千五百七十七年 四月下旬
静子は先触れを遣わし、信長と謁見できるよう申し込んだ。現状では東国征伐の中核から外されている信忠を、再び名実ともに総大将へ戻すべく骨を折るのだ。
信長からの赦しが得られれば、晴れて信忠は北条攻めに参陣が叶う。とは言え織田家の当主である信長の命を拒絶した挙句、臣下をも巻き込んだ大騒動を起こしたからには、なんらお咎めなしとはいかない。
少なくとも信忠の短慮によって被った被害を相殺しうる、何らかの手土産を持参する必要があった。
「それで、俺は何をすれば良いのだ?」
松姫の腿から頭を上げて起き上がると、静子に真正面から向かい合って信忠が訊ねる。静子は先ほど信忠が先に盗み見ようとした書類を懐から取り出し、信忠にも見えるように開いて示す。
「これはね奥州で覇を競い合っている三家に送った密書への回答。北条が陸奥を同盟に組み込んでいるのは知っているよね? 中でも出羽国を治める最上氏、陸奥国で睨みあう伊達氏と蘆名氏は互いに仲が悪い。ただ伊達総次郎(伊達政宗の父、輝宗のこと)の正室が最上家から迎えた義姫であるため、蘆名氏は奥州畠山氏と結ぶことで均衡を保っているね」
「ふーん……」
あからさまに興味が無さそうな様子の信忠に対し、静子が苦言を呈す。
「陸奥の情勢を軽視するのは感心しないね。東国征伐の主眼が武田と北条とは言え、その周囲を取り巻く情勢を軽んじて良いわけがないからね。後で頭に叩き込ませるとして、まずはこの陸奥の三家ね」
「その三家がどうしたんだ?」
「織田家としてはこの三家のいずれが調略に応じてくれても良かったのだけれど、伊達氏が奥州を治めてくれると都合が良いのよね。三家の中でも最も開明的であり、北条に固執しないから」
「まずは奥州を切り崩して北条攻めに援軍を出す可能性を排除するってことか」
「うん。ここだけじゃなくて常陸国の佐竹氏、安房国の里見氏も同時に楔を打つよ」
「軍を分けるにしても、常陸国と安房国じゃあ間に北条が居座っているから攻められないだろう?」
「長宗我部氏の四国平定に九鬼水軍を派遣していたのは知っているよね? あれは新兵器の試験運用じゃないの。里見氏及び佐竹氏攻めを見据えた実戦演習だったんだ」
「なるほど、どちらも領土が海に面しているからか!」
ここまで言われて信忠は思い出した。九鬼家の率いる水軍は静子の導入した技術によって目覚ましい発展を遂げている。瀬戸内の一件で名をはせた九鬼水軍は、倍する相手を蹴散らすとまで言われるようになっていた。
そんな九鬼水軍はギアによって前進後退が可能な動力スクリューと装甲板で覆われた船体を持つ揚陸艦を実戦投入していた。
今までの戦国時代の常識では船による兵員移送をしようと思えば、港を攻略した後に安全を確保した上で安宅船等で運ぶしかない。
ところが九鬼水軍の擁する揚陸艦は港湾設備に頼らず、単身海岸に乗り上げて歩兵や砲などの大型兵器をも上陸させることができるのだ。
つまり相手方は港湾だけを守れば良いわけではなく、上陸可能な海岸線全てに気を配らなければならず、船舶の基礎能力で倍以上の差がある上に数の上でも不利を強いられることになる。
「まずは里見を一気に滅ぼして北条の動揺を誘う、その間に佐竹の領土へも攻め込んで北条の守りを丸裸にする手筈なの。そして調略を受けている最上、伊達、蘆名は動けない。そうこうしていると陸からは東国征伐の本隊が迫り、海への脱出を試みようにも既に九鬼水軍が制海権を確保している。こういうのを前門の虎後門の狼って言うんだっけ?」
「本心から静子が味方で良かったと痛感するわ」
げんなりとした口調で信忠が呟く。織田家が里見領を支配下に置けば、北条はのど元に刃を突きつけられた状態になる。
房総半島の先端に位置する安房国を押さえれば、相模湾は目と鼻の先であり、北条氏の本拠地である小田原城へと直接火砲を叩き込める状態となるのだ。
