220 気になるあのこの家
短め
「周くん、顔が死んでますけど……」
「何でだろうな……」
手芸部の展示販売を後にして校内を再び歩き出す修斗と志保子と、周を逃げないように繋ぎ止めつつのんびり二人の後ろをついていく真昼。
周はふて腐れ気味なのを隠しつつ、しかしやる気のない顔で楽しげにしている両親の背を眺めていた。
(視線が痛い)
目立つ両親と一緒に行動しているので、視線が突き刺さる。
別に周も最近は視線が集まる事自体は好きではないが、真昼の彼氏として過ごす事で慣れてきてはいた。
ただ、今回のは質が違う。
やっかみや悪意のあるものではなく、好奇心で満たされたもの。顔が知られているので、尚更面白そうに眺められているのだ。
前でいちゃいちゃしながら模擬店を訪ねていく両親の姿に、周は疲れたように後ろをついていくだけだ。
真昼はその様子を見ながら困ったように眉を下げている。
「……そんなに嫌なら、二人と分かれて……」
「嫌とかじゃなくてさ、こう、身内が……ああしてるの見て恥ずかしいというか……」
「……割と周くんも人の事言えないというか、 修斗さんに似てると思いますけどね」
「どこがだよ」
「……最近、周くんはこう、なんというか……無意識に俺のものって雰囲気を醸しているというか……」
自然と手を握ったり肩を抱いたりするじゃないですか、と淡い紅色を頬に落としながら唇を僅かに尖らせる真昼に、周は言い返せずに唇を真っ直ぐに結ぶ。
「……正直、ど、堂々としてくれていいのですけど、その……どきどきするというか。自信がついたのは嬉しいですけど、私がその分慌ててしまうというか。その癖変な所で意識しますし……た、たまにへたれですし」
「……最後のは余計だろ」
「だって。……でも、へたれてなかったら周くんでない気がするので、これはこれでよいです」
「おいこら俺の認識」
未だに真昼にもへたれだと思われていたのか、と頭を抱えたくなったが、まあ交際して四ヶ月も経つしお泊まりを経ても何も経験を積んでいないのだから、へたれと言えばへたれなのかもしれない。
ただお互い納得の上ではあるし、大切にしたいが故の選択なのだと真昼は理解している筈だ。
ただそれが周のスタンダードだと思われるのは不服なのである。
「……そんなにへたれだと思うなら、家で思う存分攻めてやろうか」
「きょっ、今日は、志保子さん達お泊まりでしょう」
それはそうなのだが、あまり真昼に軽く見られているのは面白くない。
「……じゃあ俺が真昼の家に泊まれば問題ないか?」
からかい半分、もう半分は泊まらずとも一度は彼女の家に入ってみたい、なんて希望から出た言葉だったのだが、真昼はぴしりと表情を固めた後、視線を斜め下に落とす。
立ち止まり、もぞりと肩を縮めて俯いた真昼に、流石にからかいすぎたかと謝ろうとしたら、彼女はおずおずといった様子で顔を上げた。
「そっ、それはその、いっ、いいですけど、あの……えと、……おっ、お片付け、がんばります」
冗談だったのに、どうやら大真面目に受け取ったらしい真昼は、ぷるぷると震えながらも拳を握る。
いいのかこれ……と周が心配になるくらいに真っ赤なので、これはあまりやり過ぎてはいけないな、とおさわりはセーブする事を誓っておいた。
出来るかどうかはさておき。