519『願望』
余談なのですが。
ツイッターでよく自分の作品について調べるのですが。
あの……作者の別作品。600話以上続いてるヤツなんですが、皆さんの感想を見ていると、当時の自分とんでもねぇ展開ぶち込んでたなァ。若さってすごいなァ、としみじみ思います。
そして、なんとなくそれ以上のトンデモ最終回がやってきそうな予感がしている当作品。
どうぞ、本日もご覧ください。
霧矢ハチが託されたモノ。
初代勇者と、暴走した悪魔王。
それらの戦いの末
初代勇者は悪魔王を弱体化させるため、その一部をその身に飲み込んだ。
そして、自身の力の半分を切り分け、霧矢ハチへと託して消えた。
夢の中ではそうなっていた。
無論、それが正しいのかどうかは分からない。
あの夢が本物だったのかも知らない。
だけど……僕は。
最悪の可能性を考えて、動くつもりだ。
「『反転』」
僕の大鎌を受け止めていた霧矢。
彼が言葉を発した瞬間、凄まじい衝撃が身体中へと尽きぬけた。
一気に体が押し返される。
されど、誰かに肩を掴まれた感覚があって、見ればシオンが歯を食いしばっていた。
「シオン……!」
「カイ! ここだ、ここで一気に決めやがれ! こいつの能力がコピーなら、技を見せれば見せるだけこっちが不利になる!!」
その通りだと、考えるまでもなく分かった。
僕は拳を握りしめ、大鎌を構えて前を向く。
僕らの姿に、霧矢ハチは目を細める。
その顔に浮かぶのは、余裕以外の何も無い微笑。
ただ、親が子を見るような目で、僕らを淡々と見下ろしていた。
「そうだね。その言葉……あと少し速かったら、未来は変わっていたかもしれない」
嫌な予感が背筋を撫でる。
僕は黒死炎天を解放すると、背中から翼のように炎が吹き出す。
それらは僕らを包むように防御を固める。
と同時に、霧矢ハチの言葉が響く。
「【流星魔法】」
瞬間、感じたのは凄まじい衝撃。
天地がひっくり返るような。
鼓膜が冗談抜きで破れそうな程の轟音。
防御を張った内部ですら衝撃にダメージが入る。
僕は、極めて捕食性を無くした炎で味方全員を捕まえると、バラバラにならないように固定する。
「……ッ、あ、あんた! めちゃくちゃこの能力使いこなしてるじゃない!」
「い、今そんなこと言ってる場合かよ!」
やがて、衝撃は収まった。
僕は翼を解放すると、外には惨状だけが広がっている。
まるで、上空から流星群が降り注いだように。
先程まで草原だった場所は焼け野原に。
地面はえぐれ、溶岩が流れ、全く別の光景へと様変わりしていた。
「君たちは、さっきのチャンスに勝負を決めてしまうべきだった。この俺を相手に、2度以上チャンスがやってくると考えること自体……少々傲慢ではないかと思うよ」
「……傲慢なのはどっちの方だ」
「その言葉、そのまま返そうか」
霧矢ハチは、その場に立っていた。
脇腹はえぐれ、ダメージも少なくはない。
そも、深淵竜ボイドの一撃は強者から見ても一撃必殺に相応しい。
そんな攻撃を、二度も直撃してるんだ。
ダメージがない、って方がおかしな話。
「…………」
ふと、背後を見る。
絶対にコピーさせる訳には行かない、阿久津さんとポンタの異能。
二人はここぞと言う時まで待機してもらっているが……もしかしたら、そうも言ってられなくなるかも。
霧矢を見据える。
今の彼からは、余裕なんて吹き飛びそうな程の威圧感を感じられた。
「俺は死ぬ。そのためになら負けてもいいと思っていたけど、その考えは訂正する。負けるべくして負けるのなら仕方がないと納得しよう。だけど、勝つべくして負けるのは、託してくれた友に示しがつかない」
それは、霧矢ハチの本気宣言。
先程までのように、半分手を抜いて戦っていた時とは訳が違う。
本気で勝ちに来た、それこそ手段を選ばずに。
「……皆、気合い入れろよ。今から僕らが戦うのは……この星40億年の記憶そのものだ」
原初から今に至るまで。
ありとあらゆる神秘を見聞し。
知識だけで異能の域に達した大賢者。
そんな彼が、持ち得る全ての知識を総動員して、僕らを潰しにかかろうとしている。
「僕らの相手は――人類史そのもの」
霧矢の体から想力が吹き上がる。
あまりの総力にたたらを踏みそうになるが、何とかこらえて前を向く。