「うん、やっぱり陸奥は伊達家が治める構図が良いね。最上家は伊達家の支配を脱して独立したんだけど、長らく介入を受けていた経緯があるから影響力を脱し切れていない」
「つまり?」
「最上家は穏当に伊達家から独立したわけじゃないの。飼い犬に手を噛まれた伊達家としては当然面白くないわけ。隙あらば最上家に攻め込んで、再び支配下に置きたいと考えるだろうね」
「確かに家臣に長谷堂城を奪われた上に、勝手に国人を名乗られちゃあ面目丸つぶれだな」
「そうね、伊達家には最上家に攻め込む大義名分がある。それに最上家には未だ当主に対し面従腹背の家臣がいる。今は当主派が優勢だから均衡を保っているけれど、ここに親伊達派を援助すればどうなるかな?」
「天秤がどちらかに傾むいてしまえば、後は一気に崩壊するだろうな」
「その際に蘆名氏がちょっかいをかけてこないよう、佐久間様に足止めをお願いすることになるだろうね」
「伊達家が動かなければどうするんだ?」
「その場合は上杉家からも兵を回して貰って、最上領を上杉に治めて貰い三すくみの状況を作りだすことになるね。まあ上杉家が最上家を攻めようとすれば、伊達家は動かざるを得ないだろうね」
「わかったぞ、これは織田包囲網に対する意趣返しか! 北条の手足を奪って逆に包囲し返すんだな」
「そう。何度も言っているでしょう? いくさは始める前にどれだけ準備したかで勝敗が決まるの。実際に矢や刃を交える時には決着はついていて、答え合わせをするに過ぎない状況に持ち込むんだよ。そしてこれをするために必要になるのが情報よ」
実際に静子は徹底して情報収集に努めてきた。孫子の教えに『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』とあるように、敵に関する情報は軍事に限らず領民の生活ぶりに至るまで入念に調べさせた。
それらを集約して分類し、整理した上で解析して活用することでアドバンテージを生み出している。
「そしてここが肝心なんだけれど、これら一連の指揮を君に執って貰う」
「東国征伐の足がかりを確たるものにしたという功績を以て、総大将の地位に返り咲くというわけか」
「東国征伐に不参加のまま終わるよりはいいでしょう?」
静子の問いに信忠は少し考えてから承諾した。
静子邸に滞在して以来、松姫はわが目を疑うような光景を何度も見てきた。見たこともないような調度品で彩られた屋敷の主にして、名だたる武将が頭を垂れて教えを乞う存在が己と同じく女性であるということがまず驚愕に値する。
更に彼女を驚かせたのは主君である信長に対する静子の態度であった。
「ほう……それで愚息を使いたいと申すのか?」
静子の話を聞き終えた信長は底冷えするような眼差しで静子を睨む。信忠が絡むことだけに同席させられた松姫だが、物理的圧力を伴うかのような重苦しい空気に耐えかねているというのに更に信長から発される圧力が増した。
冷や汗を流しながらも細かく息を継ぐことで辛うじて倒れずに済んでいるというのに、対する静子は涼しい顔をしたまま堂々と意見を述べている。
「はい、里見の治める安房国を押さえれば相模湾は落としたも同然です。そもそも同数同士の艦隊能力で上回っている以上、挟撃を防げれば負ける道理がありません」
「伊達が動かぬ場合は何とする?」
「上杉家を動かします。最上に対して上杉の勢力が迫れば、因縁のある伊達としては動かざるを得ないでしょう。それでも尚動かないようならば、奥州を治めるに足る器では無かったということで滅んで頂きます」
「最上と伊達は判った。残る蘆名は何とする?」
「伊達が最上を取り込めば、残る蘆名は服従か死かを選ばねばなりますまい。いずれにせよ陸奥の勢力図は塗り替えられましょう」
