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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第14章 塔と学院
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第398話 塔と学院、王都の友人

「……お、ここだな?」


 一軒の古びた宿の前で、俺たちは止まった。

 といっても、別にボロい、とまでは言わない。

 建物自体はそこそこ年季は入っているものの、しっかりと整備されており、不潔な感じはない。

 老舗、という印象を受ける。


「そうだな。看板にも『鷹の羽休め亭』と書いてある。ここで間違いないだろう」

 

 ロレーヌが以前、オーグリーにもらった荒い紙に記載してある文字を確認しつつ、そう呟く。

 それから、俺たちは宿の中に入った。

 中では宿の亭主と女将と思しき人物が働いていた。

 受付にいるのは、おそらくは二人の娘だろうと思われる若い娘だ。

 だいたい、こういった宿は家族経営だからな。

 もちろん、高位冒険者向けの高級宿となるとしっかりとした背景を持つ商人が経営しているが、これくらいの規模となるとそんなものだ。

 オーグリーは一応、銀級だと名乗っていたから、収入的にはもっといい宿に移ることもできるだろうが、人間、慣れた環境が一番いいものだ。

 おそらくは、銀級になる前から使っていて、あまり移ろうとは思わないのかも知れなかった。


「……あ、いらっしゃいませ。本日はお泊まりですか?」


 受付に近づくと、宿の娘が俺たちにそう尋ねる。

 しかし、これに俺は首を振った。


「いや、人に会いに来た。ここにオーグリーという冒険者が泊まっているはずなんだが……」


 すると、娘は納得したように頷き、言う。


「オーグリーさんでしたら、三の部屋にいらっしゃいますよ。今日はお出かけになっていなかったと思いますが……お呼びしますか?」


「いや、それには及ばない。こちらから挨拶に行くとする。構わないか?」


「ええ、どうぞ。階段を上って、突き当たりの右の部屋になりますので」


 それからロレーヌと頷きあい、俺たちはそこに向かった。


 ◇◆◇◆◇


 ーーコンコン。


 と、木製の柔らかみのある扉を叩く、


「ん? 来客かな……今日は特に誰とも約束した覚えはないんだが……」


 と独り言が聞こえ、そのあとすぐに、がちゃり、と扉が開かれた。

 誰が来たのかもわからずに不用心なことだ、と思うが、冒険者をノせる人間などそうそうおらず、またそれが銀級の場合にはさらに人数が減ることを考えれば問題ない行動だろう。

 まぁ、これが、今にも暗殺されそうな心当たりがある、とかそんな状況に置かれている場合なら別だが。

 そして開かれた扉の向こうには、相変わらずちかちかする格好をした男が立っていた。

 虹色のひらひらした服に、クジャクの羽が突き刺さった帽子、腰に下げた剣の柄には極彩色の文様が描かれており、ファッションセンスには変化がないようだった。

 ただし、顔立ちは意外と整っており、一般的な服装をすればかなりの美男子に見えるだろう。

 品もあるし、どこかの貴族と言われても違和感はないかもしれない。

 ただ、今の格好を見れば、ちょっとどこかイってしまっていると言われた方が納得できるだろう。

 なぜ、彼はこんな格好を好むのか。

 その理由は誰も知らない……。


 そんな彼の顔は、今、驚きの感情に彩られていた。


「レント……! それにロレーヌも!」


 そんな声を上げたのもその驚きからだろう。


「ああ。久しぶり……というほどでもないか。まぁ、こうしてちゃんとした姿で会うのは本当に久し振りだが」


 以前会ったとき、俺たちは帝国風最先端ファッションに身を包んでいたし、その他いろんな意味であれだった。

 しかし、今回は普通の格好である……俺の仮面以外は。


「ちゃんとした姿でない奴が目の前にいるんだがな……」


 ロレーヌがあきれたような視線でオーグリーを見るも、オーグリーはきょとんとした顔で、なにが?どこが?という視線をロレーヌに向ける。

 お前の格好は少なくとも一般的ではない、とここまではっきり言っているのにこの反応はわざとなのか本気なのか。

 ……まぁ、わざとなのだろうな。

 オーグリーはこれでしっかりとした一般常識はある。

 自分の服装がどの程度世間一般から乖離しているか、判断できないような阿呆ではない。

 にもかかわらず、こんな格好をしているというのには何か理由がありそうに思えるが……まぁ、本当にただの趣味なのかも知れないし、つっこんでも無駄だろうな。


「二人とも、ずいぶんと突然やってきたものだね。でも、歓迎するよ。流石にそろそろ厳しくなってきてて……」


 オーグリーの声は、少し疲れていて、彼らしくない感じがした。

 しかし、その理由についてはなんとなく、すぐに思い当たる。

 ロレーヌが言う。


「やはり、王宮からせっつかれているか?」


「まぁ、ね。その辺りも含めて、話をしようじゃないか。まず、部屋の中へどうぞ。多少散らかってはいるけど、三人で腰を落ち着けることができないほどじゃない」


 やはりロレーヌの予想は当たっているようで、これからその相談になるようだ。

 こちらとしても、基本的にはそのためにオーグリーを訪ねてここにきたのだから、願ったりかなったりである。

 うなずいて、中へと入った。


 ◇◆◇◆◇


「それで? あれからしばらく時間が経ったけど……」


 何か言い訳はあるか、と聞きたいような口振りである。

 それも当然だろう。

 あのときしたのは、後日訪ねる、という日程の曖昧な約束だったにしても、数日時間をもらえないかという話もしていた。

 向こうとしては、そこまで日数を開けずに訪ねてくるだろう、と思っていたと考えるべきである。

 そうなると、せっつかれるのは身元も明らかで、王都に住んでいるオーグリーである。

 かなり大変な位置に置かれたということだろう。


「……いや、悪かった。色々あって大変だったんだよ」


 それから、俺はマルトであった騒動について話せる範囲で話していく。

 とは言っても、オーグリーには俺が魔物であることについてすでに話している。

 また、魔術契約によって俺たちにとって不都合な事実は俺たちの許可無く他人に話すことはできないようになっている。

 だから、ほとんど隠し事なく話した。

 ラトゥール家周りについてはどれだけ話したものか微妙なところだったから、かなりぼかしたが……。

 強大な吸血鬼が力を貸してくれた、ぐらいの感じで。

 

 最後まで聞き終えたオーグリーは、ほう、とした様子で、


「……君はずいぶんと大変なことに巻き込まれたんだね……いや、魔物になった時点で、すでに大変なわけだが……。しかしそういうことなら、今日までここにこれなかったことも責めるわけには行かないな。僕も大変だったが、君に比べるとただせっつかれてストレスが溜まっていたくらいの話だからね」


 と納得してくれたのだった。

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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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