彼がすべてを知っているというのであれば。
今までの人類史上で現れた偉人・英雄・怪人……ありとあらゆる力が、能力が、彼のもとに集ったということ。
「『超磁場』」
瞬間、僕ら全員が地面へとたたきつけられた。
それは超重力……とも、また違った感覚。
まるで地面に吸い寄せられているような。
重力と似たようで違う、もっと直接的な外力。
「こ、れは……ッ!」
「まさか、『磁力付与』の能力か……!?」
「大正解」
ボイドの言葉に、霧矢は手を振り上げる。
上空へと黒い雷雲が集い始める。
その光景に最も驚いたのは、ボイド本人。
僕は嫌な予感に急かされ、炎の防御を展開する。
そして同時に、天が怒った。
「『黒雷』」
瞬間、音を置き去りにして雷が落ちる。
それは、深淵竜ボイドの『完全コピー』。
間一髪、僕の炎で防御はできたが……その余波だけで周囲がさらに朽ち果ててゆく。
僕は歯を食いしばり、前を向く。
……文字通り、今までの敵とは格が違う。
力の質が違う。技の練度が違う。覚悟の深さが違う。
経験の量が死ぬほど違う。
戦えば戦うほどに実感する。
コイツの強さは――解然の闇に通ずる何かがある。
あの至高に……この男は、近しい場所に立っている。
そんな、理解もしたくない実感だった。
「王よ!」
「……ああ! 分かってる!」
だけど、それがなんだ。
挑むことには変わらない。
勝たねばならないことは変わらない。
今更霧矢の強さを知っても、僕は何も変わらない。
「絶対、倒す」
目的のために。
夢のために。
絶対に、お前に勝たせるわけにはいかない。
僕は大鎌を構え、両手に力を込める。
目をかっ開け。腹の底から吠え上げろ。
僕の願いは一体なんだ。
――過去を変えることだろうが。
今まで必死に駆け抜けてきた。
一直線に生き抜いてきた。
その果てが、もう、手の届く場所に在る。
なあ、霧矢。
霧矢ハチ。
僕は願いを叶えるよ。
この世界と決別する。
黒歴史のある世界線を、ぶっ壊す。
そんでもって。
今度は黒歴史の無い灰村解として。
胸を張って、お前らみんなと生きるんだ。
そして。
僕の未来には、お前も居るんだ霧矢ハチ。
「誰も死なせない、誰一人失わせない。僕は正々堂々胸を張って願いを叶える」
……そのために霧矢。
僕が彼の背後へと転移すれば。
彼は、当然のように僕の攻撃を迎え撃つ。
再び衝撃が突き抜けて。
僕の鎌を受け止めた霧矢の腕が――少しだけ斬れた。
血が噴き出して、霧矢は思わず目を見開いた。
「今だけは、お前は邪魔だ」
その言葉に、僕の姿に。
……どうしてだろうか。
霧矢は少し、泣きそうに見えた。
「……頼む、カイくん。止まってくれないか」
「そんなふざけた願い、今の僕が聞き入れるとでも?」
お前だってそうだろう。
僕らからすりゃ、お前は断然間違っている。
たしかにお前から見りゃ、僕が間違ってるのかもしれない。
過去を受け入れろと綺麗ごとを抜かすのかもしれない。
ただな、霧矢。
あまり舐めてくれるなよ。
灰村解は、たった一つの願いのために生きてきた。
他から見れば小さな過去。
されど自分からすれば大きすぎる黒歴史。
それを改変するために、歯を食いしばって生きてきた。
これが今の、灰村解だ。
「この生き方……もう曲げられるかよ」
後戻りできない場所なんて、とっくの昔に通り過ぎた。
今更夢をあきらめるなんて絶対に不可能。
僕はもう、変われない。
それでも僕を曲げたいというのなら。
霧矢……やっぱりお前、僕を殺すしかないよ。
一回生まれ変わりでもしなけりゃ、僕は絶対に曲がらない。
これは、もう意地だ。
でもって霧矢、お前も同じだろう?
「この前は悪かったな。……僕に、覚悟が足りなかった」
だから喚いた。
霧矢を前に動揺した。
だけど、いろんなことを知って、見て。
やっとこさ、僕の中にも覚悟ができたよ。
霧矢の腕から血が噴き出す。
彼の顔が苦痛に歪み。
僕は、頬を吊り上げ彼に言う。
結局のところ、その一言で片が付く。
「僕もお前も――少し愚直に生き過ぎた」
頑固さはお互い様だ。
お前が僕の話を聞かないように。
僕も、お前の意見は一切聞かない。
僕は僕の思うがままに――お前の夢をへし折るよ。
一回生まれ変わりでもしなけりゃ、僕は絶対に曲がらない