「策を弄しすぎておるな。思い通りにことが運ばぬ折はどうする?」
「最悪全てが裏目に出たとしても、我らの余剰兵力だけで全てを平らげてご覧に入れます」
静子は信長の問いに対して立て板に水とばかりに答えを返した。松姫にとって猛獣のような気配を放つ信長も恐ろしかったが、それ以上にその猛獣に対し臆することなく向かい合う静子こそが恐ろしかった。
政に携わることなく育てられた松姫には、彼らの話していることの半分も理解することが出来ないのだが、途方もない謀略の世界が繰り広げられていることだけは何とか理解できた。
これほどの知恵者が意見を戦わせあって方針を決めていたのだと思えば、武田家の滅亡も必然であったのだろうと今は受け止めることができた。
「良いだろう。ただし――」
「承知しております。正室の件については本人より話させます」
厳めしい顔つきを静子に向ける信長を見て、彼の意図を汲み取った静子は信忠を見やった。信長の言わんとする処は、信忠が発した松姫を正室に据えるという宣言を撤回させろということである。
正室というのは政治的影響力だけでなく、嫡流の血筋を決定する立場である。血統に拘る武家に於いて、滅ぼした敵方の姫を正室に据えるなど正気の沙汰ではない。
前例がないわけではないが、織田家にはそこまでして松姫を正室に据えねばならない理由がなかった。
「父上、私が至らぬばかりに要らぬご心配をおかけしました。つきましては汚名を返上する機会を賜りとう存じます。松を正室に据えるとの発言はここに撤回し、伏してお詫び申し上げまする」
信忠は絞りだすかのようにそう口にして額を床にこすりつけた。
信忠が決断した背景には静子の説得があった。今回の件に関しては別に信忠でなければ為しえない作戦ではない。むしろ手柄を立てられず燻っている家臣たちに活躍の場を与えられる絶好の機会でさえあるのだ。
つまりは静子の温情によって機会を与えられているが、これは本来別の人間に与えられるはずだったものを譲って貰う形になっている。
更にはこのまま自分の我侭を押し通した場合、二人の間に子を為した際に破滅が訪れる。織田家の根幹を揺るがす存在が許されるわけもなく、母子ともに暗殺されるのが関の山であろう。
亡国の姫である松姫には後ろ盾になってくれる実家の存在もないため、今回窮地に追い込まれているのだ。暗殺という選択肢が俎上に載った時点で、詰んでしまう。
ゆえにこそ松姫は側室で居なければならなかった。そして信忠が命令に背いたケジメをつけた上で、信長に許しを請い側室となれば、その決定に否を突きつけることは難しい。
一連の騒動に対して骨を折った全員の面子を潰すことになるため、信長をはじめ静子、信忠という首脳陣全てに唾を吐く行為など出来ようはずがない。
以上のことを静子から諭された結果、信忠は発言撤回を選ぶに至った。
信忠が諸将も同席する中で信長に対し、一連の正室騒動に関する謝罪をした上で宣言を撤回した。関係者だけの席で行われたものとは別に、諸将が集まる公の場に於いて改めて謝罪と撤回が行われた。
これは同席した諸将らから瞬く間に織田家中に広まった。そして誰もが安堵に胸を撫でおろすことになる。
ことは単なる親子喧嘩に過ぎず、遠からず後継者問題として噴出し、織田家を二分する骨肉の争いとなることが目に見えていたからだ。
信長は信忠の謝罪を受け入れ、信忠に北条征伐を支援すべく別任務にあたることが宣言された。また松姫は静子預かりとなり、信忠が全ての責務を終えるまで別居することが罰として申し渡される。
これら全ての禊が済めば、晴れて信忠は東国征伐の総大将へと戻されると通達された。
「予想はしていたけれど、意外に早く表面化したね」
報告書を読みながら静子が呟く。北条征伐に赴く者たちが準備を整える中、未だ政情不安定な甲斐に於いて反乱が勃発した。
