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第122話



 雪鬼の一メートルほど前の地面に、ほんのりと青みがかった半透明な薄い板が出現した。

 その形は八角形、というか雪の結晶を象っているような、そんな印象をテンジは受けていた。

 大きさはそれほど大きなものではなく、人ひとりを隠せるようなそんな壁である。


(薄い板……半透明か。一体、どんな効果が――)


 テンジがそんなことを思ったとき、まるで答えを教えるかのように向かい合っていた炎鬼が刀を鞘から抜き放ち、天星スキルを発動させた。

 ギィィィィ、と異音が鳴り響く。


「御前を失礼します、主――『獄炎華』ッ」


 あの爆発する炎球を、六メートルもない至近距離から雪鬼に向かって撃ち放ったのだ。

 ゴゥと豪快な燃える音を鳴らしながら、雪鬼へと迫っていく。


 まさかの行動にテンジはぽかんと口を開け、その行く末を見つめた。


「……まじか」


 テンジはその結果を見て、思わず素の感想を漏らしていた。


 勢いよく解き放たれた炎球は、薄い結晶の壁にぶつかったと同時に爆発の華を咲かせたのだ。

 そうして後に残ったのは、何事もなくその場にそびえ立つ薄透明色の壁だった。


 雪鬼はその結果を見届けると、合わせていた両手をゆっくりと離し天星スキルを解除する。

 その姿は攻撃が通らないのはさも当たり前だと言いたげな、涼しげな表情であった。


「帰りたい……私の天星は亡者を通さない『壁』を作ります」


「亡者だけ? 今、攻撃を防がなかった?」


「帰りたい……亡者、すなわち悪意持つ者の行為をすべて通しません。これが私の『獄雪経』です。……暑い」


 それだけ説明すると、雪鬼はすたすたと岩陰の方へと歩いていき、少しでも涼しい場所に避難していくのであった。そして、膝を抱え込むように座り込んだ。

 そのまま主であるテンジをジッと見つめる。


 早く帰らせろ、そう言いたいのだろう。


 しかしテンジは気にせずにその場で考え込む。

 基本、地獄獣たちはホームシックなことがわかっている。だから、テンジも彼らの意見をスルーするためのスキルを身に着けることにしたのだ。スキルとは言っても、ただ無視するだけである。無視すると、彼らは一様に押し黙るのだ。


 胸の下で両腕を組み、うーんと唸る。


「もしかして赤鬼って攻撃に特化してて、青鬼って防御に特化してるの?」


「あの~……その通りでございます。地獄種には、それぞれ得意、不得意があります。王としてその辺りを配慮して、小鬼のように隊を作っていただけるとこちらとしても嬉しいです」


「なるほど……うん、わかった」


「あの~……感謝いたします」


「わかったけどさ、その王ってなんなのか教えてくれない?」


「あの~……それは私どもの口からはまだお答えできません」


「やっぱりか、昨日と同じ反応……」


「あの~……ほんと、すいません」


 テンジは「いいよいいよ、答えられないんでしょ?」と言う。

 そう、炎鬼や雪鬼は会話できる地獄獣だったのだが、『獄獣召喚』や『王』について深く質問しようとすると、一様に答えられないと言うのだ。


 王とはなんのことなのか。

 地獄とは一体なんなのか。

 この天職は一体なんなのか。

 特級とはなんなのか。

 赤鬼、青鬼以外にはどんな地獄獣がいるのか。


 全部だ、全部を答えてくれない。いや、彼らは答えられないと言ったのだ。

 誰かが会話を制限しているのか、地獄にそんなルールがあるのか。


 ただ彼らは絶対に「まだ」という言葉を言う。

 まだ、ということは、いつかは話せるときが来るのだろう。レベルによる制限があるのか、はたまた王になることが制限を解放するのか。

 全てはまだ謎のままである。


「炎鬼と雪鬼はどれくらいの人数までなら纏められる? 一部隊をどれくらいの人数で組み直そうか考えてたんだよね」


「そうですね……20から30というとこでしょうか。それ以上になると、複数の隊を纏めるリーダーを置いていただけると」


「なるほど、隊を纏めるリーダーか」


 テンジが使役する地獄獣の数は全部で215体にも及ぶ。

 正直、テンジ一人ですべての地獄獣を纏められる範疇を超えていたのだ。だから前から小鬼を一つの隊として設定し、隊の名で呼び出していたのだから。


「じゃあこうしようかな。10人を最小単位として、それを『分隊』。次に分隊三つで『小隊』。小隊三つで『中隊』ってのはどう?」


「あの~……凄くいい考えかと。編成はこちらに任せてもらってもよろしいですか?」


「あっ、やってくれるの? じゃあお願いしようかな。炎鬼先生たちの方が他の地獄獣についても詳しいでしょ? お願いするね」


「あの~……頑張ります」


「じゃあ、それぞれの中隊には炎鬼先生と雪鬼先生がリーダーを務めて纏め上げておいてね」


「あの~……もっと頑張ります」


「うんうん、会話できるっていいね。全部の指示がスムーズになる。それじゃあ――」


 テンジは宙に浮いていた閻魔の書をパシッと勢いよく掴むと、その手を前に突き出した。

 表情を真剣なものへと切り替え、響くような声で言った。


「全地獄獣、召喚」


 テンジの周囲をぐるりと囲むように、大量の地獄ゲート出現する。

 そこから一瞬で、総勢215体の地獄獣たちが姿を現した。小鬼が41体、炎鬼が77体、雪鬼が97体である。

 そんな地獄獣たちを見つめ、テンジは指示を出す。


「僕から最初のお願い。炎鬼先生と雪鬼先生の指示の元、隊を編成して。その後、この第62階層で分隊ごとに狩りを始てみよう。いないとは思うけど、他の探索師を見つけたらすぐにその場から逃げること。絶対に出くわすようなことはしないで」


「あの~……凄く頑張ります」

「帰りたいけど……私も全力で頑張ります」


 こうして新生天城典二――第二の成長段階がスタートした。



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