はマルトですらもやっていけずに引退するか死ぬ羽目になるのだがな。
辺境は辺境で厳しいのだ。
「やっぱり、何度来ても活気が違うね」
オーグリーがそう言ったので、俺も頷く。
「マルトと比べるとなぁ……あそこも辺境にしてはそれなりの都市だ。閑散としてるってわけでもないんだが、王都と比べたらな」
「そうそう……マルトじゃ大抵の冒険者の顔くらいは知ってたけど、王都だと誰が誰だか分からないくらいだしね」
「そういうもんだろうな。なんとなく寂しい気もするが、それが都会って奴なのかもな」
「田舎者っぽい台詞だね」
そんな風に雑談をしていると、依頼の完了報告をするための受付が空く。
「おっと、じゃあ、行こうか。レント。カゴ、落とさないようにね」
カゴ、というのは水猫の入っているロレーヌ製作のカゴのことだな。
また中に入っている水猫には首に魔道具も嵌められている。
捕獲したところで何度も俺たちが浴びせられたような水の魔術の刃を放つことが出来ないようにする特殊なものだな。
村を出る前にロレーヌが嵌めたのだ。
冒険者組合の方で用意するので捕まえたら持ってくればそれでいい、後で嵌める、という話だったのだが、水猫はかなりすばしっこく、したがってよく逃げる魔物だ。
貴族からペット用に、という依頼が絶えないが、様々な段階で逃亡してしまうという困った奴でもある。
そしてそうなった結果、依頼料が減ったりすることもあるので、先んじてロレーヌが逃げないようにしておいたのだ。
少なくとも魔術さえ使えなければ、冒険者組合職員でも、カゴから逃げようともなんとか出来ないこともないからな……。
王都の冒険者組合となれば、腕っぷしの強い職員もそれなりにいるだろうが、大多数は事務仕事専門である。
魔物を捕まえることは容易ではないが、この状態なら、というわけだ。
「……はい、では次の方」
冒険者組合職員の声に従って、俺とオーグリーが前に出る。
「本日のご用件は?」
「あぁ、この三つの依頼の達成報告だよ」
そう言って、オーグリーは依頼票の写しを手渡す。
マルトだと誰がどの依頼を受けたのかは冒険者組合に完全に把握されているし、少し話せばわかるが、王都の冒険者組合だと数も多く、そういうわけにはいかない。
依頼票の写しを受注の際に渡されていて、それを提出することで何を受けたのか報告することになる。
これがなくても少し待てば調べることは出来るらしいが、かなり時間が無駄になるので写しを出してしまった方が早いのだな。
同じ冒険者組合と言っても、ところ変われば品変わる、とはよく言ったものだ。
「ええと……水猫の生け捕りと、泥魔導人形の泥か粘土の収集、それと飛竜天麻の採取ですね。依頼の品の方は……」
「あぁ、まずは……水猫だな」
俺が頷いてカゴを受付台の方に置くと、職員は頷く。
「……はい、確かに。ですが、これは冒険者組合貸与のカゴではありませんね? それに……あら、すでに首輪も嵌っています。これは……?」
本来、採取に必要なビンなどと言った低廉で大量に購入できる物ならともかく、こういった捕獲系の依頼に必要な高価なものは冒険者組合から貸与されるのが普通だ。
でなければ冒険者側に多大なる出費が要求されるし、そもそも受注それ自体に冒険者が委縮し、片付かなくなると言う現実的な問題もある。
魔物の動きを封じる魔道具の類は値も張るし、金を持っていてもどこにも売っていないなんてことはザラだからな。
だから冒険者組合は色々と貸与してくれるわけだが、冒険者組合にも予算の問題がある。
そのため、貸与される物品についてはおおよそ中程度の品質のものが大半で、しかもかなり使い込まれているものも少なくない。
その結果として、依頼の最中に破損し、依頼を失敗してしまう、なんてこともある。
こういった場合にはそれが不可抗力によるものであるなら依頼の失敗について責任を問われることはないのだが、それを確定するために様々な質問や状況調査がされることも多く、極めて面倒くさい。
だからこそ、今回の依頼において、俺たちは貸与された道具の類は使うことなく依頼を終えた。
カゴも、首輪も、ロレーヌ手製の魔道具、ということだな。
そんなことをすれば一般的にはかなりの出費が要求されるのだが、ロレーヌは一流の魔術師であると同時に、極めて腕のいい錬金術師でもある。
魔道具の製作はお手の物で、今回のカゴも首輪もかなりお安く仕上げてくれた。
カゴの方は結構、彫刻など凝っているように思えるのだが、ロレーヌ曰く、型押しのようなもので簡単に仕上げたので見た目ほど手は込んでいないと言う話だった。
「うちのパーティーメンバーに錬金術師がいてな。そいつが作ったものだ。あとで返してくれればそれでいい」
とはいえ、もちろん冒険者組合にただでやるなんてつもりはなく、後の返却は当然に求める。
本来の冒険者組合貸与の物品だとて、依頼主に水猫を手渡す際に入れ替え、付け替えが行われるものだからな。
このカゴと首輪についてもそのように扱ってもらえればそれでいい。
「なるほど、錬金術師の方が……。それにしてもこれは極めて出来のいいものですね。水猫も居心地がよさそうです」
カゴの中で、水猫はゴロゴロと転がっている。
たまにおっかなびっくりカゴの縁を触ろうとするが、やはりピリッ、と電撃が走るので諦めて寝転がる。
そんなことを繰り返している。
あまり大きなダメージを受けていないのは、ロレーヌがそのように作ったからだな。
あれでそこそこ動物は好きな女だ。
魔物とはいえ、むやみやたらに苦痛を与えるのは好みではないらしい。
実験のために必要なら何でもするんだけどな……その辺りの線引きは難しいところである。