とは言え、史実のそれとは異なり上杉家が織田家に臣従しているため、規模が随分と小さかった。
それでも反乱は反乱であり、織田家の排斥を唱えて城まで攻めあがられては対処しないわけには行かない。未だに甲斐に残り反乱の芽を潰して回っていた長可は、素早く手勢を集めると即座に鎮圧に乗り出した。
電話による定時連絡ではこれより鎮圧するという報告があったが、今頃すでに戦闘が始まっていることだろう。
反乱を起こすに至った理由は未だ不明だが、反乱に与した者が厳しく罰されることになるのは避けられないだろうと静子は考える。
「余剰資金や装備を尾張に移送する前で良かったよ。明日の定時連絡までには決着もついているだろうし、反乱軍の処罰に関しては現場に一任すると伝えて」
「はっ」
それだけを通信士に伝えると、静子は電信室を後にした。反乱軍の処遇については諸法度に定められており、信長の判断を仰ぐまでもなく首謀者及び参加者は死を以て償うことになる。
これら一連の沙汰に関しては長可に治安維持の権限が託されており、彼の裁量に於いて処罰したと報告するのみで問題ないと考えた。
実際に、事後報告を受けた信長はこれを問題視せず流している。この反乱の首謀者に関しては連座制が適用され、一族郎党に至るまでが斬首された。
反乱に参加したものは例外なく斬首され、これらの反乱を支援したものにも重い処分が下された。
脅されて食糧などを供出した村に関しても、役所に反乱の存在を通報していれば報奨金が下賜された。逆に反乱を通報せず見逃した村には追徴課税が課されることになる。
これらの処罰によって織田家の統治が信賞必罰を旨とし、歯向かった者へは厳罰を以て臨むということが周知された。
「流石は伊達家と言ったところかな、真っ先に動くあたりは先見の明があるね」
陸奥の三家から密書を携えた使者が尾張に向かっているとの報告があった。決断に至るまでの日数は伊達家が最も早く、蘆名の腰が最も重かった。
予想通りに物事が推移していることに静子は薄く笑みを浮かべる。
報告書を確認しつつ、広げられた地図上の勢力図を塗り替えていく。東国征伐が為された際には、巨大な版図を持つ一大勢力が出来上がり、織田家とそれに与する勢力が名実ともに日ノ本一と呼ばれる日が訪れるだろう。
(伊達家は誰を送り込んできたのかな? 順当に考えれば遠藤基信あたりなんだけど)
基信は伊達家現当主である輝宗の家臣であり、その優れた外交手腕で知られた人物である。史実に於いて信長や家康、北条氏とも交渉を行っており、輝宗へも信長と交流を持つよう進言していた。
今回の件に関して基信自身が関与している可能性が高く、外交僧などではなく直臣の自分が密書を届けることで、信長や静子に対して本気度をアピールする狙いがあるのだろう。
いずれにせよこのまま状況が推移すれば、伊達家の遣いが最初に尾張にて交渉を行うことになり、静子の目論見通り陸奥の覇権を担う第一歩を踏み出すことになる。
「なあ静子、何か日持ちする甘いものはないか?」
静子が書類を整理していると、掛け声と同時に信忠が入室してきた。これから暫くは松姫に会えない日々が続くというのに、彼女を伴っていないことを考えれば内密の話でもあるのだろうと、静子は筆をおいた。
「軍用の携行食としてチョコバーを追加割り当てするようにするよ。それで用件は何かな?」
「ありがたい。これから暖かくなるとは言え、陸奥は寒いからな。旨い行動食(食事以外の間食で口にし、登山等の体力消耗が激しい場面で補給する高カロリー食のこと)でも無ければやってられぬ」
「あれ? 甘味は口実で、何か内密の話があるんじゃないの?」
「いや、別にないぞ。最初は文句の一つも言おうと思ったが、冷静になって見れば今の状況が最善だと理解できた。自分が大事にする者に危険が迫ったゆえ、焦って暴走したがその前に静子に相談すべきであった」
「そうだね。君が焦って手を打たなくとも、君に力を貸そうとしてくれる人々が周りに居ることを思い出してね」
「うむ。今回の俺がしたことと言えば松を守るつもりが、死地に追いやっていたと気付いて肝が冷えたわ。自分だけは冷静に物事を見られると自負していたのだが、当事者になると難しいのだと痛感した」
「そういうものだよ。他人がやっていることは簡単そうに見えるけれど、実際に行うとなれば相応に難しいものなの。自分がこいつは大したことないなと思っているぐらいの人物は自分と同格。自分と同格だと思っている人物は、己より優れていると思って行動しなさい」
静子は松姫を側室から外すべきだと進言した者たちの背景を探っていた。いずれも本家筋に己の血筋を送り込みたいという、この時代では当たり前にある野心からの行動であり、褒められたものではないが罰するほどでもない。
中には松姫を害してでも側室から追い落とそうと画策していた者もいたのだが、行動には移していないためお咎めはなしとなった。ただし、要注意人物として間者が常に監視する対象とはなっている。
諸将の前で信忠が謝罪と撤回をしたことにより、これら暗躍していた面々も流石に旗色が悪いと悟って現状はおとなしく従っていた。
「いずれ空席となっている正室の座は埋めないといけないよ?」
「それは理解している。いずれ家格に見合った正室が宛がわれ、世継ぎを作ることになるのだろう。ただ子を為すのみの関係は夫婦と呼べるのだろうか?」
はっきりと言葉にはしなかったが、信忠は正室を妻として愛することができないと言ったも同然であった。
この時代はむしろそのような夫婦の方が多く、互いに好きあって結ばれることなど稀なのだが、それでも信忠には幸せな生活を送ってほしいと願う静子であった。
「ああ、そうだ。せっかくだから一つ頼まれてくれないか?」
「ん、何かな?」
「松の世話係に、静子の侍女を貸して欲しい。やはり松には後ろ盾がないからな、静子が気にかける存在だと示したいのだ。それに女の世界には男の俺では立ち入れぬ限界があるゆえな……」
「確かに今回のことで彼女の立場は危うくなったからね。良いよ、後見人には立場上なれないけれど、侍女の派遣は許可します」
歴史を紐解けば養君(貴人の子息等、いずれ権力者となる者)に仕える人物が後に権力を振るうことが往々にして起こりうる。
特に乳母は養君にとって家臣でもあり、母代わりでもあり、成人した後は後見人ともなる後ろ盾でもあった。
そして乳母の実子は乳兄弟と呼ばれ、養君と共に従者として育てられ、長じると養君の家臣として仕えることが多かった。
このため、乳母や乳母の実子は出世が早く、こういった利点から侍女にとって誰に仕えるかは最重要の事項でもあった。
しかし、静子の屋敷に務める侍女たちは違う。己の才覚一つでのし上がろうとする気概があり、またそれだけ突出した能力をも持ち得ていた。
「私から強制することはしないから、松姫本人が信頼関係を結べた侍女を連れていくと良いんじゃないかな?」
「誰とも信頼関係を結べないときはどうする?」
「流石にそこまで面倒は見切れないよ。天は自ら助くる者を助くだよ?」
「む、そう言うものか。口惜しいが俺が手を出せる領分では無いのだな……」
「君の寵姫に仕えるんだから、ある意味出世は約束されているし、誰もつかないなんてことはないと思うけどね。あ、でも侍女を付けたら、私が後ろ盾になったと思われるかな?」
「ふふん、既に言質は取ったからな。今更やっぱりやめたは無しだぞ?」
「まあこれだけ骨を折ったんだから、せめて君たちが幸せになってくれないと割に合わないよね」
そう言ってやんちゃな弟を見守るように微笑む静子であった。